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第13章 受け継ぐもの
第149話 異世界の月
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丸一日をかけて、やっとアンカー衛星を視界にとらえる事ができた。窓から見えるのは小さな光の点だけど、モニターで拡大すると先端が少し尖ったずんぐりとした楕円形の人工物。
中央部は軌道ステーションに使われたのか、代わりの丸い小惑星を前後から移民船が挟み込んでいる形だ。金属光を放つ本体の後方半分には地上からも観測できた、巨大なエンジンが見て取れる。
「前後に分かれてるけど、そのまま移民船を使っているね」
アンカー衛星としての重量を増すために、小惑星を使ったみたいだけど、このままでも宇宙空間を航行できる宇宙船のようになっている。
「さて、あの衛星と通信はできるかな」
ビーコンを衛星に向けて発射してみる。このシャトルの元となったフライボードは、空の住人であるあの男が作った物だ。通信プロトコルも共通のものに合わせてくれていると思うんだけど。
「あっ、返信が帰って来た!」
アンカー衛星からもビーコンが届き、係留のためのシーケンスが開始されたようだね。衛星前方の外壁ハッチがゆっくりと開いていく。
近づくにつれてアンカー衛星の巨大さが分かる。破壊した軌道ステーションも町一つ分、直径七、八キロぐらいはあったかな。
元々はそれを内包した、太陽系からここまでやって来た恒星間宇宙船だからね、全長は何十キロもあったんだろう。今は小惑星が間にあってもっと巨大になっている。
元移民船だった前方側面の外壁ハッチが開き、小さなシャトルが中に誘導されていく。内部には桟橋のような物が何本も伸びていて、その内の一本にシャトルがドッキングする。外部ハッチは閉じられ桟橋から伸びた通路が、シャトル入り口のハッチに接続された。
操作パネルには係留シーケンスが終了したことを示す文字が並ぶ。確認ボタンを押すとシャトル側のハッチが開き内部通路に出られるようになった。
無重力状態で飛んで内部通路を進むと、白地に赤い三角のマークが向かい合わせになった扉が自動で開く。ここから先が宇宙船の船内という事かな。でも内部は暗いままで照明の光もない。
警戒しながらその扉を潜った瞬間、首筋辺りにチクリと針が刺さるような感覚を受けた。
侵入者を防ぐ、船内の防衛装置が働いたか!?
「ようこそマスター。あなたを管理者であると認識しました。どうぞ中にお入りください」
天井から女性の人工音声が流れて、内部の照明が灯る。
空に居たあの者達と同じ管理者だって? さっきチクリとしたのは、リビティナの細胞を採取して調べたのか? 空の住民達も同じ不死身の身体だからね、リビティナも管理者だと判断したようだ。
「君はこの船を司っている人工知能なのかな?」
「はい、私の事はハルカとお呼びください」
「じゃあ、ハルカ。この船の軌道を変えてほしいんだけど」
「現在、前任の管理者による全機能停止命令が発動されています。まずはメインブリッジでマスター登録をお願いします」
ハルカの指示で船内のリニアバスに乗り込み、先頭に位置するメインブリッジへと向かう。降りた場所から指示された通路を急ぎ、何度目かの扉を開く。
「ここがブリッジとなります。どうぞ中へ」
人工音声に従って入った場所は、外の様子が見渡せる窓のある大きな部屋。でも非常灯だけが灯っていて暗く、惑星ノウアルズからの反射光が眩しかった。
「一番上のシートに座り、前面のパネルに手を置いていただけるでしょうか」
黒いパネルに手を置いた途端、ブリッジ内の照明が灯り、部屋中央部の空中にメインモニターが表示される。
「マスターのお名前を」
「ボクはリビティナだよ」
「現在この船の機能は停止状態となっています。管理者権限で停止状態の解除を行ないますか」
「停止解除を行なって、全権限をボクに移譲してくれるかい」
「了解しました、マスター」
そのアナウンスと共にメインモニターに現在の軌道が赤い線で示され、衝突までのカウントダウンが表示される。
「リビティナ様。現在この船はノウアルズへの降下軌道を進んでいます。2日と22時間39分12秒で地表と接触します」
「分かっているよ。至急エンジンを始動して衝突を回避してくれ」
「了解しました、マスター。エンジン始動まで34秒お待ちください」
しばらくすると部屋が僅かに振動した。
「エンジン始動。推力20%で加速します」
メインモニターに青い線で惑星から離れていく今後の進路が表示された。良かった、これで地表への衝突は回避できたようだね。ほっと息をつく。
「到達地点はどうしましょうか。元の静止衛星軌道へ投入しましょうか」
「そんな遠くなくていいよ。惑星の様子が見れる安定した位置にしてくれるかい」
「赤道上空一万キロの位置はどうでしょうか。大陸全土が見渡せます」
「そうだね。それがいいね」
窓から直接大陸が見える位置で周回しよう。
地表ではティーアやアルディアがこの衛星を観測してくれている。今頃は衝突が回避されたことを知って喜んでいるかな。
アンカー衛星は予定された軌道に乗り、安定して惑星を周回するようになった。
今後この衛星は、惑星ノウアルズを周回する月となる。前の地球の月と違って小さいだろうけど、地表からでも肉眼で楕円の形が分かる明るい星として見ることができる。
「これならボクも、地上の眷属達も寂しくはないさ」
――さて、これからボクはここで長い眠りにつくよ。
照明を落として暗くなった室内、窓の外には愛しい眷属達が住む大地が見て取れる。ネイトスが言ってくれた、必ず迎えに行きますとの約束を胸に、君達を見守りながらここで眠り続けよう。
この星を受け継いだ君達の幸せを、いつまでも祈っているよ。
中央部は軌道ステーションに使われたのか、代わりの丸い小惑星を前後から移民船が挟み込んでいる形だ。金属光を放つ本体の後方半分には地上からも観測できた、巨大なエンジンが見て取れる。
「前後に分かれてるけど、そのまま移民船を使っているね」
アンカー衛星としての重量を増すために、小惑星を使ったみたいだけど、このままでも宇宙空間を航行できる宇宙船のようになっている。
「さて、あの衛星と通信はできるかな」
ビーコンを衛星に向けて発射してみる。このシャトルの元となったフライボードは、空の住人であるあの男が作った物だ。通信プロトコルも共通のものに合わせてくれていると思うんだけど。
「あっ、返信が帰って来た!」
アンカー衛星からもビーコンが届き、係留のためのシーケンスが開始されたようだね。衛星前方の外壁ハッチがゆっくりと開いていく。
近づくにつれてアンカー衛星の巨大さが分かる。破壊した軌道ステーションも町一つ分、直径七、八キロぐらいはあったかな。
元々はそれを内包した、太陽系からここまでやって来た恒星間宇宙船だからね、全長は何十キロもあったんだろう。今は小惑星が間にあってもっと巨大になっている。
元移民船だった前方側面の外壁ハッチが開き、小さなシャトルが中に誘導されていく。内部には桟橋のような物が何本も伸びていて、その内の一本にシャトルがドッキングする。外部ハッチは閉じられ桟橋から伸びた通路が、シャトル入り口のハッチに接続された。
操作パネルには係留シーケンスが終了したことを示す文字が並ぶ。確認ボタンを押すとシャトル側のハッチが開き内部通路に出られるようになった。
無重力状態で飛んで内部通路を進むと、白地に赤い三角のマークが向かい合わせになった扉が自動で開く。ここから先が宇宙船の船内という事かな。でも内部は暗いままで照明の光もない。
警戒しながらその扉を潜った瞬間、首筋辺りにチクリと針が刺さるような感覚を受けた。
侵入者を防ぐ、船内の防衛装置が働いたか!?
「ようこそマスター。あなたを管理者であると認識しました。どうぞ中にお入りください」
天井から女性の人工音声が流れて、内部の照明が灯る。
空に居たあの者達と同じ管理者だって? さっきチクリとしたのは、リビティナの細胞を採取して調べたのか? 空の住民達も同じ不死身の身体だからね、リビティナも管理者だと判断したようだ。
「君はこの船を司っている人工知能なのかな?」
「はい、私の事はハルカとお呼びください」
「じゃあ、ハルカ。この船の軌道を変えてほしいんだけど」
「現在、前任の管理者による全機能停止命令が発動されています。まずはメインブリッジでマスター登録をお願いします」
ハルカの指示で船内のリニアバスに乗り込み、先頭に位置するメインブリッジへと向かう。降りた場所から指示された通路を急ぎ、何度目かの扉を開く。
「ここがブリッジとなります。どうぞ中へ」
人工音声に従って入った場所は、外の様子が見渡せる窓のある大きな部屋。でも非常灯だけが灯っていて暗く、惑星ノウアルズからの反射光が眩しかった。
「一番上のシートに座り、前面のパネルに手を置いていただけるでしょうか」
黒いパネルに手を置いた途端、ブリッジ内の照明が灯り、部屋中央部の空中にメインモニターが表示される。
「マスターのお名前を」
「ボクはリビティナだよ」
「現在この船の機能は停止状態となっています。管理者権限で停止状態の解除を行ないますか」
「停止解除を行なって、全権限をボクに移譲してくれるかい」
「了解しました、マスター」
そのアナウンスと共にメインモニターに現在の軌道が赤い線で示され、衝突までのカウントダウンが表示される。
「リビティナ様。現在この船はノウアルズへの降下軌道を進んでいます。2日と22時間39分12秒で地表と接触します」
「分かっているよ。至急エンジンを始動して衝突を回避してくれ」
「了解しました、マスター。エンジン始動まで34秒お待ちください」
しばらくすると部屋が僅かに振動した。
「エンジン始動。推力20%で加速します」
メインモニターに青い線で惑星から離れていく今後の進路が表示された。良かった、これで地表への衝突は回避できたようだね。ほっと息をつく。
「到達地点はどうしましょうか。元の静止衛星軌道へ投入しましょうか」
「そんな遠くなくていいよ。惑星の様子が見れる安定した位置にしてくれるかい」
「赤道上空一万キロの位置はどうでしょうか。大陸全土が見渡せます」
「そうだね。それがいいね」
窓から直接大陸が見える位置で周回しよう。
地表ではティーアやアルディアがこの衛星を観測してくれている。今頃は衝突が回避されたことを知って喜んでいるかな。
アンカー衛星は予定された軌道に乗り、安定して惑星を周回するようになった。
今後この衛星は、惑星ノウアルズを周回する月となる。前の地球の月と違って小さいだろうけど、地表からでも肉眼で楕円の形が分かる明るい星として見ることができる。
「これならボクも、地上の眷属達も寂しくはないさ」
――さて、これからボクはここで長い眠りにつくよ。
照明を落として暗くなった室内、窓の外には愛しい眷属達が住む大地が見て取れる。ネイトスが言ってくれた、必ず迎えに行きますとの約束を胸に、君達を見守りながらここで眠り続けよう。
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