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第9章 第二次ノルキア帝国戦争

第86話 魔国の新兵器2

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「ウィッチア様、舌を噛まぬように注意してください」
「ええ、分かったわ」
「では、出発します」

 首都にあるお城から空に浮かび上がるまでは、私が開発した飛行ユニットと同じだったけど、その後の速さとシートに押し付けられる感覚に驚いた。射撃訓練の時とは全然違って、リビティナが飛ぶ速度の何倍もの速さで移動する。新兵器というだけの事はあるわ。

「それにしても速いわね。馬の何倍くらいの速度なのかしら」
「さあ、どれほどなのか私にも分かりませんな。城から戦場まで一時間と言ったところでしょうか」

 ワタシの前の席で操縦するのは、この航空隊を率いる隊長さん。魔国のクマ族の兵士でワタシよりも随分と体が大きい。クマ族に合わせた座席なのかワタシには大きすぎるわ。

「私は中肉中背ですが、私より大きな隊員も乗れるようになってますな。あまりにも大きな奴は乗れなくて悔しがっていましたが」

 ワタシが飛行部隊を編成した時も小柄な兵士を選んだ。だから女性が多かったけど、この航空部隊は男の普通の兵士が乗っている。それにこの機体も金属でできていた。総重量はすごく重いはずだわ。

「ハンジュウリョク装置というのがよくできた物らしくて、重さはあまり関係ないそうです」

 羽の魔道具と同じ構造だろうけど、外から見ても羽はどこにもなかった。速く飛ぶためだそうで細長い筒の中に座席が二つ。
 機体の横と後ろの左右には、小さな二枚の横板が飛び出している。それと一番後には縦板が一枚取り付けられていたけど、いったい何のための部品なのかさっぱり分からないわ。

 前の戦争で魔国は倍ほどの領土を手に入れている。首都のお城から国境までは、馬車で旅するなら十五日以上かかると思うんだけど、隊長さんの言うように一時間も掛からず国境近くまで到着した。やはり驚異的な速度で飛んでいるわね。

 既に作戦は開始されている。ここは戦場の上空。エンジンを切り音を立てずに魔道具の力だけで飛行する。敵の飛行部隊を誘い込んでいるはずだけど……。

「いたわよ、帝国の飛行部隊」

 眼下の林の上空。白い煙が立ち昇り、その場所へと飛んで向かう飛行部隊の兵士達。何人いるか分からないけど、黒い雲が動くように移動している。
 よくあれだけの数の飛行隊を編成できたわね。でも、その遥か上空にいるワタシ達には気付いていないようね。

「では、攻撃に移ります。持ち手をしっかりと握っておいてください」

 機体が右に傾いたと思ったら、一気に下に向かって急降下していった。訓練はしたけど、崖から突き落とされたようなこの感覚に慣れる事はできないわ。
 歯を食いしばり身を固くして前方だけを見る。前に座る操縦者は一段低い位置にいて、ガラスの風防越しに敵兵がどんどん近づいてくるのが見える。

 機体の側面から小さな石魔法がいくつも発射された。打ち抜かれた兵士が、黒い雲のような兵団から雨のように地上へと落ちていく。
 二十機の戦闘機が一斉に攻撃し、飛行部隊の脇をすり抜け再度上昇する。帝国軍は何が起こったか分からないようで攻撃すらしてこない。

 戦闘機部隊はV字型の五機編隊に分かれて旋回し、一糸乱れぬ様子で攻撃を行なう。ようやく敵とみなしたのか魔法攻撃をしてくるけど、飛ぶスピードが全然違うわ。相手の攻撃は遥か後ろを通過して当たる気配すらない。

「これが一対十の戦力差……」

 いいえ、それ以上だわ。こちらは狙い撃ちできるのに敵の攻撃は当たらない。一方的に蹂躙するように敵兵を撃ち落としていく。
 三百程いた敵兵が今はもう見当たらない……。目の前で起こったことが信じられないわ。

「ウィッチア様。このまま敵陣に向かいます」

 各編隊が自陣を飛び越え、敵陣へと向かって行く。地上から攻撃されない高度を飛んでいると、敵の飛行部隊が上昇してきた。
 さっきの攻防を見ていたのか、すぐに攻撃を始めている。
 機体の下の方から、カンカンカンという音がした。石なのか氷なのか、敵の魔法攻撃だわ。

「当ててきたようですな。ですが、あの程度の攻撃ではびくともしませんからご安心を。こちらも攻撃を開始いたしましょう」

 この機体は、騎士が持つ盾程度の強度があるそうだ。A級魔術なら、正面からまともに食らわない限り墜落する事はないと言っている。
 スピードを上げ旋回しながら、敵の飛行部隊を次々に撃墜していく。敵の飛行部隊にS級魔術を撃てる、貴重な特一級魔術師がいるはずもない。この空では無敵という事ね。

 上がって来た全ての敵兵を撃ち落とした後、魔国軍の陣地へ戻り後方へと着陸する。

「みんなよくやってくれたわ。あれ、ウィッチアじゃない。あんたも来てたの」

 出迎えたのは、妖精族……たしかエルフィという名前だったわね。

「あんた、親善大使じゃなかったの。なんでこんな戦場に来てるのよ」
「そんなのあたしの勝手でしょう。あんたこそ帝国軍と戦っても大丈夫なの。それって裏切り行為じゃない」
「まあ、まあ。二人ともそのくらいにしときな。航空隊の者は向こうのテントで休んでくれ」

 戦地には魔族の者を指揮官として配置していると聞いてたけど、ネイトス首相までいるのね。その奥にはロックバードが座っていて、首だけをこちらに向けている。
 攻撃するつもりはないようだけど、あれは一体何なのかしら。

 隊員の人達が首相と気兼ねなく言葉を交わしている。ワタシが今まで見てきた戦地とは全然雰囲気が違うわ。

「あのう、ネイトスさん。砲撃を開始してもいいでしょうか」
「ああ、頼む。飛行部隊はいなくなったからな。ルルーチア、派手にやってくれ」
「はい」

 こんな小さな女の子まで。どこかで見た気もするけど、誰だったかしら。
 その後、後方から小さな爆発音がいくつも聞こえて来て、敵陣を攻撃しているようね。確か敵は二万五千の兵力だったけど、その兵達が為す術もなく退いていく。
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