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第二階層 黒の洞窟
第5話 黒の洞窟を攻略せよ
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狭い通路を歩きながら、教官が言った。
「すまないな、海野蒼、それに志音疾翔も。お前たちもダメージを負っているだろうが、回復アイテムは先ほどの上霊薬しかなかった」
挑英が教官に確認した。
「それはつまり、今度先ほどの優汰と同じような重傷を負ったら助からないと?」
「そう思ってほしい」
オレはゴクリとつばを飲み込んだ。
もしもまた黒疑竜なんかが出現したら……
いや、考えるのはよそう。
仮にそうなったとしても、最善を尽くすだけだ。
と、優汰が前方を指さした。
「ねえ、あれ宝箱じゃない? しかも金色が三個と虹色が一個!」
金色の宝箱はかなり貴重だ。まして、虹色の宝箱は、ダンジョンアドベンチュラ-が一生に一度おめにかかれるかどうかといわれている。まさに幻の宝箱だ。
挑英が教官にたずねた。
「どうしましょうか?」
宝箱には罠があることもある。罠の危険度も宝箱の珍しさによって変わる。
白の宝箱にはそもそもめったに罠はなく、あっても致命傷にはならない。
一方で、金の宝箱の罠は、開けた途端に大爆発を起こして仲間が全員死ぬなんてこともあるらしい。
だからだろう。教官は一瞬迷った顔を見せた。が、すぐに決断してくれた。
「私が開けよう。念のため諸君らは少し下がっていろ」
「大丈夫なのですか?」
挑英の問いに、教官は言った。
「今後、さらなる危険なモンスターが現れる可能性もある。もし、あの中に強力な武具などがあれば助かる。それに……」
「それに?」
教官はニヤリと笑った。
「ダンジョンアドベンチュラ-として、金や虹の宝箱を無視して先に進めるか?」
そりゃそうだな。
結局、ダンジョンアドベンチュラ-になろうなんてヤツは命知らずの大馬鹿だ。
それは教官だって同じだ。
むしろ、あと数ヶ月でダンジョンに入れなくなる教官の方が、この発見には興奮しているのかもしれない。
教官は、宝箱を一つずつ慎重に確認した。
少なくとも触っても動き出さないので、宝箱型のモンスターってことはなさそうだが。
「どうですか?」
罠のある宝箱ならば、ドクロマークがあるはずだ。
「おそらく大丈夫だ」
『おそらく』としか言えない理由は、優汰が解説してくれた。
「金以上の高ランクになると、ドクロマークの有無だけじゃ罠を判別できないこともあるんだ。黄色や銀の宝箱から手に入る鑑定用のアイテムがないと確実とはいえない」
そういえば、飛翔兄ちゃんからそんなことを聞いたことがあるようなないような。ダメだな。たしかにオレはもっとダンジョンについて勉強しておくべきだった。
挑英が教官にたずねた。
「その鑑定用アイテムはないんですか?」
「初心者用ダンジョンに入るのに、そんなものは持ってこないさ。言っただろう? 青以上の宝箱など、本来見つかるわけがないんだ」
たしかにそうだろうなぁ。
オレの中に不安がよぎった。
本当に大丈夫か? 本当に開けるべきなのか?
どうしてもさっきの大火傷した優汰の姿が目に浮かんでしまった。今度は教官がああなるのではないかと思うと恐ろしくなった。
無意識のうちにオレは言っていた。
「やっぱり開けない方がいいんじゃないですか?」
だが、蒼ちゃんが言った。
「ダメよ、開けるべきよ」
「でもさぁ」
「もしも強力な武器が入っているなら、またBランクモンスターが出てきたときに必要よ。もう火の杖もないし」
たしかにその通りだけど。
挑英が「ふんっ」と鼻を鳴らした。
「猪突猛進のお前が、ずいぶんと弱気になったものだな」
「だけどさっ」
「蒼や教官の判断が正しい。宝箱に罠がある可能性は低いが、モンスターとまた出会う可能性は高い。ここは絶対に捨て置けない」
優汰が「たしかに」とうなずいた。
「ボクも挑英くんや蒼ちゃんに賛成だ。それに、もしかすると蒼ちゃんの目的のアイテムがあるかもしれないしね」
万能の霊薬は黒の洞窟の虹色の宝箱からだけ手に入るんだっけ。
蒼ちゃんは言った。
「教官が開けないなら、私が開けてもいいわ」
「いや、それなら俺が開けよう」
慎重派の挑英までそう言った。
なっさけねーな。今一番弱気なのはオレか。
「あー、もう! そんなことを言うならオレが開けてやるよ!」
そう叫んでオレは教官の方へと進もうとした。
が、教官がオレたちを止めた。
「開けるのは私だ。それが私の責任だ」
いや、責任って。
「志音疾翔。お前はお前の責任を果たせ」
「オレの責任?」
「宝箱をあけて私に万が一のことがあったら、そのときはお前が三人を守ってワープゲートを見つけるんだ」
ええ?
「魔力のない飛来挑英はもちろん、海野蒼も春風優汰も、火の杖のような遠距離攻撃ならともかく、電撃刀を使った戦闘などできないだろう」
それはそうかもしれない。泣き虫の優汰や優しい蒼ちゃんに接近戦なんて無理だ。
剣道を習っていたオレがみんなをまもらないと。
オレはうなずいた。
「わかりました。何かあったら、オレが必ず三人を守ります。
うなずいたオレに、教官は優しい笑みを浮かべた。
「いい子だ。お前はやはり、飛翔の弟だな」
「教官、もしかしてあなたは飛翔兄ちゃんの……」
「その話はあとだ。開けるぞ」
そう言って、教官は宝箱を開け始めた。
「すまないな、海野蒼、それに志音疾翔も。お前たちもダメージを負っているだろうが、回復アイテムは先ほどの上霊薬しかなかった」
挑英が教官に確認した。
「それはつまり、今度先ほどの優汰と同じような重傷を負ったら助からないと?」
「そう思ってほしい」
オレはゴクリとつばを飲み込んだ。
もしもまた黒疑竜なんかが出現したら……
いや、考えるのはよそう。
仮にそうなったとしても、最善を尽くすだけだ。
と、優汰が前方を指さした。
「ねえ、あれ宝箱じゃない? しかも金色が三個と虹色が一個!」
金色の宝箱はかなり貴重だ。まして、虹色の宝箱は、ダンジョンアドベンチュラ-が一生に一度おめにかかれるかどうかといわれている。まさに幻の宝箱だ。
挑英が教官にたずねた。
「どうしましょうか?」
宝箱には罠があることもある。罠の危険度も宝箱の珍しさによって変わる。
白の宝箱にはそもそもめったに罠はなく、あっても致命傷にはならない。
一方で、金の宝箱の罠は、開けた途端に大爆発を起こして仲間が全員死ぬなんてこともあるらしい。
だからだろう。教官は一瞬迷った顔を見せた。が、すぐに決断してくれた。
「私が開けよう。念のため諸君らは少し下がっていろ」
「大丈夫なのですか?」
挑英の問いに、教官は言った。
「今後、さらなる危険なモンスターが現れる可能性もある。もし、あの中に強力な武具などがあれば助かる。それに……」
「それに?」
教官はニヤリと笑った。
「ダンジョンアドベンチュラ-として、金や虹の宝箱を無視して先に進めるか?」
そりゃそうだな。
結局、ダンジョンアドベンチュラ-になろうなんてヤツは命知らずの大馬鹿だ。
それは教官だって同じだ。
むしろ、あと数ヶ月でダンジョンに入れなくなる教官の方が、この発見には興奮しているのかもしれない。
教官は、宝箱を一つずつ慎重に確認した。
少なくとも触っても動き出さないので、宝箱型のモンスターってことはなさそうだが。
「どうですか?」
罠のある宝箱ならば、ドクロマークがあるはずだ。
「おそらく大丈夫だ」
『おそらく』としか言えない理由は、優汰が解説してくれた。
「金以上の高ランクになると、ドクロマークの有無だけじゃ罠を判別できないこともあるんだ。黄色や銀の宝箱から手に入る鑑定用のアイテムがないと確実とはいえない」
そういえば、飛翔兄ちゃんからそんなことを聞いたことがあるようなないような。ダメだな。たしかにオレはもっとダンジョンについて勉強しておくべきだった。
挑英が教官にたずねた。
「その鑑定用アイテムはないんですか?」
「初心者用ダンジョンに入るのに、そんなものは持ってこないさ。言っただろう? 青以上の宝箱など、本来見つかるわけがないんだ」
たしかにそうだろうなぁ。
オレの中に不安がよぎった。
本当に大丈夫か? 本当に開けるべきなのか?
どうしてもさっきの大火傷した優汰の姿が目に浮かんでしまった。今度は教官がああなるのではないかと思うと恐ろしくなった。
無意識のうちにオレは言っていた。
「やっぱり開けない方がいいんじゃないですか?」
だが、蒼ちゃんが言った。
「ダメよ、開けるべきよ」
「でもさぁ」
「もしも強力な武器が入っているなら、またBランクモンスターが出てきたときに必要よ。もう火の杖もないし」
たしかにその通りだけど。
挑英が「ふんっ」と鼻を鳴らした。
「猪突猛進のお前が、ずいぶんと弱気になったものだな」
「だけどさっ」
「蒼や教官の判断が正しい。宝箱に罠がある可能性は低いが、モンスターとまた出会う可能性は高い。ここは絶対に捨て置けない」
優汰が「たしかに」とうなずいた。
「ボクも挑英くんや蒼ちゃんに賛成だ。それに、もしかすると蒼ちゃんの目的のアイテムがあるかもしれないしね」
万能の霊薬は黒の洞窟の虹色の宝箱からだけ手に入るんだっけ。
蒼ちゃんは言った。
「教官が開けないなら、私が開けてもいいわ」
「いや、それなら俺が開けよう」
慎重派の挑英までそう言った。
なっさけねーな。今一番弱気なのはオレか。
「あー、もう! そんなことを言うならオレが開けてやるよ!」
そう叫んでオレは教官の方へと進もうとした。
が、教官がオレたちを止めた。
「開けるのは私だ。それが私の責任だ」
いや、責任って。
「志音疾翔。お前はお前の責任を果たせ」
「オレの責任?」
「宝箱をあけて私に万が一のことがあったら、そのときはお前が三人を守ってワープゲートを見つけるんだ」
ええ?
「魔力のない飛来挑英はもちろん、海野蒼も春風優汰も、火の杖のような遠距離攻撃ならともかく、電撃刀を使った戦闘などできないだろう」
それはそうかもしれない。泣き虫の優汰や優しい蒼ちゃんに接近戦なんて無理だ。
剣道を習っていたオレがみんなをまもらないと。
オレはうなずいた。
「わかりました。何かあったら、オレが必ず三人を守ります。
うなずいたオレに、教官は優しい笑みを浮かべた。
「いい子だ。お前はやはり、飛翔の弟だな」
「教官、もしかしてあなたは飛翔兄ちゃんの……」
「その話はあとだ。開けるぞ」
そう言って、教官は宝箱を開け始めた。
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