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第8章 ノルキア帝国戦争

第75話 対魔国戦争4

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「ウィッチア様はどうされておられる」
「後方のテントで休息を取られています。明日になれば起き上がれると思いますが、魔力回復には時間がかかるかと」

 一度SS級を使うと半月は使えないと聞く。それは相手の魔術師にも言える事だが、あの気丈なウィッチア様とはいえ、今回の事は精神的に参っておられるだろう。

「我が軍の士気も落ちているようで、早々の進軍は無理かもしれません」

 ウィッチア様が居られずとも、あの土塁を突破する事はできる。戦力は我らの方が上、一気に攻め堀を越えれば良いだけの事。犠牲をいとわなければの話だがな。

「現在の損耗は如何ほどか」
「全体の二割と言ったところでしょうか」

 この短い戦いだけで六千の兵が死傷し、後方に下がったと……。ここで一旦撤退しても良い数ではあるな。

「ヘブンズ教国の増援部隊は士気が高く、このまま攻めるべきとの意見も出ています」

 我が部隊の三分の一は教国の増援兵。よく働いてくれているが、このまま突き進んで良いものか……。
 情報によれば東西の部隊も、同様な土塁により侵攻ができないでいるようだ。

 たかが、あのような土塁と思っておったが、攻防一体の布陣。これが魔族の戦い方か。もしかしたらこの先にも第二、第三の土塁が築かれているのか……。いや、まずはこの土塁を突破する事を考えねば。

 翌日。ウィッチア様は前線に復帰し「魔力が回復したら、またぶっ放してやるんだから~」と息巻いておられた。タフなお方だ。

 兵には休息を取らせて、明後日までに部隊を編成し直し、再度攻撃するかどうかの判断を下さねばならん。
 ウィッチア様によると、敵には宮廷魔導士クラスが一人と、魔王は特一級魔術師相当の戦力だと言う。こちらにも特一級の魔術師は一人いる。それに一級魔術師と騎馬や騎士を多数用意し戦力はこちらが上……のはずである。

 今、敵の宮廷魔導士も魔力を回復しているだろう。この間に攻め込めば、突破できる可能性は高い。
 そう思っていた昼過ぎ。敵からの攻撃が我が陣地にまで及ぶ。

「また、空からの攻撃ね。ワタシが上がるわ!」

 ウィッチア様と飛行隊が迎撃するために空に上がって行った。
 先手を取られてしまったか、魔力回復中はこちらも同じ。この機に攻撃してくるとは……行動が早い。

 自陣の上空からは、いくつもの怪鳥の鳴き声。前のような単発ではない!
 飛行隊と地上部隊も一緒に迎撃しているが数が多い! 十発や二十発どころの攻撃ではないぞ。

「スレイユ! 逃げなさい! 迎撃しきれないわ」

 上空よりウィッチア様の声が飛んできた。地上近くで迎撃してもS級の火魔術、その余波だけで兵が倒れていく。

「後方へ撤退せよ! 急げ!!」

 飛行部隊が殺られたか、攻撃が直接地上へも降り注ぐ。特一級の魔王といえど、一人でこれ程の数の攻撃は不可能なはずだ。宮廷魔導士が復活したのか! まさかもう一人宮廷魔導士がいるのか? そんなバカな考えが頭を過るが、今は撤退の指揮を取らねば。

 巨大な火柱が何本も陣地内で立ち上がり、テント内の兵や撤退準備している兵が焼かれ、馬が走り回る。
 この混乱の最中、前方より土塁を越えて魔国軍が追い討ちをかけてきた。弓矢と魔法による総攻撃だ。

 部隊長の判断で反撃する部隊もいるが、逃げる兵と立ち向かう兵、入り乱れて戦場の混乱に拍車がかかる。
 反撃しているのはヘブンズ教国の部隊か。だが突出しすぎて、集中攻撃を受けている。

「全部隊、撤退せよ!」

 再度、指示を出す。このままでは兵力を削られていくだけだ。一旦退き後方で立て直さねば。
 そう思っていると、今度はA級の魔術が雨のように降って来た。あれは土塁へ向かう兵を攻撃していた遠方からの攻撃。
 この陣までは届かないはず……後方部隊までも前進してきているのか! 陣を離れ撤退をしている部隊にまで攻撃が届いているではないか。

 撤退戦もできず、川向こうまで敗走する。

「どれだけの兵が生き残った……」
「一万いるかどうか……」

 三万の兵を引き連れ、残ったのが一万とはな……。その半数以上は怪我人。無事な兵と後方の補給部隊全員で負傷兵の応急手当と後方への搬送を行なう。このような状態で戦闘を継続することは不可能だ。完全撤退する他なかろう。
 敵の三倍の兵力を以ってしてもこれか……魔族の伝説は本当であったか。

「スレイユ将軍。魔国の部隊が追ってきているわ」
「ウィッチア様。我らは敗走するのみ。先にお逃げください」
「いいえ、飛行部隊が全滅したとはいえ、上空からなら敵の動きも分かるわ。ワタシが殿しんがりを務めるから、あんたらは逃げる事だけ考えなさい」

 このような状況でも、まだ立ち向かわれるのか。その言葉に甘えて、ありったけの馬車を集めて兵を後方へと移動させる。

 東西の部隊はどうなったのか? それぞれ一万の兵を引き連れていたが、合流すれば反撃も……。いや、楽観的な考えはせん方が良いな。帝都まではまだまだ距離がある。防衛部隊のいる場所まで撤退し、皇帝に事の顛末を報告せねばならん。
 我の命はそれまでであろうが、できる限りの兵士を帰さねばな。
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