上 下
21 / 212
第2章 最果ての森

第20話 森の探査

しおりを挟む
 明後日から、ガリアとシャトリエと共に森に入る事になったが、その前にちゃんと準備してもらわないといけない。

「それで私達は何をすればいいのかしら」
「野営の準備はこちらでする。非常食は持って行ってもらうとして、あんたらにも魔獣と戦かってもらう事になる。武器と防具は用意しておいてくれ」
「それはもちろん準備しますわ」
「但し、ガチャガチャと音が鳴るような鎧はダメだ。静かに行動できる物だけにしてくれ」

 この森の魔獣は、耳がいい。音のする鎧では襲ってくれと言っているようなものだからな。ガリアは自分の装備にケチを付けられたと思ったのか、少しムッとして言葉を返す。

「オレは大盾使いだ。他の森でも使っていたプレートアーマーを持ってきているが、それではダメだと言う事か」
「この森ではな。鎧の所々を外して金属同士が擦れ合わないようにしてくれるか。村の防具屋に行って直すか、新しいものを買ってくれ」

 二人はあまり納得していない様子だったが、こちらの指示には従ってくれるようだ。一通りの注意をし終わり、後は各自で準備してもらう事にした。

 出発の日。
 荷馬車を用意して北門で待っていると、一昨日の二人がやって来た。ガリアは、兵団の小隊長と言うだけあって強固な大盾を持っている。鎧はパーツの間を革鎧で補強した、擦れても音が鳴らないような物を身に着けているな。聞くと、この森仕様に作られた鎧を防具屋から新たに買ったと言っていた。

 シャトリエは白い神官服ではあるが、下には鎧を纏っているようだ。金色の長い髪は短くまとめて、額当てを兼ねた帽子で留めている。それに腰には短剣か。魔術も使えて剣も使えるとはエリート様なのかもしれんが、実戦でちゃんと役に立ってくれればいいんだがな。

「森までは十分ほどの距離がある。この荷馬車に乗ってくれ」

 村の北門には、森へ向かう乗合馬車が多く停まっている。森へ向かう冒険者が多いこの村では、森入り口まで送り迎えする定期馬車が運行されている。歩いて行ける距離ではあるが、馬車を利用するのが常だ。
 今回は野営の為の荷物もあるし、それなりの前金ももらっている。他の連中とは別に四人乗りの荷馬車を雇って、山に一番近い森の入り口へと向かう。

「今日は、あんたらの依頼通り、森の周縁二層地区まで行って野営する」
「周縁二層? それってどれくらいの距離になるんですか」
「日帰りで行ける距離ごとに一層、二層と名を付けている。周縁は二層まで、その先は深層の一層から六層まである。深層の二層が一番近い山の麓になる」
「だから山までは二日間と言う事なのですね」
「但し、基準となるBランク冒険者二名を含む三人以上のパーティーでの話だ。あんたらの実力次第だが、山まで行けるかは保証できん」
「ネイトス、お前はBランクなんだろう。それなら充分山の入り口に到達できるんじゃないのか」

 冒険者はEランクからSSランクまでランク分けされている。通常町に居るのはBランクが一番上だ。Aランク以上になると国や領主の兵団に入るのが常だ。
 依頼による報酬ではなく給料をもらい、職業軍人として働く者が多い。SやSSランクを俺は見たことが無いが、国の兵団長をするか王や貴族の護衛や特殊任務に就いているらしい。

 冒険者ではないこいつらのランクは、実際の戦いを見てみんと分からんな。
 この、ガリアは兵団の小隊長をしていると言うならBランクかもしれんが、神官連れでは荷が重いだろう。今回は深層まで行くつもりだが、場合によっては途中で引き返すことも考えておかんとな。

「ここから森に入る。魔獣は少ないができるだけ戦闘は避けて奥へ進むつもりだ」
「ああ、よろしく頼む」

 荷物を持ち後ろの二人を引き連れて、山に向かうルートを足早に進んで行く。途中、狼の魔獣に出くわしたが、ガリアが盾と剣で防ぎ、シャトリエが攻撃魔法で援護し止めを刺していた。それなりの連携ができているようだな。

「ここいらで休憩をしよう」

 小川の淵で腰を掛け、簡単な食事を用意する。

「ここはどの辺りになるんですか」
「一層の端だな。この小川の向こうが二層地区になる」
「まだ昼にもなっていない。これなら今日中に深層に踏み込むこともできそうだな」
「深層は魔獣だけが住むエリアだ。それなりの準備がなきゃ死ぬ事になるぞ」

 これは脅しではない。周縁二層の端までなら、ある程度の実力者なら簡単に進めるだろうが、その先は死ぬ事も覚悟をしてもらわんとならん。
 護衛の依頼を受けた限りは、自分も含め全員で村に帰りつきたいもんだぜ。

 この二人と周縁の森を歩き、大体の実力は分かってきた。小隊長をしていると言うガリアは俺と同じBランクだろう。神官のシャトリエはCランク下位のLV.1ぐらいか。まあ神官としては良く戦えている。山の調査でこの二人が選ばれたのも頷けるな。


「この辺りが周縁二層の端だ。今晩はここで野営する」

 まだ陽は高いが、早めに野営の準備を始めた。

「オレ達は早くマウネル山の調査をしたい。もう少し先に進むことはできんか」
「この先は深層になる。今までの一層、二層と言うのは距離の違いだが、周縁と深層とでは魔獣の種類が違う。野営の危険度は格段に上がる」

 ここまでは、どこにでもある森だ。実力のある二人だから早くにここまで来れたが、深層での野営はできる限り避けなきゃならん。どんなに早く到着してもこの地点で野営するのがセオリーだ。
 明日からは深層に入る。今日のうちに疲れをしっかりと取っておかんとな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【改訂版】目指せ遥かなるスローライフ!~放り出された異世界でモフモフと生き抜く異世界暮らし~

水瀬 とろん
ファンタジー
「今のわたしでは・・ここにある・・それだけ」白い部屋で目覚めた俺は、獣人達のいる魔法世界に一人放り出された。女神様にもらえたものはサバイバルグッズと1本の剣だけ。 これだけで俺はこの世界を生き抜かないといけないのか? あそこにいるのはオオカミ獣人の女の子か。モフモフを愛して止まない俺が、この世界で生き抜くためジタバタしながらも目指すは、スローライフ。 無双などできない普通の俺が、科学知識を武器にこの世界の不思議に挑んでいく、俺の異世界暮らし。 ―――――――――――――――――――――――――――― 完結した小説を改訂し、できた話から順次更新しています。基本毎日更新します。 ◇基本的にのんびりと、仲間と共にする異世界の日常を綴った物語です。 ※セルフレイティング(残酷・暴力・性描写有り)作品

彼氏に身体を捧げると言ったけど騙されて人形にされた!

ジャン・幸田
SF
 あたし姶良夏海。コスプレが趣味の役者志望のフリーターで、あるとき付き合っていた彼氏の八郎丸匡に頼まれたのよ。十日間連続してコスプレしてくれって。    それで応じたのは良いけど、彼ったらこともあろうにあたしを改造したのよ生きたラブドールに! そりゃムツミゴトの最中にあなたに身体を捧げるなんていったこともあるけど、実行する意味が違うってば! こんな状態で本当に元に戻るのか教えてよ! 匡! *いわゆる人形化(人体改造)作品です。空想の科学技術による作品ですが、そのような作品は倫理的に問題のある描写と思われる方は閲覧をパスしてください。

バイクごと異世界に転移したので美人店主と宅配弁当屋はじめました

福山陽士
ファンタジー
弁当屋でバイトをしていた大鳳正義《おおほうまさよし》は、突然宅配バイクごと異世界に転移してしまった。 現代日本とは何もかも違う世界に途方に暮れていた、その時。 「君、どうしたの?」 親切な女性、カルディナに助けてもらう。 カルディナは立地が悪すぎて今にも潰れそうになっている、定食屋の店主だった。 正義は助けてもらったお礼に「宅配をすればどう?」と提案。 カルディナの親友、魔法使いのララーベリントと共に店の再建に励むこととなったのだった。 『温かい料理を運ぶ』という概念がない世界で、みんなに美味しい料理を届けていく話。 ※のんびり進行です

航海のお供のサポートロボが新妻のような気がする?

ジャン・幸田
恋愛
 遥か未来。ロバーツは恒星間輸送部隊にただ一人の人間の男が指揮官として搭乗していた。彼の横には女性型サポートロボの登録記号USR100023”マリー”がいた。  だがマリーは嫉妬深いし妻のように誘ってくるし、なんか結婚したばかりの妻みたいであった。妻を裏切りたくないと思っていたけど、次第に惹かれてしまい・・・ 予定では一万字前後のショートになります。一部、人体改造の描写がありますので、苦手な人は回避してください。

日は沈まず

ミリタリー好きの人
歴史・時代
1929年世界恐慌により大日本帝國も含め世界は大恐慌に陥る。これに対し大日本帝國は満州事変で満州を勢力圏に置き、積極的に工場や造船所などを建造し、経済再建と大幅な軍備拡張に成功する。そして1937年大日本帝國は志那事変をきっかけに戦争の道に走っていくことになる。当初、帝國軍は順調に進撃していたが、英米の援蔣ルートによる援助と和平の断念により戦争は泥沼化していくことになった。さらに1941年には英米とも戦争は避けられなくなっていた・・・あくまでも趣味の範囲での制作です。なので文章がおかしい場合もあります。 また参考資料も乏しいので設定がおかしい場合がありますがご了承ください。また、おかしな部分を次々に直していくので最初見た時から内容がかなり変わっている場合がありますので何か前の話と一致していないところがあった場合前の話を見直して見てください。おかしなところがあったら感想でお伝えしてもらえると幸いです。表紙は自作です。

進学できないので就職口として機械娘戦闘員になりましたが、適正は最高だそうです。

ジャン・幸田
SF
 銀河系の星間国家連合の保護下に入った地球社会の時代。高校卒業を控えた青砥朱音は就職指導室に貼られていたポスターが目に入った。  それは、地球人の身体と機械服を融合させた戦闘員の募集だった。そんなの優秀な者しか選ばれないとの進路指導官の声を無視し応募したところ、トントン拍子に話が進み・・・  思い付きで人生を変えてしまった一人の少女の物語である!  

残酷な淫薬は丸出しの恥部目掛けて吹き付けられる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

売られていた奴隷は裏切られた元婚約者でした。

狼狼3
恋愛
私は先日婚約者に裏切られた。昔の頃から婚約者だった彼とは、心が通じ合っていると思っていたのに、裏切られた私はもの凄いショックを受けた。 「婚約者様のことでショックをお受けしているのなら、裏切ったりしない奴隷を買ってみては如何ですか?」 執事の一言で、気分転換も兼ねて奴隷が売っている市場に行ってみることに。すると、そこに居たのはーー 「マルクス?」 昔の頃からよく一緒に居た、元婚約者でした。

処理中です...