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第5章 眷属の里

第11話 ノルキア帝国の侵攻2

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「辺境伯のお城まで行くけど、エルフィは場所を覚えているかい」
「ここから西に行った一番大きな町よね」

 半年前この里に来る途中に立ち寄った、ハウランド伯爵が住むタリストの町。
 伯爵の爵位を四年前に授かり、正式に辺境伯となっている。その時の祝賀会に賢者として出席したけど、あんなに沢山の人がいる所はもう勘弁してほしいよ。

「それじゃ、ボクに付いて来てくれるかな」
「ちょっと待ってよ。あたし一人で飛んで行けなんて言わないわよね」
「ボクはネイトスを抱えて飛ぶんだから。君は君で飛んでくれよ」
「あたし、あんな遠くまで飛べないわよ。前みたいにあたしも抱えて飛んでくれるんじゃないの」

 タリストの町までは、馬車で四日ぐらい。少し速く飛ぶと一時間ぐらいだから直線で一五〇キロメートルと言ったところか。

「あたし連続で飛ぶのは、一時間と少しが限界なの。伯爵様の町まで行くなら、二回は休憩しないと」

 エルフィの言っている一時間というのはこちらの世界の事だから、連続飛行は二時間が限界か。休憩を入れると七、八時間は掛かってしまうと言う事かな。それじゃ明日になってしまうよ。

「仕方ないな。ネイトスはベルトで吊り下げて、エルフィを抱えて飛んで行こう。でもこれだけ重いと時間がかかっちゃうな」
「失礼ね。アタシはそんなに重くないわよ」

 まあ、ぎりぎり飛べる重さだけど、上昇気流を掴みながら飛ぶから時間がかかるね。

「前に教えてあげたでしょう。翼に魔力を流して上に浮かぶのよ」

 妖精族は羽に流れる魔力を使って飛んでいるらしい。だからあんな弱々しい羽根でも体重を支えて空を飛べる。リビティナも翼に魔力を流して浮かび上がる事ができるようになった。こういう魔法技術は妖精族の方が上だね。

「さすがリビティナは飛ぶのが速いわね。この目の前にあるのは風魔法の壁かしら」
「それで空気抵抗を減らして速く飛んでいるんだよ」
「空気抵抗? よく分からないわね。でもそれをあたしが代わりにやってあげるから、リビティナは翼の魔力を増やしなさいよ」

 確かにその方が早く飛べそうだね。風魔法の先端を流線形のような形にするんだと説明して、前方はエルフィに任せてみよう。

「うわっ! そんなに大きく広げちゃダメだよ。翼の浮力まで無くなっちゃうじゃないか」
「えっ、そうなの。こうかしら、難しいわね」

 そうだよ、人の前だけ風を切ってもらわないと。吊り下げているネイトスの所も風魔法を使ってくれて、その分楽になったよ。この調子だと、お昼過ぎにはタリストの町に到着できそうだね。

 そろそろ町が見えてきた。急降下して地上に降りよう。

「ヒッ! ヒッエ~エ~ェ~~~」

 またネイトスが叫んでいるよ。困ったもんだね。


「エルフィ。ここではボクは賢者、ネイトスはその弟子と言う事になっているからね」
「それでおそろいのローブに仮面をつけているのね」

 こんな街中でヴァンパイアだとバレると、大騒ぎになっちゃうからね。
 城門の前で伯爵に会いたいと言うと、すぐに馬車を用意してくれた。今回はお城の執務室に案内される。

「賢者様、こんなに早く来てくれてありがたい。昨日、王都から情報が入った」

 部屋の中には数人の側近達と相談をしているハウランド伯爵がいた。伯爵になっても、率先して問題を解決しようとする姿勢は変わっていないようだね。

「どうも、ノルキア帝国は全面的に王国に対して侵攻を計画しているようだ」

 王都に集まる情報から、帝国が各地の国境を突破して全面攻勢に出ると予想しているようだね。長い国境線ではあるけど、所々に軍隊が集結している場所があるらしい。

「この長い国境全てにおいて、侵攻してくる事は考えにくいんだがな」

 それだけ兵を分散させるのは不利になるからね。陽動がほとんどで一部の地方から侵攻するのが常道だと伯爵は考えているようだ。国境検問所のある五ヶ所がその有力候補となる。

「ノルキア帝国だけで、大規模に侵攻できる経済力は無いからね。鬼人族の援助があるはずだよ」

 まあ、滅亡覚悟で仕掛けてくるなら話は別だけど、そこまで馬鹿じゃないだろう。

「レインが居る国境の町に軍隊がいるようだね。そこに鬼人族の部隊がいるかどうかで、実際に侵攻してくるか判断できるんだけどね」
「うむ、裏に鬼人族がいる事を考えると、そう言う事になるな……。だが、そう簡単に敵部隊の様子は分からん。レインからの手紙ももう届かないだろうからな」

 国境の検問所も緊迫していて、いつ職員を退避させようか考えているところだと言う。検閲される恐れもあるから、レインも簡単には手紙を出してこないだろう。

「それなら、ここにいるエルフィが空を飛んで見に行ってくれるよ」
「えぇっ! あたしが行くの!」

 こらこら、こんなところで大声を上げるもんじゃないよ。目配せしたけど仮面を被っているからエルフィには伝わらないか……察してほしいんだけどね。

「そ、そうね。あたしなら検問所を通らずに国境を越えられるわね。し、仕方ないわね。スパイのまねごとをしてあげてもいいわよ」

 上手いよ、エルフィ。実際に帝国内に行くのはリビティナと、できればネイトスも。闇夜に紛れて飛んで行けば、町に忍び込むのも簡単だからね。

「それは助かりますな。直接敵の情報が手に入るなら、対応も色々と考えられますからな」

 側近達もこちらの提案を歓迎してくれる。まあ、どのみちレインの事が心配だから見に行くつもりだったんだけど。

「それと言っておくけど、ボクはこんな争いに加担するつもりはないからね。戦争するなら君達だけでやってくれよ」
「ああ、それは承知している。賢者様の知恵を拝借できるだけで充分さ」

 この伯爵とは、日頃からこのような話をしている。自分はたまたまこの領地内に居るだけで、領主に従う者ではないとね。物わかりのいい領主で助かるよ。この後も双方で情報を出し合って相談していく。


「じゃあ、そろそろ出かける事にするよ」
「直近の情報では国境の一番近い町に、二千程の兵が集結しているらしい。行くにしても気を付けてくれ」

 伯爵が気を遣ってくれているけど、それほど難しい事じゃないよ。
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