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第8章 ノルキア帝国戦争

第72話 対魔国戦争1

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「お久しゅう御座います。ウィッチア様」
「あんたは、南部戦線で一緒だった、え~っと……」
「スレイユ・フォン・ガリアトスでございます」

 そうそう、そんな名前だったわね。王国戦争の時も現場指揮官として前線に立っていた将軍。

「今回もあんたが指揮するのね。前線に出て来て体は大丈夫なの」
「今年で五十になりますが、まだまだ若い者には負けませんぞ」

 代々武の家系だとかで、戦場に立つことを良しとするクマ族の一族だったわね。確かに五十歳とは思えない筋骨隆々とした体つきで、眼光も衰えを知らない鋭さがあるわ。

「此度は貴重な空飛ぶ魔道具を貸していただき、ありがとうございます。あれは素晴らしい物ですな」
「魔王と戦うんだったら、あれぐらいは必要だからね」

 改良した最新型の飛行ユニットを帝国側に供与している。初心者にも扱えて旋回性能を向上させている。魔術師で体の小さな者を選んで訓練もした。これならあの空から降ってくる攻撃を防ぐことができるわ。
 今度こそあいつにリベンジしてやるんだから。

 戦争の準備も整って、国境へと軍を移動させる。今回もキノノサト国からの援軍を連れてきているけど、不可侵条約とかで正規軍は国境を越えられない。防衛部隊として首都や国境付近の防衛に当たっている。
 その代わりなのか、見慣れない部隊が前線に投入されているわね。変な仮面を付けて、皆同じように腕に入れ墨をしている。

「あれはヘブンズ教国からの援軍でしてな、魔術師部隊を中心とする精鋭部隊です。前線でも活躍してくれそうですわい」

 スレイユ将軍が言うんだから、それなりに戦えるってことでしょう。まあ、地上戦は将軍に任せておけば大丈夫でしょう。

 数日後、空に魔王が現れた。

「これより先は、我が魔王の領地である…………」

 頭に直接響いてくるこの声は確かに魔王、リビティナの声だわ。声のトーンを落として魔王然たる物言いでこちらを威嚇してくる。
 初めてその声を聞いた兵士達が騒めき立つ。
 仕方ないわね。ワタシが出てあげるわ。背中に飛行ユニットを担いで空に飛び立つ。

 リビティナに対抗できるのはワタシぐらいだからね。それに今回はワタシ直属の飛行部隊がいる。それを見せつけてやったらしっぽを巻いて逃げて行った。いい気味だわ。

「ウィッチア様すごいです! 魔王を追い返すなんて」
「鬼人族一の魔術師と言われるウィッチア様。あなたがいれば我が軍の勝利は間違いないです」

 地上に降り立つと、魔王の声を直接聞いて怯えていた兵士達が駆け寄って来て、口々にワタシを称えてくれる。

「流石ウィッチア様ですな。兵達の士気も上がりましたぞ。これならば魔国攻略も容易ですな」

 将軍の言うように簡単にはいかないでしょうけど、三万もの兵力で押し込めば首都のヘレケルトスまで行けるでしょうね。

 その数日後、国境を越えての地上戦が始まった。

「ワタシ達は魔国の空からの攻撃を防ぐのよ。気を抜かずしっかりとやんなさい」
「はい!」

 そう言っている間に、空からあの怪鳥の声に似た甲高い音がした。即座に左に展開してる小隊の四人が対応して、空に炎の網を張る。爆音と共に大きな炎が空に広がった。

「よし! ちゃんと迎撃できてるわね」

 実戦でこれだけできれば上等だわ。リビティナ、どんどんかかって来なさい。

 地上では帝国とヘブンズ教国の混成部隊が国境を越えて、内陸へと攻め込んでいる。上空から魔法攻撃して攻めやすいように支援する。

 今日一日で、魔国内部に陣地を築くことができたようね。上等じゃない。
 真夜中。またあの空からの攻撃があった。夜に攻撃するのは魔国の常套手段。あんたの手の内は分かってんのよ!
 こちらも交代しながら一小隊が空で待機している。あの攻撃を迎撃するのは造作もない事なのよ。

「スレイユ将軍。今日も攻め込めそうかしら」
「魔国軍はこの先に、堀と土の壁を築いて守りに入っているようですな」

 偵察部隊によると、深さ二メートルの堀と、高さ二メートルの土壁が延々と続いているそうだ。その内側に陣を敷き待ち伏せしていると報告を受けている。昨日の敵は、あらかじめ用意していたその防御陣に逃げ込んでいる。どうりで簡単に国境を越えられたわけだわ。

 でもたかが堀と土壁、突き崩すことは難しくないでしょう。

「その土塁を突破するのに、どれぐらいかかりそうなの」
「敵の攻撃を避けながらですので、十日程はかかるかと」

 一、二ヶ所突破するぐらいなら、すぐできるでしょうけど、そうすると集中攻撃を受けてしまう。ある程度の幅で平らにし、兵を突入させる必要があるわね。
 両端の岩場と森をつなぐように築かれた土塁。あれだけの長さ、私でも全てを壊すのに一週間はかかるかしら。よくあんな物を作ったものだわ。

 スレイユ将軍は、魔術師と直近で護衛する三人の騎士を一小隊として編成し、百五十小隊で一気に土塁に近づこうとした。しかし魔族の火魔法で犠牲者が出て壁まで到達できたのは半数。
 魔術師によって土壁が壊され堀を埋めれば、集中攻撃を受け帰って来た者はほとんどいなかった。

 しかも、翌日には土塁が修復されていた。敵が夜中に直しに来たようね。
 こちらも真っ暗闇の夜に魔術師と騎士を出撃させたけど、ことごとく壊滅させられてしまった。やはり夜の世界は魔族の物という事ね。


「遠距離から土壁を破壊するしかないんじゃないの」
「それしか手はないようですが、そうすると堀が残ってしまい進軍する際に停滞します。そこでまた犠牲者が出る事に……」

 土壁を破壊すると、堀を埋める材料が無くなる。魔法の土じゃ、すぐに消えて無くなるものね。周囲は平地、あの堀をなだらかにするには時間がかかる。騎馬が通れる木製の橋か板を敷いてもすぐ破壊されるでしょうね。

「堀の手前で隊列を組んで攻撃して、敵を排除してから堀を渡ればいいじゃない」
「ウィッチア様、それがですな……」

 スレイユ将軍の説明だと、魔法の届かないギリギリの距離に敵陣があり、その部隊の後方から長射程の攻撃を受けているらしい。
 それは空からの攻撃と同じ、見えない術者による魔族特有の攻撃だわ。

「敵陣の後方へ攻撃する必要があるわね。それならワタシ達、飛行部隊の出番だわ」
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