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第10章 ヘブンズ教国
第104話 大聖堂
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「こりゃまた、豪華な馬車ですな」
「教皇ってすごい、お金持ちなんだろう。ボク達とは全然違うよ」
首都で友好条約の調印式も終わり、今から教皇に会いに聖地の都へと向かう、
白塗りの四頭立ての馬車。外装だけでなく中も彫刻やら宝石やらで飾られている。フカフカの赤いソファー、向かい合わせに四人が座っても充分ゆとりがある。エリーシア達は別の馬車に乗り、文官も同じような馬車に乗せてもらっている。
首都から聖地アグレシアまで十分ほどで行けるそうだ。その大通りを六台の馬車と護衛の騎馬隊が進んで行く。その左右には通行規制された住民や信者が大勢で車列を見送る。
「信者の人達が沢山いるんだね」
「そうですな。国外からも集まって来ますからな」
「ネイトスは聖地に来た事はあるのかい」
「いいえ。昔、冒険者の仕事でこの国に入ったことがあるだけですね」
さて、この大勢の人から崇拝されているという教皇とは、どんな人物かな。怖い人じゃないといいんだけど。
「見えてきました。あれがサンクチュアリ大聖堂ですな」
ヘブンズ教の総本山とされる大きな教会だね。広い敷地に建つ白い大理石でできた三階建ての大聖堂。ドームのような屋根の建物を中心に、十字の形で連なっている大きな教会だ。その周辺にも塔や背の低い屋敷などが、きれいに並べられた石畳の敷地内に建てられている。
「なんでも二百四十年ほど前、この国が建国する前からある由緒正しき教会だそうですぜ」
「へぇ~。それはすごいね」
魔王城と同じくらいの年代だけど、こちらは日頃から使っているせいか、修繕もされ綺麗に保存されているね。
到着した玄関には、赤い絨毯が敷かれて出迎えてくれる。馬車を降り、案内人に従い絨毯の上を歩いて行くと、その先は教会の中央の間、建物が十字に交わる場所。
その通路の左右には長椅子が置かれ、大勢の司祭が立ち上がり魔王一行を出迎える。その中をゆっくりと歩き、教皇が待つ一段高い場所へと向かう。
周りから見えるように造られた円形の舞台のような場所に教皇が立ち、それに続く階段をリビティナだけが登っていく。
「魔王殿。遠路おいで下さり、ありがとうございます」
「こちらこそ。盛大な歓迎、感謝する」
教皇は五十代の白髪交じりのオオカミ族。白を基調とした豪勢な衣装に黒い宝玉を連ねた飾りと、背の高い帽子を被っている。胸にはこのサンクチュアリ大聖堂を模ったという銀の十字のペンダントをしている。
アルメイヤ王国の王様より豪華な衣装だね。
何かの儀式か、手に持つ宝石を埋め込んだ杖をこちらに向けて、右、左、中央へと三回振る。
「どうぞ、そちらの椅子にお掛け下さい」
リビティナが椅子に座ると教皇も背もたれの高い白い椅子に座り、立ち上がっていた司祭達が一斉に着席した。
「そもそも、神という存在は…………」
その後、予定通りではあるけど長々と神や教義についての講釈が続く。これも教皇としての責務なんだろうね。でも聞かされるこっちはいい迷惑だよ。
古来、教皇と魔王というのは全く正反対の存在。聖と魔、服も白と黒。教皇の話が長すぎて、だんだん眠くなってきた。「この悪魔め!」などと言われて、あの杖でエイッエイッと殴られたりする漫画の一場面が思い浮かんでしまったよ。
一段下に座るエルフィは完全に寝ちゃっているし、エリーシアまで眠そうだ。
首相と打ち合わせた段取りだと、もうすぐこの話も終わって実質的な取り決めの確認を行う事になる。
「魔国においても、我らの活動は可能であると聞いておりますが」
「ヘブンズ教の宗教活動は許可しよう。だが商売人と同様に教会の建物や土地、活動収入に関して税金を徴収する」
「信者からの寄付についてもですか」
「そうだ。寄付も収入だからな。それこそ平等というものだ。細かな事はセイマール首相から聞いてくれるか」
心の拠り所としての宗教は認めよう。しかし子供の教育や孤児などの世話、福祉については国として責任を持って行なう。他国では教会が担っているかもしれないけど、魔国においてそれは必要ないよ。教会に子供を預けて、偏った知識で毒される事がないようにしておかないとね。
宗教による精神的な支配は、よくあることだ。教団や国を支配するのに一神教は都合がいい。神の言葉だと言えば信者は何も疑わず信じてしまう。
魔国では、国民一人ひとりが自分で物事を考える国にしていきたいからね。
「それとヘブンズ教の一派が、妖精族の羽を得るために墓を荒らしたそうだ。そちらの教義で、これは許される事なのか」
「我らの方でも調査している最中です。死者を冒涜する行為は許されるものではありません。それが異教徒であってもです」
これが穏健派と言われる教皇の方針のようだ。内部の一部過激な集団は、異教徒であれば何をしても良いと考えている者もいるそうだ。その者達をしっかりと押さえて、今の言葉を実践してもらいたいね。
丁寧な物言いの教皇だが内部抗争を勝ち抜いてきたんだろう、その瞳には鋭さが隠れているようだ。
さて、用事も済んだし帰るとするか。
教皇との話も済んで、ふと上を見上げた。そこには天井のドームに描かれた四人の獣人の神。神話を表したという壁画を、少し違和感を持って眺めた。
「教皇ってすごい、お金持ちなんだろう。ボク達とは全然違うよ」
首都で友好条約の調印式も終わり、今から教皇に会いに聖地の都へと向かう、
白塗りの四頭立ての馬車。外装だけでなく中も彫刻やら宝石やらで飾られている。フカフカの赤いソファー、向かい合わせに四人が座っても充分ゆとりがある。エリーシア達は別の馬車に乗り、文官も同じような馬車に乗せてもらっている。
首都から聖地アグレシアまで十分ほどで行けるそうだ。その大通りを六台の馬車と護衛の騎馬隊が進んで行く。その左右には通行規制された住民や信者が大勢で車列を見送る。
「信者の人達が沢山いるんだね」
「そうですな。国外からも集まって来ますからな」
「ネイトスは聖地に来た事はあるのかい」
「いいえ。昔、冒険者の仕事でこの国に入ったことがあるだけですね」
さて、この大勢の人から崇拝されているという教皇とは、どんな人物かな。怖い人じゃないといいんだけど。
「見えてきました。あれがサンクチュアリ大聖堂ですな」
ヘブンズ教の総本山とされる大きな教会だね。広い敷地に建つ白い大理石でできた三階建ての大聖堂。ドームのような屋根の建物を中心に、十字の形で連なっている大きな教会だ。その周辺にも塔や背の低い屋敷などが、きれいに並べられた石畳の敷地内に建てられている。
「なんでも二百四十年ほど前、この国が建国する前からある由緒正しき教会だそうですぜ」
「へぇ~。それはすごいね」
魔王城と同じくらいの年代だけど、こちらは日頃から使っているせいか、修繕もされ綺麗に保存されているね。
到着した玄関には、赤い絨毯が敷かれて出迎えてくれる。馬車を降り、案内人に従い絨毯の上を歩いて行くと、その先は教会の中央の間、建物が十字に交わる場所。
その通路の左右には長椅子が置かれ、大勢の司祭が立ち上がり魔王一行を出迎える。その中をゆっくりと歩き、教皇が待つ一段高い場所へと向かう。
周りから見えるように造られた円形の舞台のような場所に教皇が立ち、それに続く階段をリビティナだけが登っていく。
「魔王殿。遠路おいで下さり、ありがとうございます」
「こちらこそ。盛大な歓迎、感謝する」
教皇は五十代の白髪交じりのオオカミ族。白を基調とした豪勢な衣装に黒い宝玉を連ねた飾りと、背の高い帽子を被っている。胸にはこのサンクチュアリ大聖堂を模ったという銀の十字のペンダントをしている。
アルメイヤ王国の王様より豪華な衣装だね。
何かの儀式か、手に持つ宝石を埋め込んだ杖をこちらに向けて、右、左、中央へと三回振る。
「どうぞ、そちらの椅子にお掛け下さい」
リビティナが椅子に座ると教皇も背もたれの高い白い椅子に座り、立ち上がっていた司祭達が一斉に着席した。
「そもそも、神という存在は…………」
その後、予定通りではあるけど長々と神や教義についての講釈が続く。これも教皇としての責務なんだろうね。でも聞かされるこっちはいい迷惑だよ。
古来、教皇と魔王というのは全く正反対の存在。聖と魔、服も白と黒。教皇の話が長すぎて、だんだん眠くなってきた。「この悪魔め!」などと言われて、あの杖でエイッエイッと殴られたりする漫画の一場面が思い浮かんでしまったよ。
一段下に座るエルフィは完全に寝ちゃっているし、エリーシアまで眠そうだ。
首相と打ち合わせた段取りだと、もうすぐこの話も終わって実質的な取り決めの確認を行う事になる。
「魔国においても、我らの活動は可能であると聞いておりますが」
「ヘブンズ教の宗教活動は許可しよう。だが商売人と同様に教会の建物や土地、活動収入に関して税金を徴収する」
「信者からの寄付についてもですか」
「そうだ。寄付も収入だからな。それこそ平等というものだ。細かな事はセイマール首相から聞いてくれるか」
心の拠り所としての宗教は認めよう。しかし子供の教育や孤児などの世話、福祉については国として責任を持って行なう。他国では教会が担っているかもしれないけど、魔国においてそれは必要ないよ。教会に子供を預けて、偏った知識で毒される事がないようにしておかないとね。
宗教による精神的な支配は、よくあることだ。教団や国を支配するのに一神教は都合がいい。神の言葉だと言えば信者は何も疑わず信じてしまう。
魔国では、国民一人ひとりが自分で物事を考える国にしていきたいからね。
「それとヘブンズ教の一派が、妖精族の羽を得るために墓を荒らしたそうだ。そちらの教義で、これは許される事なのか」
「我らの方でも調査している最中です。死者を冒涜する行為は許されるものではありません。それが異教徒であってもです」
これが穏健派と言われる教皇の方針のようだ。内部の一部過激な集団は、異教徒であれば何をしても良いと考えている者もいるそうだ。その者達をしっかりと押さえて、今の言葉を実践してもらいたいね。
丁寧な物言いの教皇だが内部抗争を勝ち抜いてきたんだろう、その瞳には鋭さが隠れているようだ。
さて、用事も済んだし帰るとするか。
教皇との話も済んで、ふと上を見上げた。そこには天井のドームに描かれた四人の獣人の神。神話を表したという壁画を、少し違和感を持って眺めた。
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