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12.3度目の話し合いタイム 残された3人の混乱

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 教室に拳太、いちご、ヤマト、ユグゥラの4人だけが残った。
 拳太はわけが分からなくなっていた。
 夏風はいじめっ子ではなかった。彼女は拳太ではなくヤマトに投票した。

(なんで? なんでこうなった?)

 わけが分からない。

(いちごちゃんかヤマトくんのどちらかがいじめっ子ってこと? でもそれは……)

 一方、ユグゥラが言う。

「残りプレイヤーも少なくなったな。話し合いタイムも20分に短縮するか」

 ユグゥラがそう言うと、タイマーに『20:00』と表示され、1秒ずつ減り始めた。
 いちごが言った。

「ちょっと、勝手に話し合いタイムを減らさないでよ!」
「ゲームマスターの裁量というやつじゃよ」

 ユグゥラはそう言って笑う。
 拳太はユグゥラをにらんだ。同時にいちごもヤマトもいじめっ子ではないのではないかという、第3の可能性が頭の中を支配していく。

「ユグゥラ、本当にぼくら3人の中にいじめっ子なんているのか?」
「どういう意味かのう?」
「本当は最初からいじめっ子なんていなくて、ぼくらをあざ笑っているだけじゃないのか? 昭博さんが言っていたように、お前こそがいじめっ子で……」

 そこまで拳太が言った時、ユグゥラは笑った。

「そう思うか?」
「そうとしか思えない」

 ユグゥラはスッと目を細めた。

「またしても、お主は間違えている。お主ら3人の中に、いじめっ子はいる」
「だけど……そんなわけない!」
「ま、どう考えてもお主の自由じゃ。じゃが、いずれにしても、お主ら3人はゲームを続行する以外の道はない。それともゲームからリタイヤするか? 最初に言ったはずじゃ。参加を拒否すればどうなるか」

 その時、いちごが言った。

「アタシ、ユグゥラちゃんが嘘をついているとは思えないわ。そりゃ、その自称神様は性格最悪よ。でもさ、最初からぜーんぶ嘘のゲームをさせるよりも、いじめっ子が本当に交じっているゲームをさせた方が楽しいって考えるタイプだと思うよ」
「そうかもしれないけど……」
「っていうか、それを疑っても時間のムダだし。それとも、時間をムダにさせる戦略なのかしら?」

 タイマーが示す残り時間はすで『13:03』だ。
 たしかに、このままじゃユグゥラを追及するだけで話し合いタイムが終わってしまう。
 ゲームに参加しなければ殺される。優衣を助けることもできない。

 拳太は無理矢理自分を納得させるしかなかった。
 ユグゥラの言葉が全て嘘なら、ゲームは全て茶番ということになってしまう。それはつまり、拳太たち5人も優衣も助からないことを意味していた。

 ユグゥラに逆らうすべがない以上、拳太たちは彼女のルールでゲームを続けるしかない。

(だけど、どうしたらいい? この話し合いタイムで話すべきことはなんだ?)

 これまでの2度の話し合いは、夏風が主導していた。
 だが、その夏風はもういない。他ならぬ拳太の投票で、彼女は脱落してしまった。

(ぼくが議論を進めるんだ。それしかない)

 いちごやヤマトに任せるわけにはいかない。
 2人のうちどちらかがいじめっ子だというなら、議論を誘導されちゃダメだ。
 拳太はあらためてヤマトに確認した。

「ヤマトくん、本当にいちごちゃんのニュースを見たんだよね?」

 ヤマトはちょっと躊躇してから言った。

「うん……でも、ニュースのタイトルだけだし……あれが本当にいちごお姉ちゃんのことだったかは……自信がないよ」
「いまさらそんなことを言われても困るよ」
「ごめんなさい」

 だが思い出してみれば、ヤマトは最初から同じように言っていた。

(ぼくが勝手にヤマトくんの発言を重要視しすぎていただけってこと?)

 もしも、そのニュースがいちご以外のどこかの動画配信者のことだとしたら。

(嘘をついていたのはいちごちゃん?)

 だが、拳太がいちごを問い詰める前に、いちごの方が拳太に言った。

「拳太くん、あなたがいじめっ子なの?」

 直球の質問だった。

「ぼくは違うよ!」
「どうかしら? アタシはいじめっ子じゃない。オッサンも夏風ちゃんも違った。残るはあなたかヤマトくんってことになっちゃうでしょ?」

 いちごは続けた。

「でも、ヤマトくんはアタシのニュースを見たって言ったわ。ヤマトくんがいじめっ子なら、アタシをかばう理由が思いつかないじゃん」

 拳太は「くっ」とうめき声を上げた。
 とっさには反論できなかった。
 そもそもその推理を最初に披露したのは他ならぬ拳太自身なのだ。
 いちごは拳太に投票するつもりなのだろうか。

 次の投票は3人で行う。
 1票でも拳太に投票されれば、それだけで大ピンチだ。

(どうする? どうしたらいい? なにを言えばいいんだ?)

 拳太はなにもかも分からなくなっていた。
 と、ヤマトが言った。

「本当はいちごお姉ちゃんがいじめっ子じゃないの?」

 ヤマトの発言に、いちごが顔を引きつらせた。

「違うわよ」
「でも、あのニュースがボクの勘違いだとしたら……」
「アタシは有名な動画配信者よ。嘘をついたらすぐにバレかねなかったでしょ」

 いちごの反論にヤマトはシュンと黙った。
 いちごが嘘をついている可能性は本当に0なのだろうか?

(これまでの話し合いタイムを思い出せ)

 ゲーム開始前の自己紹介にもなにかヒントがあるかもしれない?

(ってちょっと待てよ)

 その時、拳太は別のことが気になった。

「ユグゥラ、この中にいじめっ子が交じっいるとして、その子も他の子たちと同じタイミングでルールを知ったのか?」
「どういう意味じゃな?」
「考えてみたらおかしいじゃないか。お前がルールの説明をする前に、いじめっ子が『自分はいじめっ子だ』とバラしちゃう可能性も0じゃない。そしたらゲームそのものが成り立たない。ひょっとして、いじめっ子はもっと前からルールを知っていたんじゃないのか?」

 拳太の追及に、ユグゥラはニヤリと笑った。

「ようやく気づいたか。たしかにいじめっ子は最初からルールを知っておったよ」

 いちごが声を上げた。

「なにそれ、ずるい!」
「そうでもなかろう。なにしろこのゲームは4対1。元々いじめられっ子の方が圧倒的に有利だったんじゃからな」

 拳太は両手をギュッと握りしめた。

(くそっ、やっぱりこの自称神様は信じられない)

 だが、同時に思った。

(いじめっ子なんて最初からいないというオチはなさそうかな)

 もし、ゲームが最初から茶番なら、いじめっ子にはあらかじめルールを教えていたなんて、ユグゥラが認める意味もないのだから。

「いちごちゃん、キミは本当に有名動画配信者なの?」
「だから、それが嘘ならすぐにバレるって!」
「そうかな? よく考えてみたら、そうとも言えないんじゃないかな」
「どうしてよ?」
「今時、小学生動画配信者なんていくらでもいるよ。有名かどうかの基準なんて曖昧だし。動画配信者の炎上事件だっていくらでもある。仮に誰かがヤマトくんが見かけたニュースを詳しく読んでいても、いくらでもごまかせたんじゃないかな」

 たとえば『その人の炎上事件も有名だけど、アタシも似たようなことしちゃったんだよねぇ』とでも言われれば、拳太たちはそれ以上追及のしようがない。

「ぼくはいちごちゃんの動画を見たことがない。ヤマトくんもだよね?」

 ヤマトは「うん」とうなずいた。

「ぼくたちだけじゃない。昭博さんや夏風さんだって、いちごちゃんの動画を見たことがない様子だった。いちごちゃんが有名動画配信者だっていうのが嘘だからじゃないの?」

 危うい賭けではあるが、自分が有名人だとアピールすることで、いじめっ子疑惑から外れる戦法もありえたかもしれない。
 いちごが動画配信者を名乗ったからいじめっ子じゃないという考え方は、夏風が指摘したようにガバガバ推理だった。

(いちごちゃんだ。彼女こそがいじめっ子だったんだ)

 いじめっ子は昭博じゃなかった。夏風でもなかった。もちろん拳太自身でもない。

 ヤマトは違う。彼がいじめっ子なら、いちごをかばうような発言をするわけがない。
 それに、ヤマトが最初から嘘つきなら、彼は演技を続けていたことになる。小学3年生が演技であんな風に涙を流せるとは拳太には思えなかった。
 ユグゥラも嘘をついていないなら、残る可能性はいちごだけだ。

 拳太がそう考えた時、タイマーが残り『01:57』となった。
 ヤマトがほとんど悲鳴のような声で叫んだ。

「ねえ、どっちなの? 拳太おにいちゃんといちごお姉ちゃん、どっちがいじめっ子なの?」

 拳太といちごは同時に叫んだ。

「いちごちゃんだ」
「拳太くんよ」

 いちごと拳太はお互いを疑っている。
 選択権は再びヤマトに渡った。
 そして、今回の選択はゲーム全体の勝ち負け……プレイヤー全員の命をも左右する。
 ヤマトが拳太に投票してしまえば全てが終わってしまう。

 いちごが言った。

「ヤマトくんはアタシのニュースを見たんでしょう?」
「そうだけど、でもっ!」

 拳太もヤマトに言った。幼い彼を追い詰めるようで心苦しいが、ここだけは譲れない。

「ヤマトくん、ぼくのこと、信じてくれるって言ったよね?」
「だけど、だって……」

 ヤマトは拳太といちごの顔を何度も何度も見くらべた。
 だが、時間は待ってくれない。
 その時、タイマーが『00:00』になり、教室にチャイムが響いた。
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