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第13章 受け継ぐもの

第146話 先代の盟約

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「リビティナ様、こちらへ。もう死にかけていますが、男神が地上に落ちてきています」
「ネイトス。奴は再生していないのかい」
「どうもそのようで。ドラゴンのブレスに焼かれたからかもしれませんな」

 丘の中腹、丸いコックピットが無残に破壊され、その中に左半身を失い胸から上だけのマイヤドベガが横たわる。

「リビティナか。まさか貴様が103生物まで手懐けていたとは思わなかったぞ……」
「103……ドラゴンの事かい」
「魔素粒子に晒されたワシはもう長くない……だがな貴様ら下等生物が滅びるのは止められはぜんぞ。ワシがいなければこの惑星の破壊と再生は成し遂げられんからな」

 こんな体になっても、自分の計画を諦めていないようだね。

「マイヤドベガ、お前がまだ生きててくれて良かったよ。イコルティの仇を、このボク自身の手で討てるんだからね」
「そうか、ならば早くせよ。お前達全ての者が業火に焼かれるのを楽しみにしているぞ」

 そう言うマイヤドベガの頭に向かって炎を叩きつける。もうこいつの顔は見たくないよ。



「ところで、君達はどうしてここに来てくれたんだい」

 後ろで佇む三頭のドラゴンに話しかける。真ん中には背丈が十五メートルはあるだろうか黒いドラゴン、少し小柄な二頭の青いドラゴンが後ろに控える。

「ワシら一族はその昔、魔王の従者に助けられた。その者が持っていた魔王の血を固めた薬により滅びから救われたのじゃ」
「我々ドラゴン族を救った魔王の従者、名をメディカントと言ったが、我らはその者に礼をしたいと申し出たのだよ」
「するとその者は『礼は魔王様にしてほしい』と言われた」

 代わる代わる三頭のドラゴンがリビティナに、大陸の共通語で話をしていく。ドラゴン同士言葉は交わさずとも意思疎通できているのか、切れ目なくドラゴン達が話を進めていく。

「その時に交わした、『魔王が危機に瀕した時には、ドラゴン族が助力する』との盟約に従いここに来たまで。盟約を果たすことができて安堵しておるよ」

 この世界に来た時に、ドラゴンにだけは手を出すなと言われていたけど、こんなにも強くて優しい種族だったんだね。

「でもその盟約の主である先代の魔王は、既に亡くなっているんだよ」
「そうなのか。他の者にはない魔力、お前が魔王であるのだろう。ならば同じ事じゃ」

 先代魔王の従者、その人はすごい眷属だったんだろうね。リビティナでさえ知らないドラゴンの住処に辿り着き、親睦を深めていたんだ。

「リビティナ様、それより先ほどの神様の言葉が気になるのですが」
「そうだね。自分は死ぬのに、この世界が滅亡するような事を言っていたね」

 その話を聞いていた黒きドラゴンがリビティナに尋ねる。

「魔王よ。最近星の動きがおかしくなっておってな、災いの前触れではないかと危惧しておった。そして魔王の危機を知らせる声が届いた。良からぬ事が起こっているのではないか」
「星の動きがおかしい?」
「ほれ、あの空を見てみよ。今まで無かった星が現れておる」

 ドラゴンが指差す東の空には、微かな白い点が見える。間もなく陽が沈むけど、この時間に星が見えるという事は一等星よりも明るい星。その星は日を追うごとに位置を東に移動させていると言う。

「これはまずいね。大至急ティーアに言って望遠鏡を持って来てくれ」

 慌てるリビティナの元に、里で作られた最大の屈折式望遠鏡が運ばれた。
 最大望遠で見るその星は楕円形をした面積を持つ物体。普通夜空に光る星は遠くにある太陽で、どんなに拡大しても一点で光るだけだ。

「あれはアンカー衛星だ。このままだと地上に激突する!!」
「あの星が落ちてくるんですか、リビティナ様!」
「ああそうだよ、ネイトス。そうなるとこの地上の全生物が死に絶える事になってしまうよ」
「で、でも、ここに落ちて来るとは限りませんよね!」
「ティーアの言う通りだけど、アンカー衛星程の大質量がこの大地に衝突すれば、どこに落ちても結果は同じなんだよ」

 海でも陸地でも落下すれば、衝突の衝撃で巻き上げられた地殻が惑星を覆い何万年も続く氷河期になる。マイヤドベガが言っていたのはこのことだったのか。

「なぜ、そんな事に……アンカー衛星は遠く地上から動かぬ星だと……」
「ここ最近のボク達による攻防の結果だろうね」

 空から地上に攻撃させないため、軌道ステーションを破壊した。軌道ロープウェイのワイヤーも切断したから、バランスを崩したアンカー衛星の軌道が変わってしまったんだろう。
 今日明日という時間ではないにせよ、速度が落ち惑星の重力に捉えられた衛星は必ず落下してくる。これもマイヤドベガの計画の一部だったのか……。

「ティーア。すまないけど、あの星の動きを観測してくれるかな」

 詳細なデータが取れれば、軌道計算していつ落下するのか判明する。里の者達にも集まってもらい対策会議を開こう。

「君達ドラゴンももう少しここに居てくれるかな。そういえば君の名前をまだ聞いていなかったね。ボクはリビティナって言うんだ」
「ワシらドラゴンに個々の名前はない。ワシは族長と呼ばれておるからその名で呼ぶが良い」
「そうかい。族長さん。遅れたけどボク達を助けてくれて、ありがとう」

 そう言うと、軽く右手を上げて応えてくれた。

 ドラゴンもこの惑星ノウアルズに生きる知的生命体だ。獣人達や魔獣も含め、長い長いこの星の歴史を受け継いで来た者達。そんなみんなを絶滅させるようなことは絶対にさせないよ。
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