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第10章 ヘブンズ教国
第105話 聖地観光
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「ねえ、リビティナ。ここにはもう少し滞在するんでしょう」
「あと三日は居るよ」
「それなら聖地の観光に行きたい」
「聖地には昨日行ったばかりじゃないか」
「あたし眠ってて、ほとんど観てないのよね。それに教会以外にも面白い所があるんだって」
確かに大聖堂以外は行ってないし、こんな遠くまで来たんだから観光してもいいけど。
「でもエルフィ一人だけじゃダメだよ」
首都での誘拐の事もあるし、昼間でも危ないからね。
「ネイトスも付いて来てくれるんでしょう。向こうには首都にない珍しい料理やお酒もあるんだって」
「ほう、それなら一緒に行くか。エリーシアはどうする」
「わたくしはここで休ませてもらいますわ。皆さんで楽しんできてください」
条約締結のために、今まで頑張ってくれていたからね。この迎賓館なら教国の護衛もいるし安心できる。お土産を買って来るよと言って、アルディアも連れて四人で聖地に向かう事になった。
「あの~、私は聖地の事あまり知らないから案内はできませんよ」
「大丈夫よ、アルディア。聖地に詳しい子が案内してくれるから。ほら、あの子よ」
聖地に向かう城門の近くに、オオカミ族の少女が立っていてエルフィが駆け寄る。
「この子、マリアンヌっていうの」
紹介されたその子は、確か誘拐事件で助けてくれた子だよね。慌てたエルフィに付き添って衛兵に連絡したり、事情を説明しに迎賓館まで来てくれた子だ。
「アタシこの辺りには詳しいので案内できますよ。それとアルディアさんが見つかったそうで良かったです」
「まあ、あなたが手助けしてくれたの。ありがとう。私がアルディアよ」
「俺はネイトスだ。よろしくな」
前に会った時は誘拐騒ぎで紹介どころじゃなかったからね。ここで一通りの自己紹介の挨拶をする。
「魔国からのお客さんだって聞いていましたけど、魔王様はいないのですね」
「今は迎賓館に居るんだ。君は魔王や魔族が怖くないんだね」
「はい、神様はみんな平等だって言っていますから」
エルフィに聞くとこの子は身寄りがなくて、聖地にある教会で育てられた敬謙な信者だそうだ。だから聖地の事も詳しくて案内役を買って出てくれたらしい。
首都と聖地を結ぶ乗合馬車に乗って聖地へと向かう。昨日とは違って街道には仮面を付けた巡礼者がたくさん歩いている。
「賢者様の仮面はすごく古い物ですね。なんだか初代の教皇様が作った物と似ています。すごいですね」
リビティナの仮面をしげしげと見つめて、笑顔で聞いてくる。
「初代の? 見ただけで仮面の年代が分かるのかい」
「教皇様が代替わりする際に仮面のデザインを変える事があります。古い物は縞模様が太く色の数も少ないんです。賢者様のはその基本の形に似てます」
「マリアンヌは詳しいんだね」
「シスターに本をよく見せてもらってますので」
まだ十二、三歳かな。成人していない歳のようだけど、しっかりとした子のようだ。今もエルフィと効率のいい聖地の回り方を説明している。
聖地に入ってすぐの所で馬車を降り、巡礼者と一緒に徒歩で聖地を巡る。
この地まで来ると巡礼者も仮面を外して素顔で歩いている。ここまでの長旅で疲れていると思うけど、聖地に来れた喜びからか、朗らかな笑顔の人が多いね。色んな種族の外国人が多くて、リビティナ達を気に掛ける人もあまりいないみたいだ。
「周辺部にも色んな施設があるんだな~。こりゃ観光のし甲斐がありそうだ」
聖地中央にあるのがサンクチュアリ大聖堂だけど、巡礼の人がお祈りをしたり宿泊する場所は別にある。
宗教関連だけでなく噴水のある公園や、食事をするレストランも建ち並ぶ。常に何万人もがいるというだけあって、都会みたいに賑わっているよ。
「こりゃなんて言う料理なんだ。独特の味付けだな」
「郷土料理のパコーラという料理ですね。豆とお肉を煮込んで香辛料で味付けしています。こっちの薄いパンに付けて食べると美味しいですよ」
さすが地元のマリアンヌだ、料理についても詳しいね。他にもカレーのような料理もある。南の暑い地域だからか辛い料理が多い。
値段もすごく安い。ここはテーブルと椅子のあるレストランだけど、広場にある建物では信者のために無料で配られているらしい。
「ねえ、エルフィさん。魔国の魔王様って怖い方なんですか。なんでも悪魔の力を使うって聞いたんですけど」
「そんな事ないわよ。面白い人よ」
「えっ?! 面白いんですか……」
「魔王様は、心優しい方よ。頭もいいしね」
「そうだな。どの種族にも分け隔てなく平等に接する。神様みたいな人だな」
うへぇ~。みんなからそんな事言われちゃうと照れちゃうじゃないか~。
「そう、そう。怪我の治療もできるわね。あ~、その時に噛みついちゃうから悪魔の力なんて言われてるのかも」
「え~、噛みついて治療ですか。なんだかすごいですね」
知らない外国の事が珍しいのか、魔族の人達の生活や戦争の事まで、興味を持って聞いてくる。ずっとここで育っていたから、外の事を知らないんだろうね。
「魔王様って強いんですよね。私達の神様と戦ったらどっちが勝つんでしょうか」
「いや、いや。ボク達は神様と戦ったりしないよ。穏やかに過ごすことが夢だからね」
「マリアンヌ。神様とは戦わないけど、魔王様なら世界征服くらいはしちゃうかもしれないわよ」
「えぇ~、世界征服ですか~」
「こら、こら、アルディア。子供に変な事を言っちゃだめだからね」
ほんと、アルディアには困ったものだよ。
「あと三日は居るよ」
「それなら聖地の観光に行きたい」
「聖地には昨日行ったばかりじゃないか」
「あたし眠ってて、ほとんど観てないのよね。それに教会以外にも面白い所があるんだって」
確かに大聖堂以外は行ってないし、こんな遠くまで来たんだから観光してもいいけど。
「でもエルフィ一人だけじゃダメだよ」
首都での誘拐の事もあるし、昼間でも危ないからね。
「ネイトスも付いて来てくれるんでしょう。向こうには首都にない珍しい料理やお酒もあるんだって」
「ほう、それなら一緒に行くか。エリーシアはどうする」
「わたくしはここで休ませてもらいますわ。皆さんで楽しんできてください」
条約締結のために、今まで頑張ってくれていたからね。この迎賓館なら教国の護衛もいるし安心できる。お土産を買って来るよと言って、アルディアも連れて四人で聖地に向かう事になった。
「あの~、私は聖地の事あまり知らないから案内はできませんよ」
「大丈夫よ、アルディア。聖地に詳しい子が案内してくれるから。ほら、あの子よ」
聖地に向かう城門の近くに、オオカミ族の少女が立っていてエルフィが駆け寄る。
「この子、マリアンヌっていうの」
紹介されたその子は、確か誘拐事件で助けてくれた子だよね。慌てたエルフィに付き添って衛兵に連絡したり、事情を説明しに迎賓館まで来てくれた子だ。
「アタシこの辺りには詳しいので案内できますよ。それとアルディアさんが見つかったそうで良かったです」
「まあ、あなたが手助けしてくれたの。ありがとう。私がアルディアよ」
「俺はネイトスだ。よろしくな」
前に会った時は誘拐騒ぎで紹介どころじゃなかったからね。ここで一通りの自己紹介の挨拶をする。
「魔国からのお客さんだって聞いていましたけど、魔王様はいないのですね」
「今は迎賓館に居るんだ。君は魔王や魔族が怖くないんだね」
「はい、神様はみんな平等だって言っていますから」
エルフィに聞くとこの子は身寄りがなくて、聖地にある教会で育てられた敬謙な信者だそうだ。だから聖地の事も詳しくて案内役を買って出てくれたらしい。
首都と聖地を結ぶ乗合馬車に乗って聖地へと向かう。昨日とは違って街道には仮面を付けた巡礼者がたくさん歩いている。
「賢者様の仮面はすごく古い物ですね。なんだか初代の教皇様が作った物と似ています。すごいですね」
リビティナの仮面をしげしげと見つめて、笑顔で聞いてくる。
「初代の? 見ただけで仮面の年代が分かるのかい」
「教皇様が代替わりする際に仮面のデザインを変える事があります。古い物は縞模様が太く色の数も少ないんです。賢者様のはその基本の形に似てます」
「マリアンヌは詳しいんだね」
「シスターに本をよく見せてもらってますので」
まだ十二、三歳かな。成人していない歳のようだけど、しっかりとした子のようだ。今もエルフィと効率のいい聖地の回り方を説明している。
聖地に入ってすぐの所で馬車を降り、巡礼者と一緒に徒歩で聖地を巡る。
この地まで来ると巡礼者も仮面を外して素顔で歩いている。ここまでの長旅で疲れていると思うけど、聖地に来れた喜びからか、朗らかな笑顔の人が多いね。色んな種族の外国人が多くて、リビティナ達を気に掛ける人もあまりいないみたいだ。
「周辺部にも色んな施設があるんだな~。こりゃ観光のし甲斐がありそうだ」
聖地中央にあるのがサンクチュアリ大聖堂だけど、巡礼の人がお祈りをしたり宿泊する場所は別にある。
宗教関連だけでなく噴水のある公園や、食事をするレストランも建ち並ぶ。常に何万人もがいるというだけあって、都会みたいに賑わっているよ。
「こりゃなんて言う料理なんだ。独特の味付けだな」
「郷土料理のパコーラという料理ですね。豆とお肉を煮込んで香辛料で味付けしています。こっちの薄いパンに付けて食べると美味しいですよ」
さすが地元のマリアンヌだ、料理についても詳しいね。他にもカレーのような料理もある。南の暑い地域だからか辛い料理が多い。
値段もすごく安い。ここはテーブルと椅子のあるレストランだけど、広場にある建物では信者のために無料で配られているらしい。
「ねえ、エルフィさん。魔国の魔王様って怖い方なんですか。なんでも悪魔の力を使うって聞いたんですけど」
「そんな事ないわよ。面白い人よ」
「えっ?! 面白いんですか……」
「魔王様は、心優しい方よ。頭もいいしね」
「そうだな。どの種族にも分け隔てなく平等に接する。神様みたいな人だな」
うへぇ~。みんなからそんな事言われちゃうと照れちゃうじゃないか~。
「そう、そう。怪我の治療もできるわね。あ~、その時に噛みついちゃうから悪魔の力なんて言われてるのかも」
「え~、噛みついて治療ですか。なんだかすごいですね」
知らない外国の事が珍しいのか、魔族の人達の生活や戦争の事まで、興味を持って聞いてくる。ずっとここで育っていたから、外の事を知らないんだろうね。
「魔王様って強いんですよね。私達の神様と戦ったらどっちが勝つんでしょうか」
「いや、いや。ボク達は神様と戦ったりしないよ。穏やかに過ごすことが夢だからね」
「マリアンヌ。神様とは戦わないけど、魔王様なら世界征服くらいはしちゃうかもしれないわよ」
「えぇ~、世界征服ですか~」
「こら、こら、アルディア。子供に変な事を言っちゃだめだからね」
ほんと、アルディアには困ったものだよ。
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