上 下
157 / 212
第10章 ヘブンズ教国

第0.7話 プロローグ5

しおりを挟む
「しかし町田さん達も大胆な事を考えますね。人間とのキメラとは……」

 今まで研究してきた成果が動物との融合だと言うなら、まずは実験してみる事に反対はない。だが人の形を保てなくなった者の意識がどうなるのか、それだけが不安材料だな。


 その後の実験で、猿と狼の融合実験が行なわれた。外見は手足が長く、直立のできるような狼の体の生物が出来上がる。動作はぎこちないが、成長するにつれ動きもスムーズになる。時折培養液に入れて急成長させたが魔素に侵される事もなく寿命まで生きる事ができている。

「次は人体実験だな」
「ええ、今度は上手くいきそうだわ」

 太陽系より持ち込んだ一万人もの冷凍受精卵。一旦解凍し分裂した細胞を取り出し、元の受精卵は再度冷凍保存する。
 この分裂した細胞に、成功例の多い爬虫類の外殻遺伝子を結合させる。
 人工子宮内で成長させ、その途中経過を観察する。

「なるほどな、しっぽやエラなどが残ったまま成長するんだな」
「手足の形や脳の大きさは人に近くなります。このまま魔素に打ち勝って、成長してくれればいいのですが」

 その後も成長を続け、生まれてきたのは二足歩行が可能な大型のトカゲのような生物。キメラとしては成功だな。
 睡眠学習と容器内での急成長を繰り返すと、言葉を理解する程度の知能を持つ成体へと成長した。

「後はどれだけの知識を持たせられるかだな」
「脳の容量としては人間並なんですが、睡眠学習では限界があります。ここは記憶のコピーを行なう他ないと思われます」

 町田氏の言うようにこの施設の保管されている二千人分の記憶データ、それをコピーし新たな生命体に書き写すのが一番早いか。
 ここに居る五十人以上の研究員も人間の受精卵を成長させて、あらかじめ記録されている脳細胞の配列を定着させて、科学文明の知識と個人の記憶を移植した者達だ。

 新たに生まれたこの生命体に、記憶を移植する事は可能だ。
 だが実験を進めると、人間の記憶を移植した者は発狂し自殺するか廃人となってしまう。

「精神的な拒絶反応というものでしょうか」
「脳は人間でも、体はキメラだからな。精神が持たんのだろうな」

 魔素に打ち勝つ生命体としては完成しているが、充分な知識を持たずに地上に降りると、他の獣に食われて絶滅するだけだ。

「それなら俺の脳神経回路を転写して、この生命体に移植してくれ」
「五十嵐、本気か! 神経回路をスキャンすれば一定の確率で脳が破壊されるぞ」

 スキャンにより本体が死亡する可能性がある。死亡せずとも何らかの障害が残ってしまう。

「ここまで実験が成功しているんだ。人がこの惑星で生きていくためには、この方法しかないだろう」

 五十嵐の決意は固いようだな。爬虫類班の研究員の何人もが、同じように志願している。
 五十嵐達の意思を尊重して、意識の定着実験を行なった。精神的な強さからか、実験は成功し大型のトカゲの体に五十嵐の記憶が定着でき、精神的異常をきたすこともない。

「少し記憶の欠損があるようだが、大丈夫だ。俺達を地上に降ろしてくれるか」
「ああ、しっかりと頼むぞ」

 睡眠学習で言葉を理解する大型のトカゲの生命体が二百体と、研究員の記憶を持つ生命体が地上に降ろされた。
 地上での実験はこれからだ。この実験が成功すれば、次は俺達、哺乳類班が地上に降りる。五十嵐、実験の成功はお前の肩にかかっているぞ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【改訂版】目指せ遥かなるスローライフ!~放り出された異世界でモフモフと生き抜く異世界暮らし~

水瀬 とろん
ファンタジー
「今のわたしでは・・ここにある・・それだけ」白い部屋で目覚めた俺は、獣人達のいる魔法世界に一人放り出された。女神様にもらえたものはサバイバルグッズと1本の剣だけ。 これだけで俺はこの世界を生き抜かないといけないのか? あそこにいるのはオオカミ獣人の女の子か。モフモフを愛して止まない俺が、この世界で生き抜くためジタバタしながらも目指すは、スローライフ。 無双などできない普通の俺が、科学知識を武器にこの世界の不思議に挑んでいく、俺の異世界暮らし。 ―――――――――――――――――――――――――――― 完結した小説を改訂し、できた話から順次更新しています。基本毎日更新します。 ◇基本的にのんびりと、仲間と共にする異世界の日常を綴った物語です。 ※セルフレイティング(残酷・暴力・性描写有り)作品

彼氏に身体を捧げると言ったけど騙されて人形にされた!

ジャン・幸田
SF
 あたし姶良夏海。コスプレが趣味の役者志望のフリーターで、あるとき付き合っていた彼氏の八郎丸匡に頼まれたのよ。十日間連続してコスプレしてくれって。    それで応じたのは良いけど、彼ったらこともあろうにあたしを改造したのよ生きたラブドールに! そりゃムツミゴトの最中にあなたに身体を捧げるなんていったこともあるけど、実行する意味が違うってば! こんな状態で本当に元に戻るのか教えてよ! 匡! *いわゆる人形化(人体改造)作品です。空想の科学技術による作品ですが、そのような作品は倫理的に問題のある描写と思われる方は閲覧をパスしてください。

バイクごと異世界に転移したので美人店主と宅配弁当屋はじめました

福山陽士
ファンタジー
弁当屋でバイトをしていた大鳳正義《おおほうまさよし》は、突然宅配バイクごと異世界に転移してしまった。 現代日本とは何もかも違う世界に途方に暮れていた、その時。 「君、どうしたの?」 親切な女性、カルディナに助けてもらう。 カルディナは立地が悪すぎて今にも潰れそうになっている、定食屋の店主だった。 正義は助けてもらったお礼に「宅配をすればどう?」と提案。 カルディナの親友、魔法使いのララーベリントと共に店の再建に励むこととなったのだった。 『温かい料理を運ぶ』という概念がない世界で、みんなに美味しい料理を届けていく話。 ※のんびり進行です

航海のお供のサポートロボが新妻のような気がする?

ジャン・幸田
恋愛
 遥か未来。ロバーツは恒星間輸送部隊にただ一人の人間の男が指揮官として搭乗していた。彼の横には女性型サポートロボの登録記号USR100023”マリー”がいた。  だがマリーは嫉妬深いし妻のように誘ってくるし、なんか結婚したばかりの妻みたいであった。妻を裏切りたくないと思っていたけど、次第に惹かれてしまい・・・ 予定では一万字前後のショートになります。一部、人体改造の描写がありますので、苦手な人は回避してください。

日は沈まず

ミリタリー好きの人
歴史・時代
1929年世界恐慌により大日本帝國も含め世界は大恐慌に陥る。これに対し大日本帝國は満州事変で満州を勢力圏に置き、積極的に工場や造船所などを建造し、経済再建と大幅な軍備拡張に成功する。そして1937年大日本帝國は志那事変をきっかけに戦争の道に走っていくことになる。当初、帝國軍は順調に進撃していたが、英米の援蔣ルートによる援助と和平の断念により戦争は泥沼化していくことになった。さらに1941年には英米とも戦争は避けられなくなっていた・・・あくまでも趣味の範囲での制作です。なので文章がおかしい場合もあります。 また参考資料も乏しいので設定がおかしい場合がありますがご了承ください。また、おかしな部分を次々に直していくので最初見た時から内容がかなり変わっている場合がありますので何か前の話と一致していないところがあった場合前の話を見直して見てください。おかしなところがあったら感想でお伝えしてもらえると幸いです。表紙は自作です。

進学できないので就職口として機械娘戦闘員になりましたが、適正は最高だそうです。

ジャン・幸田
SF
 銀河系の星間国家連合の保護下に入った地球社会の時代。高校卒業を控えた青砥朱音は就職指導室に貼られていたポスターが目に入った。  それは、地球人の身体と機械服を融合させた戦闘員の募集だった。そんなの優秀な者しか選ばれないとの進路指導官の声を無視し応募したところ、トントン拍子に話が進み・・・  思い付きで人生を変えてしまった一人の少女の物語である!  

残酷な淫薬は丸出しの恥部目掛けて吹き付けられる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

売られていた奴隷は裏切られた元婚約者でした。

狼狼3
恋愛
私は先日婚約者に裏切られた。昔の頃から婚約者だった彼とは、心が通じ合っていると思っていたのに、裏切られた私はもの凄いショックを受けた。 「婚約者様のことでショックをお受けしているのなら、裏切ったりしない奴隷を買ってみては如何ですか?」 執事の一言で、気分転換も兼ねて奴隷が売っている市場に行ってみることに。すると、そこに居たのはーー 「マルクス?」 昔の頃からよく一緒に居た、元婚約者でした。

処理中です...