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第10章 ヘブンズ教国

第103話 友好条約2

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(今回は、教皇視点となります。)

「魔王殿は既に首都に入っておられるそうだな」
「はい、教皇様。セイマール首相と調印式について、打ち合わせを行なう予定となっています」
「国境での信者の往来については、セイマールにしかと伝えているのだろうな」
「はい、交渉のテーブルに乗せてもらえるかと。但し、何かしらの条件が出るかもしれません」

 魔国とは今まで全く関係を持ってこなかった。北の小さき国と考えておったのじゃが、まさかノルキア帝国を飲み込むとは思ってもおらなんだ。

 だが魔国内には我らの信者が大勢存在する。キノノサト国と同じように、ヘブンズ教を一切受け入れない国になってもらっては困る。

「多少の譲歩はしても良い。我らの権益を守るようセイマールに伝えよ」
「はい、教皇様」

 魔国はどのような国なのか王国より情報はもらっておるが、侮れぬ国であることは確かなようじゃな。帝国を下した軍事力、貿易による経済力や外交力にも優れ、大国に迫る勢いだとか。
 魔国は悪魔の力を借りていると聞くが、本当の事かも知れんな。我らも神の力を借りれるよう神学の研究を進めねば。

「教皇様。返礼品の目録でございます。お確かめを」

 魔国にどの程度の経済力があるか確かめようと、贈答品としてマダガスカルの首飾りの宝玉を提示したが、あっさりと了承されてしまった。お陰で返礼品を選ぶのに苦労をさせられてしまったわい。

 予が持つ首飾りは建国より二百三十年間、発見されたマダガスカル鋼の最高級品を集めた物。他国には盾を送ったと聞いていたが、薄い板状ではなく球体となると、相当な大きさの原石が必要となる。それを惜しげもなく贈るというのか……。

「ところで、魔国より疑義を持たれていた教徒の集団について、分かった事はあるのか」
「いえ。東方の原理主義者による教団と思われますが、調査は進んでおりません」

 武闘派の一団であろうが、東方辺境の情報は少ない。我が教団は三ヵ国に跨り、司祭や助祭、神父やシスターに至るまでその人員は多い。地方に行けば分派した独自の組織を作っている所もある。全てを把握する事はできぬであろうな。

 我が教団は武闘派と穏健派に大きく分かれる。予とは違う考えを持つ派閥、武闘派とは言っているが現在の信者だけを守り、他からの圧力に対抗しようとする者達。
 予は獣人の三ヵ国を越え、信じぬ者達にもヘブンズ教を広めようとしている。三代前のシルヴェス教皇様が国を越え布教活動をされた。予もそれに習いシルヴェス二世を名乗っている。

 そのためには外交手腕や相手の情勢を見る目が要る。単に戦うだけの武闘派どもとは根本的に違う。
 帝国に兵を送るなどという単純な事をしたのは武闘派の者であろう。余計な事をしてくれたものだ。

「武闘派を追い落とす材料にもなるからな。しっかり調査をするように」
「はい。教皇様の御心のままに」

 さて、あとは魔王一行の内部情報が手に入れば良いのだがな。

「魔族の元に送った者が帰ってきたら、私の部屋に来るように伝えておいてくれ」

 司教にそう伝えて自室に戻る。傍使えのシスターに言って酒と軽食を用意させる。部屋着に着替えソファーで寛いでいると扉からノックの音がした。

「教皇様。マリアンヌです」
「入れ」

 入って来たのは間もなく成人するオオカミ族の少女。身寄りのない子供を預かっている教会から有能な子供を諜報のために使っている。こんな純粋な子供が一番警戒されにくい。

「魔王一行の者と接触できたか」
「はい、魔族ではありませんが、同行している妖精族と接触しています」

 妖精族? 確かミシュロム共和国の親善大使だったか。

「魔族の誘拐事件の際に、協力して知己を得ています」
「ヴァンパイアの悪魔の能力について、分かった事はあるか」
「いいえ。誘拐事件以降、外部の者を極力遠ざけていまして、魔王本人にも会えておりません」

 首都に来ての単時間で接触できただけでも上出来ではあるな。懐柔しやすい成人の男がいたなら、別途シスターを送り込めばいいだろう。いや、こんな年端のいかぬ子供が良いという者もいるか。

「引き続き調査を進めよ。こちらが呼ぶまではいつもの手紙で連絡を寄こすように」
「はい、教皇様。我らに神の思し召しがありますように」

 その少女が片膝を折り、祈りの仕草を見せる。
 さて、これで打てる手は打った。数日後には直接魔王と面会し、その人となりを見極めねばならん。

 話の通ずる者であれば、まずは魔国内で活動できるようにせねばな。こちらの切れるカードは少ない。強硬策は難しいか。
 魔王やその側近の内情を知れば、柔軟な対応も取れそうじゃが……。これを機に魔国と関係のある他国まで影響を伸ばせれば良いのじゃがな。
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