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第6章 魔族の国

第47話 外交 ミシュロム共和国5

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 翌日の調印式は予定調和のもと、アクシデントもなく終わった。リビティナはどっかりと椅子に腰掛けて式典を見ているだけだった。

 この後の晩餐会は首相のネイトスと、外務大臣のエリーシアに任せている。大使となったエルフィも参加する事になっているけど、あの三人ならミシュロム共和国の豪商や貴族達ともうまくやってくれるだろう。

 ――よし、ボクは早速お米を焚いてご飯を食べようかな。

 折角お米が手に入ったんだから食べてみないとね。他のみんなはご飯と言っても、そのおいしさを知らない。ご飯は淡白で食べ慣れていないと、なんだこんな物かって思われてしまうからね。

 栽培するためにもらった物だから、精米しているのはサンプルの五食分だけだし全部もらっちゃおう。

 かといって魔王がコソコソとご飯を炊く訳にもいかない。ここは仮面を被って賢者になって厨房へ行ってみよう。
 でも厨房は晩餐会の用意で料理人が忙しく働いている。かまどを借りようと思ったけど無理なようだね。ご飯を炊くお釜だけを借りて裏庭でお米を炊くことにした。

 勿論、ミシュロム共和国の許可は取ってある。お米の品質を確かめるための試食をしたいと言ってね。

 迎賓館の裏庭に建つのは、東屋のような柱と屋根だけがある小さな建物だ。ガゼボと言うもので、お茶会などに使う建物らしく中には石のテーブルと椅子がある。
 周りは土でここなら火を熾しても大丈夫そうだ。土の上で森の中で野営するのと同じように、小さなかまどを作ってお釜を乗せる。お米の焚き方は「始めチョロチョロ、中パッパッ」というやつだ。

 もらった白米の半分を使って炊いてみる。三十分もするといい香りが漂ってきた。ん~ん、美味しそうな匂いだよ~。でもまだだよ、ちゃんと蒸らしてから「赤子泣いても蓋とるな」と言うやつだね。でもお腹が鳴ってきた。

 よし、今のうちに里から持ってきた味噌で味噌汁を作ろう。ここでもらった新鮮な野菜を入れて鍋を火にかける。

 よし、できたぞ。ご飯とお味噌汁を器に入れてテーブルに持って行く。うん、うん、これだよ。これが食べたかったんだ。晩餐会で大勢の人がいる中で料理を食べるよりも、こっちの方が断然いいよ。

 ご飯と、お味噌汁、それと魔王様用にって用意されたおかずを少し。それをガゼボの中で座って食べていると誰かがやって来た。

「おや、君はこんな所で一人で食事かな」

 向こうから一人やって来たのは商人風の青年。商人とはいえいい身なりをしているから、どこかの豪商の息子さんだろうね。

「ボクは魔国から来ていてね、ご飯の試食をしている最中なんだよ。邪魔しないでくれるかな」
「ご飯? その白い料理の事かい」

 お皿に盛りつけたご飯を見て、珍しそうに言ってくる。

「おっと失礼。私はハヌートと言う。駆け出しの商人さ」

 こちらもリビティナと名乗って、近づくのを許した。

「もし良ければ一口だけでも食べさせてくれないかな。今後の商売の参考になるかもしれないからね」

 まあ、一口だけならいいか。スプーンにご飯を乗せて渡す。それを口に運んでじっくり吟味するように咀嚼している。

「ほう、これはモッチリとした触感に微かな甘み。麦にはない美味しさだね」

 おや、分かっているじゃないか。

「じゃあ、このオコゲはどうだい」

 お釜の底にこびりついた茶色いオコゲも食べてもらう。

「これまた美味しいね。これは塩などを振ってお菓子に加工できそうだ」

 この美味しさを分かってくれる人がいたなんて~。嬉しくてつい他の料理の話もしてしまう。

「これはね、お味噌汁と一緒に食べるとすごく美味しんだよ」
「お味噌汁とは、その茶色いスープの事かな。もし良ければそれも試食させてくれないか」
「それなら、もう少しご飯も一緒に食べてみるかい」
「いいのかい。ではご相伴にあずかろうかな」

 いつの間にかテーブルを挟んで座って、ご飯談義をしてしまったよ。

「私は独立したばかりでね。親の紹介でここに参加させてもらったんだけど、ネイトス首相に話もさせてもらえなかったよ」

 調印式で披露されたダマスカス鋼の盾が凄い人気で、晩餐会の席でも立て掛けられて招待客に披露されていたそうだ。

「地図も一緒に披露されたのかな」
「ああ、あの地図は余程貴重な品らしくてね。女王様が手に取られてすぐに箱の中に仕舞われたよ」

 その様子を見た商人や貴族達が、魔国には余程珍しいものがあるのではないかと色めき立ったそうだ。

「まあ、あの盾を見ただけでも魔国のすばらしさが分かるけどね」

 女王が魔国との貿易を推奨していると伝えられ、ネイトスやエリーシアが質問攻めにあっているそうだ。

「君も魔国の人なら首相ともお知り合いかな。あの方々に取り次いでもらえると助かるんだが」
「なんだ、君はそれが目的でここに来たのかい」
「あっ、いや違うんだ。居場所が無くてね、裏庭を散歩していたらいい匂いがしてここに来たんだ。これは本当だよ。気を悪くしたら謝るよ」

 ここで食べたご飯も味噌汁も美味しくて、もし貿易ができたら輸入して商売をしたいと言っている。
 商売人ではあるようだけど、素直ないい青年みたいだね。

「魔国との交易路がもうすぐ開通するようだよ。そうなれば君も魔国に来て商売すればいいじゃないか」
「単に行っただけで商売はできないんだよ。お偉いさんのコネが無いとね」
「コネ?」
「そりゃそうだろう。キノノサト国でも将軍の発行する文書もんじょが無くちゃ、売り買いする事すらできないからね」

 特定の豪商だけ貿易の許可が降りて商売しているそうだ。その許可証のために相当なお金とコネが無いと駄目だと言う。

「魔国ではそんな事にならないさ。自由に貿易ができるよ」
「自由貿易! このミシュロム共和国と同じだっていうのか」
「そうだよ」

 そんな驚かなくてもいいじゃないか。お互い流通が活発になれば利益になるんだし、いい事だよ。まあ、国として関税をかけて儲けさせてもらうけど、それぐらいなら許してくれるよね。
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