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第2部 魔王と勇者、いじめっ子と対決する
第7話 魔王と勇者、5年1組の教室に到着する
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そらに従って昇降口に向かった俺たち。
靴のまま校舎内に入ろうとする勇美を、そらがあわてて止めた。
「ダメだよ、勇美ちゃん。上履きに履き替えないと!」
「うん? そうなのか?」
「本当に記憶喪失なんだね」
俺は入院中にテレビでやっていた『学園ドラマ』を見たので校舎内では専用の靴に履き替えるという知識はあった。
勇美も一緒に見ていたはずなんだが、興味なさそうだったからなぁ。
とはいえ、俺も神谷影陽の下駄箱がどこにあるかはわからん。
俺はそらにたずねた。
「俺たちの下駄箱はどこなんだ?」
「あー、そうだよね。2人とも記憶喪失だもんね。5年生の下駄箱はこっち。あいうえお順だから」
俺はすぐに神谷影陽の下駄箱を見つけたが、勇美はキョトン顔。
ま、自分の名前の漢字も覚えていないのだから当然だな。いわゆる50音表の知識はゼカルもくれなかったしな。俺は入院中に頭にたたき込んだのだが。
「勇美、こっち」
俺は言って勇美の上履きを渡してやる。
俺も上履きに履き替えたが、サイズはぴったり。ま、当然か。
「むむ、なぜ私の下駄箱が貴様の隣なんだ?」
「氏名のあいうえお順なんだから、名字が同じなら当然だろう?」
「意味が分らん」
俺と勇美の会話に、そらがちょっと引きつった表情で「ははっ」と笑った。
たしかに他に対応のしようが無いだろうな。
上履きに履き替えながら、そらが「それにしても……」と別の話をし始めた。
「影陽くんや勇美ちゃんって喧嘩強いんだね。知らなかったよ」
「当然だ。私は勇者だからな。魔王なんぞに負けてられるか」
おいっ! そういうことを言うなってば!
そらがさらに顔を引きつらせた。
「ゆ、勇者って……ドラゴンクエストのこと?」
「うむ、ドラゴンなら何度か倒したぞ。あれは強敵だった」
「ローラ姫助けられたんだ」
「うん? それはどこの姫君だ?」
俺はため息をつくしかなかった。
勇美も少しは自重して欲しいが、そらの言っていることもよくわからん。
これまでに調べた範囲では、この世界にドラゴンがいるとはおもえないのだが……ひょっとして影陽の日記にあった『テレビゲーム』の話だろうか。
異世界転生のことは色々な意味で知られたくないし、そらの誤解はそのままにしておこう。
俺はそのあたりは無視しつつ、そらに言った。
「俺も勇美も事故で死にかけたからな。なんか強さに目覚めちゃったかも……」
「えー、そんなことあるわけないでしょ」
「はははっ、まあ、それはそうだな」
「だよねぇ」
曖昧に笑い合う俺たち。
ごまかせた……かな?
そらは言いにくそうに言った。
「でも、あんなに強いなら、あんな事故になるまえにササゴをやっつければ……ううん、なんでもない。あれはボクが悪いんだから」
ふむ。
日記の9月の記述を思い出せば、彼が影陽に罪悪感を持つのは分る。
だが、いつまでも罪悪感に支配されるのは、この少年にとってよいことではないだろう。
「もう気にするなよ。さっきそらくんはササゴより俺を選んでくれた。それだけで、俺は満足だ」
「ホントに?」
「ああ」
「……ありがとう。影陽くん」
そらはぶわぁっと涙を流し出した。
「ちょ、おい、こんなところで男が泣くなよ」
「うん、そうだよね。でも、ボク……あのまま2人が死んじゃったらどうしようって……助かったって聞いても、きっと許してもらえないだろうって……もう、影陽くんと遊んだりできないだろうって……それなのに……こうやってまた……。嬉しくって」
そらも辛かったのだろう。
影陽の事故から、罪悪感に押しつぶされそうだったのだな。
「ま、俺も勇美も事故の時のことは覚えていないから」
「え、でも……」
「だから、記憶喪失なんだよ。そらを恨んだりしないって」
影陽の日記には事故当日の記述はなかった。
当り前だ。何しろ事故の後は入院してしまったのだから。
それ以前の記述やそらの様子から色々推察はできるが、あくまでも推察だ。
「うん、本当にごめんね」
それから、俺はそらに案内されて5年1組の教室へと向かった。
1組というからには、2組、3組もあるかのかと思ったが、5年生は1組だけらしい。
おれと勇美がそのことすら『忘れて』いるとしると、そらが解説してくれた。
「6年生は2組まであるんだけどね」
ともあれ、俺たちは5年1組の教室に入った。
教室内にはすでに20人くらいの児童が登校していて、俺たちのことをちょっと奇異な目で見つめていた。
うん? なにかあったのか?
そらと同じく、彼らも影陽をいじめていた罪悪感を持っているのだろうか。
だが、俺の推察は微妙に外れていたようだ。
児童を代表するようにメガネをかけた少年が俺たち……いや、勇美の前にやってきて言った。
「勇美くん。おはよう」
「ああ、おはよう」
「退院おめでとう。だがアレは感心しないな」
「アレ? なんのことだ?」
「窓からみんな見ていたよ。佐々倉くんに君が暴行するところを」
なるほどな。
教室の窓から先ほどのササゴとのやりとりをみんな見ていたらしい。
さて、どう答えたものかな。
===============
【♪昭和60年代豆知識♪】
○ドラゴンクエスト
社会ブームを巻き起こしたファミコン初のコマンド式RPG(諸説あり)のゲーム。
ドラクエ1の発売日は昭和61年5月末。ドラクエ2の発売日は62年1月末、ドラクエ3は昭和63年2月中旬です。
つまり本編の昭和62年9月の時点では2まで発売されていたことになります。
ドラクエ1~3はいわゆるロトシリーズ。
天空シリーズ1作目のドラクエ4は平成2年の発売です。そのためロトシリーズ=昭和のドラクエシリーズともいえます(平成末期に発売されたドラクエ11やビルダーズなどの各種外伝、リメイク作品を除外した場合)
○5年生は1組だけ
影陽が産まれた昭和50年は第二次ベビーブームが終わった頃。
そのため、6年生のみ2クラスある設定です。
とはいえ、そこまで一気に出産数が減ったかというと微妙なところですが。
靴のまま校舎内に入ろうとする勇美を、そらがあわてて止めた。
「ダメだよ、勇美ちゃん。上履きに履き替えないと!」
「うん? そうなのか?」
「本当に記憶喪失なんだね」
俺は入院中にテレビでやっていた『学園ドラマ』を見たので校舎内では専用の靴に履き替えるという知識はあった。
勇美も一緒に見ていたはずなんだが、興味なさそうだったからなぁ。
とはいえ、俺も神谷影陽の下駄箱がどこにあるかはわからん。
俺はそらにたずねた。
「俺たちの下駄箱はどこなんだ?」
「あー、そうだよね。2人とも記憶喪失だもんね。5年生の下駄箱はこっち。あいうえお順だから」
俺はすぐに神谷影陽の下駄箱を見つけたが、勇美はキョトン顔。
ま、自分の名前の漢字も覚えていないのだから当然だな。いわゆる50音表の知識はゼカルもくれなかったしな。俺は入院中に頭にたたき込んだのだが。
「勇美、こっち」
俺は言って勇美の上履きを渡してやる。
俺も上履きに履き替えたが、サイズはぴったり。ま、当然か。
「むむ、なぜ私の下駄箱が貴様の隣なんだ?」
「氏名のあいうえお順なんだから、名字が同じなら当然だろう?」
「意味が分らん」
俺と勇美の会話に、そらがちょっと引きつった表情で「ははっ」と笑った。
たしかに他に対応のしようが無いだろうな。
上履きに履き替えながら、そらが「それにしても……」と別の話をし始めた。
「影陽くんや勇美ちゃんって喧嘩強いんだね。知らなかったよ」
「当然だ。私は勇者だからな。魔王なんぞに負けてられるか」
おいっ! そういうことを言うなってば!
そらがさらに顔を引きつらせた。
「ゆ、勇者って……ドラゴンクエストのこと?」
「うむ、ドラゴンなら何度か倒したぞ。あれは強敵だった」
「ローラ姫助けられたんだ」
「うん? それはどこの姫君だ?」
俺はため息をつくしかなかった。
勇美も少しは自重して欲しいが、そらの言っていることもよくわからん。
これまでに調べた範囲では、この世界にドラゴンがいるとはおもえないのだが……ひょっとして影陽の日記にあった『テレビゲーム』の話だろうか。
異世界転生のことは色々な意味で知られたくないし、そらの誤解はそのままにしておこう。
俺はそのあたりは無視しつつ、そらに言った。
「俺も勇美も事故で死にかけたからな。なんか強さに目覚めちゃったかも……」
「えー、そんなことあるわけないでしょ」
「はははっ、まあ、それはそうだな」
「だよねぇ」
曖昧に笑い合う俺たち。
ごまかせた……かな?
そらは言いにくそうに言った。
「でも、あんなに強いなら、あんな事故になるまえにササゴをやっつければ……ううん、なんでもない。あれはボクが悪いんだから」
ふむ。
日記の9月の記述を思い出せば、彼が影陽に罪悪感を持つのは分る。
だが、いつまでも罪悪感に支配されるのは、この少年にとってよいことではないだろう。
「もう気にするなよ。さっきそらくんはササゴより俺を選んでくれた。それだけで、俺は満足だ」
「ホントに?」
「ああ」
「……ありがとう。影陽くん」
そらはぶわぁっと涙を流し出した。
「ちょ、おい、こんなところで男が泣くなよ」
「うん、そうだよね。でも、ボク……あのまま2人が死んじゃったらどうしようって……助かったって聞いても、きっと許してもらえないだろうって……もう、影陽くんと遊んだりできないだろうって……それなのに……こうやってまた……。嬉しくって」
そらも辛かったのだろう。
影陽の事故から、罪悪感に押しつぶされそうだったのだな。
「ま、俺も勇美も事故の時のことは覚えていないから」
「え、でも……」
「だから、記憶喪失なんだよ。そらを恨んだりしないって」
影陽の日記には事故当日の記述はなかった。
当り前だ。何しろ事故の後は入院してしまったのだから。
それ以前の記述やそらの様子から色々推察はできるが、あくまでも推察だ。
「うん、本当にごめんね」
それから、俺はそらに案内されて5年1組の教室へと向かった。
1組というからには、2組、3組もあるかのかと思ったが、5年生は1組だけらしい。
おれと勇美がそのことすら『忘れて』いるとしると、そらが解説してくれた。
「6年生は2組まであるんだけどね」
ともあれ、俺たちは5年1組の教室に入った。
教室内にはすでに20人くらいの児童が登校していて、俺たちのことをちょっと奇異な目で見つめていた。
うん? なにかあったのか?
そらと同じく、彼らも影陽をいじめていた罪悪感を持っているのだろうか。
だが、俺の推察は微妙に外れていたようだ。
児童を代表するようにメガネをかけた少年が俺たち……いや、勇美の前にやってきて言った。
「勇美くん。おはよう」
「ああ、おはよう」
「退院おめでとう。だがアレは感心しないな」
「アレ? なんのことだ?」
「窓からみんな見ていたよ。佐々倉くんに君が暴行するところを」
なるほどな。
教室の窓から先ほどのササゴとのやりとりをみんな見ていたらしい。
さて、どう答えたものかな。
===============
【♪昭和60年代豆知識♪】
○ドラゴンクエスト
社会ブームを巻き起こしたファミコン初のコマンド式RPG(諸説あり)のゲーム。
ドラクエ1の発売日は昭和61年5月末。ドラクエ2の発売日は62年1月末、ドラクエ3は昭和63年2月中旬です。
つまり本編の昭和62年9月の時点では2まで発売されていたことになります。
ドラクエ1~3はいわゆるロトシリーズ。
天空シリーズ1作目のドラクエ4は平成2年の発売です。そのためロトシリーズ=昭和のドラクエシリーズともいえます(平成末期に発売されたドラクエ11やビルダーズなどの各種外伝、リメイク作品を除外した場合)
○5年生は1組だけ
影陽が産まれた昭和50年は第二次ベビーブームが終わった頃。
そのため、6年生のみ2クラスある設定です。
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