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高2

倉庫で(2)

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 かすかに笑う声と突然離れた熱。ハッとした亜姫が顔を上げると、目の前には微笑む綺麗な顔があった。
 
 ボフン!
 また何かが爆発した音。
 
「亜姫……顔、真っ赤」
 綺麗な顔が、少し意地悪そうな笑顔に変わる。
 
 それを見た瞬間、亜姫は飛び退くように離れて後ろを向いた。
「み、見ないで!! あっち行ってよ!」
 爆発したのは自分の顔だったと気づき、亜姫は両手で顔を覆う。
 
 恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!
 心臓おかしい! なにこれ、ナニコレ!!
 
 全てが許容範囲を超えていて、亜姫はパニックになっていた。
 それに…………。
「名前………」 
「え?」
「さっきから………亜姫って………」
 亜姫は、自分が声を出していることに気づいていない。
「あー、……ヒロ達がいつもそう呼んでるから、つい……悪い」
「っ、えっ?」
 返事がきたことに驚いて振り返ると、和泉と目が合った。
 
 教室でたまに見る、あの熱を孕んだ目。
 先程まで全身に感じていた熱がその視線に煽られるようにまた暴れ出し、亜姫はますますパニックになった。
 
「い、いい、よ……別に名前、でも。皆……そ、う、呼ぶし……」
 なぜか視線を逸らすことが出来ず、しどろもどろに答えると、和泉も言った。
「わかった。亜姫……俺の事も。呼び捨てでいい」
 
 和泉に名前を呼ばれる度、心臓がおかしくなる。自分の体に起きていることが分からぬまま、どんどん熱くなる体温。頭は沸騰し続け、思考がちっともまとまらない。
 
 そこへ、和泉の声が降ってきた。
「亜姫? 大丈夫か?」
 
 瞬間、亜姫は首まで赤く染まった。顔を隠そうと俯き、叫ぶ。
「だだだ大丈夫なわけないでしょうっ! こんな風に男の人と近づいた事なんてないし、ああああんなの! むっ、むっ無理だから! こっ、こんなっ……慣れてないのっ! もう! なにコレぇっ、恥ずかし……こんなの、もう嫌だぁぁぁぁ……」
「あー、ええと……あの、足…怪我してないか聞きたかったんだけど……」

 和泉が申し訳無さそうに呟くと、亜姫は顔をバッとあげた。
 
 問いを勘違いしたと気づき、もはや全身赤いと思うほど羞恥にまみれた亜姫。零れ落ちそうなほど目と口を大きく開き、驚愕の表情で和泉を凝視したまま固まる。
 
 「……………………………」 
 「……………………………」
 
  
 ふはっ。
 突然、和泉の口から笑いが漏れた。
 
 ヤバい、なんだこれ。可愛い。楽しい。面白い。
 もっと近づきたい。話したい。知りたい。
 あー、駄目だ。もう亜姫以外考えられねーわ。
 
 和泉の中で、数多の感情が一気に蓋を開けた。
 
 目の前の子が可愛すぎておかしくて楽しくて……ひどく愛おしい。
 
 込み上げてきた笑いが止まらなくなった。
 声を上げ、腹を抱えてひたすら笑う。
 
「え、なんで……?」
 
 突然の出来事に亜姫は困惑した様子だったが、和泉はしばらく笑い転げていた。
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