上 下
10 / 17
第2話 天倶町七不思議のヒミツ!?

2-3 トイレの花子さん

しおりを挟む
 翌日の放課後。
 深織と楓林がやってきたのは天倶小学校校舎の四階の女子トイレの前だ。
 楓林が深織に言った。

「ここが『トイレの花子さん』の噂があるところで間違いない?」
「ええ。伊都子……新聞部の副部長によればね」
「たしか、奥から二番目の個室の扉を開いたら、白いブラウスに赤いスカートの少女がいて、『私、花子……お友達になって……』って涙顔で言ったって話だっけ?」
「そうそう。このトイレって利用者がほとんどいないじゃない?」
「まーそうだろうな」

 天倶小の四階は音楽室と図書室しかない。それ以外は空き教室になっている。
 このトイレは空き教室側の近くにあって、利用する児童はほとんどいない。音楽室と図書室のそばにも別のトイレがあるのだから当然だ。

「だけど、あっちのトイレがいっぱいでしかたなくこっちのトイレを使った子がいたらしいのよ。それで花子さんを目撃したんだって」
「それっていつのこと?」
「さぁ? 何年も前から伝わる噂らしいけど」

 楓林があきれ顔になった。

「いい加減だなぁ」
「そりゃ、噂話だもん」
「真実を追求するジャーナリストがそれでいいのかよ?」
「だからこそ、これから調べるんじゃない」

 そう言ってから、深織はなんとなく頭に浮かんだ疑問を口にした。

「それにしても、そもそもなんでこんな場所にわざわざトイレを作ったのかしら?」

 別に楓林にたずねたつもりもなかったが、彼はあっさり答えを言った。

「そりゃ、この近くの教室を使う児童のためだろ?」
「でも、このあたりって空き教室ばっかりじゃない」
「二十年くらい前はこのあたりの教室も使っていたんだよ。児童の数が今より多かったらしいからな」

 楓林はそう断言した。

「なんで、楓林くんがそんなことを知っているのよ?」
「昨日、アンタが『天狗の占い屋』から出て行った後、父ちゃんに聞いたんだ」
「優占さんに?」
「父ちゃんが六年生の時、そこの教室で授業受けていたらしいぞ」

 楓林がトイレの隣の教室を指さした。

「えっ、優占さんってこの小学校の卒業生なの?」
「そうらしいぜ。オイラも初めて聞いたけど」

 その教室をチラッとのぞいてみると、今ではほとんど物置状態になっているようだ。

「ふーん、そうなんだ」

 たしかに、最初から使う予定がなかったなら、トイレだけでなく教室自体作る必要がない。

「じゃ、行くぞ」

 楓林は女子トイレの扉を開けようとした。
 深織はあわてて止めた。

「ちょっと待ちなさい」
「なんだよ?」
「楓林くん、男の子でしょ。なに普通に女子トイレに入ろうとしているのよ?」

 深織が言うと、楓林が『はぁ?』という顔になった。

「そんなこと言ったって、七不思議の現場が女子トイレなんだからしょうがないだろ。それとも調査を中止する? オイラはそれでもいいぞ」
「いや、それは……」
「どーせ、今はこのトイレを使っている児童なんてほとんどいないんだからいいじゃん」

 深織はちょっと迷ったが、たしかにトイレの中に入らなければ話にならない。

「トイレの外からじゃ幽霊がいるかはわからないのよね?」
「少なくとも、今のところ花子さんとやらの気配は感じないな。はっきりさせるためには噂の個室を見てみないとわかんねーよ」
「じゃあしょうがないか。今、使用中の子はいないみたいだし。でも、私が監視しておくから変なこと考えちゃダメよ」
「なんだよ、変なことって」

 楓林がトイレの扉を開け、二人は一緒に女子トイレの中に入った。

「どう? 花子さんいる?」

 楓林は「さてなぁ……」と首を捻りつつ噂になっている二番目の個室へと向かった。
 そして、個室の中をゆっくりと見回し、しばらく天井をながめた。

「ふーん、なるほどねぇ」

 深織は楓林の背後に立って恐る恐るたずねた。

「どうなの? いるの?」
「結論から言うと、ここに幽霊なんていない」

 楓林はそう断言した。

「間違いないのね?」
「そりゃね。オイラが言うんだから間違いないさ」

 楓林は言って、トイレから廊下に出た。深織も後に続く。

「結局、ただの噂話ってこと?」
「まーな。でも、『トイレの花子さん』の噂の元になった話ならあるんだぜ」
「そりゃ、怪談の定番だしね」
「いや、そういうことじゃない」
「え?」
「父ちゃんによれば、六年生の時に同じクラスに花子って女子がいたんだとよ。彼女はいじめられっ子だったそうだ。その虐めは、そりゃあひどくてさ。ある日彼女は逃げ出した」
「逃げ出した?」
「辛い現実から逃げるために、自殺した」
「自殺!?」

 突然ハードなことを聞かされ、深織は息をのんだ。
 が、楓林は肩をすくめて続けた。

「……っていうのは、ただの噂で実際は転校したらしいけど」
「なんだ、よかった」

 深織はほっと息をついた。

「クラスメートに挨拶もなしに転校したから、自殺したなんて噂になったのかもな」
「それにしても、虐められて追い出されるように転校するしかなかったなんてひどい話ね」
「まったくだよ。胸くそ悪い」
「その後はどうなったの?」
「さあ。父ちゃんも知らないってさ。で、いつの間にか花子が自殺したって噂話が、トイレに花子の幽霊が出るって話に変わったんじゃないかっていうのが父ちゃんの推測」
「それにしては噂の内容が変わりすぎているような気がするんだけど」
「オイラに言われても知らねーよ。父ちゃん曰く、『トイレの花子さん』は全国的に有名な怪談だから、二十年の間に昔の虐め話と怪談話が混じって、そんな噂になったんじゃないかだってさ。名前が『花子』で定番の怪談と同じだったせいもあるかもな」
「なるほどね」

 蓋を開けてみればなんてことはない真相だった。

(うん? ってことは……)

 深織は楓林をにらんだ。

「じゃあ、楓林くんは最初から話のオチを知っていて、女子トイレに入ったの?」
「まーな。りようの可能性もあったし」
「生き霊って幽霊とは違うの?」
「幽霊は一般的には死んだ人間の魂のこと。だが、生きている人間でも想いが強いと魂の一部が分離しちまうことがある。それが生き霊だ」

「へー、それって危ないの?」
「生き霊がいつまでも漂っていると、本人の生命力を奪うことがあるからな。本当に生き霊だったら花子の寿命が減りかねないよ」
「だから、優占さんは楓林くんに手伝えって言ったんだ」
「ま、そーゆーこったな。でも、このトイレには幽霊も生き霊もいないから問題なしだな」
「それは何よりね。取材結果としてはつまんないけど」

「怪談なんてたいていはこんなもんだよ。で、どうする? 他の七不思議……えっと、あと五つの取材も続けるのか?」
「もちろん調べるわよ。『トイレの花子さん』も、ちゃんと裏の真実があったわけだし。『天倶町七不思議の真相』って記事にできるかもしれないじゃない」
「了解。乗りかかった船だし、オイラも最後まで付き合うぜ。どーせたいしたことがないオチだろうけど」
「ありがと。じゃあ一度家に帰ってランドセルを置いたら、天倶公園に集合ってことでいい?」
「OK」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

命がけの投票サバイバル!『いじめっ子は誰だゲーム』

ななくさ ゆう
児童書・童話
見知らぬ教室に集められたのは5人のいじめられっ子たち。 だが、その中の1人は実はいじめっ子!? 話し合いと投票でいじめっ子の正体を暴かない限り、いじめられっ子は殺される!! いじめっ子を見つけ出せ! 恐怖の投票サバイバルゲームが今、始まる!! ※話し合いタイムと投票タイムを繰り返す命がけのサバイバルゲームモノです。 ※モチーフは人狼ゲームですが、細かいルールは全然違います。 ※ゲーム参加者は小学生~大人まで。

僕らはロボットで宇宙《そら》を駆ける

ななくさ ゆう
児童書・童話
【少年少女×ロボット×宇宙!  広大な宇宙で、僕らは何を見る!?】 新世代ロボットバトルゲーム、バトル・エスパーダで優勝した中学生、森原宙《もりはらそら》。 だが、それは広大な冒険の始まりに過ぎなかった。 アンドロイド、トモ・エに誘われ、本物のロボットに乗り込んだソラは、宇宙へと旅立つ。 だが、その先にソラを待っていたのは恐ろしい宇宙生命体との戦いだった!? 少年と少女、そしてアンドロイドの交流と、宇宙の旅と、巨大ロボットがテーマのジュブナイルSF作品です。 --------------- ※カクヨムにも掲載しています。

竜太のドラゴンライダー学園

ななくさ ゆう
児童書・童話
『ドラゴンライダー』 それは、ドラゴンに乗って空を翔る、命がけのスピードレースの選手。 大空竜太はドラゴンライダーになることを夢見る少年だ。 小学校を卒業する年齢になり、竜太はドラゴンライダー学園の入試に挑む。 そこで彼は、世界チャンピオンの息子高力龍矢らライバルの少年少女達と出会う。 危険な入学試験。 生涯の相棒となるドラゴンとの契約。 キビシイ学園生活。 ドラゴンライダーになりたい! ただそれだけを夢見て、少年少女達は苦難を乗り越える。 一方で夢かなわず学園を去る者もいる。 それでも、竜太は前に進む。 相棒と共に、世界チャンピオンを目指して! そしてやってくる初レース! 竜太VS龍矢、二人の対決の行方は? ---------- 小中学生向けジュブナイルファンタジー。 舞台は現代の日本によく似た文化のドラゴンが存在する異世界です。 ---------- ※第2回きずな児童書大賞エントリー作品 ※過去にカクヨムに掲載した作品です。

箱庭の少女と永遠の夜

藍沢紗夜
児童書・童話
 夜だけが、その少女の世界の全てだった。  その少女は、日が沈み空が紺碧に染まっていく頃に目を覚ます。孤独な少女はその箱庭で、草花や星月を愛で暮らしていた。歌い、祈りを捧げながら。しかし夜を愛した少女は、夜には愛されていなかった……。  すべての孤独な夜に贈る、一人の少女と夜のおはなし。  ノベルアップ+、カクヨムでも公開しています。

月神山の不気味な洋館

ひろみ透夏
児童書・童話
初めての夜は不気味な洋館で?! 満月の夜、級友サトミの家の裏庭上空でおこる怪現象を見せられたケンヂは、正体を確かめようと登った木の上で奇妙な物体と遭遇。足を踏み外し落下してしまう……。  話は昼間にさかのぼる。 両親が泊まりがけの旅行へ出かけた日、ケンヂは友人から『旅行中の両親が深夜に帰ってきて、あの世に連れて行く』という怪談を聞かされる。 その日の放課後、ふだん男子と会話などしない、おとなしい性格の級友サトミから、とつぜん話があると呼び出されたケンヂ。その話とは『今夜、私のうちに泊りにきて』という、とんでもない要求だった。

へいこう日誌

神山小夜
児童書・童話
超ド田舎にある姫乃森中学校。 たった三人の同級生、夏希と千秋、冬美は、中学三年生の春を迎えた。 始業式の日、担任から告げられたのは、まさかの閉校!? ドタバタ三人組の、最後の一年間が始まる。

冒険!ダンジョンアドベンチュラ- ~お宝探しと危険なモンスターたち~

ななくさ ゆう
児童書・童話
 ローグライクダンジョン×ジュブナイル冒険劇。 「オレは志音疾翔、世界一のダンジョンアドベンチュラ-になる男だぜ!」  世界中に『ダンジョン』と呼ばれる不思議な迷宮への入り口(ワープゲート)が出現してから三十年後の世界。  ダンジョンには多くの不思議な力を持ったお宝と、恐ろしいモンスターがいることが判明している。  ダンジョンには十八歳未満の少年少女のみが入ることができる。  この世界ではダンジョンを探索する少年少女を『ダンジョンアドベンチュラ-』と呼ぶ。  小学六年生の志音疾翔は、幼なじみの春風優汰、ライバルの飛来挑英、そしてヒロインの海野蒼とともに、ダンジョンアドベンチュラ-になるための試験に挑む。  試験に合格する条件は初心者向けダンジョンを攻略すること。  初めてのダンジョン、初めてのアイテム、初めてのモンスターとの戦い。  四人は順調に探索を続けるが、やがてダンジョンに異変が起き始める。  初心者向けのダンジョンには出現しないはずの強力なモンスターが襲いかかり、見つからないはずの強力なアイテムが次々と見つかったのだ。  試験の中止も検討されるが、緊急脱出用アイテムも使えなくなってしまう!  果たして四人は無事ダンジョンをクリアーして、ダンジョンアドベンチュラ-になれるのか!?  命がけの冒険が今、始まる ------------------ ※第2回きずな児童書大賞エントリー作品です。

イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~

友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。 全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。

処理中です...