上 下
190 / 212
第12章 ラグナロク-神との戦い-

第129話 疫病対策

しおりを挟む
 とりあえず、帝国内の事はバトリアヌス皇帝に任せれば、何とか収めてくれそうだ。次はヘブンズ教国か……人間化が起きているようだしね。
 イコルティと共に戦闘機に乗り込み、首都のハイメルドを目指す。

 もうすぐ日暮れだというのに政府の庁舎には明かりが灯り、慌ただしく職員が走り回っていた。そんな中、首相のいる官邸へと入って行く。

「ま、魔王殿。現在国境にガゼノラ帝国の住民が押し寄せていて、戦争の兆しがあります。今はそちらの対応に追われておりまして……」

 こちらには構っていられないと、机の上の資料を手にし目を落とす。ここ数日の変化に対応を迫られ苦慮しているのか、髪は乱れ目の下にクマができている。

「バトリアヌス皇帝と話をつけてきた。戦争になる事はない」
「そ、それは本当の事ですか!!」

 国境に来ているのは、パニックを起こした住民で、帝国内で対応してくれると説明した。

「帝国も軍を出動させるだろうが、過剰反応しないように注意してくれ」
「そうでしたか。魔国のように難民として受け入れるのは難しいですが、国境を守る兵には絶対に攻撃しないように通達しておきましょう」

 首相は側近に指示を出して、少し落ち着いたのかリビティナをソファーに案内した。先ほどの緊迫した空気も薄れ、侍女が淹れた紅茶を飲みつつ話をする。

「ところで、教国内でも一般人が人間の姿に変わる現象が起きていると聞いたが」
「そのような報告もありましたな。原因を調査しているところです」
「これら一連の事は、空の神が人為的に引き起こしたものだ。南方より病気の元をばら撒いているようなのだ」
「神様がですか!!」

 宗教心にあつい教国で、神様が厄災をもたらすとは思ってもいない事だろう。音を立て慌てて置いたティーカップから、紅茶が零れてしまっているじゃないか。

「いずれこの国にも、風に運ばれて疫病のような事態が起こる。今の内にその対策をしておく必要がある」
「しばらく、お待ち願えますか。そのような重大事、教皇様とも相談をしなければ」

 外はすっかり暗くなっていたけど、急ぎ聖地アグレシアに馬車を走らせ連絡を取るようだね。
 しばらくすると、聖地にいる教皇の元に首相と一緒に来てほしいと言われた。
 教皇庁でも帝国の対応のためか、司祭や職員が慌ただしくしていた。

「魔王殿。神が今回の騒動を引き起こしたと申されたそうですな。我が神がそのような事をするはずはありませんぞ」
「どのように考えてもらってもいいが、疫病と同じ現象が南からやってくるのは確実だ」

 空の神が女神に代替わりしていた事や、人族に変化させる方法を教えたことを話す。

「であれば今、空の上では邪神と我が神が戦っておるのでしょう」

 教皇は信者に祈りを捧げるように指示を出すと言う。どんな解釈をしてもいいけど、もう少し現実的な危機感を持って対処すべきなんだけどね。教皇とは所詮宗教上のトップでしかないか。

「疫病に関する方策はある。具体的な事は首相と話をすれば良いか」
「細かな事は、セイマール首相の方で行うのが良かろう」

 祈って問題が解決するわけじゃないけど、人心を安定させてパニックを起こさせないようにしてくれるなら良しとするか。
 首相官邸に戻って、具体的な方策について話す。やはり問題になるのはマスクのようだね。

「我らの国で、繊細な反物を織る技術はありません。数も数ですし、他国より輸入はできないでしょうか」

 絹織物を織れるのは、眷属の里か鬼人族のキノノサト国だけだからね。量でいえばキノノサト国か……。

「材料となる、魔獣の糸や繭が必要となるが、キノノサト国に協力を仰ぐことはできよう」
「我が国の冒険者に依頼すれば、材料は確保できるでしょう。魔王殿、キノノサト国と仲介して頂けるでしょうか」

 教国はキノノサト国と国交がなく、頼れるのはリビティナぐらいになる。どのような条件でも飲むので、絹織物に関する交渉をお願いすると頼まれた。

 首相との話を終え、夜明け前今度はキノノサト国へと飛ぶ。話をするなら巫女様かな。



「リビティナじゃない。一体どうしたのよ。それにその男の子、見かけない顔ね」
「この子はボクの弟でね。イコルティって言うんだよ」

 宮廷へ行くと、ウィッチアが出迎えてくれた。
 弟だと聞いたイコルティをウリウリといじり倒して「この子カワイイわね。あたしの事もお姉様と呼びなさい」と訳の分からない事を言っているよ。

「それより、この大陸で疫病が蔓延するんだよ。その対策を話したくてね」
「疫病!! それは大変じゃない。ちょっと待ってなさいよ」

 疫病と聞いて慌てた様子で奥にいる巫女様に取り次いでくれる。早速部屋が用意されてヒアリスと話をさせてくれるようだ。

「なるほど、まだ疫病の報告は受けておりませんが南より広がると……」
「リビティナ。あんたの言う方法でこの宮殿を守れるんでしょうね」
「ここにはウィッチアのような宮廷魔導士が何人か居るんだろう。宮廷全体を結界で守ることは簡単さ」

 炎の膜を定期的に張れば、ナノマシンを完全に遮断する事も可能になる。

「国民のためには、そのマスクという物を作れば良いと」
「この国には着物が沢山あるから材料には困らないと思うよ。できればそれを他国にも輸出してほしんだよ」
「まずは、我が国民が第一でしょうけど、他国に渡す事も可能でしょう」
「反物の生産も拡大してほしんだ。原料となる魔獣の繭は、教国の冒険者が用意してくれるからさ」
「分かりました。私の方から将軍へも話を通しておきましょう」

 何とかキノノサト国の協力を取り付けられたみたいだね。各国が協力してくれて、この急場を凌げたら次は元凶となっている者の対処だね。

 よしそれなら、すぐにでも里に帰って空に居るあの女に攻勢をかける方法を考えてみるかな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

娘の命を救うために生贄として殺されました・・・でも、娘が蔑ろにされたら地獄からでも参上します

古里@10/25シーモア発売『王子に婚約
ファンタジー
第11回ネット小説大賞一次選考通過作品。 「愛するアデラの代わりに生贄になってくれ」愛した婚約者の皇太子の口からは思いもしなかった言葉が飛び出してクローディアは絶望の淵に叩き落された。 元々18年前クローディアの義母コニーが祖国ダレル王国に侵攻してきた蛮族を倒すために魔導爆弾の生贄になるのを、クローディアの実の母シャラがその対価に病気のクローディアに高価な薬を与えて命に代えても大切に育てるとの申し出を、信用して自ら生贄となって蛮族を消滅させていたのだ。しかし、その伯爵夫妻には実の娘アデラも生まれてクローディアは肩身の狭い思いで生活していた。唯一の救いは婚約者となった皇太子がクローディアに優しくしてくれたことだった。そんな時に隣国の大国マーマ王国が大軍をもって攻めてきて・・・・ しかし地獄に落とされていたシャラがそのような事を許す訳はなく、「おのれ、コニー!ヘボ国王!もう許さん!」怒り狂ったシャラは・・・ 怒涛の逆襲が始まります!史上最強の「ざまー」が展開。 そして、第二章 幸せに暮らしていたシャラとクローディアを新たな敵が襲います。「娘の幸せを邪魔するやつは許さん❢」 シャラの怒りが爆発して国が次々と制圧されます。 下記の話の1000年前のシャラザール帝国建国記 皇太子に婚約破棄されましたーでもただでは済ませません! https://www.alphapolis.co.jp/novel/237012270/129494952 小説家になろう カクヨムでも記載中です

夜霧の騎士と聖なる銀月

羽鳥くらら
ファンタジー
伝説上の生命体・妖精人(エルフ)の特徴と同じ銀髪銀眼の青年キリエは、教会で育った孤児だったが、ひょんなことから次期国王候補の1人だったと判明した。孤児として育ってきたからこそ貧しい民の苦しみを知っているキリエは、もっと皆に優しい王国を目指すために次期国王選抜の場を活用すべく、夜霧の騎士・リアム=サリバンに連れられて王都へ向かうのだが──。 ※多少の戦闘描写・残酷な表現を含みます ※小説家になろう・カクヨム・ノベルアップ+・エブリスタでも掲載しています

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...