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第7章 新たな種族

第65話 転生者3

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「お嬢様。我らは西の王都に向かいます。辺境伯様の城へは、ここより乗合馬車で三日。……本当にお一人で大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ。これからは私一人でキルーアを連れて行きます。ここまでありがとう、ドラード」

 キャラバン隊は乗合馬車の停留所に、私達と荷物を降ろしてくれた。

 何か目的を持つことは大切な事のようね。キルーアを助けたい一心でここ一ヶ月の旅の中、かまどでの料理や馬の扱い方、町での買い物などできる事が多くなった。
 今ではキルーアも外を歩けるくらいまで回復しているし、馬車で旅することぐらいはできるわ。それにこれは私の仕事だもの。

 キャラバン隊は二十日後、またこの町に戻ってくると言い残して、西に向かって走って行く。

「キルーア、この馬車に乗るわよ。いいかしら」
「はい、アルディアお姉ちゃん」

 キルーアは、すっかり私に懐いて、お姉ちゃんと呼んでくれる。可愛い妹ができたみたいで嬉しいわ。

 三日後、予定通り伯爵樣の住むタリストの町に到着した。門の所で書類を見せると、お城から馬車を呼んでくれた。小さな子供とトランクが三つの荷物を見て気を遣ってくれたんでしょう。助かるわ。

 馬車に揺られていった先は、門から見えていたお城の中。案内された部屋には、働き盛りの若い貴族が一人だけ。仕事中だったのかシンプルなスーツ姿で迎えてくれる。でも伯爵様にしては若いし息子さんかしら。

「白子の子供を連れて来てくれたのは君かい」
「はい、この子を専門の病院に入れてあげてください」
「それにしても、その子は元気だね。少し顔を見せてくれないか」

 そう言って近づき、仮面を外すように言ってきた。顔を覗かれてキルーアが怯えて、私の後ろに隠れる。

「血色も良さそうだね。よくここまで回復させたものだな。君が面倒を見てやったのか」
「ええ、そうですけど、この領地の病院に入れるんですよね」

 元気だからと、追い出されては困ってしまう。

「勿論、こちらで引き取るよ。ここまでご苦労だったね」

 それを聞いて安心したわ。

「あの私、魔国にいる魔族の人に会いたいんです。ここの伯爵様に取り次いでもらいたいのですが」
「ああ、そういえばまだ名乗っていなかったね。私がここの主だよ」

 え~、この人がハウランド伯爵様なの。

「し、失礼しました!」

 何度も、頭を下げた。貴族のことは話で聞いている。少しでも怒らせると、無理難題を言ってくると。でもそれは杞憂に終わったようね。伯爵様は優しく声を掛けてくれる。

「で、君はなぜ魔族に会いたいのかな」
「わ、私、魔族の方が転生者かどうか確かめたくて」
「転生者?」
「あ、いえ。魔族の方々が人間じゃないかと……」
「ニンゲン。その言葉をどこで聞いたのかね」

 今までになく、伯爵様が真剣な目でこちらを見返してくる。

「あの……キルーアも人間ですし、新聞に描かれていた魔族の皆さんの姿は人間だと思うんですけど」
「ふむ。で、君は魔族の事を確かめた後は、どうするつもりなんだ」
「もしも、私が思っている人達なら、私も眷属にしてもらうつもりです。私は人間になりたいんです」

 途中の町で聞いた。魔王に願い眷属になれば、魔族……人間の姿になれると。
 伯爵様は、私を見つめてしばらく考え込んでいる。

「人を知る娘か……。後は賢者様が何とかしてくれるだろう……」

 何か良く分からない事を呟いた後、今晩は伯爵様のお屋敷に泊まるようにと言ってきた。

「屋敷にはお風呂もある。二人ゆっくりしてくれればいい」
「お、お風呂があるんですか!」

 この異世界に来てお風呂に入れるなんて初めての事だわ。
 伯爵様のお屋敷に招かれて、早速キルーアと一緒にお風呂に入る。お風呂の後は美味しい料理をごちそうになった。ヘブンズ教国で食べたこともない豪華な食事だったわ。
 しかも、キルーアの事も分かっていて、よく火の通った料理を出してくれている。さすが 伯爵様だわ。

 夜は大きなベッドで、キルーアと横に並んで眠る。

「明日のお昼前には、迎えの人が来てくれるそうよ」
「アルディアお姉ちゃんも、一緒に来てくれるの」
「勿論よ」

 ちゃんと病院に連れて行って、向こうの人に預けるまで一緒よ。

 翌日。迎えが来ているからと、手荷物だけを持ってお城の屋上に来るように言われた。兵隊さんに案内されて扉の前に立つ。なぜ屋上なのかと思いつつ扉を開けると、そこには大きな鳥! 私の背丈の二倍近くある怪鳥がいた。
 慌ててキルーアを抱きかかえると、その横にいた小さな鳥が言葉を発する。

「あなたがキルーアね。こっちに来てくれるかしら」

 小さな鳥と思っていたのは、羽を持つ妖精族? 初めて見るその姿はやはり異質の者だった。

「あなた、一体誰なの!」
「あたしはエルフィ。こっちはお友達のシームよ。よろしくね」

 大きな鳥は、飼い馴らした怪鳥のロックバードだそうだ。これに乗って空を飛んでいくと言う。

「シームはまだ子供なの。二人を肩に乗せられないから、あなた達はこっちの木の箱に乗ってくれるかしら」
「これに乗って、そこの鳥に引かせるの。そんなの無理でしょう」
「大丈夫よ。ほらスイッチを入れると浮かび上がるのよ」

 どういう仕組みか分からないけど、箱が目の高さまで浮上する。何なのこれは、こんな魔法見たこともないし常識じゃあり得ない事だわ。

「あ、あなた本当に病院の人なの」
「病院? あなた達は眷属の里に行くのよ。あなたはアルディアって人よね。眷属になりたいって聞いてたけど」
「あなたは魔族の人ですか!!」
「魔族とは違うんだけどね。まあ、関係者よ。詳しくは里で話すから、これに乗ってくれるかしら」

 魔王の眷属の関係者? 伯爵様が手配してくれたという事かしら。このエルフィという人の言う通り細長い木の箱に乗ると、前後に椅子が二つ取り付けられている。後ろにキルーアを座らせて、エルフィにシートベルトを着けてもらう。

「それじゃ出発するわよ」

 音もなく浮かび上がる箱。先端のロープをロックバードの肩に掛け、エルフィが背中に乗って飛び立った。城壁を軽々と飛び越え、今まで居たタリストの町が小さくなっていく。
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