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第5章 眷属の里
第4話 眷属の里4
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今晩エルフィに泊まってもらうのは、この廊下の奥にある部屋。
「そろそろ暗くなってきたね。明かりを灯そう」
そう言って壁際のスイッチを入れる。
「うわっ! 何、なんでこんなに明るくなるの! 魔法、いや魔道具かしら」
「違うよ。電球って言ってね。天井にあるガラス玉が光っているんだよ」
廊下の奥まで天井に三つの白熱電球を取り付けている。このスイッチ一つで奥まで明るくしてくれる。
まあ、これはこの世界でまだ発明されていない物だからね、驚くのも無理はない。エルフィが泊まる部屋にも電球があって、入る前にスイッチの入れ方を教える。
「すごいわね。これを押すだけですぐに明るくなるなんて……」
技術が進んでいるという妖精族でも、夜は油に浸した綿の芯に火をつけるオイルランプの生活だからね。珍しくて電灯のスイッチを何度も入れたり切ったりしているよ。
「大きな部屋ね。それにベッドが三つも……」
「この家は診療所も兼ねていてね。病人が入院できるようになっているんだよ。とりあえずはここで泊まってくれるかい」
何日滞在するつもりか知らないけど、ここなら何日泊まってもらっても大丈夫だ。
「ボクは階段を上がった一番手前の部屋にいるから、何かあれば呼んでくれるかい」
「二人一緒の部屋なの?」
「いいや。ネイトスは二階の一番奥の部屋だよ」
「それならいつリビティナの部屋に行っても大丈夫ね」
なにが大丈夫なのか知らないけど、今晩はここでゆっくりとしていてくれるかな。
翌朝、食事をしようと一階に降りると、またエルフィが何やらうるさく言ってくる。
「あ、あたしの下着と服が綺麗になって部屋の前に置いてあったの。あ、あんたが洗濯したのよね」
「ネイトスだよ。お風呂のお湯を使って丹念に手洗いしてくれているから、ちゃんと汚れが落ちているだろう」
「エッ~! あたしの下着もあったのよ……それを手洗いだなんて!」
朝からそんな事でいちいち騒がないでほしいよ。さあ、朝ご飯にするよと言って、先に立って食堂へと入って行く。
「よっ、エルフィの嬢ちゃん。朝飯できてるぜ」
「イヤ~!」
ネイトスと顔を合わせた途端、エルフィが叫んで逃げて行ったよ。ほんと、もう少し静かにしてほしいもんだね。
今朝は、里の者達に広場に集まってもらい、新しく入った仲間を紹介する事になっている。
リビティナの隣りはネイトス、その横にフィフィロ兄妹とエルフィに並んでもらい、ネイトスからみんなに紹介してもらう。
「隣国のヘブンズ教国から保護して、昨日この里に到着したフィフィロだ。それとその妹さんのルルーチア。みんなも仲良くしてやってくれ」
「フィフィロです。よろしくお願いします」
「ルルーチアです」
二人が頭を下げてみんなに挨拶する。
「それと、途中で知り合った妖精族のエルフィ。しばらくこの里に滞在する事になった。客人としてよろしく頼む」
エルフィもちょこんと頭を下げて挨拶する。
この広場に居るのは、眷属達が四十三人。中には家族と一緒に幼くしてこの里に来て、まだ眷属化していない獣人の子供の姿もある。親に手を引かれてここに集まってくれた。この広場にいる者達、これがこの里に住んでいる全員だ。
「あの、あそこにリザードマンの兵士が二人いるんですけど……あの人達は」
リザードマンの姿を見たルルーチアがフィフィロの陰に隠れるようにしてネイトスに尋ねた。広場の一番後方、槍を持つリザードマンが二人と、鬼人族の二人が武器を携えている。フィフィロも警戒した様子でその者達を見つめる。
「あの四人はこの里を守ってくれている警備隊の者達だ。フィフィロ達はリザードマンとは因縁があったな。少し挨拶しに行こうか」
広場に集まった人が、後方に向かうネイトス達を避けて中央から二つに分かれる。その中、リザードマン兵士に近づくフィフィロは怒りの感情を露わにする。
「お前達リザードマンのせいで、俺の父ちゃんや母ちゃんが死んだんだ。オレは絶対に許さないからな」
「おい、おい、フィフィロ。そう喧嘩腰になるなよ。両親を殺したのはこの者達ではないだろう」
その様子を見ていた子ども連れの眷属三人が近づいてきた。
「ネイトス、どうしたのかね」
ネイトスに事情を聞いた、眷属の夫婦がフィフィロを前に深々と頭を下げた。
「そうか、同胞がすまない事をした。わしが謝ったところで取り返しのつかない事ではあるが、どうか許してはくれぬか」
この男は元リザードマンの族長。白子の息子をリビティナに救われて、両親も眷属となって五年前にこの里に移住してきている。
「あのね、この人達は僕達をいつも守ってくれているんだよ。優しい人達なんだ。この人達を怒らないで」
そう言っているのは、族長の息子。今はルルーチアの一つ下の九歳。その子がフィフィロの目を見て真剣にお願いしている姿に、フィフィロの怒りも影を潜める。
目の前にいる兵士二人も、自らの気持ちを話す。
「俺達リザードマンの国が何をしてきたのかは知っている。俺達兵士を恨んでもらっても構わないが、族長達家族には敵意を向けないでほしい」
人間の姿をした元リザードマン。姿形はリザードマンの兵士でも、この里のために働く者達。それを理解してくれたのか、後ろにいたルルーチアが兄の袖を引っ張る。
「お兄ちゃん……この人達悪い人達じゃないみたいだよ」
その言葉にフィフィロも警戒を解き、怒りを収めてくれたようだ。
「我らの行いを忘れてくれとは言わんが、この里のため君の力を貸してくれぬか。息子とも仲良くしてくれると助かる」
このリザードマンの族長は、皇帝の意向に反して獣人の国を侵略しようとはしなかった。皇帝に狙われる族長に恩義のあるこの二人が、護衛として里まで付いてきて、里のために警備の仕事をしてくれている。
リビティナもフィフィロ達の傍に行き静かに話す。
「フィフィロ君。この里に居る眷属の人達は色んな事情があってここで暮らしている。種族に捕らわれずに一緒に暮らしてくれると嬉しいんだけどね」
わだかまりはまだあるだろうけど、同じ人として理解しながら共に歩んでほしいとリビティナは願う。
---------------------
【あとがき】(再度掲載)
お読みいただき、ありがとうございます。
【設定集】を更新しています。
小説の参考になさってください。
タイトル
【設定集】転生ヴァンパイア様の引きこもりスローライフ。お暇なら国造りしませんか
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「そろそろ暗くなってきたね。明かりを灯そう」
そう言って壁際のスイッチを入れる。
「うわっ! 何、なんでこんなに明るくなるの! 魔法、いや魔道具かしら」
「違うよ。電球って言ってね。天井にあるガラス玉が光っているんだよ」
廊下の奥まで天井に三つの白熱電球を取り付けている。このスイッチ一つで奥まで明るくしてくれる。
まあ、これはこの世界でまだ発明されていない物だからね、驚くのも無理はない。エルフィが泊まる部屋にも電球があって、入る前にスイッチの入れ方を教える。
「すごいわね。これを押すだけですぐに明るくなるなんて……」
技術が進んでいるという妖精族でも、夜は油に浸した綿の芯に火をつけるオイルランプの生活だからね。珍しくて電灯のスイッチを何度も入れたり切ったりしているよ。
「大きな部屋ね。それにベッドが三つも……」
「この家は診療所も兼ねていてね。病人が入院できるようになっているんだよ。とりあえずはここで泊まってくれるかい」
何日滞在するつもりか知らないけど、ここなら何日泊まってもらっても大丈夫だ。
「ボクは階段を上がった一番手前の部屋にいるから、何かあれば呼んでくれるかい」
「二人一緒の部屋なの?」
「いいや。ネイトスは二階の一番奥の部屋だよ」
「それならいつリビティナの部屋に行っても大丈夫ね」
なにが大丈夫なのか知らないけど、今晩はここでゆっくりとしていてくれるかな。
翌朝、食事をしようと一階に降りると、またエルフィが何やらうるさく言ってくる。
「あ、あたしの下着と服が綺麗になって部屋の前に置いてあったの。あ、あんたが洗濯したのよね」
「ネイトスだよ。お風呂のお湯を使って丹念に手洗いしてくれているから、ちゃんと汚れが落ちているだろう」
「エッ~! あたしの下着もあったのよ……それを手洗いだなんて!」
朝からそんな事でいちいち騒がないでほしいよ。さあ、朝ご飯にするよと言って、先に立って食堂へと入って行く。
「よっ、エルフィの嬢ちゃん。朝飯できてるぜ」
「イヤ~!」
ネイトスと顔を合わせた途端、エルフィが叫んで逃げて行ったよ。ほんと、もう少し静かにしてほしいもんだね。
今朝は、里の者達に広場に集まってもらい、新しく入った仲間を紹介する事になっている。
リビティナの隣りはネイトス、その横にフィフィロ兄妹とエルフィに並んでもらい、ネイトスからみんなに紹介してもらう。
「隣国のヘブンズ教国から保護して、昨日この里に到着したフィフィロだ。それとその妹さんのルルーチア。みんなも仲良くしてやってくれ」
「フィフィロです。よろしくお願いします」
「ルルーチアです」
二人が頭を下げてみんなに挨拶する。
「それと、途中で知り合った妖精族のエルフィ。しばらくこの里に滞在する事になった。客人としてよろしく頼む」
エルフィもちょこんと頭を下げて挨拶する。
この広場に居るのは、眷属達が四十三人。中には家族と一緒に幼くしてこの里に来て、まだ眷属化していない獣人の子供の姿もある。親に手を引かれてここに集まってくれた。この広場にいる者達、これがこの里に住んでいる全員だ。
「あの、あそこにリザードマンの兵士が二人いるんですけど……あの人達は」
リザードマンの姿を見たルルーチアがフィフィロの陰に隠れるようにしてネイトスに尋ねた。広場の一番後方、槍を持つリザードマンが二人と、鬼人族の二人が武器を携えている。フィフィロも警戒した様子でその者達を見つめる。
「あの四人はこの里を守ってくれている警備隊の者達だ。フィフィロ達はリザードマンとは因縁があったな。少し挨拶しに行こうか」
広場に集まった人が、後方に向かうネイトス達を避けて中央から二つに分かれる。その中、リザードマン兵士に近づくフィフィロは怒りの感情を露わにする。
「お前達リザードマンのせいで、俺の父ちゃんや母ちゃんが死んだんだ。オレは絶対に許さないからな」
「おい、おい、フィフィロ。そう喧嘩腰になるなよ。両親を殺したのはこの者達ではないだろう」
その様子を見ていた子ども連れの眷属三人が近づいてきた。
「ネイトス、どうしたのかね」
ネイトスに事情を聞いた、眷属の夫婦がフィフィロを前に深々と頭を下げた。
「そうか、同胞がすまない事をした。わしが謝ったところで取り返しのつかない事ではあるが、どうか許してはくれぬか」
この男は元リザードマンの族長。白子の息子をリビティナに救われて、両親も眷属となって五年前にこの里に移住してきている。
「あのね、この人達は僕達をいつも守ってくれているんだよ。優しい人達なんだ。この人達を怒らないで」
そう言っているのは、族長の息子。今はルルーチアの一つ下の九歳。その子がフィフィロの目を見て真剣にお願いしている姿に、フィフィロの怒りも影を潜める。
目の前にいる兵士二人も、自らの気持ちを話す。
「俺達リザードマンの国が何をしてきたのかは知っている。俺達兵士を恨んでもらっても構わないが、族長達家族には敵意を向けないでほしい」
人間の姿をした元リザードマン。姿形はリザードマンの兵士でも、この里のために働く者達。それを理解してくれたのか、後ろにいたルルーチアが兄の袖を引っ張る。
「お兄ちゃん……この人達悪い人達じゃないみたいだよ」
その言葉にフィフィロも警戒を解き、怒りを収めてくれたようだ。
「我らの行いを忘れてくれとは言わんが、この里のため君の力を貸してくれぬか。息子とも仲良くしてくれると助かる」
このリザードマンの族長は、皇帝の意向に反して獣人の国を侵略しようとはしなかった。皇帝に狙われる族長に恩義のあるこの二人が、護衛として里まで付いてきて、里のために警備の仕事をしてくれている。
リビティナもフィフィロ達の傍に行き静かに話す。
「フィフィロ君。この里に居る眷属の人達は色んな事情があってここで暮らしている。種族に捕らわれずに一緒に暮らしてくれると嬉しいんだけどね」
わだかまりはまだあるだろうけど、同じ人として理解しながら共に歩んでほしいとリビティナは願う。
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【あとがき】(再度掲載)
お読みいただき、ありがとうございます。
【設定集】を更新しています。
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