179 / 212
第11章 空の神
第118話 空の神4
しおりを挟む
「君達人類は遥か昔に絶滅しているじゃないか」
人類が絶滅!! どういうことだ。
「そ、それじゃ、私の故郷のエウロパは……太陽系はどうなったんですか」
「太陽の寿命が尽きて、巨大化した赤色巨星となって地球が飲み込まれたのは覚えているかい。その後、木星圏の人類も滅んでしまったよ」
何という事だ! 前世だと思っていた記憶は既に滅んだ人類の記憶だったなんて。夜空に輝く母星と呼ばれる赤い星、あれが今の太陽系の姿だと言う。
「私達が太陽系を離れたのは、もう百五十万年前の話だよ。こうなる運命は分かっていたからね」
一部の人達が一千二百光年を越えるこの星まで、長い年月をかけて移住して来たのだと説明された。生身の人間がそんな旅に耐えられるはずもなく、冷凍された受精卵と記録された神経回路のデータを持ち、この惑星まで来た歴史を椅子に座る彼女が語る。
確かに当時の科学技術ならば可能かもしれない。それにしても……。
「ここに来た者達はどうなった。今、人間と呼べるのはボクの眷属だけなんだけど」
「一部の人達は獣人や妖精族に姿を変えて地上に降りたよ。そのアフターサービスとして君達ヴァンパイアが居るんだろう」
アフターサービス?
一段高い場所に座る女性が椅子の手元で何か操作をすると、床から円柱のような物がせり上がった。その上面の口が開き十センチ四方のキューブ状の物体が現れた。
「それが遺伝子操作する装置でね。君達ヴァンパイアの原形となった物だよ」
これがヴァンパイアの原形だって!! こんな小さな箱が。
「私もここの管理者として新米なんでね、ここ三十年ほど修行している身なんだよ。それを作るのも修行の内でね。まあ、今ではリビティナ君のスペアであるヴァンパイアの素体も作れているから安心してくれ」
「ボクのスペアとはどういうことだい。ヴァンパイアは唯一無二の存在じゃなかったのかい」
「まあ、体は不死身なんだけどね。長くて五百年程で死んじゃうんだよ、自殺などしてね。サービスを途切れさせないように予備を造っているんだよ」
肉体ではなく、長く生きると精神的に不調をきたして自ら死を選ぶらしい。先代のヴァンパイアも五百十三歳で亡くなったと記録されているそうだ。その代わりが今のリビティナだと。
「もっと小さいけど、君の体の中にもそのキューブと同じ物があってね。それを起動させて、アルディア君のように人間に戻りたいと言う者達の希望を叶えるんだよ」
そのためにヴァンパイアが存在すると……。
「昔は、そのキューブを地上に置いていたんだけどね。知らずに動作させて死んでしまう事故や、悪用する事件が頻発してね、箱の周辺にAIをくっ付けたり改造してきたんだよ。でも正確に人間に戻りたいという意思を確認するには、君のような知能を持つ有機生命体と機械の融合体の方が都合が良くてね」
原形のこの装置の周辺に生体部品を取り付けて改良していくうちに、リビティナのようなヴァンパイアになったと語る。
――すると、ボクはただの機械の延長線として産まれたのか……。
「まあ、だからスペアのヴァンパイアの体内にあるナノマシンを調整すれば、君達の言う人間用の外殻遺伝子を埋め込むことも可能になる」
「リビティナ様のクローンという事ですか」
「素体は別の人の受精卵から作っているから、同じじゃないよ。私の趣味ではあるんだけど、今度は男の子さ」
やはり、この者は自由自在にヴァンパイアの身体を造り出す事ができるんだね。そんな技術はこの星に来てから開発されたらしい。この世界の魔素に打ち勝つための技術だそうだ。
「だからね、リビティナ君。君の体も心も元人類のものなんだよ。それは私も同じでね。ただ私はランダムに選ばれた百人の統合された意識を持っている」
目の前の女性も不死身の身体を持ち、それは前任者の男も同じだそうだ。精神的にも強く、一万年近く生き続けるのだと言う。但しこの軌道ステーションの人工的な環境から外に出る事はできないようだね。
「ここは魔素粒子から完全に遮断されていてね。だからほら君も魔法が使えないだろう」
そう言われて指先に炎を灯そうとしたけど、魔法は発動しなかった。
「一人の人間が転生したというなら、リビティナ君が一番近いだろうね。記憶を持ち姿を変えて、最初に地上に降りた人も同じだったと聞いているよ。その人達も地上で新たな人生を謳歌したそうだ。君もヴァンパイアとしての人生を謳歌してくれたまえ」
ヴァンパイアの身体と、太陽系とは違う環境に馴染むため多少の記憶を消しているけど、リビティナの精神は過去の人類の心そのものだと言われた。
「君達の希望通り、人間用の外殻遺伝子を埋め込むように調整したヴァンパイアを地上に送るようにしよう。そうだね、後五、六日は地上の洞窟で待っていてもらえるかな」
様々な事を聞かされたリビティナとアルディアは、整理がつかないまま地上に向かうゴンドラに乗せられて、またあの洞窟へと戻っていく。
◇
◇
「さてと、これから忙しくなりそうだ。まずはスペアの調整からだね。まさかワタシの代で人間用の外殻遺伝子が手に入るとは思っていなかったよ。遺伝子が地上で進化するまでにはもっと時間がかかるはずだったんだけどね」
そう言ってリビティナから受け取った、ガラスの小瓶を興味深げに眺める。
「さて、それでは人類復興計画を始めるとしようか」
その笑みには今まで見せていた表情とは違い、どす黒いものが隠されていた。
人類が絶滅!! どういうことだ。
「そ、それじゃ、私の故郷のエウロパは……太陽系はどうなったんですか」
「太陽の寿命が尽きて、巨大化した赤色巨星となって地球が飲み込まれたのは覚えているかい。その後、木星圏の人類も滅んでしまったよ」
何という事だ! 前世だと思っていた記憶は既に滅んだ人類の記憶だったなんて。夜空に輝く母星と呼ばれる赤い星、あれが今の太陽系の姿だと言う。
「私達が太陽系を離れたのは、もう百五十万年前の話だよ。こうなる運命は分かっていたからね」
一部の人達が一千二百光年を越えるこの星まで、長い年月をかけて移住して来たのだと説明された。生身の人間がそんな旅に耐えられるはずもなく、冷凍された受精卵と記録された神経回路のデータを持ち、この惑星まで来た歴史を椅子に座る彼女が語る。
確かに当時の科学技術ならば可能かもしれない。それにしても……。
「ここに来た者達はどうなった。今、人間と呼べるのはボクの眷属だけなんだけど」
「一部の人達は獣人や妖精族に姿を変えて地上に降りたよ。そのアフターサービスとして君達ヴァンパイアが居るんだろう」
アフターサービス?
一段高い場所に座る女性が椅子の手元で何か操作をすると、床から円柱のような物がせり上がった。その上面の口が開き十センチ四方のキューブ状の物体が現れた。
「それが遺伝子操作する装置でね。君達ヴァンパイアの原形となった物だよ」
これがヴァンパイアの原形だって!! こんな小さな箱が。
「私もここの管理者として新米なんでね、ここ三十年ほど修行している身なんだよ。それを作るのも修行の内でね。まあ、今ではリビティナ君のスペアであるヴァンパイアの素体も作れているから安心してくれ」
「ボクのスペアとはどういうことだい。ヴァンパイアは唯一無二の存在じゃなかったのかい」
「まあ、体は不死身なんだけどね。長くて五百年程で死んじゃうんだよ、自殺などしてね。サービスを途切れさせないように予備を造っているんだよ」
肉体ではなく、長く生きると精神的に不調をきたして自ら死を選ぶらしい。先代のヴァンパイアも五百十三歳で亡くなったと記録されているそうだ。その代わりが今のリビティナだと。
「もっと小さいけど、君の体の中にもそのキューブと同じ物があってね。それを起動させて、アルディア君のように人間に戻りたいと言う者達の希望を叶えるんだよ」
そのためにヴァンパイアが存在すると……。
「昔は、そのキューブを地上に置いていたんだけどね。知らずに動作させて死んでしまう事故や、悪用する事件が頻発してね、箱の周辺にAIをくっ付けたり改造してきたんだよ。でも正確に人間に戻りたいという意思を確認するには、君のような知能を持つ有機生命体と機械の融合体の方が都合が良くてね」
原形のこの装置の周辺に生体部品を取り付けて改良していくうちに、リビティナのようなヴァンパイアになったと語る。
――すると、ボクはただの機械の延長線として産まれたのか……。
「まあ、だからスペアのヴァンパイアの体内にあるナノマシンを調整すれば、君達の言う人間用の外殻遺伝子を埋め込むことも可能になる」
「リビティナ様のクローンという事ですか」
「素体は別の人の受精卵から作っているから、同じじゃないよ。私の趣味ではあるんだけど、今度は男の子さ」
やはり、この者は自由自在にヴァンパイアの身体を造り出す事ができるんだね。そんな技術はこの星に来てから開発されたらしい。この世界の魔素に打ち勝つための技術だそうだ。
「だからね、リビティナ君。君の体も心も元人類のものなんだよ。それは私も同じでね。ただ私はランダムに選ばれた百人の統合された意識を持っている」
目の前の女性も不死身の身体を持ち、それは前任者の男も同じだそうだ。精神的にも強く、一万年近く生き続けるのだと言う。但しこの軌道ステーションの人工的な環境から外に出る事はできないようだね。
「ここは魔素粒子から完全に遮断されていてね。だからほら君も魔法が使えないだろう」
そう言われて指先に炎を灯そうとしたけど、魔法は発動しなかった。
「一人の人間が転生したというなら、リビティナ君が一番近いだろうね。記憶を持ち姿を変えて、最初に地上に降りた人も同じだったと聞いているよ。その人達も地上で新たな人生を謳歌したそうだ。君もヴァンパイアとしての人生を謳歌してくれたまえ」
ヴァンパイアの身体と、太陽系とは違う環境に馴染むため多少の記憶を消しているけど、リビティナの精神は過去の人類の心そのものだと言われた。
「君達の希望通り、人間用の外殻遺伝子を埋め込むように調整したヴァンパイアを地上に送るようにしよう。そうだね、後五、六日は地上の洞窟で待っていてもらえるかな」
様々な事を聞かされたリビティナとアルディアは、整理がつかないまま地上に向かうゴンドラに乗せられて、またあの洞窟へと戻っていく。
◇
◇
「さてと、これから忙しくなりそうだ。まずはスペアの調整からだね。まさかワタシの代で人間用の外殻遺伝子が手に入るとは思っていなかったよ。遺伝子が地上で進化するまでにはもっと時間がかかるはずだったんだけどね」
そう言ってリビティナから受け取った、ガラスの小瓶を興味深げに眺める。
「さて、それでは人類復興計画を始めるとしようか」
その笑みには今まで見せていた表情とは違い、どす黒いものが隠されていた。
1
お気に入りに追加
107
あなたにおすすめの小説
【改訂版】目指せ遥かなるスローライフ!~放り出された異世界でモフモフと生き抜く異世界暮らし~
水瀬 とろん
ファンタジー
「今のわたしでは・・ここにある・・それだけ」白い部屋で目覚めた俺は、獣人達のいる魔法世界に一人放り出された。女神様にもらえたものはサバイバルグッズと1本の剣だけ。
これだけで俺はこの世界を生き抜かないといけないのか?
あそこにいるのはオオカミ獣人の女の子か。モフモフを愛して止まない俺が、この世界で生き抜くためジタバタしながらも目指すは、スローライフ。
無双などできない普通の俺が、科学知識を武器にこの世界の不思議に挑んでいく、俺の異世界暮らし。
――――――――――――――――――――――――――――
完結した小説を改訂し、できた話から順次更新しています。基本毎日更新します。
◇基本的にのんびりと、仲間と共にする異世界の日常を綴った物語です。
※セルフレイティング(残酷・暴力・性描写有り)作品
彼氏に身体を捧げると言ったけど騙されて人形にされた!
ジャン・幸田
SF
あたし姶良夏海。コスプレが趣味の役者志望のフリーターで、あるとき付き合っていた彼氏の八郎丸匡に頼まれたのよ。十日間連続してコスプレしてくれって。
それで応じたのは良いけど、彼ったらこともあろうにあたしを改造したのよ生きたラブドールに! そりゃムツミゴトの最中にあなたに身体を捧げるなんていったこともあるけど、実行する意味が違うってば! こんな状態で本当に元に戻るのか教えてよ! 匡!
*いわゆる人形化(人体改造)作品です。空想の科学技術による作品ですが、そのような作品は倫理的に問題のある描写と思われる方は閲覧をパスしてください。
バイクごと異世界に転移したので美人店主と宅配弁当屋はじめました
福山陽士
ファンタジー
弁当屋でバイトをしていた大鳳正義《おおほうまさよし》は、突然宅配バイクごと異世界に転移してしまった。
現代日本とは何もかも違う世界に途方に暮れていた、その時。
「君、どうしたの?」
親切な女性、カルディナに助けてもらう。
カルディナは立地が悪すぎて今にも潰れそうになっている、定食屋の店主だった。
正義は助けてもらったお礼に「宅配をすればどう?」と提案。
カルディナの親友、魔法使いのララーベリントと共に店の再建に励むこととなったのだった。
『温かい料理を運ぶ』という概念がない世界で、みんなに美味しい料理を届けていく話。
※のんびり進行です
航海のお供のサポートロボが新妻のような気がする?
ジャン・幸田
恋愛
遥か未来。ロバーツは恒星間輸送部隊にただ一人の人間の男が指揮官として搭乗していた。彼の横には女性型サポートロボの登録記号USR100023”マリー”がいた。
だがマリーは嫉妬深いし妻のように誘ってくるし、なんか結婚したばかりの妻みたいであった。妻を裏切りたくないと思っていたけど、次第に惹かれてしまい・・・
予定では一万字前後のショートになります。一部、人体改造の描写がありますので、苦手な人は回避してください。
日は沈まず
ミリタリー好きの人
歴史・時代
1929年世界恐慌により大日本帝國も含め世界は大恐慌に陥る。これに対し大日本帝國は満州事変で満州を勢力圏に置き、積極的に工場や造船所などを建造し、経済再建と大幅な軍備拡張に成功する。そして1937年大日本帝國は志那事変をきっかけに戦争の道に走っていくことになる。当初、帝國軍は順調に進撃していたが、英米の援蔣ルートによる援助と和平の断念により戦争は泥沼化していくことになった。さらに1941年には英米とも戦争は避けられなくなっていた・・・あくまでも趣味の範囲での制作です。なので文章がおかしい場合もあります。
また参考資料も乏しいので設定がおかしい場合がありますがご了承ください。また、おかしな部分を次々に直していくので最初見た時から内容がかなり変わっている場合がありますので何か前の話と一致していないところがあった場合前の話を見直して見てください。おかしなところがあったら感想でお伝えしてもらえると幸いです。表紙は自作です。
進学できないので就職口として機械娘戦闘員になりましたが、適正は最高だそうです。
ジャン・幸田
SF
銀河系の星間国家連合の保護下に入った地球社会の時代。高校卒業を控えた青砥朱音は就職指導室に貼られていたポスターが目に入った。
それは、地球人の身体と機械服を融合させた戦闘員の募集だった。そんなの優秀な者しか選ばれないとの進路指導官の声を無視し応募したところ、トントン拍子に話が進み・・・
思い付きで人生を変えてしまった一人の少女の物語である!
売られていた奴隷は裏切られた元婚約者でした。
狼狼3
恋愛
私は先日婚約者に裏切られた。昔の頃から婚約者だった彼とは、心が通じ合っていると思っていたのに、裏切られた私はもの凄いショックを受けた。
「婚約者様のことでショックをお受けしているのなら、裏切ったりしない奴隷を買ってみては如何ですか?」
執事の一言で、気分転換も兼ねて奴隷が売っている市場に行ってみることに。すると、そこに居たのはーー
「マルクス?」
昔の頃からよく一緒に居た、元婚約者でした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる