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第6章 魔族の国
第30話 外交 王国2
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目の前にいる国王は四十八歳と聞いているけど、ライオン族らしいフサフサのたてがみに分厚い胸板、肩の筋肉も盛り上がっていて老体には見えない。物静かな目をしていて、荒々しさはなく威厳を漂わす。
左に立っている宰相らしき人物が言葉を発する。
「魔国の王、魔王殿。此度の建国、アルメイヤ王国として祝意を述べるものなり」
それに対して、文官が辞令を返す。
「壮健なる国王のもと、帝国との戦争に勝利されました事お喜び申し上げます。栄華を誇る貴国と友好を結ぶべく罷り越しました」
「遠路はるばるお越しいただき、ありがたき事。こちらも貴国との友好は望ぶべきものなれば、友好条約を結び後々まで親睦を深める事に同意するものなり」
予定調和の外交辞令を並べて、条約を結ぶことがこの場で宣言される。
「つきましては友好の証しとして、国内で製造された品々をお納めくださいませ」
布を被せ、後方に持ち込んでいたキャスターの付いた台をリビティナの前に移動させる。
「双胴の遠見鏡を四基と、マダガスカル鋼を使用した盾に御座います」
被せていた布を取り払い、マダガスカル鋼の盾と眷属の里でも使っている大型の双眼鏡を披露する。
盾は木の台座に立て掛けた状態で、その黒く輝く前面を王族の方へと向けている。
マダガスカル鋼の盾と聞き、左右の貴族たちが「おお~」とどよめく。
「こちらも、ミスリルの短剣と両国国王の紋章をあしらったタペストリーを友好の証しとして贈るものなり」
ミスリルの短剣と聞き、またしても左右の貴族がどよめく。
それらの品々を乗せた台は遠回りに、貴族が居並ぶ前をゆっくりと移動しながら別室へと運ばれる。その黒きマダガスカルの盾と白きミスリルの短剣を見ようと後方の貴族も前列へと詰めかける。
「あれほどの大きさの盾、いかほどのマダガスカル鋼を使用しているのか」
「あの裏の持ち手や枠は全て銀ではないのか。魔国にそれほどの財力があるとは」
「波紋の浮かぶあの黒き輝きと銀色に輝く彫刻、何と優美な……優秀な職人技による芸術品ではないか。魔国がこのような文化を有しているとはな……」
贈答品が前を通るたびに、貴族から感嘆の声が上がる。大型の双眼鏡も初めて見るようで、その技術力にも驚いている。貴族であっても、手に持つ伸縮式の小さな望遠鏡程度しか持っていないそうだからね。
それに貴重なミスリルを他国に送るのも異例の事。目の前を通る光る短剣をしげしげと眺めている。
これで友好条約締結の式典は終了となり、元来た道をリビティナ達が引き返していく。来た時とは違い、その姿は畏敬の念で王国貴族達に見送られる。
「ふぇ~。やっと終わったよ~」
「お疲れ様でした。リビティナ様」
「こんな式典より、食事会はまだなの~。あたしお腹すいちゃった」
控え室に入って、緊張の解けたリビティナがだらりと椅子にもたれかかる。まあ、なんとか言われた通りにはできたかな。
この後は祝賀パーティーのようなものがあるらしいけど、欠席が決まっている。食事は別室に用意されていて、魔国の者だけで食事会を開く。
しばらく寛いでいると、案内役が部屋の扉をノックした。
「国王様がお呼びです。ハウランド伯爵様と一緒に来ていただけないでしょうか」
「どういう事だい。予定には無かったはずだけど」
「どうも私的な懇談がしたいそうだ。私も呼ばれていてな、すまんが一緒に来てくれんか」
隣りに立つ伯爵が、すまなそうに説明してくれる。
「リビティナ様。それならば俺も付いて行きます。ハウランド伯爵、よろしいか」
「ああ、別に構わないさ。本来なら護衛が何人もついて来てもいいくらいだからな」
「リビティナ、あたしは行かなくてもいいのよね。ここで食事をしているわ」
エルフィは全く興味ないというふうに、椅子に座ったまま片手を振る。
面倒ではあるけど仕方ないか。ハウランド伯爵の言う通りにしておこう。
連れていかれたのは、さっきのような大きな扉じゃなくて、豪華ではあるけど普通の部屋の扉。
中に入ると、テーブルの奥にさっきの国王とその左右に四人の貴族が座っていた。
「魔王殿、呼び立てしてすまぬな」
中央に座っている国王自ら、渋く威厳のあるオジサマボイスで話してきた。え~と、こういう場合はこちらも威厳を持って応えるんだっけ。
「我をわざわざ呼び出すとは。どのような用件があると言うのだ」
それを聞いたハウランド伯爵が耳打ちしてきた。
「ここに居られるのは、王族に準ずる公爵様だ。君が賢者だという事は承知しておられる。普通の言葉遣いでいいぞ」
「え~、なんだよ。それを早く言ってよ」
我とか言っちゃったじゃないか。もう、恥ずかしいな。緊張して損しちゃったよ。
「それじゃ、王様。このボクに何の話があるんだい」
「こら、こら。それは砕け過ぎだ」
横にいるハウランド伯爵に怒られちゃったよ。
「よい、よい。そなたも一国の王なのだ。友人として話してくれれば良い」
そう言ってもらえると助かるよ。テーブルにはお茶とお菓子も用意されている。席に着いて寛いだ雰囲気で言葉を交わす。
王様から左右の公爵を紹介されたけど、貴族の家名付きの名前で覚えられなかったよ。こちらもネイトスを首相として紹介した。
公爵の内、二人はライオン族。やはり親戚なんだろうか。そういやハウランド伯爵もライオン族だね。血が繋がっているのかな。
「此度はリビティナ殿に無理を言って建国してもらっておる。その感謝を述べたくてな」
「帝国との戦いでも助力していただいたと聞いておる。我ら公爵からもお礼を言いたい」
なんだ、みんないい人じゃないか。
左に立っている宰相らしき人物が言葉を発する。
「魔国の王、魔王殿。此度の建国、アルメイヤ王国として祝意を述べるものなり」
それに対して、文官が辞令を返す。
「壮健なる国王のもと、帝国との戦争に勝利されました事お喜び申し上げます。栄華を誇る貴国と友好を結ぶべく罷り越しました」
「遠路はるばるお越しいただき、ありがたき事。こちらも貴国との友好は望ぶべきものなれば、友好条約を結び後々まで親睦を深める事に同意するものなり」
予定調和の外交辞令を並べて、条約を結ぶことがこの場で宣言される。
「つきましては友好の証しとして、国内で製造された品々をお納めくださいませ」
布を被せ、後方に持ち込んでいたキャスターの付いた台をリビティナの前に移動させる。
「双胴の遠見鏡を四基と、マダガスカル鋼を使用した盾に御座います」
被せていた布を取り払い、マダガスカル鋼の盾と眷属の里でも使っている大型の双眼鏡を披露する。
盾は木の台座に立て掛けた状態で、その黒く輝く前面を王族の方へと向けている。
マダガスカル鋼の盾と聞き、左右の貴族たちが「おお~」とどよめく。
「こちらも、ミスリルの短剣と両国国王の紋章をあしらったタペストリーを友好の証しとして贈るものなり」
ミスリルの短剣と聞き、またしても左右の貴族がどよめく。
それらの品々を乗せた台は遠回りに、貴族が居並ぶ前をゆっくりと移動しながら別室へと運ばれる。その黒きマダガスカルの盾と白きミスリルの短剣を見ようと後方の貴族も前列へと詰めかける。
「あれほどの大きさの盾、いかほどのマダガスカル鋼を使用しているのか」
「あの裏の持ち手や枠は全て銀ではないのか。魔国にそれほどの財力があるとは」
「波紋の浮かぶあの黒き輝きと銀色に輝く彫刻、何と優美な……優秀な職人技による芸術品ではないか。魔国がこのような文化を有しているとはな……」
贈答品が前を通るたびに、貴族から感嘆の声が上がる。大型の双眼鏡も初めて見るようで、その技術力にも驚いている。貴族であっても、手に持つ伸縮式の小さな望遠鏡程度しか持っていないそうだからね。
それに貴重なミスリルを他国に送るのも異例の事。目の前を通る光る短剣をしげしげと眺めている。
これで友好条約締結の式典は終了となり、元来た道をリビティナ達が引き返していく。来た時とは違い、その姿は畏敬の念で王国貴族達に見送られる。
「ふぇ~。やっと終わったよ~」
「お疲れ様でした。リビティナ様」
「こんな式典より、食事会はまだなの~。あたしお腹すいちゃった」
控え室に入って、緊張の解けたリビティナがだらりと椅子にもたれかかる。まあ、なんとか言われた通りにはできたかな。
この後は祝賀パーティーのようなものがあるらしいけど、欠席が決まっている。食事は別室に用意されていて、魔国の者だけで食事会を開く。
しばらく寛いでいると、案内役が部屋の扉をノックした。
「国王様がお呼びです。ハウランド伯爵様と一緒に来ていただけないでしょうか」
「どういう事だい。予定には無かったはずだけど」
「どうも私的な懇談がしたいそうだ。私も呼ばれていてな、すまんが一緒に来てくれんか」
隣りに立つ伯爵が、すまなそうに説明してくれる。
「リビティナ様。それならば俺も付いて行きます。ハウランド伯爵、よろしいか」
「ああ、別に構わないさ。本来なら護衛が何人もついて来てもいいくらいだからな」
「リビティナ、あたしは行かなくてもいいのよね。ここで食事をしているわ」
エルフィは全く興味ないというふうに、椅子に座ったまま片手を振る。
面倒ではあるけど仕方ないか。ハウランド伯爵の言う通りにしておこう。
連れていかれたのは、さっきのような大きな扉じゃなくて、豪華ではあるけど普通の部屋の扉。
中に入ると、テーブルの奥にさっきの国王とその左右に四人の貴族が座っていた。
「魔王殿、呼び立てしてすまぬな」
中央に座っている国王自ら、渋く威厳のあるオジサマボイスで話してきた。え~と、こういう場合はこちらも威厳を持って応えるんだっけ。
「我をわざわざ呼び出すとは。どのような用件があると言うのだ」
それを聞いたハウランド伯爵が耳打ちしてきた。
「ここに居られるのは、王族に準ずる公爵様だ。君が賢者だという事は承知しておられる。普通の言葉遣いでいいぞ」
「え~、なんだよ。それを早く言ってよ」
我とか言っちゃったじゃないか。もう、恥ずかしいな。緊張して損しちゃったよ。
「それじゃ、王様。このボクに何の話があるんだい」
「こら、こら。それは砕け過ぎだ」
横にいるハウランド伯爵に怒られちゃったよ。
「よい、よい。そなたも一国の王なのだ。友人として話してくれれば良い」
そう言ってもらえると助かるよ。テーブルにはお茶とお菓子も用意されている。席に着いて寛いだ雰囲気で言葉を交わす。
王様から左右の公爵を紹介されたけど、貴族の家名付きの名前で覚えられなかったよ。こちらもネイトスを首相として紹介した。
公爵の内、二人はライオン族。やはり親戚なんだろうか。そういやハウランド伯爵もライオン族だね。血が繋がっているのかな。
「此度はリビティナ殿に無理を言って建国してもらっておる。その感謝を述べたくてな」
「帝国との戦いでも助力していただいたと聞いておる。我ら公爵からもお礼を言いたい」
なんだ、みんないい人じゃないか。
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