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第6章 魔族の国
第43話 外交 ミシュロム共和国1
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ネイトスと国境を飛び越え、州都へ向かう魔国の車列に合流した。
「エルフィ、故郷の村はどうだったんだい」
「手紙は出してたんだけどね、父様も母様も心配してたみたい。顔を見せられて良かったわ」
途中の生まれ故郷の村では、魔族であるエリーシアも歓迎してくれたようだ。
エルフィが誘拐されてから二年以上経つけど、一度も村に帰っていなかったんだからご両親も心配だったはずさ。
「これで後ろ髪を引かれる事なく、里に住み続けられるわね」
いや、いや。君は眷属じゃないんだから故郷に帰ってくれていいんだからね。
「さあ、もうすぐ州都のアルスヘルムよ。ちゃっちゃと友好条約を結んじゃいましょう」
いや、いや。君は魔国の役職に就いていないし、魔国の国籍も持ってないじゃないか。張り切っているエルフィを横目に見る。
まあ、そうとは言え国交がない妖精族の国について詳しいのはエルフィしかいないからね。
妖精族の国、ミシュロム共和国。女王のヴェルデ・ソシアーノが代表として治めているけど、商業都市が寄り集まった国。四つの州に分かれていて、それぞれが独自性を持った運営をしているそうだ。
王や女王は商業に才覚ある者の中から選ばれて、今の女王は百十歳ほどらしいけど、比較的若い部類に入るらしい。
「在位二十五年のお祭りが最近あったから、百歳未満で女王の座についているのよね。すごい人だわ」
獣人で言うと三十五歳前後で国を任される地位についているんだから、若くして能力があると言う事なんだろう。
でも国の事は各州からの代表四人と女王との合議制で決められるから、女王の判断が全てじゃないらしい。それらをまとめられるカリスマ性があるようで、国民からも慕われているという。
「で、女王への贈り物だけど、本当にこの地図でいいんだろうね」
マダガスカル鋼の盾は贈るとして、もう一品はエルフィが選んでくれた世界地図。大陸の全体図とミシュロム共和国の詳細図を入れた本だ。詳細図はエルフィが手直ししてくれて新しくしたけど、その本が一冊だけでいいんだろうか。
「大丈夫よ。これを見たら女王様だってきっと驚くから」
妖精族と国交のあったエリーシアも、女王の事についてはよく知らないと言うし、エルフィの言葉に従う他ないんだけどね。
それに今回は友好条約。お互い敵対することなく、平和で文化や経済の交流ができるようになればいいよ。
「わたくしがキノノサト国にいた頃は、妖精族の商人から珍しい品物を買っていました。特に加工品が素晴らしかったですね」
国交を結んでいれば交易も盛んになる。エリーシアが言うには、食料や宝石なども素材だけでなく加工する技術に優れていたらしい。保存のきく美味しい食べ物や手の込んだ細工物がよく売れていたそうだ。
「それと高価ではありますが、魔道具も売りに来ていましたね」
「でもね、里にある電球。あんな魔道具はないからね。もし商売で売ったら凄く高値が付くのよ」
電球は妖精族が作る魔道具以上だと言う。とはいえ発電機や送電システム、電気のインフラが無いと使えない代物だから、電球だけを売りに出したら詐欺になっちゃうよ。
「それに各家にある水道。みんな普通に使ってるけど、あれってものすごい事なのよ」
「まあ、そうかもしれないけど里の外には出さない技術だからね。エルフィも他の人に話しちゃダメだよ」
「分かってるわよ。でも勿体ないわね」
さて、そろそろ州都のアルスヘルムが見えてきた。州都の中心に建つお城は、背の高い塔のようなお城だった。青い色のガラスだろうか、キラキラした材料で作られていて、壁が螺旋のように曲がりながら上空へと伸びている。あれを造るには相当な技術力が必要になる。さすが妖精族と言ったところか。
州都の広さは魔国の首都であるヘレケルトスと同じ程度。人口の少ないこの国にあっては大きな商業都市の一つになっているそうだ。
近づくにつれ州都の周りにある城壁が普通と違う事が分かってくる。ゴツゴツした岩がむき出しの城壁じゃなくて、明るいグレーの西洋漆喰仕上げになっている。
遠くから見ると光っているように見えたのは、表面を滑らかにする漆喰のせいだったんだね。
外側の面だけとはいえ全周に渡ってこんな城壁を造り上げるとは、魔国とは比べ物にならない経済力と技術力の違いを見せつけられる。
城門で魔国から来たと伝えると、お城近くにある迎賓館まで案内するので付いて来てほしいと言われた。
馬に乗った兵士四人に先導されていった先はまさに宮殿。広い庭に大理石の二階建ての建物。伝統を感じる古い様式の建物だそうだけど綺麗に整備されて古さを感じさせない。
「すごいわね、最初から国賓待遇じゃない。まあ、リビティナは王様なんだから、当たり前なんだけど」
キノノサト国の対応とは段違いだとエルフィが感心する。
エルフィ達は二つ前の町でミシュロム共和国の役人と会っているそうで、今日到着することを先方は承知しているみたいだね。歓迎の準備は既に整っていて、玄関前で何人もの案内役やメイドに出迎えられた。
「エルフィ、故郷の村はどうだったんだい」
「手紙は出してたんだけどね、父様も母様も心配してたみたい。顔を見せられて良かったわ」
途中の生まれ故郷の村では、魔族であるエリーシアも歓迎してくれたようだ。
エルフィが誘拐されてから二年以上経つけど、一度も村に帰っていなかったんだからご両親も心配だったはずさ。
「これで後ろ髪を引かれる事なく、里に住み続けられるわね」
いや、いや。君は眷属じゃないんだから故郷に帰ってくれていいんだからね。
「さあ、もうすぐ州都のアルスヘルムよ。ちゃっちゃと友好条約を結んじゃいましょう」
いや、いや。君は魔国の役職に就いていないし、魔国の国籍も持ってないじゃないか。張り切っているエルフィを横目に見る。
まあ、そうとは言え国交がない妖精族の国について詳しいのはエルフィしかいないからね。
妖精族の国、ミシュロム共和国。女王のヴェルデ・ソシアーノが代表として治めているけど、商業都市が寄り集まった国。四つの州に分かれていて、それぞれが独自性を持った運営をしているそうだ。
王や女王は商業に才覚ある者の中から選ばれて、今の女王は百十歳ほどらしいけど、比較的若い部類に入るらしい。
「在位二十五年のお祭りが最近あったから、百歳未満で女王の座についているのよね。すごい人だわ」
獣人で言うと三十五歳前後で国を任される地位についているんだから、若くして能力があると言う事なんだろう。
でも国の事は各州からの代表四人と女王との合議制で決められるから、女王の判断が全てじゃないらしい。それらをまとめられるカリスマ性があるようで、国民からも慕われているという。
「で、女王への贈り物だけど、本当にこの地図でいいんだろうね」
マダガスカル鋼の盾は贈るとして、もう一品はエルフィが選んでくれた世界地図。大陸の全体図とミシュロム共和国の詳細図を入れた本だ。詳細図はエルフィが手直ししてくれて新しくしたけど、その本が一冊だけでいいんだろうか。
「大丈夫よ。これを見たら女王様だってきっと驚くから」
妖精族と国交のあったエリーシアも、女王の事についてはよく知らないと言うし、エルフィの言葉に従う他ないんだけどね。
それに今回は友好条約。お互い敵対することなく、平和で文化や経済の交流ができるようになればいいよ。
「わたくしがキノノサト国にいた頃は、妖精族の商人から珍しい品物を買っていました。特に加工品が素晴らしかったですね」
国交を結んでいれば交易も盛んになる。エリーシアが言うには、食料や宝石なども素材だけでなく加工する技術に優れていたらしい。保存のきく美味しい食べ物や手の込んだ細工物がよく売れていたそうだ。
「それと高価ではありますが、魔道具も売りに来ていましたね」
「でもね、里にある電球。あんな魔道具はないからね。もし商売で売ったら凄く高値が付くのよ」
電球は妖精族が作る魔道具以上だと言う。とはいえ発電機や送電システム、電気のインフラが無いと使えない代物だから、電球だけを売りに出したら詐欺になっちゃうよ。
「それに各家にある水道。みんな普通に使ってるけど、あれってものすごい事なのよ」
「まあ、そうかもしれないけど里の外には出さない技術だからね。エルフィも他の人に話しちゃダメだよ」
「分かってるわよ。でも勿体ないわね」
さて、そろそろ州都のアルスヘルムが見えてきた。州都の中心に建つお城は、背の高い塔のようなお城だった。青い色のガラスだろうか、キラキラした材料で作られていて、壁が螺旋のように曲がりながら上空へと伸びている。あれを造るには相当な技術力が必要になる。さすが妖精族と言ったところか。
州都の広さは魔国の首都であるヘレケルトスと同じ程度。人口の少ないこの国にあっては大きな商業都市の一つになっているそうだ。
近づくにつれ州都の周りにある城壁が普通と違う事が分かってくる。ゴツゴツした岩がむき出しの城壁じゃなくて、明るいグレーの西洋漆喰仕上げになっている。
遠くから見ると光っているように見えたのは、表面を滑らかにする漆喰のせいだったんだね。
外側の面だけとはいえ全周に渡ってこんな城壁を造り上げるとは、魔国とは比べ物にならない経済力と技術力の違いを見せつけられる。
城門で魔国から来たと伝えると、お城近くにある迎賓館まで案内するので付いて来てほしいと言われた。
馬に乗った兵士四人に先導されていった先はまさに宮殿。広い庭に大理石の二階建ての建物。伝統を感じる古い様式の建物だそうだけど綺麗に整備されて古さを感じさせない。
「すごいわね、最初から国賓待遇じゃない。まあ、リビティナは王様なんだから、当たり前なんだけど」
キノノサト国の対応とは段違いだとエルフィが感心する。
エルフィ達は二つ前の町でミシュロム共和国の役人と会っているそうで、今日到着することを先方は承知しているみたいだね。歓迎の準備は既に整っていて、玄関前で何人もの案内役やメイドに出迎えられた。
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