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高2
初の出来事(3)
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和泉が自分を欲してくれている。それがこんなに嬉しくて幸せで……。
「……と…は………うな……。
やっ……り……の……が……ちばん…ったな……」
和泉が何か言っていたが、その時はあまり聞き取れなかった。
しばらく微睡んでいた亜姫は、温もりを感じて体をすり寄せた。上からフッと笑う声が聞こえて、例のごとく和泉に包まれていたと気づく。
けれどなぜ寝ていたか思い出せず、しばしボーッとして……。
「起きた?……大丈夫?」
和泉の気遣わしげな声で覚醒した。
ガバッと体を起こし、途端に恥ずかしくなって悲鳴を上げ、また布団の中に潜りこむ。
少しでも逃げ出せれば……と、和泉に背を向けて。
すると和泉がくすくすと笑い、わずかに出ていた頭へ口づけた。
わざとリップ音を鳴らしたことに気づき、亜姫は布団から飛び出して叫ぶ。
「意地悪しないで! もうっ!」
真っ赤な顔で怒る亜姫を見て、和泉は再び笑う。
「ごめんごめん。安心して。もうしないから」
「もう、しない……?」
「うん。絶対にしない」
そう言うと、和泉は亜姫の顔をそっと撫でた。
「ごめんな?」
亜姫は何も言わず、まるで和泉を捕まえるかのように抱きついた。
◇
亜姫が幸せそうに微笑みながら眠っている。それを見た和泉の中に幸福感が広がった。
目覚めてからはいつもの亜姫だ。なのに、しがみついてくる姿が今まで以上に愛おしい。
この子が自ら望んで自分のものになってくれたという事実。それが和泉を更に高揚させた。
亜姫の全てを手に入れた。
亜姫が、とうとう自分のモノになった。
和泉はその喜びに満たされたまま、しばらく亜姫を抱きしめていた。
ゆっくり休ませてやりたい。そう思い、いつもより早く家を出た。
そうしないと帰したくなくなってしまう。亜姫に触れたい気持ちが残っていたので、万が一の暴走を防ぐためにも必要だった。
体目当てだなんて亜姫に思われたら。
和泉の中では、やはりそれが一番怖い。なので暴れだしそうな感情を隠し、さも余裕があるフリをした。
帰り道の亜姫は口数も少なく俯きがちで、疲れが見える。
しておきたい話があったけど、今日は無理かな……。
和泉は、すっかり忘れていたことを思い出していた。
実は、明日から十日ほど海外へ行かねばならない。冬夜の仕事を急遽手伝うことになったからだ。和泉自身、聞かされたのは昨日の夜中。しかも決定事項として知らされた。
冬夜が仕事の手伝いを頼むなんて初めてのことだ、よっぽどの緊急事態に違いない。それを、まさか彼女と離れたくないなんて理由で断れるはずも無く。
しかたない、会えない間は気持ちを落ち着かせるのに必要な時間だと思おう。和泉はそう考えることにした。
結局、亜姫にその話はできなかった。去り際にしばらく会えないと簡単に告げただけで、和泉は翌日旅立った。
「……と…は………うな……。
やっ……り……の……が……ちばん…ったな……」
和泉が何か言っていたが、その時はあまり聞き取れなかった。
しばらく微睡んでいた亜姫は、温もりを感じて体をすり寄せた。上からフッと笑う声が聞こえて、例のごとく和泉に包まれていたと気づく。
けれどなぜ寝ていたか思い出せず、しばしボーッとして……。
「起きた?……大丈夫?」
和泉の気遣わしげな声で覚醒した。
ガバッと体を起こし、途端に恥ずかしくなって悲鳴を上げ、また布団の中に潜りこむ。
少しでも逃げ出せれば……と、和泉に背を向けて。
すると和泉がくすくすと笑い、わずかに出ていた頭へ口づけた。
わざとリップ音を鳴らしたことに気づき、亜姫は布団から飛び出して叫ぶ。
「意地悪しないで! もうっ!」
真っ赤な顔で怒る亜姫を見て、和泉は再び笑う。
「ごめんごめん。安心して。もうしないから」
「もう、しない……?」
「うん。絶対にしない」
そう言うと、和泉は亜姫の顔をそっと撫でた。
「ごめんな?」
亜姫は何も言わず、まるで和泉を捕まえるかのように抱きついた。
◇
亜姫が幸せそうに微笑みながら眠っている。それを見た和泉の中に幸福感が広がった。
目覚めてからはいつもの亜姫だ。なのに、しがみついてくる姿が今まで以上に愛おしい。
この子が自ら望んで自分のものになってくれたという事実。それが和泉を更に高揚させた。
亜姫の全てを手に入れた。
亜姫が、とうとう自分のモノになった。
和泉はその喜びに満たされたまま、しばらく亜姫を抱きしめていた。
ゆっくり休ませてやりたい。そう思い、いつもより早く家を出た。
そうしないと帰したくなくなってしまう。亜姫に触れたい気持ちが残っていたので、万が一の暴走を防ぐためにも必要だった。
体目当てだなんて亜姫に思われたら。
和泉の中では、やはりそれが一番怖い。なので暴れだしそうな感情を隠し、さも余裕があるフリをした。
帰り道の亜姫は口数も少なく俯きがちで、疲れが見える。
しておきたい話があったけど、今日は無理かな……。
和泉は、すっかり忘れていたことを思い出していた。
実は、明日から十日ほど海外へ行かねばならない。冬夜の仕事を急遽手伝うことになったからだ。和泉自身、聞かされたのは昨日の夜中。しかも決定事項として知らされた。
冬夜が仕事の手伝いを頼むなんて初めてのことだ、よっぽどの緊急事態に違いない。それを、まさか彼女と離れたくないなんて理由で断れるはずも無く。
しかたない、会えない間は気持ちを落ち着かせるのに必要な時間だと思おう。和泉はそう考えることにした。
結局、亜姫にその話はできなかった。去り際にしばらく会えないと簡単に告げただけで、和泉は翌日旅立った。
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✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
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