上 下
132 / 212
第8章 ノルキア帝国戦争

第74話 対魔国戦争3

しおりを挟む
 ワタシが首に巻いている、赤い宝石の付いたチョーカー。これは私の魔力を制限する魔道具。SS級魔術は戦略級ともいわれるもので、おいそれと使っていい魔術じゃない。だけど今回の戦争では私の判断で使うようにと、大将軍から鍵を預かっている。

「スレイユ将軍。ネックリングの後ろにある鍵穴に、この鍵を差し入れてくれるかしら」
「はい、ウィッチア様」

 銀色に近いシルバーグレーのロングヘアーを、今日はツインテールにしている。これなら簡単に外すことができるでしょう。
 カチッと言う音と共に魔道具が外れる。

「ウィッチア様。SS級魔術が使えるのは今日一度だけ。無事あの土塁までお送りいたします」

 この陣地から土塁にたどり着くまで、魔族の攻撃をかいくぐる必要がある。

「護衛騎士三名と一緒に馬に乗り、進んでいただきます」
「分かったわ」

 最初の頃にしていた、土壁を破壊し堀に埋める作戦と同じ事を大々的に行う。ワタシに集中攻撃をさせないためだけど、犠牲者が出るわね。

 作戦が開始された。一斉に馬に乗った騎士が前方の土塁を目指す。ワタシは馬の前方に乗せてもらい、三騎一組で防御しながら前へと進む事になる。

「あの土壁が壊れていない場所を目指しなさい」

 長距離から土壁だけを壊す作戦で、土塁の一部は堀だけが残った状態になっている。敵から身を隠すためには、まだ壊れていない土壁の所がいいわ。

 陣地を出るとすぐに魔族の攻撃が始まる。爆音が轟く戦場の中、騎士と駆ける。前方からの攻撃を防ぐため、魔法障壁を張ると背中にいる騎士に注意された。

「ウィッチア様、魔法はお控えください。我らで防いで見せます」

 SS級魔術のために魔力を温存してほしいと言ってくる。騎士二人が前方で盾を構えて走るけど、あの攻撃をまともに食らって無事でいられるわけはないわ。

「正面でなく、受け流せば済むこと。我らにお任せを!」

 ワタシには精鋭の騎士を付けてくれたようね。戦場を斜めに走りながら攻撃を逸らすようにして弾く。ワタシも馬には乗れるけど、ジグザグに走るこの乗馬技術は大したものだわ。

「あんたらに任せたわ。ワタシをあの壁まで連れて行きなさい」
「「承知!!」」

 何度かの直撃も上手く躱して、土壁の所まで来ることができた。

「あなた、腕を怪我しているわね。後で治してあげるから我慢なさい」

 馬から降りて、左右を騎士に守られながらワタシはSS級魔術の準備に入る。これからは精神を集中して魔力を練り込む。無防備だけどこの土壁と騎士達がワタシを守ってくれる。

 魔力の濃度を上げて、ドロドロした魔力にして体内を循環させる。黒く重い魔力を掌に集中させて、右手を上に伸ばし左手で支える。放出された魔力が炎に変わり急速に大きくなっていく。

「ウィッチア様! 瞳の色が……」

 そうね。この魔術を使うと薄いピンクの瞳が赤く変化してしまう。血が混ざっているのかと心配しているようだけど、大丈夫よ。その後も魔力を手に集めていく。

「まだだわ!」

 上空の炎にドロドロの魔力を注ぎ込み、SS級の威力になるまで成長させる。威力に押し負けないように右手と支える左手に力を込める。

「今だわ!! 魔王、これであなたもお終いよ」

 SS級の巨大な炎が敵陣に向かって飛んで行く。その巨大さ故ゆっくりと飛んでいるように見えるけど、普通の魔法攻撃と同じ速度で放物線を描いて敵陣の上空へと向かう。
 それを目にした味方の兵が歓声を上げる。

 次の瞬間、その歓声が驚愕の色に変わった。

 敵陣から巨大な氷の塊が同じように放物線を描いて飛んで来る。敵陣との中央付近の上空、巨大な炎の塊と氷の塊がぶつかり合った。
 燃え上がる炎と、太陽の光を浴びてきらめく氷の塊。ぶつかり上空で真っ白な蒸気となって広がっていく。晴れていたはずの戦場に厚い雲がかかったように辺り一面が急に暗くなった。

「ワタシのSS級魔術が相殺された……」

 そんな馬鹿な! SS級魔術が使えるのは大国に数人いるだけ……王国が派遣してきた? そんなはずがない、前の王国戦争でも敵の宮廷魔導士は前線に現れなかったもの。

 魔王リビティナ? でも前の戦闘でそんな気配はなかった。いやあの時……地上から何発もS級魔術を撃って来た者がいた。あの魔術師がこの最前線に来ている!

「ウィッチア様!! 撤退します。早くお乗りください!」

 護衛の騎士に手を取られ騎乗し、戦線を離脱する。しかし自陣に戻るまでも敵からの容赦ない攻撃を浴び、どうやって帰ってこれたのかも覚えていない。三人いた護衛の騎士が最後は一人になっていたように思う。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

クラス転移したひきこもり、僕だけシステムがゲームと同じなんですが・・・ログアウトしたら地球に帰れるみたいです

こたろう文庫
ファンタジー
学校をズル休みしてオンラインゲームをプレイするクオンこと斉藤悠人は、登校していなかったのにも関わらずクラス転移させられた。 異世界に来たはずなのに、ステータス画面はさっきやっていたゲームそのもので…。

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

ギャルゲーのヘイトを溜めるクズでゲスな親友役として転生してしまいました。そして主人公が無能すぎて役にたたない……。

桜祭
ファンタジー
前世の記憶を思い出してしまい、ここが前世でプレイしたギャルゲーの世界だと気付いてしまった少年の奮闘物語。 しかし、転生してしまったキャラクターに問題があった。 その転生した明智秀頼という男は、『人を自由自在に操る』能力を用いてゲームの攻略ヒロインを次々と不幸に陥れるクズでゲスな悪役としてヘイトを稼ぐ男であった。 全プレイヤーに嫌われるほどのキャラクターに転生してしまい、とにかくゲームの流れにはならないようにのらりくらりと生きようと決意するのだが……。 いつでもトラブルがエンカウント物語の開幕です。 カクヨム様にて、総合部門日間3位の快挙を達成しました!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...