152 / 212
第9章 第二次ノルキア帝国戦争
第93話 帝国南部、最後の城1
しおりを挟む
「閣下。魔国軍が北と西より迫って来ております」
「魔国は我が父上の仇。ここで討ち取るぞ」
「はっ!」
師団長の報告を受け、徹底して戦う事を指示する。武で帝国に名を馳せた我がガリアトス家が、ここで引き下がるわけにはいかぬ。
御父上は先の魔国戦争の責任を取り、潔く死を選んだ。ガリアトス家の誇りを傷つける事のない生き様であった。
だが家督を継いだと同時に、帝国南部地方で今まで懇意にしてきた周辺の諸侯が離れていった。今では長年付き合ってきたウェルター伯爵だけが味方となってくれている。
「隣りの領地は既に魔国に占領されてしまいました。ガリアトス侯爵様のお力を借りて、共同で対処したいと思っております」
「ウェルター卿の全兵力をお貸し願えるとは、誠にありがたい。何としても魔国を討ち滅ぼさねば、帝国自体が危うくなる」
「亡くなられた、スレイユ・フォン・ガリアトス様には御恩がございます。我が一族も、ここでその恩を返そうと思っております」
ウェルター卿は片膝を床に突き、腕を水平に胸の前に置いて忠誠を示す。やはり頼れるのは絆深き盟友。大切にせねばな。
離れていった諸侯達は、結局魔国の軍勢に押し潰された。一兵も残らなかった領地もあると聞く。
「北と西の魔国軍は合わせて約二万人。我らも義勇兵と傭兵を集めましたので数ではそうそう劣っておりません」
皇帝の命とはいえ、戦争のために我が領内から一万もの兵を出したのは痛い。現在は敗退し帝都の守りに就いているそうだが、ここに帰ってくるのは負傷兵と戦死者の名簿のみ。今の皇帝に戦いの才はなく無駄死にさせるばかりだ。
「魔国の軍は、ここまで短期間の戦闘で全ての諸侯を打ち負かしておる。正面からでは分が悪いか……」
「ですが、ガリアトス侯爵様には帝国随一の飛行部隊があります。戦力では引けを取りますまい」
大量の飛行部隊があれば……。御父上が最期に残した無念の言葉。その時に現存する飛行ユニットを解析したが仕組みが分からず、皇帝陛下が懇意にしている大司教様の力を借りた。
ヘブンズ教国に持ち帰り調べてもらった結果、飛行ユニットを生産する事に成功したと連絡が入った。金は掛かったが、我らも独自の飛行部隊を編成する事ができている。
飛行ユニットは皇帝陛下にも献上されたようだが、数としてはそれに次ぐ数量を確保する我が領内。充分な訓練を施した強力な飛行部隊なら、魔国に勝利する事もできよう。
「帝都から帰還した負傷兵によると、数は少ないが魔国軍も飛行ユニットが存在するようだ」
「聞きましたぞ。城のような物が空を飛び岩を降らすとか。魔族とは測り知れない生き物ですな」
「だが敵は二手に分かれている。それを利用し確実に潰せばよい」
二つ合わせれば我らと互角の兵力となるが、合流する前に個別に戦えば二倍の兵力で各個撃破が可能だ。
「北側には川が流れておる。簡単に侵攻も合流もできまい」
「敵はそうとも知らず、真っ直ぐこちらに向かっている様子。地の利はこちらにありますぞ」
そうだこの領地の事は我らが一番よく知っている。南方には山脈があり開かれているのは東と西のみ。
「まだ色よい返事はもらえておらんが、キノノサト国へも援軍の要請はしておる。来てくれれば良いのだが……」
「西の国境も閉鎖され、援軍が来るとすればそちらだけでしょうな」
「先の王国戦争の折、宮廷魔導士様の放たれたSS級魔術は凄まじいものであった。あの方が来てくれれば戦局も好転するのだがな」
御父上と一緒に戦場で見たあの光景は忘れられるものではない。あの大魔術により我が帝国軍は王国より領地を奪う事ができたのだからな。
「魔国軍の進路はそのままか」
「はっ!」
「ならば狙うは西の軍か」
北から迫る軍には魔王が居るという情報が入っている。西も北も兵士の数は同じだが戦うのであれば弱い西からであろう。
「よし、全軍出撃だ。全兵力を以って西から侵攻する魔国軍を叩くぞ」
新鋭の飛行部隊三百五十人を含む、総勢一万八千の軍を従えて西へと進む。敵は既に森を出た平地に陣を構え、土塁まで築いている。敵の射程は長い。その射程に入らない位置で陣を構える。
「騎馬隊で敵に突っ込め。後方からの攻撃位置が分かり次第、陣地防衛以外の飛行部隊の全てを向かわせよ」
出し惜しみは無しだ。戦力が半分の部隊に全力で当たる。北の魔王のいる本隊と合流させない事が肝要だからな。
予想通り、敵陣に突っ込む騎馬に対して森から攻撃があった。
「敵陣の真後ろ。森の中より白い煙が上がっております」
「よし、すぐに飛行隊を向かわせよ」
森に隠れたつもりだろうが、我が飛行隊の監視網からは逃げられんぞ。飛行隊は敵陣を飛び越え白い煙の方へ飛んで行く。
「敵の後方より飛行隊、急速接近!」
「敵の数は!」
「十五から二十と思われます」
敵にも強力な飛行隊がいる事は分かっている。だがその数ならばこちらが有利だ。敵陣の上空付近で戦闘が行われている。銀色にきらめく敵の飛行隊。固まって飛ぶ我が飛行隊を切り裂くように飛んでいる。
その度に飛行隊員が撃ち落とされていく。逃げようと高度を下げると地上からの魔法攻撃の餌食となる。
「どういうことだ! たったあれだけの数で、我らを圧倒しているではないか」
「敵飛行隊、北からも急速接近! 数、二十です!」
北から! 魔王のいる部隊から川を越えて増援の飛行部隊がやって来たのか!
爆音を響かせて我が陣地の上空を飛ぶ敵の飛行部隊の速度に驚かされた。その速さは馬の比ではなく、あっという間に戦闘区域へと突っ込んでいく。
四十の銀色の飛行物体が空を蹂躙する。
「引け、飛行隊を引かせろ!」
撤退の狼煙を上げさせる。これだけ大量の飛行隊を以ってしても、敵の後方へ辿りつけないのか……。三百二十出撃させた内、戻って来た兵は百四十人程。半数以上が落とされただと。そして敵の被害はゼロ……。大人と子供の差以上ではないか。
「魔国は我が父上の仇。ここで討ち取るぞ」
「はっ!」
師団長の報告を受け、徹底して戦う事を指示する。武で帝国に名を馳せた我がガリアトス家が、ここで引き下がるわけにはいかぬ。
御父上は先の魔国戦争の責任を取り、潔く死を選んだ。ガリアトス家の誇りを傷つける事のない生き様であった。
だが家督を継いだと同時に、帝国南部地方で今まで懇意にしてきた周辺の諸侯が離れていった。今では長年付き合ってきたウェルター伯爵だけが味方となってくれている。
「隣りの領地は既に魔国に占領されてしまいました。ガリアトス侯爵様のお力を借りて、共同で対処したいと思っております」
「ウェルター卿の全兵力をお貸し願えるとは、誠にありがたい。何としても魔国を討ち滅ぼさねば、帝国自体が危うくなる」
「亡くなられた、スレイユ・フォン・ガリアトス様には御恩がございます。我が一族も、ここでその恩を返そうと思っております」
ウェルター卿は片膝を床に突き、腕を水平に胸の前に置いて忠誠を示す。やはり頼れるのは絆深き盟友。大切にせねばな。
離れていった諸侯達は、結局魔国の軍勢に押し潰された。一兵も残らなかった領地もあると聞く。
「北と西の魔国軍は合わせて約二万人。我らも義勇兵と傭兵を集めましたので数ではそうそう劣っておりません」
皇帝の命とはいえ、戦争のために我が領内から一万もの兵を出したのは痛い。現在は敗退し帝都の守りに就いているそうだが、ここに帰ってくるのは負傷兵と戦死者の名簿のみ。今の皇帝に戦いの才はなく無駄死にさせるばかりだ。
「魔国の軍は、ここまで短期間の戦闘で全ての諸侯を打ち負かしておる。正面からでは分が悪いか……」
「ですが、ガリアトス侯爵様には帝国随一の飛行部隊があります。戦力では引けを取りますまい」
大量の飛行部隊があれば……。御父上が最期に残した無念の言葉。その時に現存する飛行ユニットを解析したが仕組みが分からず、皇帝陛下が懇意にしている大司教様の力を借りた。
ヘブンズ教国に持ち帰り調べてもらった結果、飛行ユニットを生産する事に成功したと連絡が入った。金は掛かったが、我らも独自の飛行部隊を編成する事ができている。
飛行ユニットは皇帝陛下にも献上されたようだが、数としてはそれに次ぐ数量を確保する我が領内。充分な訓練を施した強力な飛行部隊なら、魔国に勝利する事もできよう。
「帝都から帰還した負傷兵によると、数は少ないが魔国軍も飛行ユニットが存在するようだ」
「聞きましたぞ。城のような物が空を飛び岩を降らすとか。魔族とは測り知れない生き物ですな」
「だが敵は二手に分かれている。それを利用し確実に潰せばよい」
二つ合わせれば我らと互角の兵力となるが、合流する前に個別に戦えば二倍の兵力で各個撃破が可能だ。
「北側には川が流れておる。簡単に侵攻も合流もできまい」
「敵はそうとも知らず、真っ直ぐこちらに向かっている様子。地の利はこちらにありますぞ」
そうだこの領地の事は我らが一番よく知っている。南方には山脈があり開かれているのは東と西のみ。
「まだ色よい返事はもらえておらんが、キノノサト国へも援軍の要請はしておる。来てくれれば良いのだが……」
「西の国境も閉鎖され、援軍が来るとすればそちらだけでしょうな」
「先の王国戦争の折、宮廷魔導士様の放たれたSS級魔術は凄まじいものであった。あの方が来てくれれば戦局も好転するのだがな」
御父上と一緒に戦場で見たあの光景は忘れられるものではない。あの大魔術により我が帝国軍は王国より領地を奪う事ができたのだからな。
「魔国軍の進路はそのままか」
「はっ!」
「ならば狙うは西の軍か」
北から迫る軍には魔王が居るという情報が入っている。西も北も兵士の数は同じだが戦うのであれば弱い西からであろう。
「よし、全軍出撃だ。全兵力を以って西から侵攻する魔国軍を叩くぞ」
新鋭の飛行部隊三百五十人を含む、総勢一万八千の軍を従えて西へと進む。敵は既に森を出た平地に陣を構え、土塁まで築いている。敵の射程は長い。その射程に入らない位置で陣を構える。
「騎馬隊で敵に突っ込め。後方からの攻撃位置が分かり次第、陣地防衛以外の飛行部隊の全てを向かわせよ」
出し惜しみは無しだ。戦力が半分の部隊に全力で当たる。北の魔王のいる本隊と合流させない事が肝要だからな。
予想通り、敵陣に突っ込む騎馬に対して森から攻撃があった。
「敵陣の真後ろ。森の中より白い煙が上がっております」
「よし、すぐに飛行隊を向かわせよ」
森に隠れたつもりだろうが、我が飛行隊の監視網からは逃げられんぞ。飛行隊は敵陣を飛び越え白い煙の方へ飛んで行く。
「敵の後方より飛行隊、急速接近!」
「敵の数は!」
「十五から二十と思われます」
敵にも強力な飛行隊がいる事は分かっている。だがその数ならばこちらが有利だ。敵陣の上空付近で戦闘が行われている。銀色にきらめく敵の飛行隊。固まって飛ぶ我が飛行隊を切り裂くように飛んでいる。
その度に飛行隊員が撃ち落とされていく。逃げようと高度を下げると地上からの魔法攻撃の餌食となる。
「どういうことだ! たったあれだけの数で、我らを圧倒しているではないか」
「敵飛行隊、北からも急速接近! 数、二十です!」
北から! 魔王のいる部隊から川を越えて増援の飛行部隊がやって来たのか!
爆音を響かせて我が陣地の上空を飛ぶ敵の飛行部隊の速度に驚かされた。その速さは馬の比ではなく、あっという間に戦闘区域へと突っ込んでいく。
四十の銀色の飛行物体が空を蹂躙する。
「引け、飛行隊を引かせろ!」
撤退の狼煙を上げさせる。これだけ大量の飛行隊を以ってしても、敵の後方へ辿りつけないのか……。三百二十出撃させた内、戻って来た兵は百四十人程。半数以上が落とされただと。そして敵の被害はゼロ……。大人と子供の差以上ではないか。
1
お気に入りに追加
110
あなたにおすすめの小説
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった
お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。
全力でお母さんと幸せを手に入れます
ーーー
カムイイムカです
今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします
少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^
最後まで行かないシリーズですのでご了承ください
23話でおしまいになります
異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。
星の国のマジシャン
ファンタジー
引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。
そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。
本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。
この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~
平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。
三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。
そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。
アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。
襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。
果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる