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第9章 第二次ノルキア帝国戦争

第84話 第二次魔国戦争

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「エリーシア。今回、キノノサト国は関与しているのかい」
「いいえ、そのような情報は入っておりません」
「だが、村を襲ったのは飛行部隊だったと、国境警備隊から報告が入っているんだがな」

 森を越えた兵士の背中には羽が生えていたけど、妖精族ではなかったと村人の証言がある。帝国には無いはずの飛行ユニットが使用された可能性が高い。

「最近、巫女様とウィッチアに会ったけど、キノノサト国が動いているようには感じなかったね」

 大きな軍事行動をすれば、宮廷にいる巫女様の耳に入るはずだ。巫女様までが極秘裏に動くことはないだろうし、あのウィッチアが嘘をつけるとも思えない。
 大将軍が仲介役となってまとめた和平条約。確定した国境線を一年も経たず踏み越え、再度戦争を起こされては大将軍としての面子も丸つぶれになる。今回の件に鬼人族は絡んでいないと思いたいけどね。

「すると、前回と同じようにヘブンズ教国の支援を受けているという事でしょうか」

 まあ、ネイトスの推測は当たっているだろうけど、遠く国交のないヘブンズ教国の情報はあまりない。

「しかし、ビヨルト皇帝が熱心なヘブンズ教の信者である事は確かです」

 帝国の南部はヘブンズ教国と陸続き。巡礼者の振りをして兵士を帝国に入れる事は簡単だと言う。

「ボクも辺境伯から、ヘブンズ教国の情報が無いか聞きに行ってくるよ。エリーシアは念のため、キノノサト国が関与していないか確かめてくれるかい」

 キノノサト国へも親書を送って真意を確かめてみよう。



 その後も何度か、帝国の飛行隊が緩衝地帯である森を飛び越えている。こちらも警備隊を国境に貼りつかせず、近くの村や町を警護する形に変えた。

 帝国に送った親書の回答は、何かの手違いだとか調査中などというあやふやな物だった。

「明らかに時間稼ぎをしていますね。リビティナ様、本格的な侵攻は近いです」

 エリーシアの見解では、戦争の準備段階だと言う。こちらも戦争の準備を早めておこう。


 しばらくして、今度はキノノサト国に送った親書の返事が帰って来た。しかしそれは意外なものだった。
 キノノサト国からの回答では、今回帝国が行なった越境に関しては一切無関係だと書かれていた。その証拠として、帝国の事に詳しいウィッチアを軍事顧問としてこちらに送ると言ってきた。

「えっえ~、ウィッチアがお城に来るの~」
「多分、ノルキア帝国の動きを直接見たいという事もあると思いますよ」

 同盟を組んでいる帝国が、勝手な動きをしていることに危機感を覚えたのかもしれないね。
 何にしても、ウィッチアから詳細な情報がもらえるのは歓迎すべき事だ。


 数日後、ウィッチアが一人でお城にやって来た。

「リビティナ、来てやったわよ」
「今度はちゃんと巫女様の許可をもらってきたんだろうね」
「当たり前じゃない。大将軍も許可しているわよ」

 軍事顧問とはいえ、同盟国でもない魔国に宮廷魔導士を派遣するなど前代未聞の事だからね。

「今回の事は大将軍も相当怒っているわよ。同盟の事も考え直そうと言ってたぐらいだからね」
「ボクとしても、今回ばかりは徹底的に戦うつもりなんだ。ウィッチアが協力してくれると助かるよ」

 とはいえ、一応まだ同盟関係にあるから、ウィッチアには直接戦闘に参加しないようにと言われているようだ。

「で、あたしの部屋はどこなのよ。ここ、お風呂あるんでしょうね」
「お城の地下に大浴場を作ってるんだ。後でゆっくり汗を流すといいよ。荷物はそれだけなのかい」

 手荷物一つだけ持って飛んで来たようだね。

「あんたらが困っているって言うから、急いで来てやったのよ。他の荷物は後から馬車で送られてくるわよ」

 ――うん、うん。ボク達の事が心配で、取る物も取りあえず大急ぎで来てくれたんだね。
 その事を言うと、ウィッチアは顔を赤くして、スタスタと廊下を歩いて行った。
 この前の武闘大会にも参加してくれたし、魔国の事が気に入ってくれているんだね。このままキノノサト国とも仲良くなれるといいんだけど。

 もうすぐ夕暮れだし、ウィッチアにはゆっくりしてもらって、明日からの協議に参加してもらおう。

 この首都のお城には、既に魔国の主要閣僚が集まっていて、ブクイットと共に作戦を練り上げている。国境地帯へもフィフィロ達を派遣し、いつ戦争が始まってもいい体勢となっている。

 その後も、帝国軍による襲撃は続いたけど、幸い敵の撃退に成功している。しかし頻度も多くなって兵士も疲れてきている。どうも飛行隊の数が多く、大隊規模、数百人が飛行部隊として編成されているようだ。

「ウィッチア、君はどう思う」
「ワタシは誰にも飛行ユニットの製造方法は教えていないわよ。前も三十機の飛行ユニットを供与しただけだもの。帝国が勝手に模倣したんでしょう」
「模倣の魔道具だとすると、性能や耐久性能は数段落ちますね」

 そう言ってきたのは眷属の里で、反重力装置の開発をしたティーアだ。
 原理も分からずに真似るだけだと、すぐ壊れたり最大性能は発揮できないと説明してくれる。

「あれを開発するのにワタシがどれだけ苦労したと思ってんのよ。そう簡単に複製なんてできないんだから」
「そうでしょうとも。私も随分と苦労させられましたからね」

 同じ開発者同士、ウィッチアとは気が合うようだね。

「模倣品程度なら、今回開発した物で充分対抗できると思いますよ」

 さすがティーアだ。新兵器の技術顧問として来てもらって訓練も任せているけど、相当な自信を持っているようだね。
 戦争が起こる事を前提に、準備を進めていく。

 そしてついに帝国が本格的な侵攻を開始した。後に言われる第二次魔国戦争が始まる。
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