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高2

お留守番したら

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「お邪魔しまーす……」
 亜姫はキョロキョロしながら靴を揃えて上がる。
  
 和泉の家に来るのは二度目。
 前回は悩みがあってそれどころではなかったし、ちゃんとお邪魔するのは今日が初めてという気分だ。
 これまで男の子の家に上がったことはなく、興味津々にリビングを眺める。
 
 和泉はそんな亜姫に笑った。
「何してんの、一度見てるだろ?」
「うん。でも、この間はおっぱいのことで余裕がなかったから……」
  
 大きくて綺麗な家だ。
 和泉は年の離れた兄と二人暮らし。でも、家は綺麗でむしろピカピカと言ってもいい。台所で動く和泉もなんだか手慣れている。
 
「一通りの家事は出来るよ、冬夜から厳しく仕込まれたから」 

 和泉は、兄の冬夜と分担しながら日常的に家事をこなしていると言う。
 
「メシだけは滅多にやらないけど、簡単なものだったら作れる」
「へぇー意外! 和泉、何にもやらなそうに見えるのに」
「ははっ、だろーな。外では何もやらないし、出来るって言ったこともないから。
 でも、冬夜がいなかったら本当に何もしないまま育ってたと思う」
 そう言って和泉は笑う。
 
「家のこと、まともに話したのは初めて。亜姫は? 料理すんの?」
「うん。私は一人っ子だし親が共働きで忙しいから。
 私、これでも家事は得意なんだよ! でも裁縫だけは、好きだけど下手なんだよねぇ……」
「あー……裁縫に手こずってる感じ、ちょっと想像できるかも」
「あ、わかっちゃった? やっぱり、雑だから駄目なのかなぁ。ハンドメイドのサイトを見るのは好きで、いつかああいうの作りたいとは思ってるんだけど……」 

 家事の話をしながら、ニ階にある和泉の部屋へと向かう。前回はリビングで過ごしたので、和泉の部屋を見るのは初めてだ。 
 そこは綺麗に片付いていた。モノトーンで揃えられた、シンプルな部屋。
 
 亜姫がキョロキョロ見回していると、和泉の携帯が鳴った。 
「え? 今? ……わかったわかった、行くよ」
 電話に出た和泉が面倒くさそうに返事をする。
  
「ごめん、冬夜から。仕事で使う大事な書類を忘れたから届けてほしいって」
「えっ、大変! じゃあ私、今日は帰るよ」
「いや、近くまで来るらしいからこのまま待ってて。部屋のもの、適当に見てて構わないから」 
 そう言って、和泉は家を出て行った。
 
 人様の家に一人でいるのはなんだか居心地が悪い。所在無げに室内を見渡すと、本棚に中学校のアルバムを見つけた。亜姫はそれを手に取り、ベッドへ戻る。
 パラパラとめくっていくと、学生服を着た和泉を見つけた。
 
 今よりも随分幼い。今は男っぽさが強い印象だけど、これはなんだか可愛い……。
 気がつけば、亜姫は夢中でアルバムをめくっていた。
 
  
 
 ◇
 冬夜がなかなか来ず、帰宅が遅れた和泉は急ぎ足で部屋に入る。すると、亜姫は寝ていた。アルバムを開いたまま、ベッドで横になって。
 どうやら、見ながら寝落ちしたようだ。近づいて声をかけたが、規則正しい寝息だけが返ってきた。  
 
 本当に、よく寝るな。
 和泉は小さく笑いながら亜姫を軽々と抱き上げ、寝かせ直して布団をかけてやる。
 
 自分の布団で、なんとも無防備に眠る亜姫。
 その寝顔を眺めていたら、なんだか無性に触れたくなった。 
 同意なしには……。そう思ったが、この状況に気持ちが昂ぶっていたのかもしれない。普段なら我慢できるのに、自然と手が伸びた。
 
 ちょっとだけ……そう思っていたはずなのに。 
 ゆっくり、そっと。壊れ物を触るように頭を撫で、頬に指を滑らせていく。と、不意に亜姫が身動ぎしして、思わずその手を止める。
 
 その時、和泉の手は頬に添えられていた。 
 すると、寝ている筈の亜姫が猫が甘えてすり寄るみたいにその手に頬を擦り寄せ、気持ち良さそうにほんのり微笑んだ。
 
 和泉の心臓が、一瞬高い音を立てる。
 それは理性へ鍵を……かけた音、だったのだろうか。 
 和泉は額に軽いキスを落としたあと、ゆっくりと唇を重ねた。
 さらに、角度を変えてもう一度。

「ん……」 
 亜姫の声が聞こえて、和泉はハッとする。
 瞬間的に理性を引き出し、「亜姫? 起きた……?」と優しく声をかける。 
 すると、亜姫がおもむろに両手を伸ばした。 
「いずみ………ギュー……」
 亜姫の口から小さな呟きが漏れる。

 和泉は一瞬息を飲んだが、ゆっくりとその体を抱き起こした。優しく抱き込み、小さな子をあやすようにポンポンと背中を叩いてみる。 
 束の間そうしていると、亜姫が甘えるように呟いた。
「和泉の手……いつでも気持ちいー……」
 
 全身を包む温もりに安心したのか、亜姫はホウッと息を吐いて和泉にもたれかかった。
  
「……亜姫?」
 ふいに力が抜けて重みが増し、亜姫の体が沈み込んだ。
「寝ぼけてたのか………」
 
 だが、今に限っては助かった。 
 あの時、あの声で我に返らなかったらヤバかった。自分の理性を必死で手繰り寄せ、何とか踏みとどまれたが。
 
 なんだよ、あの行動。ギュー、とか気持ちいいとか……。
「何の拷問だ、これ……。俺、我慢しきれるかな……」
 
 腕の中で気持ち良さそうに眠る亜姫を見ながら、和泉はまた深い溜息をついた。
  
 亜姫は自分が何をしたかなど、勿論わかってないだろう。そして、それが和泉の理性をどれだけ揺さぶるかも知らないだろう。 
「無自覚に煽ってくんの、マジできついんだけど。誰だよ、亜姫に色気ないっつったの……」
 
  
 少しして目覚めた亜姫は、当たり前だがいつも通りで。 
 和泉が色んなモノと闘っていることなど微塵も気づかず、「楽しかった! またお邪魔するね!」と帰って行った。
 
 その晩、和泉がモヤモヤと闘い続ける羽目になったのは、間違いなく亜姫のせいである。
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