207 / 212
第13章 受け継ぐもの
第146話 先代の盟約
しおりを挟む
「リビティナ様、こちらへ。もう死にかけていますが、男神が地上に落ちてきています」
「ネイトス。奴は再生していないのかい」
「どうもそのようで。ドラゴンのブレスに焼かれたからかもしれませんな」
丘の中腹、丸いコックピットが無残に破壊され、その中に左半身を失い胸から上だけのマイヤドベガが横たわる。
「リビティナか。まさか貴様が103生物まで手懐けていたとは思わなかったぞ……」
「103……ドラゴンの事かい」
「魔素粒子に晒されたワシはもう長くない……だがな貴様ら下等生物が滅びるのは止められはぜんぞ。ワシがいなければこの惑星の破壊と再生は成し遂げられんからな」
こんな体になっても、自分の計画を諦めていないようだね。
「マイヤドベガ、お前がまだ生きててくれて良かったよ。イコルティの仇を、このボク自身の手で討てるんだからね」
「そうか、ならば早くせよ。お前達全ての者が業火に焼かれるのを楽しみにしているぞ」
そう言うマイヤドベガの頭に向かって炎を叩きつける。もうこいつの顔は見たくないよ。
「ところで、君達はどうしてここに来てくれたんだい」
後ろで佇む三頭のドラゴンに話しかける。真ん中には背丈が十五メートルはあるだろうか黒いドラゴン、少し小柄な二頭の青いドラゴンが後ろに控える。
「ワシら一族はその昔、魔王の従者に助けられた。その者が持っていた魔王の血を固めた薬により滅びから救われたのじゃ」
「我々ドラゴン族を救った魔王の従者、名をメディカントと言ったが、我らはその者に礼をしたいと申し出たのだよ」
「するとその者は『礼は魔王様にしてほしい』と言われた」
代わる代わる三頭のドラゴンがリビティナに、大陸の共通語で話をしていく。ドラゴン同士言葉は交わさずとも意思疎通できているのか、切れ目なくドラゴン達が話を進めていく。
「その時に交わした、『魔王が危機に瀕した時には、ドラゴン族が助力する』との盟約に従いここに来たまで。盟約を果たすことができて安堵しておるよ」
この世界に来た時に、ドラゴンにだけは手を出すなと言われていたけど、こんなにも強くて優しい種族だったんだね。
「でもその盟約の主である先代の魔王は、既に亡くなっているんだよ」
「そうなのか。他の者にはない魔力、お前が魔王であるのだろう。ならば同じ事じゃ」
先代魔王の従者、その人はすごい眷属だったんだろうね。リビティナでさえ知らないドラゴンの住処に辿り着き、親睦を深めていたんだ。
「リビティナ様、それより先ほどの神様の言葉が気になるのですが」
「そうだね。自分は死ぬのに、この世界が滅亡するような事を言っていたね」
その話を聞いていた黒きドラゴンがリビティナに尋ねる。
「魔王よ。最近星の動きがおかしくなっておってな、災いの前触れではないかと危惧しておった。そして魔王の危機を知らせる声が届いた。良からぬ事が起こっているのではないか」
「星の動きがおかしい?」
「ほれ、あの空を見てみよ。今まで無かった星が現れておる」
ドラゴンが指差す東の空には、微かな白い点が見える。間もなく陽が沈むけど、この時間に星が見えるという事は一等星よりも明るい星。その星は日を追うごとに位置を東に移動させていると言う。
「これはまずいね。大至急ティーアに言って望遠鏡を持って来てくれ」
慌てるリビティナの元に、里で作られた最大の屈折式望遠鏡が運ばれた。
最大望遠で見るその星は楕円形をした面積を持つ物体。普通夜空に光る星は遠くにある太陽で、どんなに拡大しても一点で光るだけだ。
「あれはアンカー衛星だ。このままだと地上に激突する!!」
「あの星が落ちてくるんですか、リビティナ様!」
「ああそうだよ、ネイトス。そうなるとこの地上の全生物が死に絶える事になってしまうよ」
「で、でも、ここに落ちて来るとは限りませんよね!」
「ティーアの言う通りだけど、アンカー衛星程の大質量がこの大地に衝突すれば、どこに落ちても結果は同じなんだよ」
海でも陸地でも落下すれば、衝突の衝撃で巻き上げられた地殻が惑星を覆い何万年も続く氷河期になる。マイヤドベガが言っていたのはこのことだったのか。
「なぜ、そんな事に……アンカー衛星は遠く地上から動かぬ星だと……」
「ここ最近のボク達による攻防の結果だろうね」
空から地上に攻撃させないため、軌道ステーションを破壊した。軌道ロープウェイのワイヤーも切断したから、バランスを崩したアンカー衛星の軌道が変わってしまったんだろう。
今日明日という時間ではないにせよ、速度が落ち惑星の重力に捉えられた衛星は必ず落下してくる。これもマイヤドベガの計画の一部だったのか……。
「ティーア。すまないけど、あの星の動きを観測してくれるかな」
詳細なデータが取れれば、軌道計算していつ落下するのか判明する。里の者達にも集まってもらい対策会議を開こう。
「君達ドラゴンももう少しここに居てくれるかな。そういえば君の名前をまだ聞いていなかったね。ボクはリビティナって言うんだ」
「ワシらドラゴンに個々の名前はない。ワシは族長と呼ばれておるからその名で呼ぶが良い」
「そうかい。族長さん。遅れたけどボク達を助けてくれて、ありがとう」
そう言うと、軽く右手を上げて応えてくれた。
ドラゴンもこの惑星ノウアルズに生きる知的生命体だ。獣人達や魔獣も含め、長い長いこの星の歴史を受け継いで来た者達。そんなみんなを絶滅させるようなことは絶対にさせないよ。
「ネイトス。奴は再生していないのかい」
「どうもそのようで。ドラゴンのブレスに焼かれたからかもしれませんな」
丘の中腹、丸いコックピットが無残に破壊され、その中に左半身を失い胸から上だけのマイヤドベガが横たわる。
「リビティナか。まさか貴様が103生物まで手懐けていたとは思わなかったぞ……」
「103……ドラゴンの事かい」
「魔素粒子に晒されたワシはもう長くない……だがな貴様ら下等生物が滅びるのは止められはぜんぞ。ワシがいなければこの惑星の破壊と再生は成し遂げられんからな」
こんな体になっても、自分の計画を諦めていないようだね。
「マイヤドベガ、お前がまだ生きててくれて良かったよ。イコルティの仇を、このボク自身の手で討てるんだからね」
「そうか、ならば早くせよ。お前達全ての者が業火に焼かれるのを楽しみにしているぞ」
そう言うマイヤドベガの頭に向かって炎を叩きつける。もうこいつの顔は見たくないよ。
「ところで、君達はどうしてここに来てくれたんだい」
後ろで佇む三頭のドラゴンに話しかける。真ん中には背丈が十五メートルはあるだろうか黒いドラゴン、少し小柄な二頭の青いドラゴンが後ろに控える。
「ワシら一族はその昔、魔王の従者に助けられた。その者が持っていた魔王の血を固めた薬により滅びから救われたのじゃ」
「我々ドラゴン族を救った魔王の従者、名をメディカントと言ったが、我らはその者に礼をしたいと申し出たのだよ」
「するとその者は『礼は魔王様にしてほしい』と言われた」
代わる代わる三頭のドラゴンがリビティナに、大陸の共通語で話をしていく。ドラゴン同士言葉は交わさずとも意思疎通できているのか、切れ目なくドラゴン達が話を進めていく。
「その時に交わした、『魔王が危機に瀕した時には、ドラゴン族が助力する』との盟約に従いここに来たまで。盟約を果たすことができて安堵しておるよ」
この世界に来た時に、ドラゴンにだけは手を出すなと言われていたけど、こんなにも強くて優しい種族だったんだね。
「でもその盟約の主である先代の魔王は、既に亡くなっているんだよ」
「そうなのか。他の者にはない魔力、お前が魔王であるのだろう。ならば同じ事じゃ」
先代魔王の従者、その人はすごい眷属だったんだろうね。リビティナでさえ知らないドラゴンの住処に辿り着き、親睦を深めていたんだ。
「リビティナ様、それより先ほどの神様の言葉が気になるのですが」
「そうだね。自分は死ぬのに、この世界が滅亡するような事を言っていたね」
その話を聞いていた黒きドラゴンがリビティナに尋ねる。
「魔王よ。最近星の動きがおかしくなっておってな、災いの前触れではないかと危惧しておった。そして魔王の危機を知らせる声が届いた。良からぬ事が起こっているのではないか」
「星の動きがおかしい?」
「ほれ、あの空を見てみよ。今まで無かった星が現れておる」
ドラゴンが指差す東の空には、微かな白い点が見える。間もなく陽が沈むけど、この時間に星が見えるという事は一等星よりも明るい星。その星は日を追うごとに位置を東に移動させていると言う。
「これはまずいね。大至急ティーアに言って望遠鏡を持って来てくれ」
慌てるリビティナの元に、里で作られた最大の屈折式望遠鏡が運ばれた。
最大望遠で見るその星は楕円形をした面積を持つ物体。普通夜空に光る星は遠くにある太陽で、どんなに拡大しても一点で光るだけだ。
「あれはアンカー衛星だ。このままだと地上に激突する!!」
「あの星が落ちてくるんですか、リビティナ様!」
「ああそうだよ、ネイトス。そうなるとこの地上の全生物が死に絶える事になってしまうよ」
「で、でも、ここに落ちて来るとは限りませんよね!」
「ティーアの言う通りだけど、アンカー衛星程の大質量がこの大地に衝突すれば、どこに落ちても結果は同じなんだよ」
海でも陸地でも落下すれば、衝突の衝撃で巻き上げられた地殻が惑星を覆い何万年も続く氷河期になる。マイヤドベガが言っていたのはこのことだったのか。
「なぜ、そんな事に……アンカー衛星は遠く地上から動かぬ星だと……」
「ここ最近のボク達による攻防の結果だろうね」
空から地上に攻撃させないため、軌道ステーションを破壊した。軌道ロープウェイのワイヤーも切断したから、バランスを崩したアンカー衛星の軌道が変わってしまったんだろう。
今日明日という時間ではないにせよ、速度が落ち惑星の重力に捉えられた衛星は必ず落下してくる。これもマイヤドベガの計画の一部だったのか……。
「ティーア。すまないけど、あの星の動きを観測してくれるかな」
詳細なデータが取れれば、軌道計算していつ落下するのか判明する。里の者達にも集まってもらい対策会議を開こう。
「君達ドラゴンももう少しここに居てくれるかな。そういえば君の名前をまだ聞いていなかったね。ボクはリビティナって言うんだ」
「ワシらドラゴンに個々の名前はない。ワシは族長と呼ばれておるからその名で呼ぶが良い」
「そうかい。族長さん。遅れたけどボク達を助けてくれて、ありがとう」
そう言うと、軽く右手を上げて応えてくれた。
ドラゴンもこの惑星ノウアルズに生きる知的生命体だ。獣人達や魔獣も含め、長い長いこの星の歴史を受け継いで来た者達。そんなみんなを絶滅させるようなことは絶対にさせないよ。
1
お気に入りに追加
107
あなたにおすすめの小説
【改訂版】目指せ遥かなるスローライフ!~放り出された異世界でモフモフと生き抜く異世界暮らし~
水瀬 とろん
ファンタジー
「今のわたしでは・・ここにある・・それだけ」白い部屋で目覚めた俺は、獣人達のいる魔法世界に一人放り出された。女神様にもらえたものはサバイバルグッズと1本の剣だけ。
これだけで俺はこの世界を生き抜かないといけないのか?
あそこにいるのはオオカミ獣人の女の子か。モフモフを愛して止まない俺が、この世界で生き抜くためジタバタしながらも目指すは、スローライフ。
無双などできない普通の俺が、科学知識を武器にこの世界の不思議に挑んでいく、俺の異世界暮らし。
――――――――――――――――――――――――――――
完結した小説を改訂し、できた話から順次更新しています。基本毎日更新します。
◇基本的にのんびりと、仲間と共にする異世界の日常を綴った物語です。
※セルフレイティング(残酷・暴力・性描写有り)作品
彼氏に身体を捧げると言ったけど騙されて人形にされた!
ジャン・幸田
SF
あたし姶良夏海。コスプレが趣味の役者志望のフリーターで、あるとき付き合っていた彼氏の八郎丸匡に頼まれたのよ。十日間連続してコスプレしてくれって。
それで応じたのは良いけど、彼ったらこともあろうにあたしを改造したのよ生きたラブドールに! そりゃムツミゴトの最中にあなたに身体を捧げるなんていったこともあるけど、実行する意味が違うってば! こんな状態で本当に元に戻るのか教えてよ! 匡!
*いわゆる人形化(人体改造)作品です。空想の科学技術による作品ですが、そのような作品は倫理的に問題のある描写と思われる方は閲覧をパスしてください。
バイクごと異世界に転移したので美人店主と宅配弁当屋はじめました
福山陽士
ファンタジー
弁当屋でバイトをしていた大鳳正義《おおほうまさよし》は、突然宅配バイクごと異世界に転移してしまった。
現代日本とは何もかも違う世界に途方に暮れていた、その時。
「君、どうしたの?」
親切な女性、カルディナに助けてもらう。
カルディナは立地が悪すぎて今にも潰れそうになっている、定食屋の店主だった。
正義は助けてもらったお礼に「宅配をすればどう?」と提案。
カルディナの親友、魔法使いのララーベリントと共に店の再建に励むこととなったのだった。
『温かい料理を運ぶ』という概念がない世界で、みんなに美味しい料理を届けていく話。
※のんびり進行です
航海のお供のサポートロボが新妻のような気がする?
ジャン・幸田
恋愛
遥か未来。ロバーツは恒星間輸送部隊にただ一人の人間の男が指揮官として搭乗していた。彼の横には女性型サポートロボの登録記号USR100023”マリー”がいた。
だがマリーは嫉妬深いし妻のように誘ってくるし、なんか結婚したばかりの妻みたいであった。妻を裏切りたくないと思っていたけど、次第に惹かれてしまい・・・
予定では一万字前後のショートになります。一部、人体改造の描写がありますので、苦手な人は回避してください。
日は沈まず
ミリタリー好きの人
歴史・時代
1929年世界恐慌により大日本帝國も含め世界は大恐慌に陥る。これに対し大日本帝國は満州事変で満州を勢力圏に置き、積極的に工場や造船所などを建造し、経済再建と大幅な軍備拡張に成功する。そして1937年大日本帝國は志那事変をきっかけに戦争の道に走っていくことになる。当初、帝國軍は順調に進撃していたが、英米の援蔣ルートによる援助と和平の断念により戦争は泥沼化していくことになった。さらに1941年には英米とも戦争は避けられなくなっていた・・・あくまでも趣味の範囲での制作です。なので文章がおかしい場合もあります。
また参考資料も乏しいので設定がおかしい場合がありますがご了承ください。また、おかしな部分を次々に直していくので最初見た時から内容がかなり変わっている場合がありますので何か前の話と一致していないところがあった場合前の話を見直して見てください。おかしなところがあったら感想でお伝えしてもらえると幸いです。表紙は自作です。
進学できないので就職口として機械娘戦闘員になりましたが、適正は最高だそうです。
ジャン・幸田
SF
銀河系の星間国家連合の保護下に入った地球社会の時代。高校卒業を控えた青砥朱音は就職指導室に貼られていたポスターが目に入った。
それは、地球人の身体と機械服を融合させた戦闘員の募集だった。そんなの優秀な者しか選ばれないとの進路指導官の声を無視し応募したところ、トントン拍子に話が進み・・・
思い付きで人生を変えてしまった一人の少女の物語である!
売られていた奴隷は裏切られた元婚約者でした。
狼狼3
恋愛
私は先日婚約者に裏切られた。昔の頃から婚約者だった彼とは、心が通じ合っていると思っていたのに、裏切られた私はもの凄いショックを受けた。
「婚約者様のことでショックをお受けしているのなら、裏切ったりしない奴隷を買ってみては如何ですか?」
執事の一言で、気分転換も兼ねて奴隷が売っている市場に行ってみることに。すると、そこに居たのはーー
「マルクス?」
昔の頃からよく一緒に居た、元婚約者でした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる