上 下
210 / 212
第13章 受け継ぐもの

第0.3話 プロローグ7

しおりを挟む
【前書き】
 この話は時間軸順では、第7章 冒頭にある「第0.2話 プロローグ2」の続きとなっています。
---------------------

 やっと私達のプロジェクトに対する世界政府の認可が下りた。十二年ごとに訪れるノウアルズの実際の映像や、そこに至るまでの具体的な計画。研究を開始して二十五年、それらの研究成果を提出してやっと実際の宇宙船の建造にまでこぎつけた。

 移民する人類の受精卵も一万人分集まっている。

「遥教授。ようやく脳神経回路の複写も、目標の二千人分を集められましたね」
「そうね。危険な実験に協力してくれた人達に感謝しないとね」

 肉体のクローンは簡単にできる。でも精神を複写する技術は確立していない。脳細胞全てのシナプスの繋がりを正確に読み込み、脳内に再現する。これはすごく難しい事だわ。読み込みで97%、脳内の構築で85%程度の再現が精一杯となっている。
 特に脳内スキャンには危険が伴う。

「私は異常なかったけど、それが原因で里見教授は亡くなられたものね」

 当初から一緒に研究して私を導いてくれた方。ノウアルズへの想いも人一倍だったのに……。
 最初二人だけだった研究員も今では千人を超えた。AIの研究者、惑星工学や宇宙航行技術、自然科学の専門家などが集まってくれた。政府関係者を加えると五万人の規模になっている。

「地球由来の生物の遺伝子をもらう事もできましたし、三年後の宇宙船の完成が待ち遠しいですね」

 世界政府が保管している、今は無き地球生物の遺伝子。これらを持って行けば、地球環境を再現する事も可能だわ。

「でも向こうには、ドラゴンを頂点とする生態系ができているの。できるだけそれを壊さずに人が暮らせるようにしてほしいわね」

 別の研究で、火星を地球と同じ環境にしようというプロジェクトがあったけど、結局失敗している。
 それに私が行きたかったのは過去の地球じゃなくて、ドラゴンの住む異世界なの。未来のないこの太陽系を離れた新天地。苦労もあるでしょうけど、新たな世界で生き生きと自由に人生を送るのを夢見てきた。

 結局私自身がその世界に行くことはできないけど、私の分身達に想いを託そう。
 惑星ノウアルズの太陽はまだまだ若い。私の分身となる者には、そこで希望に満ちた生活を送ってもらいたい。それが私の切なる願いだ。

 三年後、無事移民船が完成し出航式典が行なわれる。
 首都星ガニメデの静止衛星軌道上に建造された巨大な無人宇宙船。先端が少し尖った楕円形で、中央に遠心力で重力を発生させた居住区があり、人間だけでなく各動植物の遺伝子が冷凍凍結されて保管されている。
 千二百光年を旅する燃料と、一万人の受精卵を成長させるための装置や材料となる有機化合物が詰め込まれている。

 出航する姿を仲間と共に軌道ステーションから見送る。

 あなた達はこれからの長い長い航海の末に新天地へと辿り着く。その頃には私達人類はもういないでしょう。
 願わくは、そこが希望の地となる事を祈るわ。

 さあ、私達の想いを受け継ぐ者達よ、新天地へ旅立ちなさい。あなた達に幸あらん事を。



 ---------------------
【あとがき】
 お読みいただき、ありがとうございます。
 次回は、最終話とエピローグの二話連続更新となります。
 お楽しみに。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

精霊のジレンマ

さんが
ファンタジー
普通の社会人だったはずだが、気が付けば異世界にいた。アシスという精霊と魔法が存在する世界。しかし異世界転移した、瞬間に消滅しそうになる。存在を否定されるかのように。 そこに精霊が自らを犠牲にして、主人公の命を助ける。居ても居なくても変わらない、誰も覚えてもいない存在。でも、何故か精霊達が助けてくれる。 自分の存在とは何なんだ? 主人公と精霊達や仲間達との旅で、この世界の隠された秘密が解き明かされていく。 小説家になろうでも投稿しています。また閑話も投稿していますので興味ある方は、そちらも宜しくお願いします。

学園アルカナディストピア

石田空
ファンタジー
国民全員にアルカナカードが配られ、大アルカナには貴族階級への昇格が、小アルカナには平民としての屈辱が与えられる階級社会を形成していた。 その中で唯一除外される大アルカナが存在していた。 何故か大アルカナの内【運命の輪】を与えられた人間は処刑されることとなっていた。 【運命の輪】の大アルカナが与えられ、それを秘匿して生活するスピカだったが、大アルカナを持つ人間のみが在籍する学園アルカナに召喚が決まってしまう。 スピカは自分が【運命の輪】だと気付かれぬよう必死で潜伏しようとするものの、学園アルカナ内の抗争に否が応にも巻き込まれてしまう。 国の維持をしようとする貴族階級の生徒会。 国に革命を起こすために抗争を巻き起こす平民階級の組織。 何故か暗躍する人々。 大アルカナの中でも発生するスクールカースト。 入学したてで右も左もわからないスピカは、同時期に入学した【愚者】の少年アレスと共に抗争に身を投じることとなる。 ただの学園内抗争が、世界の命運を決める……? サイトより転載になります。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

処理中です...