上 下
57 / 94
第六章 5人目の仲間と次レベルへ

5.5人パーティの初仕事

しおりを挟む
 見渡す限りの草原。ここはエンパレの町から北東に3日ほどの場所である。
 俺達5人は、依頼主で行商人のブレデントさんとその部下3人と一緒にそこにいた。

 草原自体は実に穏やかな風が吹く。いい空気だし、寝っ転がりたくなるほどの平和な場所だ。
 だが。
 異常は上空にあった。

「あれが、魔の空ですか……」

 俺達の上空20メートルくらいの場所が、漆黒に包まれている。
 雨雲ではない。空間が漆黒なのだ。あえていうなら、黒いもやがただよっているようなかんじか。

 魔の空とは、魔の森の空バージョンだと考えれば分かりやすい。
 空飛ぶ魔物が巣くう漆黒の空――あるいは空間である。

 で、俺達がなぜここに来たかというと、魔の空に巣くうモンスター、コジャラックスを捕えるためである。
 四本足の鷲みたいなこのモンスターの肉、実は知る人ぞ知る珍味だという。
 コジャラックスに攻撃力などはほとんどないらしいのだが、捕えるとなると難しい。

 何しろ、上空20メートルの場所を飛び続けているのだ。地上に降りてくることはまずない。
 戦闘力こそ無いが、休みなく飛び続けられるというのは魔物ならではの能力かも知れない。
 地上に降りることなく、何を食って生きているかは未だ解明されていないらしい。

 魔の空の中を、目視できるだけでも20匹近いコジャラックスが飛んでいる。
 俺達の受けた依頼はそのうち10匹を仕留めることだった。
 なんでも、某貴族の晩餐会が開かれ、そこにコジャラックスの丸焼きを出したいのだとか。

 アレルがブレデントさんに尋ねる。

「コジャラックスっておいちいの?」

 あ、涎たらしているよ、この子。そういえば、鶏肉の香草焼が好物だっけ。

「さあ、私は食べたことがないので。ですが、知り合いのシェフに聞いたらコッコの方がよっぽど美味しいと思うって言ってたよ」

 ちなみに、コッコとはこの世界で一般的に食べられている普通の鳥。魔物ではない。というか、ぶっちゃけほぼ鶏である。

「ふーん、じゃあ、コッコをたべればいいのにー」

 アレルは首をひねる。
 確かにその通りだが、珍味なんてそんなもんだろう。
 俺だって、地球で1度だけ食べたことがあるトリュフは全く美味いと思えなかったし。

「で、あれを倒せばいいのね?」

 ソフィネが言う。

「ええ。ただし、火炎系の魔法はだめです。生のまま町まで運ばないといけないので」

 もちろん、剣はとどかない。通常の戦士では倒せないし、魔法使いでも炎系しか使えない者では役に立たない。俺とかな。

「じゃあ、まずは私が」

 そういって、フロルが使ったのは『氷球弾』
 コジャラックスの一匹に当たり、あっさり遠く地面に落ちる。

「次は私ね」

 ソフィネが弓を引き絞る。
 矢が放たれ、コジャラックスの一匹の首に命中。これまた地面に落ちる。

 うん、モンスターとしては確かに弱い部類だ。空にいるということを除けば、ツノウサギと変わらない程度のレベルである。

「じゃーねー、次はアレルなのー」

 そう言って、アレルは『光の太刀』を放つ。空飛ぶ敵には『風の太刀』よりも効くらしい。
 2匹まとめて地面に落ちた。

 そして、コジャラックスを倒した3人は俺とライトの方をみて同時に尋ねる。

『で?』

 ……
 …………
 ………………

『……地面に落ちた獲物、拾ってきます……』

 氷系の攻撃魔法がない俺と、そもそも遠距離攻撃手段がないライトの2人は、そう言って駆け出すのだった。

 ---------------

「あー、もう、あとで絶対に『氷球弾』習うっ!」

 走りながら言う俺。ブライアンが忙しすぎて、俺もフロルも最近新しい魔法の契約ができていないのだ。

「『風の太刀』とか『光の太刀』とか、どうやったら使えるようになるんだろうなぁ……」

 ようやく一匹目のコジャラックスを拾いながら、ライトもぼやく。

「俺に聞くなよ、アレルに聞けよ」
「とっくに聞いたさ。あいつなんて答えたと思う?」
「さあ……」

 想像してみる。

「『うーん、アレルわかんなぁーい』ってかんじか?」

 頷くライト。
 素振りだけで『風の太刀』を覚えてしまうような超天才には、覚え方なんて分からないのかもしれない。
 むしろアレルからすれば、『なんでライトは使えないの?』って感じなのかも。彼はそういう言い方をする子ではないが。

 ちなみに、ミリスや他の戦士達にも尋ねたのだが、誰も分からないらしい。
 そもそも、あんな超絶技を使えるのはアレルか、それこそレルス=フライマントのような超天才だけなのだ。

「じゃあ、弓を習うっていうのは?」
「誰に習うんだよ?」
「そりゃあ、ソフィネに……」
「……それだけはゴメンだ」

 だろうな。
 少なくともエンパレの町で、弓を使う戦士やレンジャーは他にいない。
 冒険者ではなく狩人ならいるかもしれないが。

 それに、弓と剣を両方もち歩くというのも大変そうだし、2つの武器を同時に練習するのはどっちつかずになるだろうとミリスにも言われたそうだ。

 拾ったコジャラックスの死体は、俺が『氷球』で凍らせる。氷球は単に氷を召喚するだけでなく、思念モニタへの入力次第でこういう使い方もできるのだ。
 もちろん、凍らせる理由は新鮮なまま町まで運ぶこと。1日以上は溶けないはずだ。

 ここまでの展開をみて、お気づきの方もいるかも知れない。
 実はこの依頼、本来は俺達ではなくブライアンへの依頼だった。
 彼の得意魔法は氷系だしね。

 だが、例のセルアレニ騒動以降、あそこの魔の森のモンスターが未だ騒がしく、ブライアンは毎日魔物退治に出向いていた。
 レベル6の魔法使いである彼の力は、多くの魔物を同時に倒すのにとても有効なのだ。
 俺達が新しい魔法を覚える儀式をしてもらえないのも、彼がずっと魔の森に行っているからである。

 そんなときに、この依頼。
 ミレヌとしては断ろうと思ったらしいのだが、ミリスが『だったらショート達に行かせればいいだろう』とアドバイス。
 ブライアンほどではないが、フロルも氷の攻撃魔法が使えるし、コジャラックスならばソフィネに魔物退治の経験を積ませるにも丁度いいと判断してくれたのだ。

 依頼主のブレデントさんは、最初5歳の女の子ということでビックリというか、難色をしめした。だが、冒険者カードで確かにフロルが『氷球弾』をつかえることを確認すると、それならば試しにということになったのだ。

 ---------------

「いやー、助かったよ。ありがとう。フロルちゃん、アレルくん、ソフィネちゃん」

 10匹のコジャラックスを捕えると、ブレデントさんは3人の手をそれぞれ握りしめて言った。
 俺とライトには礼はない。いや、今回はしょうがないけど。

「次からもフロルちゃん達にお願いするよ。ブライアンさんは優秀だけどさ、ねぇ」

 ブレデントさんは口を濁す。彼の部下達がさらに続ける。

「ええ、毎回毎回デートに誘われるし」「俺はケツを撫でられた」「俺なんて夜の誘……あ、いや、まあ、ね」

 さすがに夜の誘いネタは子ども達の前で話すことではないだろうと口ごもる部下。つーか、ブライアンは依頼主の部下に何やっているの!?

「正直、魔法使いというのは皆あんなキャラなのかと思っていましたよ」

 苦笑するブレデントさん。
 うん、さすがにそれは世の中の魔法使い全員に謝れ。

 ともあれ、俺達が5人パーティーになってからの初依頼は、こうして特に大きな苦労もなく終わったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

社畜おっさんは巻き込まれて異世界!? とにかく生きねばなりません!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はユアサ マモル 14連勤を終えて家に帰ろうと思ったら少女とぶつかってしまった とても人柄のいい奥さんに謝っていると一瞬で周りの景色が変わり 奥さんも少女もいなくなっていた 若者の間で、はやっている話を聞いていた私はすぐに気持ちを切り替えて生きていくことにしました いや~自炊をしていてよかったです

新人神様のまったり天界生活

源 玄輝
ファンタジー
死後、異世界の神に召喚された主人公、長田 壮一郎。 「異世界で勇者をやってほしい」 「お断りします」 「じゃあ代わりに神様やって。これ決定事項」 「・・・え?」 神に頼まれ異世界の勇者として生まれ変わるはずが、どういうわけか異世界の神になることに!? 新人神様ソウとして右も左もわからない神様生活が今始まる! ソウより前に異世界転生した人達のおかげで大きな戦争が無い比較的平和な下界にはなったものの信仰が薄れてしまい、実はピンチな状態。 果たしてソウは新人神様として消滅せずに済むのでしょうか。 一方で異世界の人なので人らしい生活を望み、天使達の住む空間で住民達と交流しながら料理をしたり風呂に入ったり、時にはイチャイチャしたりそんなまったりとした天界生活を満喫します。 まったりゆるい、異世界天界スローライフ神様生活開始です!

公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~

松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。 なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。 生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。 しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。 二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。 婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。 カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...