上 下
121 / 212
第7章 新たな種族

第64話 転生者2

しおりを挟む
 いつになく真剣に新聞に目をやる私を、メイドは奇妙な動物でも見るように顔を覗き込んでくる。私に気を遣わないメイドの態度よりも、この魔族と呼ばれる人達の事が気になる。

 その新聞をつぶさに読んでいくと、魔王に忠誠を誓った魔族は皆このような姿だと書かれている。
 関連情報として、魔王は不死身で二百五十年前に戦争を起こして、この大陸を支配していた時期があると、歴史的事実が書かれた部分があった。

 大昔にも人間が居た! その人達が魔族として、この大陸の獣人達を支配していたと……。確かに転生者が集まれば、それも可能に思えるけど、力もあって魔法も使える獣人達の軍隊を相手に、戦争を起こして勝ち残るだなんて……。私ならそんな事、絶対無理だわ。

 多分魔族の歴史も本で読んだことがあるはずだけど、この世界はすべて夢物語のように思っていたから覚える気もなかったんだと思う。

「この魔国には、私が知る前世の人達がいる……」

 その後、魔族の事を調べれば調べるほど、この世界の人じゃないように思える。魔王城の遺跡を調査した人の論文だと、過去の戦争でも少人数の魔族が兵を率いて、未知の技術を駆使して大陸を制覇したと書かれている。

「現代には無い未知のテクノロジー……やはり、転生者がいるんだわ」

 魔族の人達に会わないと……私はこの世界に独りじゃない、そこには仲間がいる。魔族なら私をこの世界から解放してくれる救世主になってくれるかも知れないわ。

 でも魔国は大陸の北にある遠い国。どうやって行けばいいのかすら分からない。今までこの首都を離れて旅行などしたこともない。何もできない私が、生きて魔国にたどり着けるとは全く思えないわ。

「お父様。私、魔国に行ってみたいの……」

 おずおずと相談してみた。今、頼れるのはお父様ぐらいしか私にはいない。

「アルディア、お前もやっと外に出て見聞を広める事を決めたか。商売をするには必要な事だからな」

 豪商の家に嫁ぐにしても、見識は持っていないと苦労するからと外国に行く事を認めてくれた。

「ちょうど、王国へ向かうキャラバンがある。お前もそれに同行しなさい」

 そのキャラバン隊は、王国への商品の輸送と買い付けが目的。同行すれば安全に王国まで行ける。

「途中で別れて、北の辺境伯の所に行く仕事もある。そこからなら魔国も近い。お前はそちらの馬車に乗るといいだろ」

 地図で見ると、辺境伯の居るタリストの町から魔国までは乗合馬車で四日の距離。定期馬車が出ているなら安全な街道のはずね。

「ありがとうございます、お父様」

 キャラバン隊のお手伝いをしながら、片道一ヶ月以上の旅。私にとって初めての大きなお仕事。でも魔族が私の知る人達なら、私はもうこの家に戻らない。これが最後の親孝行になるわね

 出発当日。お父様に連れられてキャラバン隊の一台の馬車に向かった。

「こいつが、隊長のドラードだ。娘を頼むぞ」
「承知いたしました、旦那様。お嬢様、他の荷物は我らで積み込みます。どうぞ馬車の中へ」

 間もなく出発すると、メイドに持たせていた三つのトランクを馬車の天井部分に手早く積み込んでくれる。
 手荷物だけを持って馬車に乗り込む私に、お姉様が言葉をかけてきた。

「あなたにはちょうどいい仕事じゃないの、アルディア。他の人に迷惑をかけないように、せいぜい頑張りなさい」
「はい、お姉様。では、お父様。行ってきます」
「ああ、しっかり頼むぞ」

 そう言って私を見送るお父様と、嫌味な顔を向けてくるお姉様が遠ざかっていく。今まで本当の家族ではないと考えていたけど、これが見納めになると思うと少し寂しさがあるわ。

 気を取り直して、馬車の奥へ目を向ける。荷物を運ぶための大型の馬車。壁際には他の町へ運ぶ荷物が積まれ、その奥には テッシアという女性従業員と病気の女の子がいる。

「その子が、王国に連れていく子供ね」

 五歳の女の子だというその子供は、呪いを防ぐ仮面を被り、やつれた体を毛布に包まれて寝かされていた。

「お嬢様。この子はキルーアと言います。十日前、東にあるセウラの町で引き取って、ここまで連れてきました」

 商品だけじゃなく、商売でこんな人の運搬までするのね。でもこれが私に任された今回のお仕事。途中で死んでも文句は言わないと契約書に書いてあるけど、王国の辺境迫の領地にある専門の治療施設までちゃんと送り届けないと。

 近づき仮面を取って顔を見せてもらいハッとなった。

「この子、人間じゃないの!」

 その顔形は、私が知っている人間だわ!! でも二ヶ月前まではオオカミ族だったと言っている。でも人間……この子も転生者? よく分からなくなってきた。

「テッシア、もっと毛布を持ってきてくれるかしら」

 今のままでは、体が冷えるわ。もっと暖かくしてあげないと。

「それとお水を……いえ、水はいいわ。私のを飲ませるから」

 多分、この馬車の水は濁ったあの水だわ。私がいつも飲む水を水筒に入れてきている。上澄みの水をすくい、一度沸騰させた白湯。それをキルーアに飲ませる。これで乾いた唇がマシになってくれればいいんだけど。

 この子は私と同じ人間なんですもの、何としてでも助けてあげたい。
 川のある野営地では、お湯を沸かしてタオルで体を拭いてあげる。ご飯は雑穀を入れた、おかゆのようなスープを食べてもらう。

「どう、これなら食べられるかしら」
「うん……」

 少しずつだけど、会話もできるようになってきた。話を聞く限りこの子は転生者ではなく、この世界の子供だわ。私とも違うし、魔族とも違うようね。とにかく王国の病院までこの子を連れて行ってあげないと。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

いつもの電車を降りたら異世界でした 身ぐるみはがされたので【異世界商店】で何とか生きていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
電車をおりたら普通はホームでしょ、だけど僕はいつもの電車を降りたら異世界に来ていました 第一村人は僕に不親切で持っているものを全部奪われちゃった 服も全部奪われて路地で暮らすしかなくなってしまったけど、親切な人もいて何とか生きていけるようです レベルのある世界で優遇されたスキルがあることに気づいた僕は何とか生きていきます

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

妖精王オベロンの異世界生活

悠十
ファンタジー
 ある日、サラリーマンの佐々木良太は車に轢かれそうになっていたお婆さんを庇って死んでしまった。  それは、良太が勤める会社が世界初の仮想空間による体感型ゲームを世界に発表し、良太がGMキャラの一人に、所謂『中の人』選ばれた、そんな希望に満ち溢れた、ある日の事だった。  お婆さんを助けた事に後悔はないが、未練があった良太の魂を拾い上げたのは、良太が助けたお婆さんだった。  彼女は、異世界の女神様だったのだ。  女神様は良太に提案する。 「私の管理する世界に転生しませんか?」  そして、良太は女神様の管理する世界に『妖精王オベロン』として転生する事になった。  そこから始まる、妖精王オベロンの異世界生活。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...