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第6章 魔族の国
第52話 交易路4
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翌日から、南にあるアカネイの町まで街道を一気に作っていく。魔王城の南側から森を抜け、殲滅の平原のど真ん中を通り小さな丘を越えていくルートだ。
「森と平原が交互にあるが、坂も無い平地だ。ここは嬢ちゃんが頑張ってくれ」
この直線区間はリビティナに任されて、大魔力を使って切り開いていく。工事用の魔道具は優秀で地面すれすれを一定の幅で真っ直ぐ風の刃が飛んでいく。
平原は馬車がすれ違える二車線分。森の中は魔獣に襲われないように、道の両脇に空き地を作るから六車線分を切り開く。
「賢者様。この倒れた木を横に避けていけばよろしいでしょうか」
「ああ、頼むよ」
アカネイの町から来てくれた兵士三十人が手伝ってくれる。
「よう嬢ちゃん。あんた賢者様って呼ばれてるようだが」
「あの人は、この南にある町で知り合った隊長さんでね。愛称で賢者って呼んでるだけだからさ。気にしなくていいよ」
「そうだろうな。まあ、あんたのこの魔力を見たら、賢者様と呼びたくなる気持ちも分かるがな」
親方はガハハッと笑いながら、道を固める作業の監督に戻って行った。
建国式典のことは共和国でも大々的に報じられていて、魔王の側近に賢者がいる事は知っているようだね。作業員の人達から賢者様と呼ばれて崇められるのも嫌だし、このままただの冒険者として扱ってもらおう。
数日間作業を進め、街道工事にめどが付いてきた。今晩も食事をしながら、ワイワイと作業員達と一緒に語り合う。
「丸三日でこの長い区間を切り開いちまうとは、さすが嬢ちゃんだ」
「いや~、それほどでも~」
これもあの魔道具があったからなんだけどね。
「兵隊さんもよく働いてくれるし、後方の道を固める班が全然追いつかねえぐらいだからな」
「こんなに長い、真っ直ぐな街道を作ったのは初めてだぜ」
「それが魔王城から殲滅の平原のど真ん中を通ってるんだ。こりゃ歴史に残る道になるんじゃねえか」
「そうなりゃ、俺の息子にも自慢できるぜ」
順調に工事が進んで、作業員の人もいつになく喜んでお酒も進んでいるよ。
あとは道を固めて、森部分の両側に柵を作ったりして仕上げていくだけだね。
「ねえ、親方。ミシュロム共和国から山を抜けて魔王城までの道は、もう使えるんだよね」
「ああ、道も固まってるし、谷側の柵もでき上がってる。いつでも使えるぜ」
「明日から、ここを離れるけど大丈夫かな」
ネイトス達を呼びに行って来よう。もうそろそろ共和国の町に到着する頃だしね。
「ああ、構わんぜ。あとは兵隊さんと俺達でやるから、嬢ちゃんは休んでてくれてもいいぞ」
お言葉に甘えて、翌日の朝に共和国に向かって飛んでいく。山を越えたレイドの町には既にネイトスが到着していて、五台の黒い馬車が宿屋に停められていた。
「ネイトス、早く着いたんだね」
「昨日の夕方に到着したばかりですよ。聞くところによると、もう街道の工事は始まっているとか」
「ああ、山を抜けて魔国に入る道は完成しているよ」
「そりゃ良かった。もうすぐエルフィもこの町に到着する予定です。合流でき次第出発しやしょう」
夕方にはエルフィとも合流できて、翌朝五台の馬車を連ねて新しく作った峠道の街道に入って行く。
「夜までに、アカネイの町に入れますかね」
「多分、大丈夫だと思うよ。半日で魔王城跡、その後の半日で町まで到着できる予定なんだ」
少なくとも、この山の峠道で夜になる事はないはずだけど、初めて通る道だからね、予定には余裕を持っていた方がいいけどね。
「すごく綺麗な道ね。これリビティナが作ったの?」
「少し手伝っただけだよ。工事に使う魔道具がすごく優秀でね」
工事の様子を二人に話す。そんな面白い工事ならエルフィも手伝いたかったと言っている。
この街道は上り下りのある坂や左右に曲がる峠道でスピードは出せないけど、道が固められていて乗り心地もすごくいいね。この馬車にもオイル式のサスペンションが取り付けてあるからだろうけど、ほとんど揺れる事もない。
予定よりも早く、魔王城跡まで到着できた。
「ほう、あれが魔王城跡ですか」
「でも、瓦礫が積み重なっているだけじゃん。つまんないわね」
「まあ、そう言わないでよ。ここに馬車を停められる場所があるだろう。あの城跡を観光スポットにするつもりなんだからさ」
遺跡の西側に広いスペースを作ってもらっている。これなら観光のお客さんを呼び込めるんじゃないかな。
ここで少し休憩した後、新しく作られたアカネイの町に向かって出発する。
「この道もできたばかりで綺麗ですな」
「真っ直ぐな道で気持ちいいわね。もっとスピードを上げましょうよ」
「こら、こら。まだ工事中で作業員もいるんだから、そんなに速く走れないよ」
つい先日リビティナが切り開いた道、工事も進んでこの辺りの道は仕上がっているよ。親方達が頑張ってくれたんだね。
道の先に工事をしている人達が見えてきて、その手前で馬車が止まる。
「この先も走れるか聞いて来るよ」
馬車を降り、親方の所まで駆けていく。
「おっ、嬢ちゃんじゃねえか」
「親方。あそこに止まっている馬車を通したいんだけど、町まで行けそうかな」
「まだ仕上がっちゃいねえが、通れるようにはなっているぜ。あの黒い馬車、あんたが連れてきたのかい」
「仲間がいるんだ。悪いけどボクはその人達と帰るよ」
「そうかい。今まで手伝ってくれただけで十分だ。あとは俺達がちゃんと仕上げるからよ」
「うん。ありがとう」
そう言って、馬車に戻る。工事をしていた人達が道の脇に避けて馬車を通してくれる。
工事を手伝ってくれた隊長さんや他の兵士達も道の脇で敬礼をして、ゆっくりと走る黒い車列を見送っている。
リビティナは窓を開けて、今まで一緒に工事してくれた人達に挨拶をしていく。
「みんな、今までありがとう」
「お、おい嬢ちゃん。その馬車の横にある紋章、王様の紋章と同じじゃねえか! あんた本物の賢者様だったのかよ……」
唖然と道の脇で立ち尽くす親方に、窓から手を振って「ありがとう」と言葉を投げる。馬車はできたばかりの街道を軽快に進んで行った。
---------------------
【あとがき】
お読みいただき、ありがとうございます。
今回で第6章は終了となります。
次回からは 第7章 新たな種族編 です。お楽しみに。
お気に入りや応援、感想など頂けるとありがたいです。
今後ともよろしくお願いいたします。
「森と平原が交互にあるが、坂も無い平地だ。ここは嬢ちゃんが頑張ってくれ」
この直線区間はリビティナに任されて、大魔力を使って切り開いていく。工事用の魔道具は優秀で地面すれすれを一定の幅で真っ直ぐ風の刃が飛んでいく。
平原は馬車がすれ違える二車線分。森の中は魔獣に襲われないように、道の両脇に空き地を作るから六車線分を切り開く。
「賢者様。この倒れた木を横に避けていけばよろしいでしょうか」
「ああ、頼むよ」
アカネイの町から来てくれた兵士三十人が手伝ってくれる。
「よう嬢ちゃん。あんた賢者様って呼ばれてるようだが」
「あの人は、この南にある町で知り合った隊長さんでね。愛称で賢者って呼んでるだけだからさ。気にしなくていいよ」
「そうだろうな。まあ、あんたのこの魔力を見たら、賢者様と呼びたくなる気持ちも分かるがな」
親方はガハハッと笑いながら、道を固める作業の監督に戻って行った。
建国式典のことは共和国でも大々的に報じられていて、魔王の側近に賢者がいる事は知っているようだね。作業員の人達から賢者様と呼ばれて崇められるのも嫌だし、このままただの冒険者として扱ってもらおう。
数日間作業を進め、街道工事にめどが付いてきた。今晩も食事をしながら、ワイワイと作業員達と一緒に語り合う。
「丸三日でこの長い区間を切り開いちまうとは、さすが嬢ちゃんだ」
「いや~、それほどでも~」
これもあの魔道具があったからなんだけどね。
「兵隊さんもよく働いてくれるし、後方の道を固める班が全然追いつかねえぐらいだからな」
「こんなに長い、真っ直ぐな街道を作ったのは初めてだぜ」
「それが魔王城から殲滅の平原のど真ん中を通ってるんだ。こりゃ歴史に残る道になるんじゃねえか」
「そうなりゃ、俺の息子にも自慢できるぜ」
順調に工事が進んで、作業員の人もいつになく喜んでお酒も進んでいるよ。
あとは道を固めて、森部分の両側に柵を作ったりして仕上げていくだけだね。
「ねえ、親方。ミシュロム共和国から山を抜けて魔王城までの道は、もう使えるんだよね」
「ああ、道も固まってるし、谷側の柵もでき上がってる。いつでも使えるぜ」
「明日から、ここを離れるけど大丈夫かな」
ネイトス達を呼びに行って来よう。もうそろそろ共和国の町に到着する頃だしね。
「ああ、構わんぜ。あとは兵隊さんと俺達でやるから、嬢ちゃんは休んでてくれてもいいぞ」
お言葉に甘えて、翌日の朝に共和国に向かって飛んでいく。山を越えたレイドの町には既にネイトスが到着していて、五台の黒い馬車が宿屋に停められていた。
「ネイトス、早く着いたんだね」
「昨日の夕方に到着したばかりですよ。聞くところによると、もう街道の工事は始まっているとか」
「ああ、山を抜けて魔国に入る道は完成しているよ」
「そりゃ良かった。もうすぐエルフィもこの町に到着する予定です。合流でき次第出発しやしょう」
夕方にはエルフィとも合流できて、翌朝五台の馬車を連ねて新しく作った峠道の街道に入って行く。
「夜までに、アカネイの町に入れますかね」
「多分、大丈夫だと思うよ。半日で魔王城跡、その後の半日で町まで到着できる予定なんだ」
少なくとも、この山の峠道で夜になる事はないはずだけど、初めて通る道だからね、予定には余裕を持っていた方がいいけどね。
「すごく綺麗な道ね。これリビティナが作ったの?」
「少し手伝っただけだよ。工事に使う魔道具がすごく優秀でね」
工事の様子を二人に話す。そんな面白い工事ならエルフィも手伝いたかったと言っている。
この街道は上り下りのある坂や左右に曲がる峠道でスピードは出せないけど、道が固められていて乗り心地もすごくいいね。この馬車にもオイル式のサスペンションが取り付けてあるからだろうけど、ほとんど揺れる事もない。
予定よりも早く、魔王城跡まで到着できた。
「ほう、あれが魔王城跡ですか」
「でも、瓦礫が積み重なっているだけじゃん。つまんないわね」
「まあ、そう言わないでよ。ここに馬車を停められる場所があるだろう。あの城跡を観光スポットにするつもりなんだからさ」
遺跡の西側に広いスペースを作ってもらっている。これなら観光のお客さんを呼び込めるんじゃないかな。
ここで少し休憩した後、新しく作られたアカネイの町に向かって出発する。
「この道もできたばかりで綺麗ですな」
「真っ直ぐな道で気持ちいいわね。もっとスピードを上げましょうよ」
「こら、こら。まだ工事中で作業員もいるんだから、そんなに速く走れないよ」
つい先日リビティナが切り開いた道、工事も進んでこの辺りの道は仕上がっているよ。親方達が頑張ってくれたんだね。
道の先に工事をしている人達が見えてきて、その手前で馬車が止まる。
「この先も走れるか聞いて来るよ」
馬車を降り、親方の所まで駆けていく。
「おっ、嬢ちゃんじゃねえか」
「親方。あそこに止まっている馬車を通したいんだけど、町まで行けそうかな」
「まだ仕上がっちゃいねえが、通れるようにはなっているぜ。あの黒い馬車、あんたが連れてきたのかい」
「仲間がいるんだ。悪いけどボクはその人達と帰るよ」
「そうかい。今まで手伝ってくれただけで十分だ。あとは俺達がちゃんと仕上げるからよ」
「うん。ありがとう」
そう言って、馬車に戻る。工事をしていた人達が道の脇に避けて馬車を通してくれる。
工事を手伝ってくれた隊長さんや他の兵士達も道の脇で敬礼をして、ゆっくりと走る黒い車列を見送っている。
リビティナは窓を開けて、今まで一緒に工事してくれた人達に挨拶をしていく。
「みんな、今までありがとう」
「お、おい嬢ちゃん。その馬車の横にある紋章、王様の紋章と同じじゃねえか! あんた本物の賢者様だったのかよ……」
唖然と道の脇で立ち尽くす親方に、窓から手を振って「ありがとう」と言葉を投げる。馬車はできたばかりの街道を軽快に進んで行った。
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【あとがき】
お読みいただき、ありがとうございます。
今回で第6章は終了となります。
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