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第7章 新たな種族
第64話 転生者2
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いつになく真剣に新聞に目をやる私を、メイドは奇妙な動物でも見るように顔を覗き込んでくる。私に気を遣わないメイドの態度よりも、この魔族と呼ばれる人達の事が気になる。
その新聞をつぶさに読んでいくと、魔王に忠誠を誓った魔族は皆このような姿だと書かれている。
関連情報として、魔王は不死身で二百五十年前に戦争を起こして、この大陸を支配していた時期があると、歴史的事実が書かれた部分があった。
大昔にも人間が居た! その人達が魔族として、この大陸の獣人達を支配していたと……。確かに転生者が集まれば、それも可能に思えるけど、力もあって魔法も使える獣人達の軍隊を相手に、戦争を起こして勝ち残るだなんて……。私ならそんな事、絶対無理だわ。
多分魔族の歴史も本で読んだことがあるはずだけど、この世界はすべて夢物語のように思っていたから覚える気もなかったんだと思う。
「この魔国には、私が知る前世の人達がいる……」
その後、魔族の事を調べれば調べるほど、この世界の人じゃないように思える。魔王城の遺跡を調査した人の論文だと、過去の戦争でも少人数の魔族が兵を率いて、未知の技術を駆使して大陸を制覇したと書かれている。
「現代には無い未知のテクノロジー……やはり、転生者がいるんだわ」
魔族の人達に会わないと……私はこの世界に独りじゃない、そこには仲間がいる。魔族なら私をこの世界から解放してくれる救世主になってくれるかも知れないわ。
でも魔国は大陸の北にある遠い国。どうやって行けばいいのかすら分からない。今までこの首都を離れて旅行などしたこともない。何もできない私が、生きて魔国にたどり着けるとは全く思えないわ。
「お父様。私、魔国に行ってみたいの……」
おずおずと相談してみた。今、頼れるのはお父様ぐらいしか私にはいない。
「アルディア、お前もやっと外に出て見聞を広める事を決めたか。商売をするには必要な事だからな」
豪商の家に嫁ぐにしても、見識は持っていないと苦労するからと外国に行く事を認めてくれた。
「ちょうど、王国へ向かうキャラバンがある。お前もそれに同行しなさい」
そのキャラバン隊は、王国への商品の輸送と買い付けが目的。同行すれば安全に王国まで行ける。
「途中で別れて、北の辺境伯の所に行く仕事もある。そこからなら魔国も近い。お前はそちらの馬車に乗るといいだろ」
地図で見ると、辺境伯の居るタリストの町から魔国までは乗合馬車で四日の距離。定期馬車が出ているなら安全な街道のはずね。
「ありがとうございます、お父様」
キャラバン隊のお手伝いをしながら、片道一ヶ月以上の旅。私にとって初めての大きなお仕事。でも魔族が私の知る人達なら、私はもうこの家に戻らない。これが最後の親孝行になるわね
出発当日。お父様に連れられてキャラバン隊の一台の馬車に向かった。
「こいつが、隊長のドラードだ。娘を頼むぞ」
「承知いたしました、旦那様。お嬢様、他の荷物は我らで積み込みます。どうぞ馬車の中へ」
間もなく出発すると、メイドに持たせていた三つのトランクを馬車の天井部分に手早く積み込んでくれる。
手荷物だけを持って馬車に乗り込む私に、お姉様が言葉をかけてきた。
「あなたにはちょうどいい仕事じゃないの、アルディア。他の人に迷惑をかけないように、せいぜい頑張りなさい」
「はい、お姉様。では、お父様。行ってきます」
「ああ、しっかり頼むぞ」
そう言って私を見送るお父様と、嫌味な顔を向けてくるお姉様が遠ざかっていく。今まで本当の家族ではないと考えていたけど、これが見納めになると思うと少し寂しさがあるわ。
気を取り直して、馬車の奥へ目を向ける。荷物を運ぶための大型の馬車。壁際には他の町へ運ぶ荷物が積まれ、その奥には テッシアという女性従業員と病気の女の子がいる。
「その子が、王国に連れていく子供ね」
五歳の女の子だというその子供は、呪いを防ぐ仮面を被り、やつれた体を毛布に包まれて寝かされていた。
「お嬢様。この子はキルーアと言います。十日前、東にあるセウラの町で引き取って、ここまで連れてきました」
商品だけじゃなく、商売でこんな人の運搬までするのね。でもこれが私に任された今回のお仕事。途中で死んでも文句は言わないと契約書に書いてあるけど、王国の辺境迫の領地にある専門の治療施設までちゃんと送り届けないと。
近づき仮面を取って顔を見せてもらいハッとなった。
「この子、人間じゃないの!」
その顔形は、私が知っている人間だわ!! でも二ヶ月前まではオオカミ族だったと言っている。でも人間……この子も転生者? よく分からなくなってきた。
「テッシア、もっと毛布を持ってきてくれるかしら」
今のままでは、体が冷えるわ。もっと暖かくしてあげないと。
「それとお水を……いえ、水はいいわ。私のを飲ませるから」
多分、この馬車の水は濁ったあの水だわ。私がいつも飲む水を水筒に入れてきている。上澄みの水をすくい、一度沸騰させた白湯。それをキルーアに飲ませる。これで乾いた唇がマシになってくれればいいんだけど。
この子は私と同じ人間なんですもの、何としてでも助けてあげたい。
川のある野営地では、お湯を沸かしてタオルで体を拭いてあげる。ご飯は雑穀を入れた、おかゆのようなスープを食べてもらう。
「どう、これなら食べられるかしら」
「うん……」
少しずつだけど、会話もできるようになってきた。話を聞く限りこの子は転生者ではなく、この世界の子供だわ。私とも違うし、魔族とも違うようね。とにかく王国の病院までこの子を連れて行ってあげないと。
その新聞をつぶさに読んでいくと、魔王に忠誠を誓った魔族は皆このような姿だと書かれている。
関連情報として、魔王は不死身で二百五十年前に戦争を起こして、この大陸を支配していた時期があると、歴史的事実が書かれた部分があった。
大昔にも人間が居た! その人達が魔族として、この大陸の獣人達を支配していたと……。確かに転生者が集まれば、それも可能に思えるけど、力もあって魔法も使える獣人達の軍隊を相手に、戦争を起こして勝ち残るだなんて……。私ならそんな事、絶対無理だわ。
多分魔族の歴史も本で読んだことがあるはずだけど、この世界はすべて夢物語のように思っていたから覚える気もなかったんだと思う。
「この魔国には、私が知る前世の人達がいる……」
その後、魔族の事を調べれば調べるほど、この世界の人じゃないように思える。魔王城の遺跡を調査した人の論文だと、過去の戦争でも少人数の魔族が兵を率いて、未知の技術を駆使して大陸を制覇したと書かれている。
「現代には無い未知のテクノロジー……やはり、転生者がいるんだわ」
魔族の人達に会わないと……私はこの世界に独りじゃない、そこには仲間がいる。魔族なら私をこの世界から解放してくれる救世主になってくれるかも知れないわ。
でも魔国は大陸の北にある遠い国。どうやって行けばいいのかすら分からない。今までこの首都を離れて旅行などしたこともない。何もできない私が、生きて魔国にたどり着けるとは全く思えないわ。
「お父様。私、魔国に行ってみたいの……」
おずおずと相談してみた。今、頼れるのはお父様ぐらいしか私にはいない。
「アルディア、お前もやっと外に出て見聞を広める事を決めたか。商売をするには必要な事だからな」
豪商の家に嫁ぐにしても、見識は持っていないと苦労するからと外国に行く事を認めてくれた。
「ちょうど、王国へ向かうキャラバンがある。お前もそれに同行しなさい」
そのキャラバン隊は、王国への商品の輸送と買い付けが目的。同行すれば安全に王国まで行ける。
「途中で別れて、北の辺境伯の所に行く仕事もある。そこからなら魔国も近い。お前はそちらの馬車に乗るといいだろ」
地図で見ると、辺境伯の居るタリストの町から魔国までは乗合馬車で四日の距離。定期馬車が出ているなら安全な街道のはずね。
「ありがとうございます、お父様」
キャラバン隊のお手伝いをしながら、片道一ヶ月以上の旅。私にとって初めての大きなお仕事。でも魔族が私の知る人達なら、私はもうこの家に戻らない。これが最後の親孝行になるわね
出発当日。お父様に連れられてキャラバン隊の一台の馬車に向かった。
「こいつが、隊長のドラードだ。娘を頼むぞ」
「承知いたしました、旦那様。お嬢様、他の荷物は我らで積み込みます。どうぞ馬車の中へ」
間もなく出発すると、メイドに持たせていた三つのトランクを馬車の天井部分に手早く積み込んでくれる。
手荷物だけを持って馬車に乗り込む私に、お姉様が言葉をかけてきた。
「あなたにはちょうどいい仕事じゃないの、アルディア。他の人に迷惑をかけないように、せいぜい頑張りなさい」
「はい、お姉様。では、お父様。行ってきます」
「ああ、しっかり頼むぞ」
そう言って私を見送るお父様と、嫌味な顔を向けてくるお姉様が遠ざかっていく。今まで本当の家族ではないと考えていたけど、これが見納めになると思うと少し寂しさがあるわ。
気を取り直して、馬車の奥へ目を向ける。荷物を運ぶための大型の馬車。壁際には他の町へ運ぶ荷物が積まれ、その奥には テッシアという女性従業員と病気の女の子がいる。
「その子が、王国に連れていく子供ね」
五歳の女の子だというその子供は、呪いを防ぐ仮面を被り、やつれた体を毛布に包まれて寝かされていた。
「お嬢様。この子はキルーアと言います。十日前、東にあるセウラの町で引き取って、ここまで連れてきました」
商品だけじゃなく、商売でこんな人の運搬までするのね。でもこれが私に任された今回のお仕事。途中で死んでも文句は言わないと契約書に書いてあるけど、王国の辺境迫の領地にある専門の治療施設までちゃんと送り届けないと。
近づき仮面を取って顔を見せてもらいハッとなった。
「この子、人間じゃないの!」
その顔形は、私が知っている人間だわ!! でも二ヶ月前まではオオカミ族だったと言っている。でも人間……この子も転生者? よく分からなくなってきた。
「テッシア、もっと毛布を持ってきてくれるかしら」
今のままでは、体が冷えるわ。もっと暖かくしてあげないと。
「それとお水を……いえ、水はいいわ。私のを飲ませるから」
多分、この馬車の水は濁ったあの水だわ。私がいつも飲む水を水筒に入れてきている。上澄みの水をすくい、一度沸騰させた白湯。それをキルーアに飲ませる。これで乾いた唇がマシになってくれればいいんだけど。
この子は私と同じ人間なんですもの、何としてでも助けてあげたい。
川のある野営地では、お湯を沸かしてタオルで体を拭いてあげる。ご飯は雑穀を入れた、おかゆのようなスープを食べてもらう。
「どう、これなら食べられるかしら」
「うん……」
少しずつだけど、会話もできるようになってきた。話を聞く限りこの子は転生者ではなく、この世界の子供だわ。私とも違うし、魔族とも違うようね。とにかく王国の病院までこの子を連れて行ってあげないと。
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