上 下
185 / 201
第六部 少年はかくて勇者と呼ばれけり 第一章 反撃ののろし

4.5種族代表者達との対面

しおりを挟む
 ゴクリっと、僕はつばを飲み込む。
 僕が入った部屋には、エルフと龍族の長(おさ)や指導者達、さらにこの地に避難してきた人族や獣人、ドワーフの代表者がいる。

 かつて一度、僕はここで龍族やエルフの長達と面会したことがある。
 だけど、あの時と今とでは違う。あの時はアル様がこちらの代表で、レイクさんが参謀みたいなかんじだった。今思えば僕とリラは金魚の糞のごとくくっついてきただけだ。
 もはやアル様やレイクさんはいない。リラは僕の後ろに控えているが。
 長達との交渉は、僕自身でおこなわなければならない。

 エルフの長リーリアンさんが言う。

「なるほど、報告は受けていたがこの目で見ると驚く。真《まこと》に8年前とおなじ姿ではないか」

 龍族の長も頷く。

「然り。そも人族の子どもとは成長が早いもの。そなたらが異世界にて時間の壁を越えたという話、信じるしかあるまい」

 さて、何から話すべきか。

「まずは、父をはじめとして人族をこの地に受け入れてくれたことにお礼を言います」

 僕が言うが、リーリアンさんは興味なさげに言う。

「それはすでにすんだこと。今更そなたに礼を言われる筋ではない」

 そして、ドワーフの長が口を開く。

「そんなコトよりよぉ、神託のガキ。お前は今更何をしに現れたんだ?」

 明らかに僕に敵意――いや、警戒心を向けているドワーフの長。
 だからこそ、僕はハッキリ、まっすぐ前を向いて答えた。

「『闇の女王』を破壊して世界を救うために」

 その言葉に、その場がシンと静まりかえり、そしてすぐにドワーフの長の笑い声が響く。

「はははっ、こりゃ傑作だ。こんなチビのガキが、世界を救ってくれるとよ。ありがてえこってなっ!」

 その言葉には強い嘲りが含まれていた。
 彼はひとしきり笑った後、僕の方にぐいっと近づき言う。

「人族のぼっちゃんよぉ、こっちはすでに調べているんだぜ。『闇の女王』が降臨した最大の因子となったのはお前さんだろう。その直後に動くならともかく、8年も雲隠れして、ここまで被害が広がってから、『世界を救ってやる』だと?
 そいつぁ、チーッとばかり嘗めすぎじゃねぇか? 『闇の女王』のことも、俺らのこともな」

 分かっている。
 客観的に見れば、僕は8年前世界を地獄にたたき落とした戦犯で、しかも自らの意思ではないとはいえ自分だけ平和で安全な世界を謳歌していたのだ。
 彼らとしてみれば、イヤミの一つや二つ言いたいだろう。

「だからこそ、責任をとるために僕とリラはここに戻ってきました。この世界の人々を救ってみせます」

 かつてお師匠様や教皇が僕を救ってくれたように。
 いまでも稔があの島でおこなっているように。
 僕も救える人々を救いたい。

 まっすぐに向いたまま言う僕に、ドワーフの長はフンと鼻をならしつつも、それ以上は口を開かなかった。
 次に口を開いたのは老齢な人族の代表者。おそらく王家の人でも貴族でもなさそう。この地に逃げ込んだ人々の中で最年長の男性といったところか。

「一つ聞きたいのだがね、坊や」
「はい」
「『闇の女王』を倒すと言うが、いったいどうやって倒すつもりだね?」
「僕には神から授かった200倍の力と魔力、魔法、そしてヤツに関する知識があります。それを使ってヤツを倒します」

 その言葉に、5人の代表者達は各々反応を見せた。
 目を細める者、僕らをにらみつける者、天井を仰ぎ見る者、一見無表情の者。
 だが共通するのは、そんなことは不可能だという思いだったのだろう。

 龍族の長が代表して言う。

「そなたがかつてこの地に襲来した『闇』を倒したことは記憶している。だが、現在『闇の女王』の周囲には比較にならぬほどの『闇』と我が同胞であった『闇の龍』がいる。
 そなたがそこにツッコんで行ったところで、『闇の女王』にたどり着くより前に、そなた自身が『闇』とされることであろう」

 それは道理だった。
 空を飛ぶこともできない僕が、『闇』や『闇の龍』に護られた『闇の女王』にたどり着くことなんてできない。

「僕はリラに乗ります」

 その言葉に、代表者達は意味不明とばかりの顔をする。
 その反応に対して、リラは自ら語った。

「私は人族と獣人のハーフにして、龍族の因子を持つものです」

 その言葉に、特に獣人の代表者が眉をしかめる。リラが禁忌の子どもであると理解したからだろう。
 だが、この場ではそのことについてなにも言わなかった。
 代わりに龍族の長が言う。

「我ら龍族も、これまでに何度か数体の同胞を送り込んで『闇の女王』と対峙しようとした。だが、現実それすら叶わす、同胞を『闇』に堕としただけであった。
 仮にそこの少女がドラゴンに変身しそなたを運ぼうとしたとて、同じ結果にしかなるまいよ」

 それもその通りだ。
 だから、彼らの協力がいるのだ。

「これまでは数体の龍族だけを送り込んだのでしょう? 次は全ての龍族の力を結集して、『闇の女王』の周囲の『闇』や『闇の龍』を浄化してください。その間に、僕は『闇の女王』内部に侵入します」

 デオスから授かった『闇の女王』内部の情報。
 そこには間違いなく、『闇の震源』たるヤツがいる。
 ヤツさえ倒せれば、この状況を逆転できる。
 逆に言えば、それしか方法はない。

 だが、僕の提案に、龍族の長は顔をしかめる。

「そなたは我ら龍族に種族の存亡を賭けよと言うのか?」
「はい」
「龍族がこの地を離れ、その間にこの地のエルフや他種族達が襲われるリスクも承知してのことか?」
「はい」
「もしも、全ての龍族が『闇の龍』と化せば、その時こそ世界は本当の終焉を迎える。それも理解してのことか?」
「はい。他に、取れる手はありません。もう戦力の出し惜しみをしている時じゃない」

 連続で放たれる質問に、僕はまっすぐ答える。
 僕には、レイクさんみたいな腹芸はできない。
 アル様みたいなカリスマもない。
 だから、できるのはまっすぐ、正直に語ることだけだ。

「そなたの言葉には確かに真《まこと》がある。
 だが我らにも我らの都合があることも事実。明日の朝まで回答は保留とさせてもらおう」

 それだけ言うと龍族の長は黙想に入り、他の長達は自らの種族と話し合いに出て行くのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

僕の兄上マジチート ~いや、お前のが凄いよ~

SHIN
ファンタジー
それは、ある少年の物語。 ある日、前世の記憶を取り戻した少年が大切な人と再会したり周りのチートぷりに感嘆したりするけど、実は少年の方が凄かった話し。 『僕の兄上はチート過ぎて人なのに魔王です。』 『そういうお前は、愛され過ぎてチートだよな。』 そんな感じ。 『悪役令嬢はもらい受けます』の彼らが織り成すファンタジー作品です。良かったら見ていってね。 隔週日曜日に更新予定。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

処理中です...