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第9章 第二次ノルキア帝国戦争

第92話 帝国南部、侵攻2

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 昨日。予定通りお城の城門を砲撃で破壊した。集中砲火で城門だけでなく周辺の城壁も破壊され、外部から街の様子が見て取れる状態だ。
 敵は正面ではなく、左右の城門二つに分かれて軍を終結させたようね。ここからだと射程外の位置に、騎馬隊や歩兵部隊がいるのが分かる。

「敵が動いたぞ。砲撃開始だ!」

 こちらは既に左右に照準を合わせている。部隊長の発する砲撃開始命令と同時に発砲する。

 しばらくすると砲撃止めの合図。どうしたんだろうと双眼鏡で敵を見ると、最初の位置よりも後ろで待機している。

「あれじゃ、届かないね。もう少し前進してもいいかもしれないよ」

 砲撃部隊の小隊長から進言があった。ここはいつもと違って平地で、森の木に邪魔されずお城まで見通すことができる。部隊長に移動させるか聞いてみると、双眼鏡を片手にもう少し様子を見ようと返答した。

 平地で移動は簡単だけど、移動している間砲撃をする事はできない。でも小隊ごとの移動ならさほど影響はない。敵の攻撃がない今、移動するチャンスではあるんだけど……。
 その後、敵がまた前進してきて砲撃開始の合図があった。でもすぐに敵は退いていく。

「どうも様子がおかしいわ。敵の飛行部隊に動きはありませんか」

 部隊長に聞いてみたけど、前方の指揮官からの報告はないという事だった。ここからだと数の少ない飛行部隊の動きまで見る事はできない。

「エルフィさんが監視しているはずだけど……」

 連絡がないという事は、こちらに向かって来る飛行部隊はいないという事になる。でも……。

「敵襲!! 左の森から敵兵が現れました!」

 森から! 飛行部隊じゃなくて、地上部隊!? 森から魔法が飛んできて、カノン砲が横倒しになるのが見えた。
 護衛の魔術師部隊と弓部隊が反撃しているけど、木の陰に隠れて敵の姿が見えず当てられないみたい。別の方向からも魔法が飛んで来る。

「みんな! こっちへ避難して!!」

 砲塔よりもみんなの命の方が大事だわ。部隊長にも言って避難するように指示を出した。
 すると今度は上空からの攻撃!! 敵の飛行隊!

「いえ、あれは兄さまだわ!!」

 シームに跨った兄さまが森に向かってS級の範囲魔術を連発している。シームもくちばしから炎を吐いて攻撃する。
 森に向かう何本もの氷の槍や、大きな岩がいくつも降り注ぐ。森の木々が大きな音を立てて倒れ、岩の衝撃音が地響きとなって響いてくる。

「あ、あれ、あなたのお兄さんよね。すごい攻撃力じゃない」

 この部隊の人達は、最前線で使われるS級魔術を見たことがない。森の近くからこちらに避難してきた人達が、たった一人で広範囲に攻撃する兄さまの魔術を驚愕の眼差しで見つめる。
 遅れてきた戦闘機も攻撃参加して、森から追い出された敵兵が、護衛の魔術師の攻撃で次々に倒されていく。

「ルルーチア!! 怪我はないか!」

 敵の攻撃も止み、上空からシームが私の近くに降りてきて、兄さまが勢いよく飛び降り駆け寄ってくる。戦闘を終えたばかりで緊張が冷めやらぬのか、私を心配してか少し怖い顔で近づき、私を抱きしめて無事を確かめる。

「私は大丈夫です」
「本当に大丈夫なんだな!」
「に、兄さま、少し苦しいです」

 ギュッと抱きしめてきて、息もできないほどだ。

「でも、どうして」
「敵の様子がおかしかったんで注意していたら、シームが森に敵がいるのを教えてくれたんだ。間に合って良かった……本当に良かった」

 兄さまが微かに震えている。
 兄さまも敵の様子が変だと気が付いて、森の方にも注意を払っていたそうだ。最前線の部隊から単独で急ぎ駆けつけて私達を守ってくれた。
 大粒の汗が滴る兄さまに、ウエストポーチに入れていたタオルを渡して汗を拭ってもらう。

「多分前線でも敵が動く。ルルーチア、砲撃部隊を立て直して砲撃支援をしてくれ」
「はい、兄さま」

 会えたのも束の間、兄さまはまたシームに跨って最前線の部隊へと戻って行った。
 怪我人が何人か出ているけど、砲撃を続行する事は可能だわ。その後すぐ、砲撃開始の指示が来て半分のカノン砲で砲撃を開始する。

 避難してきた砲撃手を元の小隊に戻して、そちらからも砲撃を開始した。倒れて使えなくなった砲台は三門だけ。これなら火力で負けることはないわ。

「私達がちゃんとしないと、前線の人達が怪我をしてしまうのよ。みんな頑張って」

 前進してくる敵に向かって次々に砲撃をしていく。砲弾を運び、砲身に詰めて照準を合わせて撃つ。訓練通り素早く砲撃を繰り返す。私達の砲撃で兄さまを助けなきゃ。

「砲撃、止め!」

 戦場での決着がついたようだわ。砲撃部隊のみんなは疲れ果てて地面に座り込んだ。



「此度の事は、私の作戦ミス。ルルーチア殿、どうか許されよ」

 レイボンド司令官に頭を下げられてしまった。

「もしフィフィロ殿が駆けつけてくれなかったら、リビティナ様より預かった大切な砲撃部隊を失うところであった」
「フィフィロ殿。誠にありがとうございました」

 側近の人達も、兄さまと私に謝ってくれた。
 ここは帝国の地。地の利は敵にある。油断していると隙を突かれる事になってしまう。

「そうよ、あんた達。これからはしっかりと作戦を練る事ね。シームにも危険な事をさせたんだから、後でシームにも謝って頂戴ね」

 エルフィさんは司令官に文句を言って、シーム用の餌をもっとくれるようにと要求している。ちゃっかりしているわね。


 その後、国境沿いのもう一つのお城も落として、内陸部へと転進して進軍する事になった。
 その先には、内陸部を進んでいるリビティナ様の部隊がいる。この先に居る最後の貴族を倒せば、南部地方の占領は全て終わるわ。

「これからもオレは必ずルルーチアを守るよ」
「ええ、私も兄さまのお役に立って見せます」

 兄さまがいれば、怖いものは何もないわ。さあ、最後のお城へと向かいましょう。
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