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第10章 ヘブンズ教国
第110話 マリアンヌ4
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「リビティナ様、申し訳ありません。マリアンヌを連れ帰る事ができませんでした」
「教会が保護者だと強く主張するなら、それも仕方ないだろうね」
「あの教会は多分、中間的な養成機関ではないかと」
マリアンヌを無理やり、シスターが引き離して連れて行ったらしいね。そうなるとマリアンヌの身に危害が及ぶかもしれない。
「今夜、ボクがその教会に潜入してみるよ」
聖地にある教会。暗闇の空から見ても分かるけど、普通の教会とは違い門番が立っている。外部の警戒じゃなくて、中の子供を外に出させないためか?
でも屋根はがら空きだ。あの鐘塔から中に入れそうだ。
子供達が寝ている部屋を調べたけど、マリアンヌの姿は無かった。まだ起きているシスター達もいたけど、そこにもいない。
「おや、あそこの床が明るいね」
礼拝堂の裏手辺り、普通の人には分からない微かな光が床の下から漏れ出ている。地下室かな。
敷物の下に隠された扉を、音を立てずに開けると地下に向かう階段が現れた。その先からは微かに血の匂いがする。
地下には牢屋が二室、薄暗いロウソク一本で照らされている。
「シスターですか? やっぱりアタシ、魔国に行きたいです。そこで神の子として生まれ変わりたいんです……どうかお許しを」
近づくリビティナをシスターと間違えたのか、話しかけてくるのはマリアンヌの声。だけど鎖につながれて背中を鞭打たれたのか、服は破けて血の滲む背中をこちらに向けている。
「マリアンヌ。大丈夫か」
「ま、魔王様ですか。どうしてこんな所に」
マリアンヌはこちらをちらりと見ただけで、立ち上がる元気もないようだ。
「それよりも、この檻を抜けて外に出るよ」
「でも、頑丈な鉄格子が……」
マリアンヌの不安げな声を聞きながら、リビティナは鉄格子を手刀で切り裂く。檻の中に入りマリアンヌが繋がれている鎖を引きちぎり、手かせを破壊した。
「こ、この力は……」
「君達が言うところの、悪魔の力だ。さあ、出ようか」
唖然とするマリアンヌを抱きかかえる。
「うっ!」
「治療が先か。床に寝てくれるかい」
うつぶせに寝かせて背中の傷に牙を立て、光魔法で治療を行なう。麻酔効果で朦朧とするマリアンヌを肩に担いで地下室を抜け出す。
「貴様、何者だ!」
礼拝堂に上がったところで警備員に見つかってしまったようだ。面倒だねと思いつつも床を一蹴りし、一瞬で敵の間合いに入り込む。
「ウッ!」
教団関係者なら殺すわけにはいかない。警備員の首元に一撃を加えて、頭を揺らし気絶させるに留める。
「見つからないうちにとっとと退散するよ」
肩に担いだマリアンヌに言ったけど、眠ったのか聞こえてないようだね。リビティナは黒い翼を広げて鐘塔の屋根から夜空へと飛び立った。
「お帰りなさいませ、リビティナ様」
「エリーシア。ベッドに運ぶから、この子の着替えを持ってきてくれるかい」
「まあ、酷い仕打ちを受けたようですわね。わたくしが無理にでも連れ帰れば良かったですわ」
「君のせいじゃないよ」
合法的に引き取ろうとマリアンヌを教会に行かせたのは、リビティナの判断だ。痛い思いをさせた責任は自分にある。
その中でもマリアンヌは魔国に行きたいと願った。その願いには応えてあげないと。
ネイトスも様子を見に部屋にやって来る。
「これは酷い傷ですな。これでリビティナ様が懸念していたダブルスパイの線も消えましたかね」
「そうだね。マリアンヌをこちらに送り込むつもりなら、事前に居場所のヒントを伝えているはずだしね」
マリアンヌが居たのは、リビティナでないと分からない隠された地下室。元々渡すつもりはなかったんだろうね。
でもこれでマリアンヌを連れ出すには、教会の上層部と話をつけないと駄目になっちゃった。教皇と直談判でもするかな。
翌朝。傷がまだ痛むようで、マリアンヌには今日一日ここでゆっくり寝ていてもらおう。
昨日面会できなかった教皇にどうやって会おうかと考えていると、教皇の方から会いたいと連絡が入った。どうも壁画の件で聞きたい事があるようだ。
「教皇と大司教がそろって、こちらに足を運ぶとは異例な事ですわね」
「ちょうどいいじゃないか。その時にマリアンヌが出国できるように話をしてみるよ」
こちらも準備をしていると、白い馬車に乗った教皇一行が迎賓館にやって来た。その対応はここの政府機関の役人が行なう。教皇達を出迎え、会議をする部屋まで案内してくれる。
「魔王殿。お時間を取ってもらい感謝する」
「明日、早朝までの滞在だ。手早くしてもらえるかな」
別に出発日を伸ばしてもいいんだけどね、話を有利に進めるならこの方がいいだろう。
リビティナ一人が座る向かい側に教皇が座り、その両サイドに大司教と呼ばれる者達が六人。壁際には補佐する役人のような司祭十人程が書類を手に長椅子に座る。これまた大勢で来たものだ。
「早速でありますが壁画に描かれた神について、魔王殿にお聞きしたい事がございます」
進行役なのか大司教の一人が話し出す。その後すぐに教皇が口を開いた。
「魔王殿はあの壁画の神に会った事があると聞きましてな。その様子をお聞かせ願えるか」
「西に描かれた神の事だな。我が地上に降りる前に空で会っている」
リビティナが答えると、別の大司教が尋ねて来た。
「他の神々はその場におられたでしょうか」
「我の会ったのはあの男一人。あの壁画は二百四十年前のものと聞く。その頃と変わらぬ姿だったよ」
「あの神々は魔族……失礼、魔王殿の眷属なのでしょうか」
「いいや、違うな。我の眷属は地上に降りた後の事。空のあの者は別の存在だ」
それを聞いた大司教達が口々にしゃべり出す。
「魔王殿は神に近しい存在。だから眷属と神が似ていると考えられるか……」
「ならば我らの神学と一致する点は大いにある」
「これで、突破口が見つかるかも知れんな」
どうも神学論争をしているようだね。こちらはそんな事には関心ないんだけど。
「教皇殿。マリアンヌという少女が昨夜、聖地にある教会内で暴行を受けたようだ。その少女を知っているか」
「そのような者に心当たりはありませんな」
とぼけているのか、いちいち名前まで覚えていないのか。すると壁際に座っていた司祭が教皇に耳打ちする。
「ああ、あの者か……して、魔王殿はその子供をどうされようと」
「魔国に行きたいとの願いだ。我が里親となり魔国に連れていくつもりだ」
「であれば、不幸な子供が一人減る事になります。良きことですな」
教皇はあまりマリアンヌに関心がないようだね。そのような些末な事なら司祭に対応させると、壁際の一人を部屋の外に出しネイトスと話をするようだ。これでマリアンヌを合法的に魔国に連れていけそうかな。
その後も、リビティナに幾つかの質問をして大司教が議論をしていた。しばらくして外に待機していたネイトスが部屋の中に入って来て耳打ちする。
「マリアンヌの手続きが済みました。明日の朝、一緒に魔国に行けますぜ」
それは良かった。本来ならあの教会にいた子供全員を救ってやりたかったけど、他国の行なっている事。これ以上の口出しはできないだろうね。
「教会が保護者だと強く主張するなら、それも仕方ないだろうね」
「あの教会は多分、中間的な養成機関ではないかと」
マリアンヌを無理やり、シスターが引き離して連れて行ったらしいね。そうなるとマリアンヌの身に危害が及ぶかもしれない。
「今夜、ボクがその教会に潜入してみるよ」
聖地にある教会。暗闇の空から見ても分かるけど、普通の教会とは違い門番が立っている。外部の警戒じゃなくて、中の子供を外に出させないためか?
でも屋根はがら空きだ。あの鐘塔から中に入れそうだ。
子供達が寝ている部屋を調べたけど、マリアンヌの姿は無かった。まだ起きているシスター達もいたけど、そこにもいない。
「おや、あそこの床が明るいね」
礼拝堂の裏手辺り、普通の人には分からない微かな光が床の下から漏れ出ている。地下室かな。
敷物の下に隠された扉を、音を立てずに開けると地下に向かう階段が現れた。その先からは微かに血の匂いがする。
地下には牢屋が二室、薄暗いロウソク一本で照らされている。
「シスターですか? やっぱりアタシ、魔国に行きたいです。そこで神の子として生まれ変わりたいんです……どうかお許しを」
近づくリビティナをシスターと間違えたのか、話しかけてくるのはマリアンヌの声。だけど鎖につながれて背中を鞭打たれたのか、服は破けて血の滲む背中をこちらに向けている。
「マリアンヌ。大丈夫か」
「ま、魔王様ですか。どうしてこんな所に」
マリアンヌはこちらをちらりと見ただけで、立ち上がる元気もないようだ。
「それよりも、この檻を抜けて外に出るよ」
「でも、頑丈な鉄格子が……」
マリアンヌの不安げな声を聞きながら、リビティナは鉄格子を手刀で切り裂く。檻の中に入りマリアンヌが繋がれている鎖を引きちぎり、手かせを破壊した。
「こ、この力は……」
「君達が言うところの、悪魔の力だ。さあ、出ようか」
唖然とするマリアンヌを抱きかかえる。
「うっ!」
「治療が先か。床に寝てくれるかい」
うつぶせに寝かせて背中の傷に牙を立て、光魔法で治療を行なう。麻酔効果で朦朧とするマリアンヌを肩に担いで地下室を抜け出す。
「貴様、何者だ!」
礼拝堂に上がったところで警備員に見つかってしまったようだ。面倒だねと思いつつも床を一蹴りし、一瞬で敵の間合いに入り込む。
「ウッ!」
教団関係者なら殺すわけにはいかない。警備員の首元に一撃を加えて、頭を揺らし気絶させるに留める。
「見つからないうちにとっとと退散するよ」
肩に担いだマリアンヌに言ったけど、眠ったのか聞こえてないようだね。リビティナは黒い翼を広げて鐘塔の屋根から夜空へと飛び立った。
「お帰りなさいませ、リビティナ様」
「エリーシア。ベッドに運ぶから、この子の着替えを持ってきてくれるかい」
「まあ、酷い仕打ちを受けたようですわね。わたくしが無理にでも連れ帰れば良かったですわ」
「君のせいじゃないよ」
合法的に引き取ろうとマリアンヌを教会に行かせたのは、リビティナの判断だ。痛い思いをさせた責任は自分にある。
その中でもマリアンヌは魔国に行きたいと願った。その願いには応えてあげないと。
ネイトスも様子を見に部屋にやって来る。
「これは酷い傷ですな。これでリビティナ様が懸念していたダブルスパイの線も消えましたかね」
「そうだね。マリアンヌをこちらに送り込むつもりなら、事前に居場所のヒントを伝えているはずだしね」
マリアンヌが居たのは、リビティナでないと分からない隠された地下室。元々渡すつもりはなかったんだろうね。
でもこれでマリアンヌを連れ出すには、教会の上層部と話をつけないと駄目になっちゃった。教皇と直談判でもするかな。
翌朝。傷がまだ痛むようで、マリアンヌには今日一日ここでゆっくり寝ていてもらおう。
昨日面会できなかった教皇にどうやって会おうかと考えていると、教皇の方から会いたいと連絡が入った。どうも壁画の件で聞きたい事があるようだ。
「教皇と大司教がそろって、こちらに足を運ぶとは異例な事ですわね」
「ちょうどいいじゃないか。その時にマリアンヌが出国できるように話をしてみるよ」
こちらも準備をしていると、白い馬車に乗った教皇一行が迎賓館にやって来た。その対応はここの政府機関の役人が行なう。教皇達を出迎え、会議をする部屋まで案内してくれる。
「魔王殿。お時間を取ってもらい感謝する」
「明日、早朝までの滞在だ。手早くしてもらえるかな」
別に出発日を伸ばしてもいいんだけどね、話を有利に進めるならこの方がいいだろう。
リビティナ一人が座る向かい側に教皇が座り、その両サイドに大司教と呼ばれる者達が六人。壁際には補佐する役人のような司祭十人程が書類を手に長椅子に座る。これまた大勢で来たものだ。
「早速でありますが壁画に描かれた神について、魔王殿にお聞きしたい事がございます」
進行役なのか大司教の一人が話し出す。その後すぐに教皇が口を開いた。
「魔王殿はあの壁画の神に会った事があると聞きましてな。その様子をお聞かせ願えるか」
「西に描かれた神の事だな。我が地上に降りる前に空で会っている」
リビティナが答えると、別の大司教が尋ねて来た。
「他の神々はその場におられたでしょうか」
「我の会ったのはあの男一人。あの壁画は二百四十年前のものと聞く。その頃と変わらぬ姿だったよ」
「あの神々は魔族……失礼、魔王殿の眷属なのでしょうか」
「いいや、違うな。我の眷属は地上に降りた後の事。空のあの者は別の存在だ」
それを聞いた大司教達が口々にしゃべり出す。
「魔王殿は神に近しい存在。だから眷属と神が似ていると考えられるか……」
「ならば我らの神学と一致する点は大いにある」
「これで、突破口が見つかるかも知れんな」
どうも神学論争をしているようだね。こちらはそんな事には関心ないんだけど。
「教皇殿。マリアンヌという少女が昨夜、聖地にある教会内で暴行を受けたようだ。その少女を知っているか」
「そのような者に心当たりはありませんな」
とぼけているのか、いちいち名前まで覚えていないのか。すると壁際に座っていた司祭が教皇に耳打ちする。
「ああ、あの者か……して、魔王殿はその子供をどうされようと」
「魔国に行きたいとの願いだ。我が里親となり魔国に連れていくつもりだ」
「であれば、不幸な子供が一人減る事になります。良きことですな」
教皇はあまりマリアンヌに関心がないようだね。そのような些末な事なら司祭に対応させると、壁際の一人を部屋の外に出しネイトスと話をするようだ。これでマリアンヌを合法的に魔国に連れていけそうかな。
その後も、リビティナに幾つかの質問をして大司教が議論をしていた。しばらくして外に待機していたネイトスが部屋の中に入って来て耳打ちする。
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