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9.1度目の結果発表② 最後の2票の行方は……
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現在、拳太、夏風、昭博に1票ずつ投票されている。
残る投票者は昭博とヤマトの2人。
この時点で、ヤマトが脱落者になる可能性はほぼない。
自分自身に投票するわけはないから、仮に昭博がヤマトに投票したとしても、彼は1票にしかならない。
もしその上で、ヤマトがいちごに投票していれば全員1票ずつで最悪の結果となる。だが、その可能性は低いだろうと拳太は考えていた。
昭博がヤマトを怪しむ理由はなさそうだし、ヤマトは昭博を疑っていた。
(だとすると、一番ピンチなのは昭博さんってことになるけど……)
ユグゥラが言う。
「次は足利川ヤマトの票じゃな。ふむ、投票相手は笹倉昭博か」
拳太の予想どおり、ヤマトは昭博に投票した。
ヤマトは聞かれるまでもなく投票理由を言った。
「やっぱり、大人の人がいじめられっ子なんて変だもん」
小学3年生から見ればそうなるらしい。
ユグゥラが昭博の顔をのぞき込んだ。
「これで、笹倉昭博の脱落は決定じゃな」
昭博はうなずいた。
「そうみたいだね」
昭博が誰に投票していようと3票以上獲得する人が出る可能性はもはやないのだから。
とはいえ、まだ拳太も油断できない。
現在、昭博に二票、拳太と夏風にそれぞれ一票ずつ投票されている。
夏風が小さくつぶやくように言った。
「でも、昭博さんが私か拳太くんに投票していれば、脱落者がもう一人出るわけね」
そのとおりだ。昭博が拳太に投票していれば拳太が、夏風に投票していれば彼女が脱落者になる。
(昭博さんは誰に投票したんだろう?)
昭博がいじめっ子でないなら、ヤマトやいちごに投票した可能性は低い。
なぜなら、彼もまた拳太や夏風と同じ推理でヤマトといちごの二人は除外できたはずだからだ。
(そうなると、ぼくか夏風さんが脱落者になるわけだけど……)
だが、もしも昭博がいじめっ子だったら? その場合の投票相手は誰だ?
(ああ、もう混乱するなぁ)
拳太はいまさらながらに、このゲームは単純じゃないと気づいた。
最初は単にいじめっ子が誰か当てるだけだと思った。
しかし、それぞれが疑心暗鬼になって疑い始めるとわけがわからなくなる。
しかも、いちごのように『嫌いだからゲームからいなくなってほしい』なんていう理由の投票まで考慮しなくちゃいけない。
拳太がそこまで考えた時、ユグゥラが最後の票を発表した。
「最後に笹倉昭博の投票相手じゃが……これはどういうつもりじゃ?」
責めるような口調で言ったユグゥラに、昭博は答えた。
「書いたとおりだよ」
昭博はニッコリ笑った。
いちごが不満そうな声を出した。
「ちょっと、2人だけで会話しないでよ。オッサンは誰に投票したの?」
「くだらない投票じゃよ」
ユグゥラはそう言うと、昭博の投票用紙を拳太たちに確認させた。
昭博の投票用紙を見て、夏風が納得したように言った。
「ああ、そういうことね」
拳太もある意味で納得できた。
昭博が投票用紙に書いた名前は『ユグゥラ』だった。
昭博は言う。
「だってそうだろう? 子どもたちを気絶させて閉じ込めて、こんなゲームに強制参加させる自称神様こそ、1番のいじめっ子だと思うよ」
昭博の言葉に、ユグゥラは「ふんっ」と鼻を鳴らした。
「くだらんな。それでワシの裏をかいたつもりか?」
「そこまでは言わないけどね」
「まあいい。どのみちこんなのは無効票じゃし、仮にワシへの投票が有効だとしても、得票がもっとも多かったのは笹倉昭博。脱落者は明白じゃ」
「そうなるね」
その時、拳太は立ち上がった。
「あの、昭博さん。ごめんなさい、ぼくは……」
拳太は昭博に投票した。だが、今の昭博とユグゥラの会話を聞くと、彼はいじめっ子ではなかったとしか思えない。
昭博は拳太にニッコリ笑顔を見せた。
「気にすることはないよ、拳太くん。キミも僕も、自分の信じる行動を取っただけだ」
頼りない人だと思っていたが、その顔は子どもを見守る優しい大人のそれだった。
だが、夏風は昭博に冷たく言った。
「拳太くんはそうでしょう。でも、昭博さん、あなたは逃げただけよ。そんな逃げ腰じゃ内部告発なんて上手くいきっこないわ」
昭博は苦笑した。
「そうかもしれないね」
だが、会話はそこまでだった。
「それでは、笹倉昭博にはご退場願おう」
ユグゥラが右腕の指を鳴らすと、昭博がその場から消えた
「昭博さん!」
拳太が叫ぶと、ユグゥラが言う。
「心配せんでも殺してはおらん。別の場所に強制移動させただけじゃ。もっとも、この後いじめっ子が勝てば……分かるな?」
拳太はうなずいた。
このゲームでいじめっ子が勝てば、どのみち拳太も昭博も、他のいじめられっ子2人も殺されるのだ。
それを理解しつつも、拳太はあらためて確認した。
「つまり昭博さんはいじめっ子じゃなかったんだね?」
ユグゥラはうなずいた。
「そういうことじゃな」
拳太の中に激しい後悔が渦巻く。
間違えた相手に投票して、脱落者にしてしまったのだ。
ユグゥラが残る4人のプレイヤーに言った。
「それでは、2度目の話し合いタイムスタートじゃ」
残る投票者は昭博とヤマトの2人。
この時点で、ヤマトが脱落者になる可能性はほぼない。
自分自身に投票するわけはないから、仮に昭博がヤマトに投票したとしても、彼は1票にしかならない。
もしその上で、ヤマトがいちごに投票していれば全員1票ずつで最悪の結果となる。だが、その可能性は低いだろうと拳太は考えていた。
昭博がヤマトを怪しむ理由はなさそうだし、ヤマトは昭博を疑っていた。
(だとすると、一番ピンチなのは昭博さんってことになるけど……)
ユグゥラが言う。
「次は足利川ヤマトの票じゃな。ふむ、投票相手は笹倉昭博か」
拳太の予想どおり、ヤマトは昭博に投票した。
ヤマトは聞かれるまでもなく投票理由を言った。
「やっぱり、大人の人がいじめられっ子なんて変だもん」
小学3年生から見ればそうなるらしい。
ユグゥラが昭博の顔をのぞき込んだ。
「これで、笹倉昭博の脱落は決定じゃな」
昭博はうなずいた。
「そうみたいだね」
昭博が誰に投票していようと3票以上獲得する人が出る可能性はもはやないのだから。
とはいえ、まだ拳太も油断できない。
現在、昭博に二票、拳太と夏風にそれぞれ一票ずつ投票されている。
夏風が小さくつぶやくように言った。
「でも、昭博さんが私か拳太くんに投票していれば、脱落者がもう一人出るわけね」
そのとおりだ。昭博が拳太に投票していれば拳太が、夏風に投票していれば彼女が脱落者になる。
(昭博さんは誰に投票したんだろう?)
昭博がいじめっ子でないなら、ヤマトやいちごに投票した可能性は低い。
なぜなら、彼もまた拳太や夏風と同じ推理でヤマトといちごの二人は除外できたはずだからだ。
(そうなると、ぼくか夏風さんが脱落者になるわけだけど……)
だが、もしも昭博がいじめっ子だったら? その場合の投票相手は誰だ?
(ああ、もう混乱するなぁ)
拳太はいまさらながらに、このゲームは単純じゃないと気づいた。
最初は単にいじめっ子が誰か当てるだけだと思った。
しかし、それぞれが疑心暗鬼になって疑い始めるとわけがわからなくなる。
しかも、いちごのように『嫌いだからゲームからいなくなってほしい』なんていう理由の投票まで考慮しなくちゃいけない。
拳太がそこまで考えた時、ユグゥラが最後の票を発表した。
「最後に笹倉昭博の投票相手じゃが……これはどういうつもりじゃ?」
責めるような口調で言ったユグゥラに、昭博は答えた。
「書いたとおりだよ」
昭博はニッコリ笑った。
いちごが不満そうな声を出した。
「ちょっと、2人だけで会話しないでよ。オッサンは誰に投票したの?」
「くだらない投票じゃよ」
ユグゥラはそう言うと、昭博の投票用紙を拳太たちに確認させた。
昭博の投票用紙を見て、夏風が納得したように言った。
「ああ、そういうことね」
拳太もある意味で納得できた。
昭博が投票用紙に書いた名前は『ユグゥラ』だった。
昭博は言う。
「だってそうだろう? 子どもたちを気絶させて閉じ込めて、こんなゲームに強制参加させる自称神様こそ、1番のいじめっ子だと思うよ」
昭博の言葉に、ユグゥラは「ふんっ」と鼻を鳴らした。
「くだらんな。それでワシの裏をかいたつもりか?」
「そこまでは言わないけどね」
「まあいい。どのみちこんなのは無効票じゃし、仮にワシへの投票が有効だとしても、得票がもっとも多かったのは笹倉昭博。脱落者は明白じゃ」
「そうなるね」
その時、拳太は立ち上がった。
「あの、昭博さん。ごめんなさい、ぼくは……」
拳太は昭博に投票した。だが、今の昭博とユグゥラの会話を聞くと、彼はいじめっ子ではなかったとしか思えない。
昭博は拳太にニッコリ笑顔を見せた。
「気にすることはないよ、拳太くん。キミも僕も、自分の信じる行動を取っただけだ」
頼りない人だと思っていたが、その顔は子どもを見守る優しい大人のそれだった。
だが、夏風は昭博に冷たく言った。
「拳太くんはそうでしょう。でも、昭博さん、あなたは逃げただけよ。そんな逃げ腰じゃ内部告発なんて上手くいきっこないわ」
昭博は苦笑した。
「そうかもしれないね」
だが、会話はそこまでだった。
「それでは、笹倉昭博にはご退場願おう」
ユグゥラが右腕の指を鳴らすと、昭博がその場から消えた
「昭博さん!」
拳太が叫ぶと、ユグゥラが言う。
「心配せんでも殺してはおらん。別の場所に強制移動させただけじゃ。もっとも、この後いじめっ子が勝てば……分かるな?」
拳太はうなずいた。
このゲームでいじめっ子が勝てば、どのみち拳太も昭博も、他のいじめられっ子2人も殺されるのだ。
それを理解しつつも、拳太はあらためて確認した。
「つまり昭博さんはいじめっ子じゃなかったんだね?」
ユグゥラはうなずいた。
「そういうことじゃな」
拳太の中に激しい後悔が渦巻く。
間違えた相手に投票して、脱落者にしてしまったのだ。
ユグゥラが残る4人のプレイヤーに言った。
「それでは、2度目の話し合いタイムスタートじゃ」
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