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高2
新学期(2)
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クラス分けのリストを見て、亜姫が喜ぶ。
「麗華! また一緒! これで卒業まで一緒だね!」
明らかに浮かれた様子で、麗華と共に教室へ向かう。
ヒロ、戸塚も同じクラスだった。他にも知り合いが沢山いて、亜姫のテンションはますます上がる。
亜姫は新学期が好きだ。新しい季節が始まるというだけで、ウキウキする。クラス替えもそうだ。
「不安の方が多いじゃない。仲いい子と離れちゃう寂しさとか」
と麗華は言うけれど、亜姫はそれよりも新たな出会いに期待する方が勝る。加えて、大好きな麗華とまた一緒だなんて。
亜姫は踊り出したいぐらい浮かれていた。
新しい席、新しい教科書、新しい友達。
桜も綺麗だし、天気はいいし、仲良しの子も沢山いるし!
担任は山セン!? 好き!
いいことが起こりそうな予感!
そんな気分に満たされていた亜姫は、点呼の時にイズミとやらが同じクラスだと知った。
あれ? 同じクラスなんだ?
キーホルダーのお礼と表情筋のお詫びをきちんと言わなくちゃ……。
亜姫の席から見える範囲に、イズミとやらは見当たらない。休み時間にようやく姿を見たが、彼は机に突っ伏していて顔は見えなかった。
亜姫は、クラス替えをした教室の空気が好きだった。皆が少し緊張して過ごす雰囲気が新しい始まりを感じさせて、心が弾む。
しかし今日の教室はいつもと違い、異様にざわめいていた。浮き立っていた亜姫でもさすがにそれを感じる。そして、その原因が彼にあると気づいた。
教室や廊下にいる人の視線が彼に集中している。特に女の子達から。そしてそんな状態を外巻きに眺める人達。
不躾にも感じる数多の視線、ひそひそ話。
接触の機会を狙っているのだろうと目に見えてわかる、何とも言えない雰囲気。
ずっと、見世物にされてるみたい。
これが彼の日常なのかと思うと、いつもつまらなそうな顔をしている理由が分かる気がする。
その日彼の顔を見る機会はなかったけれど、今日も絶対つまらなそうな顔をしているんだろうな……と亜姫は思った。
「あれじゃあ、笑えないか」
麗華と帰りながら、亜姫は呟く。
「それ、もしかして和泉の話?」
「そう。教室の空気、変だったよね? いくら私でも、あれはわかるよ」
「そうね。でも、いつもあんな感じよ? 和泉の周りは」
「疲れないのかな、あんな毎日」
「さあ? 慣れてるんじゃない?」
慣れ? 慣れていいものなんだろうか、あれは。
慣れと言うより、諦め? だから、いつもあの顔なのかな……。
「また、顔が気になってるの?」
麗華に聞かれて、亜姫はハッとする。
「うん……どうしていつもあんな顔してるのかなって……」
「何でそんなに気にするのよ、亜姫には関係ないのに」
「うん、そうだよね……んん? どうしてだろう?」
「和泉に、興味がある?」
麗華は足を止め、真顔で亜姫を見つめる。
「……麗華?」
「亜姫がそんな風に誰かを気にするなんて初めてよ? 自分で気づいてる?」
「そう、かな?」
「そうよ」
今までの麗華にはない真剣さに、亜姫はなんだかこの会話を続けるのが怖くなった。
「ま、前にも話したでしょう? 笑わない人がいるのが信じられない……って。だからだと思う。だって、そんな人、今まで見たことないもん」
「和泉っていう男……が気になってるんじゃなくて?」
「男として? それはどーゆーこと? よくわかんない。
イズミとやらの話を琴音ちゃんから聞き続けていたから、気になる機会が多かっただけだと思う。いつの間にか知り合いのような気になっちゃってたけど……言われてみれば、そもそも彼とは話したこともなかった」
うっかりしていた、という様子で亜姫は笑った。
「……好き、とかじゃないわよね?」
まだ足を止めたまま、麗華は真顔で問いかける。それには、さすがに亜姫も驚いた。
「好き!?……それって、ときめくって言う好き? えっ!? ない! それは全然ない! この間、目の前で見たけど何とも思わなかったよ!?」
疑うような眼差しを向ける麗華に、亜姫は問い返した。
「ねぇ、逆に聞きたいんだけど。ごく稀につまらなそうって思うだけで、会いたいとか付き合いたいとか思ったことはない。だけど何故あんな顔なのか、すれだけが時々気になる。……これは、好きってことになるの?
熊澤先輩なら会いたいし好きって思うけど、でもこれは恋愛の好きとは違う気がするし。
琴音ちゃんが好きな人の話をしてたでしょう? あの感じと、今の自分の気持ちが全然違うってことはわかる」
「あんたのそれは、好きとは言わないわね。先輩のは家族への好きと同じでしょ? それとも違う」
麗華はようやく表情を緩め、フッと笑った。
「和泉はあんたの手に負える男じゃないから、ちょっと心配しただけ。亜姫が相変わらずで安心したわ」
そう言って歩き出した麗華はいつもと同じで、亜姫も笑って後を追った。
そのまま話題は移り、麗華の好きな人の話になった。それに食いついた亜姫は、家に着く頃にはこの話をすっかり忘れてしまっていた。
「麗華! また一緒! これで卒業まで一緒だね!」
明らかに浮かれた様子で、麗華と共に教室へ向かう。
ヒロ、戸塚も同じクラスだった。他にも知り合いが沢山いて、亜姫のテンションはますます上がる。
亜姫は新学期が好きだ。新しい季節が始まるというだけで、ウキウキする。クラス替えもそうだ。
「不安の方が多いじゃない。仲いい子と離れちゃう寂しさとか」
と麗華は言うけれど、亜姫はそれよりも新たな出会いに期待する方が勝る。加えて、大好きな麗華とまた一緒だなんて。
亜姫は踊り出したいぐらい浮かれていた。
新しい席、新しい教科書、新しい友達。
桜も綺麗だし、天気はいいし、仲良しの子も沢山いるし!
担任は山セン!? 好き!
いいことが起こりそうな予感!
そんな気分に満たされていた亜姫は、点呼の時にイズミとやらが同じクラスだと知った。
あれ? 同じクラスなんだ?
キーホルダーのお礼と表情筋のお詫びをきちんと言わなくちゃ……。
亜姫の席から見える範囲に、イズミとやらは見当たらない。休み時間にようやく姿を見たが、彼は机に突っ伏していて顔は見えなかった。
亜姫は、クラス替えをした教室の空気が好きだった。皆が少し緊張して過ごす雰囲気が新しい始まりを感じさせて、心が弾む。
しかし今日の教室はいつもと違い、異様にざわめいていた。浮き立っていた亜姫でもさすがにそれを感じる。そして、その原因が彼にあると気づいた。
教室や廊下にいる人の視線が彼に集中している。特に女の子達から。そしてそんな状態を外巻きに眺める人達。
不躾にも感じる数多の視線、ひそひそ話。
接触の機会を狙っているのだろうと目に見えてわかる、何とも言えない雰囲気。
ずっと、見世物にされてるみたい。
これが彼の日常なのかと思うと、いつもつまらなそうな顔をしている理由が分かる気がする。
その日彼の顔を見る機会はなかったけれど、今日も絶対つまらなそうな顔をしているんだろうな……と亜姫は思った。
「あれじゃあ、笑えないか」
麗華と帰りながら、亜姫は呟く。
「それ、もしかして和泉の話?」
「そう。教室の空気、変だったよね? いくら私でも、あれはわかるよ」
「そうね。でも、いつもあんな感じよ? 和泉の周りは」
「疲れないのかな、あんな毎日」
「さあ? 慣れてるんじゃない?」
慣れ? 慣れていいものなんだろうか、あれは。
慣れと言うより、諦め? だから、いつもあの顔なのかな……。
「また、顔が気になってるの?」
麗華に聞かれて、亜姫はハッとする。
「うん……どうしていつもあんな顔してるのかなって……」
「何でそんなに気にするのよ、亜姫には関係ないのに」
「うん、そうだよね……んん? どうしてだろう?」
「和泉に、興味がある?」
麗華は足を止め、真顔で亜姫を見つめる。
「……麗華?」
「亜姫がそんな風に誰かを気にするなんて初めてよ? 自分で気づいてる?」
「そう、かな?」
「そうよ」
今までの麗華にはない真剣さに、亜姫はなんだかこの会話を続けるのが怖くなった。
「ま、前にも話したでしょう? 笑わない人がいるのが信じられない……って。だからだと思う。だって、そんな人、今まで見たことないもん」
「和泉っていう男……が気になってるんじゃなくて?」
「男として? それはどーゆーこと? よくわかんない。
イズミとやらの話を琴音ちゃんから聞き続けていたから、気になる機会が多かっただけだと思う。いつの間にか知り合いのような気になっちゃってたけど……言われてみれば、そもそも彼とは話したこともなかった」
うっかりしていた、という様子で亜姫は笑った。
「……好き、とかじゃないわよね?」
まだ足を止めたまま、麗華は真顔で問いかける。それには、さすがに亜姫も驚いた。
「好き!?……それって、ときめくって言う好き? えっ!? ない! それは全然ない! この間、目の前で見たけど何とも思わなかったよ!?」
疑うような眼差しを向ける麗華に、亜姫は問い返した。
「ねぇ、逆に聞きたいんだけど。ごく稀につまらなそうって思うだけで、会いたいとか付き合いたいとか思ったことはない。だけど何故あんな顔なのか、すれだけが時々気になる。……これは、好きってことになるの?
熊澤先輩なら会いたいし好きって思うけど、でもこれは恋愛の好きとは違う気がするし。
琴音ちゃんが好きな人の話をしてたでしょう? あの感じと、今の自分の気持ちが全然違うってことはわかる」
「あんたのそれは、好きとは言わないわね。先輩のは家族への好きと同じでしょ? それとも違う」
麗華はようやく表情を緩め、フッと笑った。
「和泉はあんたの手に負える男じゃないから、ちょっと心配しただけ。亜姫が相変わらずで安心したわ」
そう言って歩き出した麗華はいつもと同じで、亜姫も笑って後を追った。
そのまま話題は移り、麗華の好きな人の話になった。それに食いついた亜姫は、家に着く頃にはこの話をすっかり忘れてしまっていた。
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