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第六章 5人目の仲間と次レベルへ
5.5人パーティの初仕事
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見渡す限りの草原。ここはエンパレの町から北東に3日ほどの場所である。
俺達5人は、依頼主で行商人のブレデントさんとその部下3人と一緒にそこにいた。
草原自体は実に穏やかな風が吹く。いい空気だし、寝っ転がりたくなるほどの平和な場所だ。
だが。
異常は上空にあった。
「あれが、魔の空ですか……」
俺達の上空20メートルくらいの場所が、漆黒に包まれている。
雨雲ではない。空間が漆黒なのだ。あえていうなら、黒いもやがただよっているようなかんじか。
魔の空とは、魔の森の空バージョンだと考えれば分かりやすい。
空飛ぶ魔物が巣くう漆黒の空――あるいは空間である。
で、俺達がなぜここに来たかというと、魔の空に巣くうモンスター、コジャラックスを捕えるためである。
四本足の鷲みたいなこのモンスターの肉、実は知る人ぞ知る珍味だという。
コジャラックスに攻撃力などはほとんどないらしいのだが、捕えるとなると難しい。
何しろ、上空20メートルの場所を飛び続けているのだ。地上に降りてくることはまずない。
戦闘力こそ無いが、休みなく飛び続けられるというのは魔物ならではの能力かも知れない。
地上に降りることなく、何を食って生きているかは未だ解明されていないらしい。
魔の空の中を、目視できるだけでも20匹近いコジャラックスが飛んでいる。
俺達の受けた依頼はそのうち10匹を仕留めることだった。
なんでも、某貴族の晩餐会が開かれ、そこにコジャラックスの丸焼きを出したいのだとか。
アレルがブレデントさんに尋ねる。
「コジャラックスっておいちいの?」
あ、涎たらしているよ、この子。そういえば、鶏肉の香草焼が好物だっけ。
「さあ、私は食べたことがないので。ですが、知り合いのシェフに聞いたらコッコの方がよっぽど美味しいと思うって言ってたよ」
ちなみに、コッコとはこの世界で一般的に食べられている普通の鳥。魔物ではない。というか、ぶっちゃけほぼ鶏である。
「ふーん、じゃあ、コッコをたべればいいのにー」
アレルは首をひねる。
確かにその通りだが、珍味なんてそんなもんだろう。
俺だって、地球で1度だけ食べたことがあるトリュフは全く美味いと思えなかったし。
「で、あれを倒せばいいのね?」
ソフィネが言う。
「ええ。ただし、火炎系の魔法はだめです。生のまま町まで運ばないといけないので」
もちろん、剣はとどかない。通常の戦士では倒せないし、魔法使いでも炎系しか使えない者では役に立たない。俺とかな。
「じゃあ、まずは私が」
そういって、フロルが使ったのは『氷球弾』
コジャラックスの一匹に当たり、あっさり遠く地面に落ちる。
「次は私ね」
ソフィネが弓を引き絞る。
矢が放たれ、コジャラックスの一匹の首に命中。これまた地面に落ちる。
うん、モンスターとしては確かに弱い部類だ。空にいるということを除けば、ツノウサギと変わらない程度のレベルである。
「じゃーねー、次はアレルなのー」
そう言って、アレルは『光の太刀』を放つ。空飛ぶ敵には『風の太刀』よりも効くらしい。
2匹まとめて地面に落ちた。
そして、コジャラックスを倒した3人は俺とライトの方をみて同時に尋ねる。
『で?』
……
…………
………………
『……地面に落ちた獲物、拾ってきます……』
氷系の攻撃魔法がない俺と、そもそも遠距離攻撃手段がないライトの2人は、そう言って駆け出すのだった。
---------------
「あー、もう、あとで絶対に『氷球弾』習うっ!」
走りながら言う俺。ブライアンが忙しすぎて、俺もフロルも最近新しい魔法の契約ができていないのだ。
「『風の太刀』とか『光の太刀』とか、どうやったら使えるようになるんだろうなぁ……」
ようやく一匹目のコジャラックスを拾いながら、ライトもぼやく。
「俺に聞くなよ、アレルに聞けよ」
「とっくに聞いたさ。あいつなんて答えたと思う?」
「さあ……」
想像してみる。
「『うーん、アレルわかんなぁーい』ってかんじか?」
頷くライト。
素振りだけで『風の太刀』を覚えてしまうような超天才には、覚え方なんて分からないのかもしれない。
むしろアレルからすれば、『なんでライトは使えないの?』って感じなのかも。彼はそういう言い方をする子ではないが。
ちなみに、ミリスや他の戦士達にも尋ねたのだが、誰も分からないらしい。
そもそも、あんな超絶技を使えるのはアレルか、それこそレルス=フライマントのような超天才だけなのだ。
「じゃあ、弓を習うっていうのは?」
「誰に習うんだよ?」
「そりゃあ、ソフィネに……」
「……それだけはゴメンだ」
だろうな。
少なくともエンパレの町で、弓を使う戦士やレンジャーは他にいない。
冒険者ではなく狩人ならいるかもしれないが。
それに、弓と剣を両方もち歩くというのも大変そうだし、2つの武器を同時に練習するのはどっちつかずになるだろうとミリスにも言われたそうだ。
拾ったコジャラックスの死体は、俺が『氷球』で凍らせる。氷球は単に氷を召喚するだけでなく、思念モニタへの入力次第でこういう使い方もできるのだ。
もちろん、凍らせる理由は新鮮なまま町まで運ぶこと。1日以上は溶けないはずだ。
ここまでの展開をみて、お気づきの方もいるかも知れない。
実はこの依頼、本来は俺達ではなくブライアンへの依頼だった。
彼の得意魔法は氷系だしね。
だが、例のセルアレニ騒動以降、あそこの魔の森のモンスターが未だ騒がしく、ブライアンは毎日魔物退治に出向いていた。
レベル6の魔法使いである彼の力は、多くの魔物を同時に倒すのにとても有効なのだ。
俺達が新しい魔法を覚える儀式をしてもらえないのも、彼がずっと魔の森に行っているからである。
そんなときに、この依頼。
ミレヌとしては断ろうと思ったらしいのだが、ミリスが『だったらショート達に行かせればいいだろう』とアドバイス。
ブライアンほどではないが、フロルも氷の攻撃魔法が使えるし、コジャラックスならばソフィネに魔物退治の経験を積ませるにも丁度いいと判断してくれたのだ。
依頼主のブレデントさんは、最初5歳の女の子ということでビックリというか、難色をしめした。だが、冒険者カードで確かにフロルが『氷球弾』をつかえることを確認すると、それならば試しにということになったのだ。
---------------
「いやー、助かったよ。ありがとう。フロルちゃん、アレルくん、ソフィネちゃん」
10匹のコジャラックスを捕えると、ブレデントさんは3人の手をそれぞれ握りしめて言った。
俺とライトには礼はない。いや、今回はしょうがないけど。
「次からもフロルちゃん達にお願いするよ。ブライアンさんは優秀だけどさ、ねぇ」
ブレデントさんは口を濁す。彼の部下達がさらに続ける。
「ええ、毎回毎回デートに誘われるし」「俺はケツを撫でられた」「俺なんて夜の誘……あ、いや、まあ、ね」
さすがに夜の誘いネタは子ども達の前で話すことではないだろうと口ごもる部下。つーか、ブライアンは依頼主の部下に何やっているの!?
「正直、魔法使いというのは皆あんなキャラなのかと思っていましたよ」
苦笑するブレデントさん。
うん、さすがにそれは世の中の魔法使い全員に謝れ。
ともあれ、俺達が5人パーティーになってからの初依頼は、こうして特に大きな苦労もなく終わったのだった。
俺達5人は、依頼主で行商人のブレデントさんとその部下3人と一緒にそこにいた。
草原自体は実に穏やかな風が吹く。いい空気だし、寝っ転がりたくなるほどの平和な場所だ。
だが。
異常は上空にあった。
「あれが、魔の空ですか……」
俺達の上空20メートルくらいの場所が、漆黒に包まれている。
雨雲ではない。空間が漆黒なのだ。あえていうなら、黒いもやがただよっているようなかんじか。
魔の空とは、魔の森の空バージョンだと考えれば分かりやすい。
空飛ぶ魔物が巣くう漆黒の空――あるいは空間である。
で、俺達がなぜここに来たかというと、魔の空に巣くうモンスター、コジャラックスを捕えるためである。
四本足の鷲みたいなこのモンスターの肉、実は知る人ぞ知る珍味だという。
コジャラックスに攻撃力などはほとんどないらしいのだが、捕えるとなると難しい。
何しろ、上空20メートルの場所を飛び続けているのだ。地上に降りてくることはまずない。
戦闘力こそ無いが、休みなく飛び続けられるというのは魔物ならではの能力かも知れない。
地上に降りることなく、何を食って生きているかは未だ解明されていないらしい。
魔の空の中を、目視できるだけでも20匹近いコジャラックスが飛んでいる。
俺達の受けた依頼はそのうち10匹を仕留めることだった。
なんでも、某貴族の晩餐会が開かれ、そこにコジャラックスの丸焼きを出したいのだとか。
アレルがブレデントさんに尋ねる。
「コジャラックスっておいちいの?」
あ、涎たらしているよ、この子。そういえば、鶏肉の香草焼が好物だっけ。
「さあ、私は食べたことがないので。ですが、知り合いのシェフに聞いたらコッコの方がよっぽど美味しいと思うって言ってたよ」
ちなみに、コッコとはこの世界で一般的に食べられている普通の鳥。魔物ではない。というか、ぶっちゃけほぼ鶏である。
「ふーん、じゃあ、コッコをたべればいいのにー」
アレルは首をひねる。
確かにその通りだが、珍味なんてそんなもんだろう。
俺だって、地球で1度だけ食べたことがあるトリュフは全く美味いと思えなかったし。
「で、あれを倒せばいいのね?」
ソフィネが言う。
「ええ。ただし、火炎系の魔法はだめです。生のまま町まで運ばないといけないので」
もちろん、剣はとどかない。通常の戦士では倒せないし、魔法使いでも炎系しか使えない者では役に立たない。俺とかな。
「じゃあ、まずは私が」
そういって、フロルが使ったのは『氷球弾』
コジャラックスの一匹に当たり、あっさり遠く地面に落ちる。
「次は私ね」
ソフィネが弓を引き絞る。
矢が放たれ、コジャラックスの一匹の首に命中。これまた地面に落ちる。
うん、モンスターとしては確かに弱い部類だ。空にいるということを除けば、ツノウサギと変わらない程度のレベルである。
「じゃーねー、次はアレルなのー」
そう言って、アレルは『光の太刀』を放つ。空飛ぶ敵には『風の太刀』よりも効くらしい。
2匹まとめて地面に落ちた。
そして、コジャラックスを倒した3人は俺とライトの方をみて同時に尋ねる。
『で?』
……
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………………
『……地面に落ちた獲物、拾ってきます……』
氷系の攻撃魔法がない俺と、そもそも遠距離攻撃手段がないライトの2人は、そう言って駆け出すのだった。
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「あー、もう、あとで絶対に『氷球弾』習うっ!」
走りながら言う俺。ブライアンが忙しすぎて、俺もフロルも最近新しい魔法の契約ができていないのだ。
「『風の太刀』とか『光の太刀』とか、どうやったら使えるようになるんだろうなぁ……」
ようやく一匹目のコジャラックスを拾いながら、ライトもぼやく。
「俺に聞くなよ、アレルに聞けよ」
「とっくに聞いたさ。あいつなんて答えたと思う?」
「さあ……」
想像してみる。
「『うーん、アレルわかんなぁーい』ってかんじか?」
頷くライト。
素振りだけで『風の太刀』を覚えてしまうような超天才には、覚え方なんて分からないのかもしれない。
むしろアレルからすれば、『なんでライトは使えないの?』って感じなのかも。彼はそういう言い方をする子ではないが。
ちなみに、ミリスや他の戦士達にも尋ねたのだが、誰も分からないらしい。
そもそも、あんな超絶技を使えるのはアレルか、それこそレルス=フライマントのような超天才だけなのだ。
「じゃあ、弓を習うっていうのは?」
「誰に習うんだよ?」
「そりゃあ、ソフィネに……」
「……それだけはゴメンだ」
だろうな。
少なくともエンパレの町で、弓を使う戦士やレンジャーは他にいない。
冒険者ではなく狩人ならいるかもしれないが。
それに、弓と剣を両方もち歩くというのも大変そうだし、2つの武器を同時に練習するのはどっちつかずになるだろうとミリスにも言われたそうだ。
拾ったコジャラックスの死体は、俺が『氷球』で凍らせる。氷球は単に氷を召喚するだけでなく、思念モニタへの入力次第でこういう使い方もできるのだ。
もちろん、凍らせる理由は新鮮なまま町まで運ぶこと。1日以上は溶けないはずだ。
ここまでの展開をみて、お気づきの方もいるかも知れない。
実はこの依頼、本来は俺達ではなくブライアンへの依頼だった。
彼の得意魔法は氷系だしね。
だが、例のセルアレニ騒動以降、あそこの魔の森のモンスターが未だ騒がしく、ブライアンは毎日魔物退治に出向いていた。
レベル6の魔法使いである彼の力は、多くの魔物を同時に倒すのにとても有効なのだ。
俺達が新しい魔法を覚える儀式をしてもらえないのも、彼がずっと魔の森に行っているからである。
そんなときに、この依頼。
ミレヌとしては断ろうと思ったらしいのだが、ミリスが『だったらショート達に行かせればいいだろう』とアドバイス。
ブライアンほどではないが、フロルも氷の攻撃魔法が使えるし、コジャラックスならばソフィネに魔物退治の経験を積ませるにも丁度いいと判断してくれたのだ。
依頼主のブレデントさんは、最初5歳の女の子ということでビックリというか、難色をしめした。だが、冒険者カードで確かにフロルが『氷球弾』をつかえることを確認すると、それならば試しにということになったのだ。
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「いやー、助かったよ。ありがとう。フロルちゃん、アレルくん、ソフィネちゃん」
10匹のコジャラックスを捕えると、ブレデントさんは3人の手をそれぞれ握りしめて言った。
俺とライトには礼はない。いや、今回はしょうがないけど。
「次からもフロルちゃん達にお願いするよ。ブライアンさんは優秀だけどさ、ねぇ」
ブレデントさんは口を濁す。彼の部下達がさらに続ける。
「ええ、毎回毎回デートに誘われるし」「俺はケツを撫でられた」「俺なんて夜の誘……あ、いや、まあ、ね」
さすがに夜の誘いネタは子ども達の前で話すことではないだろうと口ごもる部下。つーか、ブライアンは依頼主の部下に何やっているの!?
「正直、魔法使いというのは皆あんなキャラなのかと思っていましたよ」
苦笑するブレデントさん。
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