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巡り合う定め
19:彼女の過去
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まるで、高級な絹の糸のように美しいその銀を、無造作に床へ広げて。
彼女は本を抱えて床に寝込けていた。
「ディア」
そっと髪を巻き込んだり踏まないように気をつけながら、その柔らかな肢体を抱き上げる。
その場所は、今の『彼』には見覚えのない書庫であった。
所狭しと並べられた本棚と、天井は本が傷まないように入り込む光が計算づくされたガラスでできており、目の前にいる彼女と自分以外には人の気配は存在しない。
まるで物語の中から飛び出してきたかのように顔の整った彼女は、一度の呼びかけでは起きる様子はない。
滑らかな肌は白く、ぷっくりとした真っ赤な唇は、全体的に色素の薄い彼女を際立たせる。この世の存在とは思えないのは、彼女の着ている服も、最高級の白地に金の刺繍が施されたもので。そう見えるように用意されたものだからだ。
陳腐な言葉にはなるかも知れないが、妖精が迷い込んできたような。そんな錯覚すらあった。
「起きろ、ディア」
ぞんざいな言葉遣いながらも、乱暴さは微塵にも感じないその声を、自分が出していることに気付くには数秒を要した。そして、これが夢であることも同時に理解する。
どこか冷静な自分がいて、むしろ、まるで過去をそのまま観ているような錯覚すら感じた。
「んぅ……?」
彼女が、微かに瞳を開ける。
その瞳は、吸い込まれるような赤。
一瞬も絶えることがない炎のような朱は、どこかカルディアを彷彿とさせた。
彼女は、抱き上げる『彼』を見て、嬉しそうに目を細める。
「あらぁ。おはよう。アーー」
*****
「アグノス?」
呼ばれた声に、意識を浮上させたアグノスはゆっくりと瞼を上げる。
そこには、夜遅くにパーティハウスへ帰ってきたオーラムの姿があった。その後ろにひょっこりとリュオがついているのは、もうこのパーティにとって馴染みの光景である。
「珍しいね。応接間で寝ちゃうなんて」
「たまにはな」
まさかオーラムとリュオが無事に帰ってくるのを待っていた等とは絶対に口に出せないアグノスは、ぶっきらぼうにそう答えた。彼らが赴いた先は大体予想がついているし、彼らにとって好ましくない場所であることもわかっている。普通に見える彼らに、落ち込んでいたら少しくらいは声をかけようと思って待っていたなどと口が裂けても言えない。
「片付いたのか?」
それは、トルムのことを指していた。
言葉少なでもなんのことか理解したオーラムは、首を横にふる。
「いや。流石に一日では片付かないよ」
らしくなく、ドサリ音を立ててアグノスの対面に座ったオーラムの後ろで、ほんの少し戸惑いながら、リュオも行儀悪くソファの背部に体を預けた。ちゃんと座らないのは、すぐに動けるようにであろう。Sランクパーティのパーティハウスで襲われることなど滅多なことではないだろうに、律儀なことである。
いつものように本性を隠す笑顔など見せずに、オーラムは深い溜め息をついた。
「ねぇ。あのカルディアとか言う人。ほんと、なんなの」
出会った当初。リュオが切りかかったあの空気を止めるために、オーラムは出ざるを得なかった。
オーラムからしてみれば、途中からしか話を聞いていなかったため、異界の迷い子であることは知っているものの、どうしてああも訳知り顔なのか理解できない。
「依頼人の個人情報は話せないな」
「うわー。ってことは、君には全部話してるってことかぁ」
はーっと、らしくなく、オーラムは手を瞼において天井を仰ぐ。
「話されたわけじゃないが……まあ、あからさまなヒントはもらっていた」
「それって話されたも同然だよね?」
胡乱な視線は冷めた珈琲を飲むことで黙殺する。
無言は肯定を意味しているが、逆にアグノスとしてはあんなにも分かりやすい態度なのにちゃんと言葉にしないカルディアになんとも言い難い気持ちが湧いてくるというものだ。アグノスが答え合わせをしにくるのを待っていることは明白で。
まるで思い出せと言わんばかりの態度と、最近良く見る『夢』に、アグノスも気付いている。
「異界ではどこかの王族だったってこと? 王族なんてどこもドロドロとした似たようなものだろうし。鑑定眼持ちでもないのに、幻術を見破るのって相当な術者ってことだよね。でも、異界では変質的で、魔法なんてほとんどないんだっけ。なんでそんな世界出身なのに、そんな芸当が出来るのかなぁ」
「さあな」
教えないアグノスに、ほんの少しオーラムは眉間にシワを寄せる。
きっと、オーラムも今日会ったカルディアの態度で、おおよそのことを理解したのだろう。
伊達に幼少期は第1王子を押しのけて王位につくと言われただけあって、知識量はアグノスよりも多い。
「意地悪だね」
「依頼主の情報を流すのは冒険者としてどうかと思うが?」
口を歪めたオーラムに、素知らぬ顔で答える。
「そうなんだけどさ~」
そうすれば、彼はすぐに白旗をあげた。
アグノスは完全に聞き役だ。答えを与えるような言葉は発しない。
けれど、嘘は言わないその態度は、何よりもの答えになる。
「ーーカルディアという王女が640年ほど前にこの国で存在していたことと関係ある?」
その問いかけは、ほとんど確信の元で聞かれているものであった。
態々異界の王族であった仮設を立てておきながら、もう彼の中では答えを見つけている。
「わかった。そんなに睨まないでくれるかな」
うんざりとした表情でそう言ったオーラムは、斜め背後にいるリュオが若干の戸惑いを示しているのに気付いて、手をのばす。リュオの頭をなでて、ふむと一つ頷いた。
「あぁ。リュオは知らないよね。そんな昔の人」
この国には学園があるものの、通うのは貴族と試験を通過した平民や商人で、将来王宮勤め等に就職するような者ばかり。例外として、冒険者志望でも親に無理やり入れられるようなパターンがあるものの、普通の冒険者やリュオのような元暗殺者なんて者には、国の歴史など学ぶ機会はない。
一応国立図書館が一般にも開放されているものの、必要に迫られなければ、誰も学ぼうとしない。
そのため、オーラムは特に馬鹿にするでもなく、リュオに説明した。
「660年前ほど前に、ウォーレンと隣国レストロレイアは戦争状態にあったんだ。その中、レストロレイア王妃を当時のウォーレン国王が攫ってしまった。肚の中にカルディア王女がいる状態でね」
激動の時代であったと、長寿のものは誰もが口にする。
700年前というのは、各国が戦争状態であり、南北を分断する山脈の、唯一の中継国でさえも戦火に飲まれた。それどころか、600年前。中継国と呼ばれた国は、国名が変わるーーつまり、一度国が崩壊したというのだから、今の短命種からすれば驚きの時代だ。
今の平和は多くの死体と嘆きによって積み上げられた仮の平和に過ぎない。
「王女を出産後、ウォーレン国王はレストロレイア王妃を陵辱し、王子を一人産ませた。産後の肥立ちが悪くてそのままレストロレイア王妃は死亡。王女は人質として異父弟の王子がウォーレン国王を討つまで、ウォーレンで理不尽な扱いを受けていたそうだよ」
リュオに説明しながら、オーラムも頭の中で情報を整理をしていたに違いない。
他国の王妃に王太子を産ませて死なせたとあっては、簡単に戦争が収まるはずもなく。
当時の王を討ち、人質を返したところでその怒りはどれほどのものだったか。
戦争は今も続いている。そう称する程度には、一応和平は結んでいるものの、隣国であるレストロレイアと現在冷戦状態が続いているといっても過言ではない状態が続いている。
「そうだよね。それなら辻褄が合う。あの墓の人なら、どれだけ王家を憎んでいても仕方ない」
「あの墓?」
アグノスが首をかしげると、本当は秘密なんだけど、と前置きをしたオーラムが教えてきた。
「王女の墓はこの国にあるんだよ。王宮の、限られた人しか入れないグラジオラスの庭園に」
「何故だ。確か、和平の証としてレストロレイアに帰ったはずだ」
どの歴史書にも、帰国した後の王女に対する記述は簡素なものだ。
病死したとも、暗殺されたともなく。しかし、1000年は生きるエルフには珍しく、御年100を越えることなく亡くなっているとだけ伝えられている。独身だったのか、何をしていたのか。そういう記述が一切ないのは元敵国であるウォーレンだから情報が入ってこないものだとアグノスは思っていた。
しかし、この国に墓があるということは、この国で死んだか。少なくとも死体が運び込まれているということ。と、いうことはウォーレンの、限られた王族は王女の死因を知っているということである。
「さあ。お祖父様はなにも言わない。でも、さらに不思議なことにローウェンの初代ギルドマスターの墓が隣に建ってるんだ」
オーラムやリュオも、何故王宮に墓があるのか知らないようだ。
ローウェンの初代ギルドマスターも謎が多い人物であったと聞く。
ただ、国を越えて数々の功績を残し、600年前の人災で亡くなったと伝えられている。
そんなギルドマスターと墓を並べているということは、少なからずとも関係があったと見るのが自然だろう。
「彼女、前世を隠す気は全く無いよね」
話を戻すオーラムの言葉に、アグノスは苦笑する。
早く気付いてと言わんばかりの態度は、何を催促しているのか。彼女の正体に気付いた者ならば不思議に思っても仕方がない。
ーーじゃあ、改めて自己紹介を。私はーーカルディア。こちらでは、その名前が馴染むわぁ。
思い出す。初めて名乗った時の、彼女の表情を。
泡沫の夢の中にいるような、溶けて消えてしまいそうな幸せな顔と。出会ったときの、なぜだか染まった赤の瞳が夢の中の女と重なった。
「……アグノス?」
「いや、なんでもない」
彼女が自分を求めたその意味を、アグノスは気付いていた。
この世界は、巡り逢う定めで成り立っている。いくつもの世界に隣接しているからこそ、異界の迷い子がやってくることもあるし、文明を急発展させようとする動きをある程度抑制するための王家や世界の管理者が存在する。
何故この世界は存在するのか。その真実に近づくほど、巡り逢う定めからは逃れられない。
夢の中の女が、違う名前で自分を呼んでいるような、そんな気がして。幻聴だと首を振って頭を切り替えた。
「依頼人には手を出すな。それくらいの分別はあるはずだな?」
「パーティリーダーである君の意思はちゃんと尊重するよ」
釘を差したアグノスに、冒険者として当然のことだと、オーラムは返したのだった。
彼女は本を抱えて床に寝込けていた。
「ディア」
そっと髪を巻き込んだり踏まないように気をつけながら、その柔らかな肢体を抱き上げる。
その場所は、今の『彼』には見覚えのない書庫であった。
所狭しと並べられた本棚と、天井は本が傷まないように入り込む光が計算づくされたガラスでできており、目の前にいる彼女と自分以外には人の気配は存在しない。
まるで物語の中から飛び出してきたかのように顔の整った彼女は、一度の呼びかけでは起きる様子はない。
滑らかな肌は白く、ぷっくりとした真っ赤な唇は、全体的に色素の薄い彼女を際立たせる。この世の存在とは思えないのは、彼女の着ている服も、最高級の白地に金の刺繍が施されたもので。そう見えるように用意されたものだからだ。
陳腐な言葉にはなるかも知れないが、妖精が迷い込んできたような。そんな錯覚すらあった。
「起きろ、ディア」
ぞんざいな言葉遣いながらも、乱暴さは微塵にも感じないその声を、自分が出していることに気付くには数秒を要した。そして、これが夢であることも同時に理解する。
どこか冷静な自分がいて、むしろ、まるで過去をそのまま観ているような錯覚すら感じた。
「んぅ……?」
彼女が、微かに瞳を開ける。
その瞳は、吸い込まれるような赤。
一瞬も絶えることがない炎のような朱は、どこかカルディアを彷彿とさせた。
彼女は、抱き上げる『彼』を見て、嬉しそうに目を細める。
「あらぁ。おはよう。アーー」
*****
「アグノス?」
呼ばれた声に、意識を浮上させたアグノスはゆっくりと瞼を上げる。
そこには、夜遅くにパーティハウスへ帰ってきたオーラムの姿があった。その後ろにひょっこりとリュオがついているのは、もうこのパーティにとって馴染みの光景である。
「珍しいね。応接間で寝ちゃうなんて」
「たまにはな」
まさかオーラムとリュオが無事に帰ってくるのを待っていた等とは絶対に口に出せないアグノスは、ぶっきらぼうにそう答えた。彼らが赴いた先は大体予想がついているし、彼らにとって好ましくない場所であることもわかっている。普通に見える彼らに、落ち込んでいたら少しくらいは声をかけようと思って待っていたなどと口が裂けても言えない。
「片付いたのか?」
それは、トルムのことを指していた。
言葉少なでもなんのことか理解したオーラムは、首を横にふる。
「いや。流石に一日では片付かないよ」
らしくなく、ドサリ音を立ててアグノスの対面に座ったオーラムの後ろで、ほんの少し戸惑いながら、リュオも行儀悪くソファの背部に体を預けた。ちゃんと座らないのは、すぐに動けるようにであろう。Sランクパーティのパーティハウスで襲われることなど滅多なことではないだろうに、律儀なことである。
いつものように本性を隠す笑顔など見せずに、オーラムは深い溜め息をついた。
「ねぇ。あのカルディアとか言う人。ほんと、なんなの」
出会った当初。リュオが切りかかったあの空気を止めるために、オーラムは出ざるを得なかった。
オーラムからしてみれば、途中からしか話を聞いていなかったため、異界の迷い子であることは知っているものの、どうしてああも訳知り顔なのか理解できない。
「依頼人の個人情報は話せないな」
「うわー。ってことは、君には全部話してるってことかぁ」
はーっと、らしくなく、オーラムは手を瞼において天井を仰ぐ。
「話されたわけじゃないが……まあ、あからさまなヒントはもらっていた」
「それって話されたも同然だよね?」
胡乱な視線は冷めた珈琲を飲むことで黙殺する。
無言は肯定を意味しているが、逆にアグノスとしてはあんなにも分かりやすい態度なのにちゃんと言葉にしないカルディアになんとも言い難い気持ちが湧いてくるというものだ。アグノスが答え合わせをしにくるのを待っていることは明白で。
まるで思い出せと言わんばかりの態度と、最近良く見る『夢』に、アグノスも気付いている。
「異界ではどこかの王族だったってこと? 王族なんてどこもドロドロとした似たようなものだろうし。鑑定眼持ちでもないのに、幻術を見破るのって相当な術者ってことだよね。でも、異界では変質的で、魔法なんてほとんどないんだっけ。なんでそんな世界出身なのに、そんな芸当が出来るのかなぁ」
「さあな」
教えないアグノスに、ほんの少しオーラムは眉間にシワを寄せる。
きっと、オーラムも今日会ったカルディアの態度で、おおよそのことを理解したのだろう。
伊達に幼少期は第1王子を押しのけて王位につくと言われただけあって、知識量はアグノスよりも多い。
「意地悪だね」
「依頼主の情報を流すのは冒険者としてどうかと思うが?」
口を歪めたオーラムに、素知らぬ顔で答える。
「そうなんだけどさ~」
そうすれば、彼はすぐに白旗をあげた。
アグノスは完全に聞き役だ。答えを与えるような言葉は発しない。
けれど、嘘は言わないその態度は、何よりもの答えになる。
「ーーカルディアという王女が640年ほど前にこの国で存在していたことと関係ある?」
その問いかけは、ほとんど確信の元で聞かれているものであった。
態々異界の王族であった仮設を立てておきながら、もう彼の中では答えを見つけている。
「わかった。そんなに睨まないでくれるかな」
うんざりとした表情でそう言ったオーラムは、斜め背後にいるリュオが若干の戸惑いを示しているのに気付いて、手をのばす。リュオの頭をなでて、ふむと一つ頷いた。
「あぁ。リュオは知らないよね。そんな昔の人」
この国には学園があるものの、通うのは貴族と試験を通過した平民や商人で、将来王宮勤め等に就職するような者ばかり。例外として、冒険者志望でも親に無理やり入れられるようなパターンがあるものの、普通の冒険者やリュオのような元暗殺者なんて者には、国の歴史など学ぶ機会はない。
一応国立図書館が一般にも開放されているものの、必要に迫られなければ、誰も学ぼうとしない。
そのため、オーラムは特に馬鹿にするでもなく、リュオに説明した。
「660年前ほど前に、ウォーレンと隣国レストロレイアは戦争状態にあったんだ。その中、レストロレイア王妃を当時のウォーレン国王が攫ってしまった。肚の中にカルディア王女がいる状態でね」
激動の時代であったと、長寿のものは誰もが口にする。
700年前というのは、各国が戦争状態であり、南北を分断する山脈の、唯一の中継国でさえも戦火に飲まれた。それどころか、600年前。中継国と呼ばれた国は、国名が変わるーーつまり、一度国が崩壊したというのだから、今の短命種からすれば驚きの時代だ。
今の平和は多くの死体と嘆きによって積み上げられた仮の平和に過ぎない。
「王女を出産後、ウォーレン国王はレストロレイア王妃を陵辱し、王子を一人産ませた。産後の肥立ちが悪くてそのままレストロレイア王妃は死亡。王女は人質として異父弟の王子がウォーレン国王を討つまで、ウォーレンで理不尽な扱いを受けていたそうだよ」
リュオに説明しながら、オーラムも頭の中で情報を整理をしていたに違いない。
他国の王妃に王太子を産ませて死なせたとあっては、簡単に戦争が収まるはずもなく。
当時の王を討ち、人質を返したところでその怒りはどれほどのものだったか。
戦争は今も続いている。そう称する程度には、一応和平は結んでいるものの、隣国であるレストロレイアと現在冷戦状態が続いているといっても過言ではない状態が続いている。
「そうだよね。それなら辻褄が合う。あの墓の人なら、どれだけ王家を憎んでいても仕方ない」
「あの墓?」
アグノスが首をかしげると、本当は秘密なんだけど、と前置きをしたオーラムが教えてきた。
「王女の墓はこの国にあるんだよ。王宮の、限られた人しか入れないグラジオラスの庭園に」
「何故だ。確か、和平の証としてレストロレイアに帰ったはずだ」
どの歴史書にも、帰国した後の王女に対する記述は簡素なものだ。
病死したとも、暗殺されたともなく。しかし、1000年は生きるエルフには珍しく、御年100を越えることなく亡くなっているとだけ伝えられている。独身だったのか、何をしていたのか。そういう記述が一切ないのは元敵国であるウォーレンだから情報が入ってこないものだとアグノスは思っていた。
しかし、この国に墓があるということは、この国で死んだか。少なくとも死体が運び込まれているということ。と、いうことはウォーレンの、限られた王族は王女の死因を知っているということである。
「さあ。お祖父様はなにも言わない。でも、さらに不思議なことにローウェンの初代ギルドマスターの墓が隣に建ってるんだ」
オーラムやリュオも、何故王宮に墓があるのか知らないようだ。
ローウェンの初代ギルドマスターも謎が多い人物であったと聞く。
ただ、国を越えて数々の功績を残し、600年前の人災で亡くなったと伝えられている。
そんなギルドマスターと墓を並べているということは、少なからずとも関係があったと見るのが自然だろう。
「彼女、前世を隠す気は全く無いよね」
話を戻すオーラムの言葉に、アグノスは苦笑する。
早く気付いてと言わんばかりの態度は、何を催促しているのか。彼女の正体に気付いた者ならば不思議に思っても仕方がない。
ーーじゃあ、改めて自己紹介を。私はーーカルディア。こちらでは、その名前が馴染むわぁ。
思い出す。初めて名乗った時の、彼女の表情を。
泡沫の夢の中にいるような、溶けて消えてしまいそうな幸せな顔と。出会ったときの、なぜだか染まった赤の瞳が夢の中の女と重なった。
「……アグノス?」
「いや、なんでもない」
彼女が自分を求めたその意味を、アグノスは気付いていた。
この世界は、巡り逢う定めで成り立っている。いくつもの世界に隣接しているからこそ、異界の迷い子がやってくることもあるし、文明を急発展させようとする動きをある程度抑制するための王家や世界の管理者が存在する。
何故この世界は存在するのか。その真実に近づくほど、巡り逢う定めからは逃れられない。
夢の中の女が、違う名前で自分を呼んでいるような、そんな気がして。幻聴だと首を振って頭を切り替えた。
「依頼人には手を出すな。それくらいの分別はあるはずだな?」
「パーティリーダーである君の意思はちゃんと尊重するよ」
釘を差したアグノスに、冒険者として当然のことだと、オーラムは返したのだった。
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