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高1

2月(4)

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 変な人だった。けど、なぜか妙に話しやすくて……年上だよな……? 
 教室へ向かう和泉は、名も知らぬ彼を思い出してちょっと笑う。
 
 さっきの会話が強烈に自分を揺り動かしていた。
 でも不快じゃない。何とも言えない、心地良い揺れ。
 
 ──考えてみろよ。結局どーしたいのか──
 
 ──絶対無理だとわかったとして。
 諦められんの、それ? 
 なら、何をすれば叶うか考えるしかねーよ──
 
 ──答え、出てるじゃん。
 お前は、それを手に入れたいんだよ。お前にとってそれは、『他の奴に負けたくない、取られたら悔しい』と思うもんだってことだ──
 
 そうか。
 諦めたくないんだ、俺は。
 
 ──手に入れたいものは決まってる。でも、手に入れる自信が無い。だったら、自信がつくように努力すればいい。
 それまでは、今の自分に出来ることを必死でやるしかない。その繰り返しだよ、いつも──
 
 ──答えが出ないときはどーすんの?
 考えんのやめる。ここで答えが出ないときは、迷ってるときだから。
 何に迷ってるかだけ見つけて、しばらく気の向くまま動く。そしたら、だいたい答えが見つかる──

 手に入れたい。他のヤツに取られたくない。
 でも、今は自信も方法もない。
 
 それでいい。どうしたらいいか分かるまでは。
 
 いつか、現実に存在する「橘亜姫」に笑いかけてもらう。
 それが、今ハッキリと言える叶えたい夢。
 
 あの子が好きだ。あの子を諦めない。
 今は、それだけわかっていればいい。
 
 なんだ、簡単なことじゃん。
 俺は「あの子」を好きなままでいいんだ。
 
「なんだ、そっか。……すげーな、あの人」
 初めて会ったにも関わらず、妙な存在感を残していった彼に感謝する。 
 和泉はすっきりした気分で教室へと戻り。その日のうちに、ヒロと戸塚に自分の気持ちを話した。 
 
 今すぐ何をするわけではない。
 今出来る事は、いざという時に恥ずかしくない自分になること。 
 まずは、そこから。
 
 
  
 ◇
「おー、和泉! 元気そうだな?」 
 突如後ろから響いた声に、和泉は振り向いた。
「あんた! 何で俺の名前……」
 それは、昨日裏庭で会ったあの男だった。
 
 困惑する和泉にその男はニヤリと笑いかける。
「お前、有名だから」
 そう言うと、唖然とする和泉の肩をガシッと掴み少し端へ寄せた。その耳元で彼は囁く。
「お互い、うっかりヘタレな姿見せちゃったってことで。昨日の事は二人だけの秘密な」 
 和泉が無言で顔を見ると、彼は昨日と同じ顔で笑い、ひらひらと手を振りながら去って行った。
 
 横にいたヒロ達が呆然とその背を見送っている。
「和泉……知り合いだったのかよ?」
「え? あぁ、いや、ちょっと……」
  
 彼と会ったことは話していなかった。昨日の話は、なんとなく自分の胸にしまっておきたかったから。
 
「お前らこそ、あの人のこと知ってんの?」
「おい、お前……知らないのにあんなに仲良くなってんの?」
「いや、別に仲いいってわけじゃ……」
「熊澤先輩だよ」
「………え?」
「あの人が、亜姫と噂になってた熊澤悠仁先輩」
 
 ………………ウソだろ?
 和泉は呆然とする。
 
 カッコイイよな。と言うヒロの言葉に、和泉は頷くしかなかった。
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