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第一部 ラクルス村編 第四章 追放と飛躍

4.パドくんの修行生活報告書

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 こんにちは。
 パドです。7歳になったばかりの幼気いたいけな少年です。
 今日はブシカ師匠に弟子入してからこの3ヶ月間の活動報告をさせていただきます。

 今、岩を担いで、山道を走っています。
 たぶんこの岩、僕の体重より重いです。
 それはまあ、チート持ちの僕からすればたいしたことないのですが、むしろ足下の地面を崩さないように、それでいて駆け足で山道を進むのはとても難しいのです。

 こんなことを、朝起きてから太陽が一番高くなるまで……前世の感覚だと6時間続けています。
 途中休憩はなし。水も飲ませてくれません。運動生理学的に間違ったトレーニングだと思います。
 何故、こんなことをしているかといえば、鬼ババアことお師匠様の命令です。

 あの人は本当に鬼ババアです。 
 獣人達が恐れるはずです。
 魔女なんて呼び方では生ぬるいです。
 鬼ババアでも足りません。

 僕の小指には黒い指輪がはまっています。
 どっちの指って、左手は諸般の事情で失ったので、当然右手の小指です。
 この指輪には2つの機能があります。

 1つは僕の居場所がお師匠様にリアルタイムで伝わるというもの。
 前世の世界でいえばGPSですね。

 もう1つは僕がサボると強力な電気が流れる機能。
 前世の世界でいえばスタンガンですね。

 こんな小さな指輪にGPSとスタンガンの機能がついているなんてハイテクです。
 ちなみに、これは科学ではなく魔法の産物。マジックアイテムというヤツです。

 で、朝起きて朝食を摂ったら毎日僕はひたすら山道を走らされます。
 一瞬でも一定スピードより遅くなったとお師匠様が判断すると指輪からビリビリ電気が流れます。
 お○っこしたくなったらどうするんですかと聞いたら、『知るか』の一言で斬り捨てられました。
 実際のところどうしているかといえば、まあ、誰も見ていないので走りながらゴニョゴニョしています。

 ちなみに姉弟子のリラは僕が走っている間、薬草採取させられています。
 こちらもキツイノルマがあって、足りないと戻った後お師匠様に殴られます。ほぼ毎日殴られているんですから、そもそもノルマが間違っているんじゃないでしょうか。

 クタクタになるまで走って、お師匠様の小屋に戻ると、休む暇もなく座学の時間です。
 文字や単語、文章の読み書き、数字の加減算などの基礎学力をたたき込まれています。
 鉛筆はもちろん、筆や墨も貴重品なので、地面に書いて暗記します。
 夜のテストで間違うと、拳骨ではすまない罰が待っているので、僕もリラも必死です。

 文字の読み書きはリラの方が得意で、計算は僕の方が得意です。
 もっとも、僕はまがりなりにも平成の日本で教育を受けていたので、加減算くらいは数字さえ読めれば余裕なのです。
 かけ算も、日本語の九九を覚えているので、リラよりもずっと早くできます。
 この世界が前世と同じく10進法を採用していたのもラッキーでした。
 ……ただの知識チートずるじゃねーかという気もしますけど。

 座学のあとは、食料採取の時間です。
 リラとお師匠様は畑へ、僕は山に行ってラビやコックを捕まえます。
 弓などありませんから、手で捕まえるわけです。
 いくらチートがあっても、すばしっこいラビや空飛ぶコックを簡単に捕まえられるわけがありません。
 石を投擲したりして、なんとか捕まえるのですが、最初の頃は力を入れすぎて外れた石が木々を倒してしまったりして大変でした。全くやっかいなチートです。

 アベックニクスのような大きな獣を捕らえてもいいのですが、集団で暮らしている彼らを1匹だけ捕まえるのは容易ではありません。
 何故1匹だけかといえば、お師匠様からラビやコックなら1日2匹、大型獣なら1日1匹と言われているからです。
 多くても少なくてもダメなのです。
 思うように獲物が捕れなかったり、あるいは獲物を殺しすぎたりしたら罰を受けます。

 太陽が沈む頃、獲物が捕れていてもいなくても、僕は小屋に戻ります。
 火打ち石で火をおこして、食事作りです。
 夕食は麦粥とお肉です。お肉を毎日食べられるのはうれしいですが、それは僕が獲物を捕らえられた日だけです。
 ちなみに、僕は火打ち石が凄く苦手です。
 力を入れないとそもそも火花が飛ばないし、かといってチートが過ぎると簡単に石を粉々にしてしまいます。
 マッチかライターがほしいです。もっとも、僕のチートだとマッチも使えるか分かりませんけど。

 夕食後、昼間の座学のテストがあって、間違えた分罰を受けます。
 ベルトで鞭打ちです。

 テストの後は寝るのですが、僕だけは小屋の外です。
 お師匠様曰く、『婦女子3人と一緒に男を寝かせられるか』とのことで、確かにごもっともではあります。小屋は寝室が1室しかありませんし、お母さんやお師匠様はともかく、リラと僕が同じ部屋で毎日寝るのは色々問題がありそうです。

 しかし、です。
 だからといって、布きれ1枚だけ渡して、7歳児を夜中外に放り出すのはあんまりではないでしょうか。
 夏とはいえ、雨が降る日もあります。
 実際、弟子入りして5日目は大雨で、さすがに小屋で寝かせてもらえるだろうと思ったら、やっぱり甘かったです。
 雨に打たれながら過ごす夜は、とても眠れたものではありませんでした。

 お師匠様曰く、『屋根がほしかったら自分で作りな。ラクルス村では今、皆で復旧作業をしているんだよ』とのことです。
 そう言われれば返す言葉もなく、僕は夜自分が寝るための小屋作りをはじめました。

 まずは柱と屋根だけつくったのですが、なんどやってもちょっとした風で倒れてしまいます。
 結局、行商人のアボカドさんから古い釘を幾つも買って、ようやく少なくとも屋根はできました。ちなみに、釘代は出世払いとお師匠様に言われました。
 壁は石を積んでそれっぽくしてありますが、風がスースー吹き込みます。
 それでも、片手の7歳児が3ヶ月でここまで作ったんですから褒めてほしいですね。

 なお、小屋の作製時間は修行時間外、つまり夜中です。
 おかげで僕はずっと寝不足です。
 寝不足だから、駆け足の修行も倒れそうになるし、座学も覚えられないし、獲物を捕らえるのも難しくなります。
 そのせいで罰を受けて、さらに疲れて夜中も眠れなくて……と悪循環です。

 本来修行とか勉強というのは体調を万全にしておこなってこそ価値があるものだと僕は思うのですが、どんなもんでしょうか。

 ハッキリ言います。
 うちのお師匠様はサディストです。
 悪魔です。
 鬼畜です。
 日本だったら児童虐待犯として刑務所行きです。

 そもそも、薬師として弟子入りしたリラはともかく、魔法使いの弟子となったはずの僕は、この3ヶ月魔法について何も教わっていません。

 そりゃあ、お母さんの面倒をずっと見てもらっているのは感謝しています。
 ラクルス村では得られない、識字などの教養を身につけられたのもうれしいです。
 行くところがない僕やリラやお母さんを保護してもらえるだけでありがたいことです。

 ですが。
 それにしても、これはきつすぎます。

 いっそ、逃げ出してやろうかなどと思っていた、ある日。

「パド、リラ、今日から魔法の修行を開始するよ」

 座学の時間、お師匠様がそう言ったのでした。
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