上 下
16 / 212
第2章 最果ての森

第15話 扉、完成

しおりを挟む
「なかなかいい扉ができたじゃないか」

 リビティナは、洞窟の外から完成した扉を満足げに眺める。
 観音開きの二枚扉。全体は派手な赤色で良く目立っている。葉と花の彫刻には緑と黄色が使われ、いいアクセントになっているしね。
  取っ手のハンドルを持って押すと、大きな扉がスムーズに開いてくれる。

「うん、うん。苦労した甲斐があったよ。後はこの看板を扉の上に掲げるだけだね」

 両手を広げる程もある、大きな木の看板。こちらは緑色に塗られた木の板に『眷属のお店』と浮き彫りされた赤い文字がくっきりと書かれている。
 絵文字? 口に牙を生やしたヴァンパイアの絵を書くとお客さんが逃げちゃうからね、大陸の共通文字だけにしておいたよ。

 扉の上、岩をくり抜いた部分にその看板を入れ込んで、四隅を軽く叩き込めば外れることなく取り付けられた。

「よし、これでボクのお店は完成だ。後は眷属になってくれる人を待つだけだね」

 とは言え、早々に眷属になりたいという人は現れるはずもなく、一ヶ月が過ぎ、二ヶ月が過ぎた。
 まあ、当たり前か。ここは魔獣が住む森に囲まれた山。その中腹とはいえ標高は千メートルを越えている。余程の覚悟を持った人じゃないと登ってこないだろうね。

「まあ、気長に待てばいいさ。ボクはここでの生活も気に入っているしね」

 それに 獣人の町に出て良く分ったよ。ボクの能力はあまりにも高すぎる 。同じ場所で暮らせばトラブルの元になるからね。恐れられるだけじゃなくボクの能力を利用しようとする者まで現れるだろう 。
 そんなややこしい事に巻き込まれるのは、勘弁してもらいたいよ。

 元より不死身の体、人がいなくても別に寂しい訳じゃない。のんびりと自分の好きなように生きられるここの生活もいいものだ。
 こういうのをスローライフと言うのだろうか。いや、ただの引き籠りかな? まあ、どっちでもいいや。

 お客さんが来ない間もリビティナは、登山道を整備したり、崖に落ちないように、道の端に柵を作ったりしていった。
 半年が過ぎ、八ヶ月が過ぎた頃、洞窟の前に雪が積もりだす。この惑星にも季節があるようだね。この分だと冬の間、ここに登ってくる人はいないだろう。

「こりゃ、開店休業状態になっちゃたね」

 白く降り積もる雪を見ながら、リビティナは一人つぶやく。それならいっその事、冬の間は眠っていればいいんじゃないかな?

 ヴァンパイアの体は一日中ずっと起きていることもできるし、反対にずっと眠っていることもできる。人が来ないなら省エネモードで眠っていても大丈夫だろう。もし人が来てドアを叩けば、その音ですぐに目覚める事ができるしね。

 ベッドには、フカフカの布団がある。大きなガチョウのような魔獣から取った柔らかい羽毛を、東の町で買ってきた布に詰めたものだ。

「こうやって、一日中寝て過ごすのもいいもんだね」

 書庫の本を枕元に持ってきて時折それを読みながら、リビティナは一日のほとんどを温かな布団に包まれて眠りについた。そして一ヶ月が過ぎた頃、扉を叩く音がした。

 叩くと言うより引っ掻くような音だ。リビティナは起き上がり、窓から外の様子を覗うと、扉の前に子熊が雪に埋もれて倒れている。
 扉を開けると、弱々しくクゥ~ンと鳴く。母熊とはぐれたか、兄弟との生存競争に敗れたのか一人こんな所まで来たのだろう。

「これも何かの縁かな。ボクの家のドアを最初に叩いたのが君だったんだからね。少しだけ力を貸してあげるよ」

 本来、野生動物は自然に任せるのが一番だ。それは、この森で生きる魔獣も同じこと。生存競争の中での出来事なんだからね。

 でも……そう思い、リビティナは死にかけている子熊を部屋の中へと運び入れた。
 床に乾いたタオルを敷いて、その上に寝かせ暖炉に火をつける。リビティナは子熊の体をタオルで拭いて、炎と風魔法を調整し温風で体毛を乾かす。

 子熊はもう体力が無いのか、暴れる事もなく大人しくしている。どこか怪我したところは無いかと体のあちこちを調べる。

「おや、君は男の子だね。それに魔獣の子供なのかな」

 小さいながらも、口元から牙が生えていて手足の爪が赤い。それでもテディベアのぬいぐるみのように、愛らしい黒い目と茶色の柔らかい毛がモフモフで手触りがすごくいい。頭の上の半円形の耳もすごく可愛らしい。

「できれば、助かってほしいけどね」

 かといって、獣人にしたようにヴァンパイアの血を与える訳にはいかないだろう。薬と毒は紙一重だ、子熊にどんな影響が出るか分からないからね。光魔法だけを全身に当てて、毛布を一枚掛けて静かに寝かせる。

「後は運を天に任せよう」

 器に水を入れて、食料となる木の実と乾し肉を口先に置いてリビティナは寝室へと戻る。

 ――翌朝。
 子熊が死んでいないことを願って、静かに部屋の中に入る。子熊はリビティナが入って来たのに気づいて、顔を少し上げてクゥ~ンと鳴いた。

「良かった、助かったんだね」

 死んでいたらどうしようと言う不安が反転して笑みがはじける。置いていた水も飲んでいるし、餌も食べてくれたようだ。よしよし、君はいい子だ。

 まだ安心はできないけど、昨日とは違いこちらを見つめる瞳には力が宿っているように思える。光魔法を全身に当てて、食糧庫から持ってきたドライフルーツを与えると夢中で食べてくれた。

「どうだい、しばらくここで暮らさないかい。ボクも冬の間は暇なんだよ。君はモフモフさんだし、一緒に居ると暖かそうだ」

 真冬でも洞窟内の気温は外気に比べ高い。冬の間、暖炉に火を入れずともこの洞窟内で過ごすことができるだろう。保存食も雪が積もる前に大量に作っているから心配ないしね。
 運よく助かった命だ、しばらくはその命を預かって育ててみようと決意する。

「それなら、名前を付けないとね。そ~だな……バァルーというのはどうだい」

 自分の名前だとこの子熊が理解したか分からないけど、クゥ~ンと甘えた声で鳴く。バァルーのすぐ横に座り頭と背中を撫でてあげると、気持ちよさそうに目を細める。
 結局リビティナはこの冬の間、魔獣のバァルーと洞窟で一緒に過ごすことになった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~

白い彗星
ファンタジー
十年という年月が、彼の中から奪われた。 目覚めた少年、達志が目にしたのは、自分が今までに見たことのない世界。見知らぬ景色、人ならざる者……まるで、ファンタジーの中の異世界のような世界が、あった。 今流行りの『異世界召喚』!? そう予想するが、衝撃の真実が明かされる! なんと達志は十年もの間眠り続け、その間に世界は魔法ありきのファンタジー世界になっていた!? 非日常が日常となった世界で、現実を生きていくことに。 大人になった幼なじみ、新しい仲間、そして…… 十年もの時間が流れた世界で、世界に取り残された達志。しかし彼は、それでも動き出した時間を手に、己の足を進めていく。 エブリスタで投稿していたものを、中身を手直しして投稿しなおしていきます! エブリスタ、小説家になろう、ノベルピア、カクヨムでも、投稿してます!

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

最弱スキルも9999個集まれば最強だよね(完結)

排他的経済水域
ファンタジー
12歳の誕生日 冒険者になる事が憧れのケインは、教会にて スキル適性値とオリジナルスキルが告げられる 強いスキルを望むケインであったが、 スキル適性値はG オリジナルスキルも『スキル重複』というよくわからない物 友人からも家族からも馬鹿にされ、 尚最強の冒険者になる事をあきらめないケイン そんなある日、 『スキル重複』の本来の効果を知る事となる。 その効果とは、 同じスキルを2つ以上持つ事ができ、 同系統の効果のスキルは効果が重複するという 恐ろしい物であった。 このスキルをもって、ケインの下剋上は今始まる。      HOTランキング 1位!(2023年2月21日) ファンタジー24hポイントランキング 3位!(2023年2月21日)

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...