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第8章 ノルキア帝国戦争
第69話 帝国軍の動き1
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「どうもノルキア帝国が軍隊を移動させているようなんだよ」
「やはりそうか。国境警備隊からの報告で、帝国軍の動きがおかしいと言ってきているからな」
時々、ノルキア帝国の上空を飛んで軍の動きを見ているけど、最近軍の動きが活発化してきている。ハウランド辺境伯と共にその行動の意味について検討を重ねる。
「まだ本格的に攻めるつもりはないようだけど、南部の軍を帝都に集中し始めているね」
「北への移動……狙いは魔国だな。前回の王国への全面戦争から二年半、再度王国に立ち向かうだけの戦力は整っていないはずだ」
今の魔国は軍事力が充分に整っていない。王国は無理でも小さな魔国となら、戦えると考えたんだね。
「王国軍に応援の要請をしておいた方がいいだろうな。王都に連絡を入れておこう」
「そうだね、準備はしておいてくれるかい」
「国境付近で何かあれば、遠慮せず言ってきてくれ。どのみち前線へ行くのは私の領内の兵士だからな」
「すまないね、伯爵」
「気にすることはないさ、賢者様。王国としての責務を果たしているだけだよ」
王都で国王と交わした王国軍の支援の約束は、建国から三年。まだ一年猶予はある。魔国の軍隊も徴兵で予備役の兵も多くなっているけど、練度はまだ低い。王国軍の手を借りないと、帝国軍を押し返す事は難しい。
まあ、王国の支援といっても、一番近いハウランド伯爵領の軍隊が来てくれることになる。今も国境警備隊はハウランド伯爵から借りている兵士だ。
帝国との争いになれば、まずはここから部隊を前線に送って、その後、王都や他の領地から軍が送られてくる。
最前線で戦うのは、魔国の軍隊とハウランド伯爵の混成部隊となる。伯爵の軍とは合同訓練もしているから、心配はいらないんだけどね。
さて、伯爵との打ち合わせはできた。里のみんなはどう判断するかな。
「帝国が本格的に攻めてくると……」
「多分、国境を越えて全面的な戦争になるだろうね」
以前から、帝国に対する準備はしているけど、今回の状況を説明して里のみんなの意見を聞く。前回の戦争は里近くでの戦闘だったけど、今回は少し状況が違う。
「戦争とは言え、この里から一番遠い魔国の国境。我らが直接戦う事もない。前のようにここから弾道ミサイルの支援だけでいいんじゃないか」
「いや、ここからじゃ遠すぎて命中精度が低い」
「そうだな。せめて首都の城から発射せんと、実戦で通用しないだろうな」
「すると戦場近くに我々が行くと言う事になるか……」
「この里が戦闘に巻き込まれるのだけは避けてちょうだい。小さな赤ん坊やお腹の子もいるんだから」
「魔国は滅んでも、この隠れ里さえ残ればいいんじゃないのか」
やはり、この里が一番という事になるね。でも魔国の国民もリビティナにとっては育ててきた子供みたいなものなんだけどね。
「オレは戦場に出ても構いません。魔国が戦争に負ければ、次はこの里が狙われるんじゃないのですか。同じ魔国なんですから」
「私も兄さまの意見に賛成です。私も戦場に出ます」
産まれてきた子供のためにも、戦って里を守ると決断をしたようだ。フィフィロは直接戦力になるし、ルルーチアはこの里の兵器に熟知している。戦場に出てもらえるなら心強い。
帝国の戦力はこちらの三倍。どこまで攻め込むつもりか知らないけど、魔国全体を占領する事も可能な数だからね。
「リビティナ様は、この里の人達をどのように考えていますか」
そう聞いてきたのは、眷属になったばかりの転生者アルディアだった。
「ボクはここに住む眷属の事が一番だよ。みんなと一緒に平穏に暮らすことがボクの夢だからね」
「今後は人族としての子供も育ってきます。この里では狭すぎると思います。人族としての国を造るべきではないでしょうか」
「今でも、食料は足りているし、この広さでも十分だと思うんだけどな~」
「いいえ、人族は世界を征服するべきです」
おや、おや。これはまた極端な意見が出てきたね。
「人族は、この世界で異端です。その人族が平和に暮らすには世界征服くらいを考えておかないといけないと思うんですが」
「確かに魔国程度の国であれば、歴史上亡びる可能性が高いですね」
そう言うのは、歴史学者のフロードだね。アルディアとフロード、この二人が言っているのは現状だけでなく、遠い未来を含んだ時間軸での話だ。
「かつての魔王も世界征服を目指したふしがあります。一時は大陸中央部を手中に収めていますし」
「でも、結局衰退したんだろう」
「そうですね。魔族の国は獣人の国となり、その後分裂しましたからね」
「ボクの知っている歴史だと、世界を征服しようと争って種族全てが滅びかけた例もあるんだよね」
そう、人類が何度か世界大戦を引き起こして、絶滅寸前までいったからね。
「でも、この小さな国ではいずれ被害がこの里まで及ぶと思います」
世界征服を主張したアルディアも、この里の事を思っての意見みたいだね。
今回は幅広い意見が出たけど、みんなの意見はほぼ出揃ったようだ。
「いずれにしても、この里に被害を出さない事が一番だ。そのためにも侵入する敵から魔国を守ろう。あとは状況に応じて臨機応変に戦う。これでいいかな」
魔国を守る事ができれば、この里は安全だ。負けるにしても領土を半分割譲するまでに抑える事を考えておこう。
この里で製造した武器をお城に運んでおいて、今は戦争の準備をしておこうと皆で決めた。後になって後悔するのは嫌だからね。
みんなが解散した後、アルディアが質問してきた。
「あの、リビティナ様。この里に航空戦力はあるんですか」
「そうだね……ボクは空を飛べるよ。あとはエルフィがロックバードに乗って攻撃するくらいかな」
「空を飛ぶ箱は使えないんですか?」
「あれは浮くことができるんだけど、前に進む力が弱くてね。航空戦力としては使えないんだよ」
反重力魔法で重力はキャンセルするけど、前に進む力は少ない。反重力板を斜めに傾ければ進むけど、妖精族がフワフワ飛ぶ程度の速度しかでない。
重い荷物を運ぶ時にはすごく役立ってるんだけど、最速でも馬の駈歩程度の速度じゃ航空戦力とは呼べないね。
「弾道ミサイルと、後は地上戦と言う事ですね。戦術的な事を私が少し考えてもいいでしょうか」
アルディアは実際の戦争を知らないけど、戦略ゲームは得意だったと言う。その辺りの戦略や戦術、兵站の大事さはよく理解している。この世界ではそれだけでも充分だ。
そっち方面はアルディアに考えてもらおうかな。こっちはこっちで忙しくなるからね。
「やはりそうか。国境警備隊からの報告で、帝国軍の動きがおかしいと言ってきているからな」
時々、ノルキア帝国の上空を飛んで軍の動きを見ているけど、最近軍の動きが活発化してきている。ハウランド辺境伯と共にその行動の意味について検討を重ねる。
「まだ本格的に攻めるつもりはないようだけど、南部の軍を帝都に集中し始めているね」
「北への移動……狙いは魔国だな。前回の王国への全面戦争から二年半、再度王国に立ち向かうだけの戦力は整っていないはずだ」
今の魔国は軍事力が充分に整っていない。王国は無理でも小さな魔国となら、戦えると考えたんだね。
「王国軍に応援の要請をしておいた方がいいだろうな。王都に連絡を入れておこう」
「そうだね、準備はしておいてくれるかい」
「国境付近で何かあれば、遠慮せず言ってきてくれ。どのみち前線へ行くのは私の領内の兵士だからな」
「すまないね、伯爵」
「気にすることはないさ、賢者様。王国としての責務を果たしているだけだよ」
王都で国王と交わした王国軍の支援の約束は、建国から三年。まだ一年猶予はある。魔国の軍隊も徴兵で予備役の兵も多くなっているけど、練度はまだ低い。王国軍の手を借りないと、帝国軍を押し返す事は難しい。
まあ、王国の支援といっても、一番近いハウランド伯爵領の軍隊が来てくれることになる。今も国境警備隊はハウランド伯爵から借りている兵士だ。
帝国との争いになれば、まずはここから部隊を前線に送って、その後、王都や他の領地から軍が送られてくる。
最前線で戦うのは、魔国の軍隊とハウランド伯爵の混成部隊となる。伯爵の軍とは合同訓練もしているから、心配はいらないんだけどね。
さて、伯爵との打ち合わせはできた。里のみんなはどう判断するかな。
「帝国が本格的に攻めてくると……」
「多分、国境を越えて全面的な戦争になるだろうね」
以前から、帝国に対する準備はしているけど、今回の状況を説明して里のみんなの意見を聞く。前回の戦争は里近くでの戦闘だったけど、今回は少し状況が違う。
「戦争とは言え、この里から一番遠い魔国の国境。我らが直接戦う事もない。前のようにここから弾道ミサイルの支援だけでいいんじゃないか」
「いや、ここからじゃ遠すぎて命中精度が低い」
「そうだな。せめて首都の城から発射せんと、実戦で通用しないだろうな」
「すると戦場近くに我々が行くと言う事になるか……」
「この里が戦闘に巻き込まれるのだけは避けてちょうだい。小さな赤ん坊やお腹の子もいるんだから」
「魔国は滅んでも、この隠れ里さえ残ればいいんじゃないのか」
やはり、この里が一番という事になるね。でも魔国の国民もリビティナにとっては育ててきた子供みたいなものなんだけどね。
「オレは戦場に出ても構いません。魔国が戦争に負ければ、次はこの里が狙われるんじゃないのですか。同じ魔国なんですから」
「私も兄さまの意見に賛成です。私も戦場に出ます」
産まれてきた子供のためにも、戦って里を守ると決断をしたようだ。フィフィロは直接戦力になるし、ルルーチアはこの里の兵器に熟知している。戦場に出てもらえるなら心強い。
帝国の戦力はこちらの三倍。どこまで攻め込むつもりか知らないけど、魔国全体を占領する事も可能な数だからね。
「リビティナ様は、この里の人達をどのように考えていますか」
そう聞いてきたのは、眷属になったばかりの転生者アルディアだった。
「ボクはここに住む眷属の事が一番だよ。みんなと一緒に平穏に暮らすことがボクの夢だからね」
「今後は人族としての子供も育ってきます。この里では狭すぎると思います。人族としての国を造るべきではないでしょうか」
「今でも、食料は足りているし、この広さでも十分だと思うんだけどな~」
「いいえ、人族は世界を征服するべきです」
おや、おや。これはまた極端な意見が出てきたね。
「人族は、この世界で異端です。その人族が平和に暮らすには世界征服くらいを考えておかないといけないと思うんですが」
「確かに魔国程度の国であれば、歴史上亡びる可能性が高いですね」
そう言うのは、歴史学者のフロードだね。アルディアとフロード、この二人が言っているのは現状だけでなく、遠い未来を含んだ時間軸での話だ。
「かつての魔王も世界征服を目指したふしがあります。一時は大陸中央部を手中に収めていますし」
「でも、結局衰退したんだろう」
「そうですね。魔族の国は獣人の国となり、その後分裂しましたからね」
「ボクの知っている歴史だと、世界を征服しようと争って種族全てが滅びかけた例もあるんだよね」
そう、人類が何度か世界大戦を引き起こして、絶滅寸前までいったからね。
「でも、この小さな国ではいずれ被害がこの里まで及ぶと思います」
世界征服を主張したアルディアも、この里の事を思っての意見みたいだね。
今回は幅広い意見が出たけど、みんなの意見はほぼ出揃ったようだ。
「いずれにしても、この里に被害を出さない事が一番だ。そのためにも侵入する敵から魔国を守ろう。あとは状況に応じて臨機応変に戦う。これでいいかな」
魔国を守る事ができれば、この里は安全だ。負けるにしても領土を半分割譲するまでに抑える事を考えておこう。
この里で製造した武器をお城に運んでおいて、今は戦争の準備をしておこうと皆で決めた。後になって後悔するのは嫌だからね。
みんなが解散した後、アルディアが質問してきた。
「あの、リビティナ様。この里に航空戦力はあるんですか」
「そうだね……ボクは空を飛べるよ。あとはエルフィがロックバードに乗って攻撃するくらいかな」
「空を飛ぶ箱は使えないんですか?」
「あれは浮くことができるんだけど、前に進む力が弱くてね。航空戦力としては使えないんだよ」
反重力魔法で重力はキャンセルするけど、前に進む力は少ない。反重力板を斜めに傾ければ進むけど、妖精族がフワフワ飛ぶ程度の速度しかでない。
重い荷物を運ぶ時にはすごく役立ってるんだけど、最速でも馬の駈歩程度の速度じゃ航空戦力とは呼べないね。
「弾道ミサイルと、後は地上戦と言う事ですね。戦術的な事を私が少し考えてもいいでしょうか」
アルディアは実際の戦争を知らないけど、戦略ゲームは得意だったと言う。その辺りの戦略や戦術、兵站の大事さはよく理解している。この世界ではそれだけでも充分だ。
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