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第11章 空の神
第114話 眷属化公開2
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陽が沈み、薄暗くなった礼拝堂にランプが灯される。
ヘブンズ教の信者である住民達が、夜のお祈りをしだした頃、ベッドの上で寝ていたマリアンヌの毛が抜けだした。
「魔王様。眷属化は成功したようですぜ」
ネイトスがベッドに散らばる毛を払い除ける。
「マリアンヌ、気が付いたかい。無事、眷属になれたよ」
「魔王様……アタシ……」
片腕を上げて、毛皮がはげ落ちて白くなった自分の腕を見上げる。目の色は元のアクアブルーだけど、髪は肩までの長さの薄い水色に変わっている。西洋人のような顔立ちになり、幼い女神様と言ってもいいぐらい美しい。
マリアンヌはゆっくりとベッドから起き上がり、床に足をつく。
「さあ、ごらんなさい。これが眷属となり神の子となった姿です」
魔除けのガウンから外に出る真っ白な手足を見せつけるように、よろけながらも礼拝堂で祈っていた信者の前に進み出る。それを見ようと住民達も教団関係者も立ち上がった。
ベッドで苦しんだ時に暴れたためか、ガウンの肩ひもの片方が外れマリアンヌの真っ白な半身の肌が露わになった。歳の割に成長している胸を隠そうともせず、マリアンヌは両手を広げその体を皆の前に晒す。
「何と神々しいお身体だ……」
「その白く美しき姿はまさに壁画の女神……おお、マリアンヌ様」
立ち上がっていた住民達が次々に膝を突きマリアンヌに祈りを捧げる。
「アタシは神の子として生まれ変わりました。魔王様が自分の中にある神を開放してくださったのです」
その言葉に最前列にいた退魔師達は目を見張り、武器が床に落ちる音が響く。
「司教よ。マリアンヌの枷を外してくれるか」
「た、確かにこれは、オオカミ族であった娘に取り付けた物。壁画と同じ神の姿に変わっておられる」
手足に取り付けられた鉄のリングを震えながらも外し確認する。肌に触れようとする司教の手を払いのけ、リビティナがマリアンヌを抱き寄せた。
「マリアンヌ! 行くぞ」
用は済んだとリビティナがマリアンヌの体をマントで隠し祭壇を降り、信者が祈りを捧げる中、教会の出口へと向かう。
教会に入れず窓から中の様子を見ていた住民達も、玄関前に集まりマリアンヌに祈りを捧げている。
ガウンの肩ひもを直したマリアンヌがマントから出て、再び白い四肢を外の住民達に見せると「おぉ~」と騒めく。その声に応えながらゆっくりと馬車に向かった。
「ネイトスさんは、護衛していてください。中に入って来ちゃダメですからね」
馬車の中で待機していたアルディアが、 マリアンヌに手を貸して馬車のステップを登らせる。
「ほとんど裸じゃない。さあ、これに着替えて」
一回り小さな人間用の服に着替えながら、マリアンヌが尋ねる。
「リビティナ様、あたし上手くやれましたか」
「ああ、上等だよ。外の人達が君を敬うように祈っているよ」
カーテンの隙間から見ると、祈りを捧げる人達が馬車の周辺に集まって来ている
「おい、アルディア。もう中に入っていいか。馬車を出さんと人が集まって動けなくなりそうだ」
「着替え終わったわ、中へ。馬車を出しましょう」
黒塗りで魔国の紋章が付いた馬車を、教国の住民達が敬愛のまなざしで見送る。
「これで今後は魔国への移住もスムーズにいくだろうね」
これもマリアンヌが提案してくれたお陰だ。やはり宗教や信者の気持ちというのは分からないものだね。入国を阻止していた教団関係者までマリアンヌに手を合わせていたよ。
その後、国境付近での混乱は収まり、魔国に移住する者が急増した。
「入国してきた者が、眷属にしてほしいと請願してきております。リビティナ様、どのようにいたしましょう」
エルメスの都からスレイブンが通信で相談してきた。予想していたよりも数が多いね。未だ千人程が国境近くの町に待機している状態だ。
「前に決めたように半年間は魔国で暮らしてもらって、その後眷属にする者を選抜すると伝えてくれるかい」
「マリアンヌを現地に連れて行っても、よろしいでしょうか」
魔国に来れば、すぐ眷属になれると思っている住民もいる。その人達を説得するのに、マリアンヌの言葉なら納得してくれるだろうとスレイブンが言う。
眷属化公開の件以降、マリアンヌの事は教国中に知れ渡り、女神様のように崇められているらしい。新しい宗教の教祖様のようだよ。
今では、入国して来た信者の対応に当たってもらっている。マリアンヌ自身も入国して半年間勉強して、その後に眷属となっているから、しばらくの間待つように説得すれば納得してくれるさ。
「スレイブンは入国した人の記録と管理、どこの町に移住してもらうかをしっかりと決めておいてくれるかい」
「はい、了解しました」
これで当分は対処できそうだね。
「しかし、先送り感は否めませんな」
「今のうちに、新しい眷属の里を南部地方に作るつもりなんだけどね……」
眷属になれば、綺麗な水と清潔な環境が必要になってくる。半年後、何万もの人が眷属になりたいと言ってきたら対応するのは難しくなっちゃう。これほど反響が大きくなるなんて予想外だよ~~。
「リビティナ様。その件で少しお話があるのですが」
「アルディアかい? 何だい」
アルディアが二人っきりの時に声を掛けてきた。他の人には聞かれたくない事なのかな。
「空の神様に会いに行きませんか?」
えぇ~! 空に~!
ヘブンズ教の信者である住民達が、夜のお祈りをしだした頃、ベッドの上で寝ていたマリアンヌの毛が抜けだした。
「魔王様。眷属化は成功したようですぜ」
ネイトスがベッドに散らばる毛を払い除ける。
「マリアンヌ、気が付いたかい。無事、眷属になれたよ」
「魔王様……アタシ……」
片腕を上げて、毛皮がはげ落ちて白くなった自分の腕を見上げる。目の色は元のアクアブルーだけど、髪は肩までの長さの薄い水色に変わっている。西洋人のような顔立ちになり、幼い女神様と言ってもいいぐらい美しい。
マリアンヌはゆっくりとベッドから起き上がり、床に足をつく。
「さあ、ごらんなさい。これが眷属となり神の子となった姿です」
魔除けのガウンから外に出る真っ白な手足を見せつけるように、よろけながらも礼拝堂で祈っていた信者の前に進み出る。それを見ようと住民達も教団関係者も立ち上がった。
ベッドで苦しんだ時に暴れたためか、ガウンの肩ひもの片方が外れマリアンヌの真っ白な半身の肌が露わになった。歳の割に成長している胸を隠そうともせず、マリアンヌは両手を広げその体を皆の前に晒す。
「何と神々しいお身体だ……」
「その白く美しき姿はまさに壁画の女神……おお、マリアンヌ様」
立ち上がっていた住民達が次々に膝を突きマリアンヌに祈りを捧げる。
「アタシは神の子として生まれ変わりました。魔王様が自分の中にある神を開放してくださったのです」
その言葉に最前列にいた退魔師達は目を見張り、武器が床に落ちる音が響く。
「司教よ。マリアンヌの枷を外してくれるか」
「た、確かにこれは、オオカミ族であった娘に取り付けた物。壁画と同じ神の姿に変わっておられる」
手足に取り付けられた鉄のリングを震えながらも外し確認する。肌に触れようとする司教の手を払いのけ、リビティナがマリアンヌを抱き寄せた。
「マリアンヌ! 行くぞ」
用は済んだとリビティナがマリアンヌの体をマントで隠し祭壇を降り、信者が祈りを捧げる中、教会の出口へと向かう。
教会に入れず窓から中の様子を見ていた住民達も、玄関前に集まりマリアンヌに祈りを捧げている。
ガウンの肩ひもを直したマリアンヌがマントから出て、再び白い四肢を外の住民達に見せると「おぉ~」と騒めく。その声に応えながらゆっくりと馬車に向かった。
「ネイトスさんは、護衛していてください。中に入って来ちゃダメですからね」
馬車の中で待機していたアルディアが、 マリアンヌに手を貸して馬車のステップを登らせる。
「ほとんど裸じゃない。さあ、これに着替えて」
一回り小さな人間用の服に着替えながら、マリアンヌが尋ねる。
「リビティナ様、あたし上手くやれましたか」
「ああ、上等だよ。外の人達が君を敬うように祈っているよ」
カーテンの隙間から見ると、祈りを捧げる人達が馬車の周辺に集まって来ている
「おい、アルディア。もう中に入っていいか。馬車を出さんと人が集まって動けなくなりそうだ」
「着替え終わったわ、中へ。馬車を出しましょう」
黒塗りで魔国の紋章が付いた馬車を、教国の住民達が敬愛のまなざしで見送る。
「これで今後は魔国への移住もスムーズにいくだろうね」
これもマリアンヌが提案してくれたお陰だ。やはり宗教や信者の気持ちというのは分からないものだね。入国を阻止していた教団関係者までマリアンヌに手を合わせていたよ。
その後、国境付近での混乱は収まり、魔国に移住する者が急増した。
「入国してきた者が、眷属にしてほしいと請願してきております。リビティナ様、どのようにいたしましょう」
エルメスの都からスレイブンが通信で相談してきた。予想していたよりも数が多いね。未だ千人程が国境近くの町に待機している状態だ。
「前に決めたように半年間は魔国で暮らしてもらって、その後眷属にする者を選抜すると伝えてくれるかい」
「マリアンヌを現地に連れて行っても、よろしいでしょうか」
魔国に来れば、すぐ眷属になれると思っている住民もいる。その人達を説得するのに、マリアンヌの言葉なら納得してくれるだろうとスレイブンが言う。
眷属化公開の件以降、マリアンヌの事は教国中に知れ渡り、女神様のように崇められているらしい。新しい宗教の教祖様のようだよ。
今では、入国して来た信者の対応に当たってもらっている。マリアンヌ自身も入国して半年間勉強して、その後に眷属となっているから、しばらくの間待つように説得すれば納得してくれるさ。
「スレイブンは入国した人の記録と管理、どこの町に移住してもらうかをしっかりと決めておいてくれるかい」
「はい、了解しました」
これで当分は対処できそうだね。
「しかし、先送り感は否めませんな」
「今のうちに、新しい眷属の里を南部地方に作るつもりなんだけどね……」
眷属になれば、綺麗な水と清潔な環境が必要になってくる。半年後、何万もの人が眷属になりたいと言ってきたら対応するのは難しくなっちゃう。これほど反響が大きくなるなんて予想外だよ~~。
「リビティナ様。その件で少しお話があるのですが」
「アルディアかい? 何だい」
アルディアが二人っきりの時に声を掛けてきた。他の人には聞かれたくない事なのかな。
「空の神様に会いに行きませんか?」
えぇ~! 空に~!
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