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高2

体育祭(2)

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 近づいて建物の影から覗きこむと、予想通り告白されていた。 
 野口と名乗る男はバレー部で、入学当初から亜姫に惚れこんでいるらしい。
 
 一瞬女の子かと見紛みまがう、かわいい顔立ち。
 大人しそうに見えたが、かなり率直にハキハキと話す。見た目と異なり、気の強い男といった印象だ。
 
「好きです。入学してすぐの頃からずっと好きでした。俺と、つきあってもらえませんか?」 

 熱い思いを一生懸命話す彼の姿は、聞くだけなら好感しかない。 
 亜姫も驚きはしているものの、やたら爽やかな野口との会話は楽しげだ。
 
 しかし、亜姫はきちんと断りも告げていた。 
「ありがとう。気持ちはすごく嬉しい。でも私、つきあってる人がいます」
「知ってます。相手の人は有名だから。
 あんまり……いい噂を聞かない人ですよね」
「あはは! すごい、もう一年生にまで知られてるんだ? 和泉、やっぱり目立つんだねぇ」 
 楽しそうに笑う亜姫へ、野口が心配そうな目を向ける。 
「失礼なことを聞きますけど。亜姫先輩、遊ばれたりはしていませんか? だってあの人……」
「遊びじゃない。勝手に決めつけんな」 
 聞き捨てならない言葉に、和泉は思わず出てしまった。
 
 寄せ合う姿を見せつけるように亜姫の隣へ立ち、目の前の男をまじまじと観察する。
 
 亜姫より少し低い背丈。体つきも細く、まだ高さの残る声や幼い顔立ち。
 総じて可愛らしい少年、という印象だ。
 だがそれに反して目だけは気の強さを隠さず、正面から和泉を睨みつける。
 
「邪魔しないでもらえませんか? まだ話は終わってないんで」
 
 怯えも媚びもしない、勝ち気な態度。
 生意気な言い方なのに、不思議と腹は立たなかった。
 
「話? 亜姫は断った。もう終わりだろ?」
「あんたには聞いてない。関係ない人は黙っててもらえます?」
 
 なんとも不遜な態度。なのに、なぜだか好感を持った。
 
「よく吠える子犬みてぇ」
「和泉、失礼だよ。ちょっと黙ってて」
 頬を膨らませた亜姫に叱られ、和泉は口を閉じる。 
 だが、去る気はない。
 
 居座る和泉に明らかな不満を見せ、野口は亜姫に問う。
「こんな人がいいんですか? 亜姫先輩」 
 すると、亜姫は楽しそうに笑った。
「野口君、面白いね。……うん、こんな人がいいんです」
  
 すると野口は意志の強そうな目を向け、はっきりと告げた。
「諦めません」
「えっ?」
「亜姫先輩が好きです。諦めません。
 俺は年下で、成長期も遅くてまだ体だって小さいし、声変わりだってようやく始まったばかりです。
 でも、これからどんどん変わります。俺がもっと体も中身もデカくなって先輩を守れるようになったら、その時また言います。
 絶対、そいつよりいい男になります。なってみせます。だから、それまで……友達になって下さい。
 こんな一瞬で決めないでほしい。俺、本気です。
 成長するまで、俺のことを少しずつ知って下さい」
 
 拳を強く握りながら伝える言葉は、全てが真っ直ぐで胸に強く刺さった。
 
 最後まで聞いた亜姫は、優しい顔で野口を見る。
「ありがとう。じゃあ……まずは、お友達になろうか」
「はい! ありがとうございます! 先輩を見かけたら、声かけてもいいですか?」
 もちろん!と楽しそうに笑う亜姫を見て、野口が初めて笑った。
 
 屈託のない、爽やかな笑顔。
 これだけバカ正直に気持ちを伝える奴は、なかなかいないのではないだろうか。
 彼氏である自分の前で堂々と告白したことに、もちろん腹は立つ。だがよこしまな感情が一切見えない彼を、和泉は妙に気に入ってしまった。 
 かといって、優しくしてやる気にはならないが。
 
「亜姫、そろそろ出番だろ? 戻んねーと」
「あ、そうだった! 野口君、ごめんね! じゃあ……また会ったらよろしくね!」
 
 和泉は、亜姫について一緒に歩き始める。
 それを見せつけるように、わざとらしく野口を一瞥すると。
 
 意図に気づいた野口が怒りを露わにした。
「俺、あんた大っ嫌いだ!!」 

 和泉は笑いながら答えた。
「気が合うな。俺もだよ」
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