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巡り合う定め

15:ギルドプレート

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「ふぅ……」

 椅子に背中を預けて後はギルドプレートをもらうだけとなった段階で、肺に溜まった空気を吐き出す。
 対面の椅子に座ったアグノスは腕を組んで、ピクリと片眉を上げた。

「魔力は大丈夫か?」

 それは、初日のカルディアから漏れ出る魔力が反発している様子を見ていたからこそ出た言葉であった。
 実際数日経った今では、カルディアの魔力はこの世界の魔力と馴染んできている部分もあるため、本当に無理をしているかどうかは本人しかわからない。

魔力は・・・大丈夫。どちらかというと、試験のときに使ったあれぇ。使うのって結構神経使うからちょっと疲れたってだけよぉ」

 前世感覚で使おうとすると、小さな感覚の誤差にもかなりの神経を使う。
 そもそもからして、前世の自分とは魔力の差が大きすぎる。完全に魔力が馴染んだわけではないので、この世界に魔力が完全に馴染んだ後、総量が決まってくると予想している。それにしても、今の状態では精々5,6発ほどしか相手が出来ないことは自身がよく理解していた。

「先程の魔法は、名前か何かついてたりするのか?」
「名前ぇ?」

 そう言われて、考えを巡らせる。
 設置型の魔法を分解し、作り変える魔法は確か【魔置換法】と呼ばれていた。カルディアの使った魔法もそれに準ずるものだが、前世では数々の敵を前にしていつしかあの魔法は。

「そう、確か──【幻の華】と呼ばれていたかしらぁ」

 古い古い記憶。果たしてそう呼んでいたのはかつての護衛だったか。他のだれかだったか。もう覚えていないほどにどうでも良いと思っていた他者から呼ばれるカルディアだけが使う魔法の名前。
 別に華以外に変換することは可能だ。組み直して矛先を術者に向けることだってできる。
 けれど、転生してなお、カルディアがただ幻の華に変換することだけを守っているのは。

「──カルディア?」

 名前が呼ばれて、彼女ははっとする。
 思考が深いところまで潜っていたことを反省した。

「なんでもないわぁ。ほら、呼ばれたわよ」

 わざとらしく話を変えて立ち上がる。
 察しの良いアグノスはそれ以上の追求をすることなく、カルディアの後をついてきた。
 幻影の華へ変換するのに慣れすぎていて、根本的な約束がもう果たされないことを、彼女は知っている。
 彼女がいたギルドはもうない。彼女の愛した人はもういない。
 それでも、約束を思い出したのならば、自分だけでも守るべきだろうと考えた。
 それを他の誰かにいうことではない。

「おまたせいたしました。こちらがカルディアさんのギルドプレートとなります」

 渡されたギルドプレートには、名前とランクだけが記載されており、それ以上の個人情報は載っていなかった。
 ギルドプレートについて記載されるのは、名前とランク、それから所属パーティ名だけとのこと。プレートの中に魔法円が書き込まれた板が入っており、個人を特定する識別番号などが組み込まれているそうで、ギルドにあるような特別な機械を通すことによって閲覧が可能となるそうだ。
 もし紛失した場合、再発行には金貨10枚の支払いが必要とのこと。カルディアが軽くみただけでも小さなプレートに入るには結構な情報量だと思う。このプレートにかかっている技術料と利便性を考えれば当然の値段とも思えた。
 
「以上が簡単なギルドプレートの説明となります。身分証明や依頼の受注・達成の時にご利用いただきますので、くれぐれも、くれぐれも失くさないようにお願いします」

 大切なことなので2回言われた。
 大体の人はギルドプレートを金属など切れないものに通して首や腰から下げたりしているそうで、肌見放さず持っているのが普通のようだ。

「ようこそ。冒険者ギルドへ。巡り逢う定めの中で、カルディアさんの冒険者活動がより良いものになるようサポートさせていただきます」

 定型文なのであろうそれに会釈を返して、手続きを終える。
 手続きを終えた後は早速依頼ボードを──と、行きたいところであったが、ギルドを出ることにした。

「これからどうする?」

 アグノスの問いかけに、カルディアは微笑んだ。

「ぶらつきましょうかぁ」

 依頼をみるよりも先に、久しぶりの国をもっと堪能しようと歩き出す。
 そうやって王都を探索することにしたのであった。
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