上 下
298 / 308
第5章 人族編

第125話 人族の首相

しおりを挟む
 案内役の人に呼ばれ、謁見の間に通された。広い室内には手の込んだ作りの椅子と机がひと組用意されていてそこに座る。俺の前方には護衛がふたりずつ左右に立ち、その奥の一段高い場所には豪華な椅子が2脚置いてある。

 首相が住む家だが、来賓と会うための特別な部屋もあるのだな。
 ここも豪華な造りで手の込んだ広い部屋だ。だがその部屋に対して、人が少なく寂しい感じではある。人払いでもしているのか。

 俺が入ってきたのを確認したように、右手奥から男が入って来て前の椅子に座る。この者が首相と呼ばれている人か。歳は40代前半くらい、黒のスラックスと白いシャツ、上着は王国貴族のようなローブを着ている。
 その脇には、昨日俺を馬車で迎えに来たケンヤが控えていた。昨日と同じローブ姿だが、やはり長である首相の方がケンヤよりは豪華な作りのローブだな。

「君がミカセ ユヅキ君だね。私は人族の代表をしている、ヒイラギ テルマサだ」

 首相にしてはまだ若く、声も精力的な感じではある。まあ、偉い人だから仕方ないが上から目線のような口ぶりだな。俺が選んだ首相ではない、従う道理はないのだが。

「早速だが、あなた達は俺をよく知っているようだ。どこで知った」
「共和国の海洋族の資料に君の名があってね、海洋族から報告を受けたのだよ。国内の人族かどうか調べた程度で、実を言うと君の事は我々もよくは知らんのだ」
「俺を保護すると聞いた。保護とはどういうことだ」

 これがよく分からない。資料から俺の名を知ったからと言って保護するなどおかしな事だ。

「国外に人族がいた場合は、その者の身柄の安全を確保し他種族から守り助けるようにと、初代の頃からの決まり事があるのだよ。それに従ったまでだ」
「初代の?」
「その前に少し聞きたいことがある」

 そう前置きしてその首相が俺に尋ねた。

「あ・な・た・は・日本人・で・す・か?」

 日本語で話している!

「あんたも日本人なのか! 俺はどうしてこの世界に来たのか確かめるためにここに来たんだ!」

 俺は立ち上がり叫んでいた。

「ユヅキ君。すまないが私にはその古代語は分からんのだよ」

 俺は日本語でしゃべっていたようだ。だが分からないだと! この男は日本人ではないのか。

「だが君は、我ら初代の方と同じ人のようだ」
「同じ? どういうことだ」
「君は黒いナイフを持っていたようだが、我らにも代々受け継がれた黒いナイフがある。これだ」

 衛兵がそのナイフを大理石のお盆に乗せて俺に見せる。鞘から抜かれた黒いナイフがそこにあった。

「俺の持っているナイフと同じじゃないか! なぜあなたがこれを持っている」

 古く傷ついてはいるが、俺の持っているナイフと全く同じ物だ。だがこのナイフは俺がこの世界に来た時に、女神様からもらったチート武器のはずだ。この国の初代にも、俺と同じ事が……その者もこの世界に飛ばされた人類なのか。

「ユヅキ君、顔色が悪いようだが大丈夫かね」

 やはりこの人族の国は、俺にまつわる何かがあるようだ。

「人族の事……この国の事を……詳しく聞きたい」

 何とか声を絞り出し聞き返す。ここに来たのは、昔の人類、俺に関することを聞くためだ。どんな事であっても知らなければならない。

「この国の人族の歴史は約380年前に始まる。初代がその頃の人族をまとめ、この地に我らが暮らしていける土地を切り開いたと聞いている」

 大戦の前後の時代か?

「この地に人族が現れて、約30年後に不幸な大戦が始まったと伝えられている。結局この島を人族の国として定め、他国との関係を絶ち今日まで暮らしてきた」
「海洋族とは国交があるようだが」
「大戦前から盟約を結んでいたと聞いている。今も我らの作る部品が必要ということで貿易をしているんだよ」

 随分と昔の事を言っているようだが、その時代、既に国として交易などをしていたようだな。初代と言うのは俺とは違い、複数でこの国をまとめていたようだ。

「その初代と俺がなぜ同じだと言うんだ」
「昔より伝えられたものに、『外の人間が同じ民族なら言の葉を唱えよ』とある。それで我々の仲間かもしくは、別の人間か分かるというものだ」
「その言の葉というのが俺に聞かせた言葉か」
「ああ、そうだ。初代の頃に使われていた言葉だと聞いている」

 それに反応した俺を見て、初代と同じだと思ったと言うことか。

「その初代は、どこから来たのか分からないか」
「どこから? 移住前の事か。残念だがこの地に来る以前の記録はないな」

 大昔の事だ。初代の事を少しでも知りたいが、これでは無理か。

「ユヅキ君。君には始まりの家に行ってもらった方が良さそうだ」

 それを聞き、横で控えていたケンヤが眉をひそめ意見する。

「首相。あそこは神聖な場所です。それに誰も中に入る事ができません」
「ユヅキ君は初代に並ぶ人のようだ。もしかすると中に入れる可能性もある」
「ですが……」
「ヒイラギ家当主で首相の私が許すのだ。他に誰の許しがいるのかね」
「分かりました。馬車の準備をしてまいります」

 不服そうではあるが、ケンヤが部屋を出て馬車を用意するようだ。

「始まりの家とはなんだ」
「初代の頃より、我らが守ってきた場所だ。その頃の記録と英知が眠る場所とされている。君も来てくれたまえ」

 玄関を出た俺は預けていた剣とナイフを返してもらい、ケンヤと同じ馬車に乗る。首相は別の馬車で護衛と共に乗り後方から付いきて、市街地から離れた森の中の道を馬車は走る。この国に来て初めて入る森だな。

「この森に魔獣は出ないのか?」
「この国に魔獣はいませんよ。ですからあなたのような冒険者もいないんです」

 魔獣がいないだと。そういえばこの馬車にも御者だけで、護衛の姿はない。人族は魔獣と無縁の生活をしているのか。
 ケンヤに聞くと、遠くに見えていた山脈には巨大な城壁が連なり、人が住む地域に魔獣が来る事はないそうだ。

「私達の祖先がこの地を切り開いて、魔獣や魔物の居ないこの素晴らしい国を作ったと聞いています」

 その祖先にまつわる場所が、今から行く場所にあるというのか。

 公邸から馬車で20分ほど離れた場所にある森。その森の中を走る細い道。今はあまり使われていないようだが、古い街道のようだな。
 その道を走り続け、かなり奥地まで来たようだが、森は静かなままだ。魔獣がいないと言うなら危険はないのだろうが、少し不安になるな。
 道の途中で馬車が止まり、俺達は降り立つ。

「ユヅキ君、この先だ」

 首相と護衛の後に続いて、獣道のような整備されていない道を進む。馬車を停めた位置から100m程中に入って行った先にそれはあった。

「ここが始まりの家だ」

 そこに建物はなく草木に覆われた土の壁しか見えない。1段高い小山のようになっているが、これ全体が建物だと言われればそう見えなくもない。家と呼ぶにしては広大で、自然にできた段差にしか見えないが。

「こっちに扉がある」

 首相について行くと、その部分だけ綺麗に土と草が取り除かれていて調査した跡がある。首相の立つすぐ横を見て驚いた。

「なぜあの扉が、ここにある!!」
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界転生 転生後は自由気ままに〜

猫ダイスキー
ファンタジー
ある日通勤途中に車を運転していた青野 仁志(あおの ひとし)は居眠り運転のトラックに後ろから追突されて死んでしまった。 しかし目を覚ますと自称神様やらに出会い、異世界に転生をすることになってしまう。 これは異世界転生をしたが特に特別なスキルを貰うでも無く、主人公が自由気ままに自分がしたいことをするだけの物語である。 小説家になろうで少し加筆修正などをしたものを載せています。 更新はアルファポリスより遅いです。 ご了承ください。

孤児院で育った俺、ある日目覚めたスキル、万物を見通す目と共に最強へと成りあがる

シア07
ファンタジー
主人公、ファクトは親の顔も知らない孤児だった。 そんな彼は孤児院で育って10年が経った頃、突如として能力が目覚める。 なんでも見通せるという万物を見通す目だった。 目で見れば材料や相手の能力がわかるというものだった。 これは、この――能力は一体……なんなんだぁぁぁぁぁぁぁ!? その能力に振り回されながらも孤児院が魔獣の到来によってなくなり、同じ孤児院育ちで幼馴染であるミクと共に旅に出ることにした。 魔法、スキルなんでもあるこの世界で今、孤児院で育った彼が個性豊かな仲間と共に最強へと成りあがる物語が今、幕を開ける。 ※他サイトでも連載しています。  大体21:30分ごろに更新してます。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

霊感頼みの貴族家末男、追放先で出会った大悪霊と領地運営で成り上がる

とんでもニャー太
ファンタジー
エイワス王国の四大貴族、ヴァンガード家の末子アリストンには特殊な能力があった。霊が見える力だ。しかし、この能力のせいで家族や周囲から疎まれ、孤独な日々を送っていた。 そんな中、アリストンの成人の儀が近づく。この儀式で彼の真価が問われ、家での立場が決まるのだ。必死に準備するアリストンだったが、結果は散々なものだった。「能力不足」の烙印を押され、辺境の領地ヴェイルミストへの追放が言い渡される。 絶望の淵に立たされたアリストンだが、祖母の励ましを胸に、新天地での再出発を決意する。しかし、ヴェイルミストで彼を待っていたのは、荒廃した領地と敵意に満ちた住民たちだった。 そんな中、アリストンは思いがけない協力者を得る。かつての王国の宰相の霊、ヴァルデマールだ。彼の助言を得ながら、アリストンは霊感能力を活かした独自の統治方法を模索し始める。果たして彼は、自身の能力を証明し、領地を再興できるのか――。

最弱スキルも9999個集まれば最強だよね(完結)

排他的経済水域
ファンタジー
12歳の誕生日 冒険者になる事が憧れのケインは、教会にて スキル適性値とオリジナルスキルが告げられる 強いスキルを望むケインであったが、 スキル適性値はG オリジナルスキルも『スキル重複』というよくわからない物 友人からも家族からも馬鹿にされ、 尚最強の冒険者になる事をあきらめないケイン そんなある日、 『スキル重複』の本来の効果を知る事となる。 その効果とは、 同じスキルを2つ以上持つ事ができ、 同系統の効果のスキルは効果が重複するという 恐ろしい物であった。 このスキルをもって、ケインの下剋上は今始まる。      HOTランキング 1位!(2023年2月21日) ファンタジー24hポイントランキング 3位!(2023年2月21日)

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

処理中です...