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第4章 とある世界編
第102話 ダークエルフの里3
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里長の部屋では、ナミディアさんが帝国内部の様子を詳しく聞き、大体の状況が分かってきた。
「ユヅキ殿。帝国南部を中心に少数民族に対する弾圧が、何ヶ所かで行なわれているようです」
「すると帝国はリザードマンだけの国を造るつもりか? そんなことしても国として豊かになれんだろうに」
「でも独裁者としては、そちらの方がやり易いのではないでしょうか」
差別だけでなく他種族に攻撃を仕掛け、排除を狙っているようだ。単一民族で単一思想の国家かよ。どこの世界でも同じようなことを考えている独裁者はいるのだな。
ナミディアさん達はここでの情報をまとめて、本国に送る準備をするそうだ。明日にはここを出発しようという事になった。
その日の夕方、陽が落ちかけている頃に外から騒がしい声が聞こえてきた。
「帝国の兵士どもがこの里に来ているようじゃ。そなた達はここに留まっていてくれ」
里長はタティナと一緒に里の門へと向かう。ナミディアさんの事がバレたのか? ナミディアさんはこの国にとってはスパイのようなものだからな。
ここからではよく見えんが、武装した兵士が相当数いるようだな。聞くとどうも俺を差し出せと言っているようだ。人族は悪だとか、帝国から追い出せなどと言う怒鳴り声も聞こえてきた。
里の入り口付近で争う声が聞こえて、敵兵が里の家に向かって火矢を射かけてきた。
「なんて事をしやがるんだ」
この里の家は木造だぞ。家を焼いて俺達をあぶり出そうとしているのか。
「カリン、出るぞ!」
ここまでされて黙ってられるか! 里の門に向かうと、そこでは既にダークエルフと帝国兵との戦闘が起きていた。
見えているだけで50人程の兵が、門に向かい押し寄せているぞ。それに対してこちらは半数ほど、門から侵入してきた兵を、タティナと10人程のダークエルフが応戦している。
「セルシャさん、加勢するぞ!」
「敵の数が多いですわ。中央を姉さま達が、私達は左手の石垣を越えて来た兵士に対応します。後方の森からの矢に注意して下さい」
火矢を撃ってきた弓兵部隊が森の闇に隠れ、こちらにも矢を放ってくる。
「カリン、 後方の森に……」
「メテオラ!! サンダー・ブラスト!!」
俺が言う間もなく、森に向かい隕石と雷の広範囲魔法を撃ちこむ。火矢で住居を狙うなどの攻撃に怒ったのか、カリンは容赦がないな。大魔法を連発している。
森から悲鳴が聞こえ、隠れていた兵が隕石と倒れた木の下敷きになる。弓の攻撃が無くなり、木に燃え移った炎で暗かった周辺が明るく照らされた。
「何という威力なの……これがあの魔術師の実力。さあ、私達も前進して敵を討ちますわよ」
この左の部隊は、セルシャさんが指揮を執っているようだ。
後方の森を広範囲に燃やされ退路が絶たれた敵兵は、焦り連携も取れていない。バラバラに村の石垣を乗り越え、俺達に向かって来る。ダークエルフの精鋭たちと共にその兵士を斬り伏せていく。
さすがダークエルフだ、数は少ないが魔法と剣技でリザードマン兵を次々に倒している。俺も負けてられんな。
しばらくして完全に兵士達を制圧した。森の火が広がらないように水魔法で消し止めたが、そこには死んだ帝国の兵士が40人程いた。
全部で100人程、こちらの兵力の4倍近い武装兵が襲ってきたという事か。よく凌げたものだな。
「タティナ、無事だったか」
「あたいは大丈夫だ。ユヅキも怪我はないか」
返り血を浴びて顔や服が赤く染まっているが、タティナに怪我はないようだな。出迎える者に、里の被害の様子を聞いている。
「お師匠様と里の家はどうなった」
「お嬢。里長は無事、家の火も完全に消火した。それにしても里に火を放つとは、帝国の奴ら一体どういうつもりだ」
消火に当たっていたダークエルフも相当怒っている。里長の家に里の民が集められて、緊急の会議が行なわれた。俺もそれに参加する。
「怪我人は?」
「矢にやられた者が数名程度だ。客人のひとりも怪我して治療している」
海洋族のレウヌスさんが肩に矢を受け傷を負ったようだ。
「兵士は俺を差し出せと言っていたそうだが、どういうことだ」
「帝国は人族を敵視しているようじゃ。じゃがそれは口実であろう。婿殿ひとりを捕まえるにしては人数が多過ぎる。狙われたのはこの里、ダークエルフ族じゃな」
確かに俺が帝国に入って3日しか経っていない。その間にあの数の兵士を準備して、ここに来たとは思えない。事前に計画されていたのか? その切っ掛けが俺か。
「あ奴らは皇帝の命に従っておる。南部地方で起こっている少数民族に対する弾圧を、この里にも仕掛けてきたと言うことじゃろう」
「帝国と我々は盟約を結んでいるのではないのか。今までこのようなことは無かったぞ」
他のダークエルフ達も困惑の表情だ。味方と思っていた帝国から、明確な攻撃を受けたのだからな。
「その盟約もこれまでのようじゃな。各地にいる一族全員を里に呼び戻せ」
「はっ!」
「婿殿、客人を怪我させて申し訳ない。これからどうなさる」
「俺達は明日にでもこの里を出て人族の国へ向かうつもりだった。仲間と相談させてくれるか」
「怪我人を含めこの里に留まることも、共和国へ送り出すこともできる。決まったら知らせてくれるか」
俺は今後の事を相談するため、ナミディアさんの部屋へと向かった。
「ナミディアさん。レウヌスさんが肩を負傷したと聞いたんだが」
「はい、私をかばって……。幸い命に別状はないのですが、これ以上旅を続けるのは難しいようです」
レウヌスさんは国への報告もあるので、ここで治療した後、共和国の町に戻り帰国するつもりらしい。
「ナミディアさんもこのまま帰国してもいいんだぞ。この先は危険な事も多くなる」
「ユヅキ殿が人族の国へ船で渡るとき、私がお役に立てると思います。一緒について行きます」
「そうか、すまないな」
レウヌスさんのお見舞いに行くと、他にも怪我をしたダークエルフが5人ベッドで横になっていた。
「ユヅキ殿、すみません。ナミディア様、後の事はお任せいたします」
「レウヌス、私のせいでこんなことになって……。ごめんなさい」
「いえ、ナミディア様が無事なら、それで私は本望です。この先お供できなくてすみません」
「ナミディアさんの事は俺達に任せろ。レウヌスさんは治療に専念してくれ」
光魔法による治療も受けたということなので、後はこの里の者に任せよう。
「里長。俺達は明日、この里を出て人族の国へ向かうことにするよ」
「そうか、それなら馬を用意しよう。海洋族の者は騎乗できるのか」
「いえ、私は馬を操る事はできません」
「ならば3頭じゃな、すぐに用意させる。レウヌス殿は共和国までわしらが責任を持って送り届けよう」
この里のすぐ裏を行くと国境の検問を通らず、共和国の町に行ける抜け道があるそうだ。レウヌスさんの事は任せて大丈夫だろう。
「ありがとう。里が大変な時にすまないな」
「それは気にするな、ワシら自身の事じゃからな。婿殿。すまないが人族の国へ向かう際に、ここに立ち寄ってもらいたいのじゃが」
帝国の中央付近の地図を広げ、西側の海岸線辺りを指差す。
「地図には何も書かれていないが、ここに何かあるのか?」
「エルフの隠れ里がある。我らの里同様そこも帝国に襲われるやもしれん。それを知らせてやってくれぬか」
「えっ、エルフの里だって。エルフとは仲が悪いんじゃないのか」
「我らとは先の大戦で別れはしたが、元は同じ部族。エルフ族は戦いを嫌い、今はこの隠れ里で暮らしておる」
聞くと、人族との世界大戦の時に、戦うと主張する者と中立であるべきとする者に分かれ、里を出て戦ったのがダークエルフということらしい。交流はほとんどないが、別にエルフと対立しているわけではないそうだ。仲が悪いと言うのは、俺の思い込みか。
「分かった、その里に立ち寄ろう」
「帝国中央のこの街道を行くより、西海岸近くのこの道を行った方が安全じゃ。魔物が多くなるが婿殿なら大丈夫じゃろう」
部屋に戻り明日からの旅の準備をする。俺の持っている詳しい地図にも、里長が言っていた位置には何も記載がない。だがその横を通っている細い街道は描かれている。この道なら帝都からも離れていて、追手が掛かる危険も少ないな。
「タティナはこの里の事を知っているのか」
「いや、隠れ里があると言うのは聞いていたが、位置までは知らない」
「俺達が行っても大丈夫なのか」
「里長から書状をもらってある。あたいもいるし里の中には入れてくれるとは思うが」
まあ、手紙を渡して俺達はそのまま南へ進めばいいか。
荷物を馬に積めるように左右にひもで括り付け、朝早くに里を出るように準備を進める。
「ユヅキ殿。帝国南部を中心に少数民族に対する弾圧が、何ヶ所かで行なわれているようです」
「すると帝国はリザードマンだけの国を造るつもりか? そんなことしても国として豊かになれんだろうに」
「でも独裁者としては、そちらの方がやり易いのではないでしょうか」
差別だけでなく他種族に攻撃を仕掛け、排除を狙っているようだ。単一民族で単一思想の国家かよ。どこの世界でも同じようなことを考えている独裁者はいるのだな。
ナミディアさん達はここでの情報をまとめて、本国に送る準備をするそうだ。明日にはここを出発しようという事になった。
その日の夕方、陽が落ちかけている頃に外から騒がしい声が聞こえてきた。
「帝国の兵士どもがこの里に来ているようじゃ。そなた達はここに留まっていてくれ」
里長はタティナと一緒に里の門へと向かう。ナミディアさんの事がバレたのか? ナミディアさんはこの国にとってはスパイのようなものだからな。
ここからではよく見えんが、武装した兵士が相当数いるようだな。聞くとどうも俺を差し出せと言っているようだ。人族は悪だとか、帝国から追い出せなどと言う怒鳴り声も聞こえてきた。
里の入り口付近で争う声が聞こえて、敵兵が里の家に向かって火矢を射かけてきた。
「なんて事をしやがるんだ」
この里の家は木造だぞ。家を焼いて俺達をあぶり出そうとしているのか。
「カリン、出るぞ!」
ここまでされて黙ってられるか! 里の門に向かうと、そこでは既にダークエルフと帝国兵との戦闘が起きていた。
見えているだけで50人程の兵が、門に向かい押し寄せているぞ。それに対してこちらは半数ほど、門から侵入してきた兵を、タティナと10人程のダークエルフが応戦している。
「セルシャさん、加勢するぞ!」
「敵の数が多いですわ。中央を姉さま達が、私達は左手の石垣を越えて来た兵士に対応します。後方の森からの矢に注意して下さい」
火矢を撃ってきた弓兵部隊が森の闇に隠れ、こちらにも矢を放ってくる。
「カリン、 後方の森に……」
「メテオラ!! サンダー・ブラスト!!」
俺が言う間もなく、森に向かい隕石と雷の広範囲魔法を撃ちこむ。火矢で住居を狙うなどの攻撃に怒ったのか、カリンは容赦がないな。大魔法を連発している。
森から悲鳴が聞こえ、隠れていた兵が隕石と倒れた木の下敷きになる。弓の攻撃が無くなり、木に燃え移った炎で暗かった周辺が明るく照らされた。
「何という威力なの……これがあの魔術師の実力。さあ、私達も前進して敵を討ちますわよ」
この左の部隊は、セルシャさんが指揮を執っているようだ。
後方の森を広範囲に燃やされ退路が絶たれた敵兵は、焦り連携も取れていない。バラバラに村の石垣を乗り越え、俺達に向かって来る。ダークエルフの精鋭たちと共にその兵士を斬り伏せていく。
さすがダークエルフだ、数は少ないが魔法と剣技でリザードマン兵を次々に倒している。俺も負けてられんな。
しばらくして完全に兵士達を制圧した。森の火が広がらないように水魔法で消し止めたが、そこには死んだ帝国の兵士が40人程いた。
全部で100人程、こちらの兵力の4倍近い武装兵が襲ってきたという事か。よく凌げたものだな。
「タティナ、無事だったか」
「あたいは大丈夫だ。ユヅキも怪我はないか」
返り血を浴びて顔や服が赤く染まっているが、タティナに怪我はないようだな。出迎える者に、里の被害の様子を聞いている。
「お師匠様と里の家はどうなった」
「お嬢。里長は無事、家の火も完全に消火した。それにしても里に火を放つとは、帝国の奴ら一体どういうつもりだ」
消火に当たっていたダークエルフも相当怒っている。里長の家に里の民が集められて、緊急の会議が行なわれた。俺もそれに参加する。
「怪我人は?」
「矢にやられた者が数名程度だ。客人のひとりも怪我して治療している」
海洋族のレウヌスさんが肩に矢を受け傷を負ったようだ。
「兵士は俺を差し出せと言っていたそうだが、どういうことだ」
「帝国は人族を敵視しているようじゃ。じゃがそれは口実であろう。婿殿ひとりを捕まえるにしては人数が多過ぎる。狙われたのはこの里、ダークエルフ族じゃな」
確かに俺が帝国に入って3日しか経っていない。その間にあの数の兵士を準備して、ここに来たとは思えない。事前に計画されていたのか? その切っ掛けが俺か。
「あ奴らは皇帝の命に従っておる。南部地方で起こっている少数民族に対する弾圧を、この里にも仕掛けてきたと言うことじゃろう」
「帝国と我々は盟約を結んでいるのではないのか。今までこのようなことは無かったぞ」
他のダークエルフ達も困惑の表情だ。味方と思っていた帝国から、明確な攻撃を受けたのだからな。
「その盟約もこれまでのようじゃな。各地にいる一族全員を里に呼び戻せ」
「はっ!」
「婿殿、客人を怪我させて申し訳ない。これからどうなさる」
「俺達は明日にでもこの里を出て人族の国へ向かうつもりだった。仲間と相談させてくれるか」
「怪我人を含めこの里に留まることも、共和国へ送り出すこともできる。決まったら知らせてくれるか」
俺は今後の事を相談するため、ナミディアさんの部屋へと向かった。
「ナミディアさん。レウヌスさんが肩を負傷したと聞いたんだが」
「はい、私をかばって……。幸い命に別状はないのですが、これ以上旅を続けるのは難しいようです」
レウヌスさんは国への報告もあるので、ここで治療した後、共和国の町に戻り帰国するつもりらしい。
「ナミディアさんもこのまま帰国してもいいんだぞ。この先は危険な事も多くなる」
「ユヅキ殿が人族の国へ船で渡るとき、私がお役に立てると思います。一緒について行きます」
「そうか、すまないな」
レウヌスさんのお見舞いに行くと、他にも怪我をしたダークエルフが5人ベッドで横になっていた。
「ユヅキ殿、すみません。ナミディア様、後の事はお任せいたします」
「レウヌス、私のせいでこんなことになって……。ごめんなさい」
「いえ、ナミディア様が無事なら、それで私は本望です。この先お供できなくてすみません」
「ナミディアさんの事は俺達に任せろ。レウヌスさんは治療に専念してくれ」
光魔法による治療も受けたということなので、後はこの里の者に任せよう。
「里長。俺達は明日、この里を出て人族の国へ向かうことにするよ」
「そうか、それなら馬を用意しよう。海洋族の者は騎乗できるのか」
「いえ、私は馬を操る事はできません」
「ならば3頭じゃな、すぐに用意させる。レウヌス殿は共和国までわしらが責任を持って送り届けよう」
この里のすぐ裏を行くと国境の検問を通らず、共和国の町に行ける抜け道があるそうだ。レウヌスさんの事は任せて大丈夫だろう。
「ありがとう。里が大変な時にすまないな」
「それは気にするな、ワシら自身の事じゃからな。婿殿。すまないが人族の国へ向かう際に、ここに立ち寄ってもらいたいのじゃが」
帝国の中央付近の地図を広げ、西側の海岸線辺りを指差す。
「地図には何も書かれていないが、ここに何かあるのか?」
「エルフの隠れ里がある。我らの里同様そこも帝国に襲われるやもしれん。それを知らせてやってくれぬか」
「えっ、エルフの里だって。エルフとは仲が悪いんじゃないのか」
「我らとは先の大戦で別れはしたが、元は同じ部族。エルフ族は戦いを嫌い、今はこの隠れ里で暮らしておる」
聞くと、人族との世界大戦の時に、戦うと主張する者と中立であるべきとする者に分かれ、里を出て戦ったのがダークエルフということらしい。交流はほとんどないが、別にエルフと対立しているわけではないそうだ。仲が悪いと言うのは、俺の思い込みか。
「分かった、その里に立ち寄ろう」
「帝国中央のこの街道を行くより、西海岸近くのこの道を行った方が安全じゃ。魔物が多くなるが婿殿なら大丈夫じゃろう」
部屋に戻り明日からの旅の準備をする。俺の持っている詳しい地図にも、里長が言っていた位置には何も記載がない。だがその横を通っている細い街道は描かれている。この道なら帝都からも離れていて、追手が掛かる危険も少ないな。
「タティナはこの里の事を知っているのか」
「いや、隠れ里があると言うのは聞いていたが、位置までは知らない」
「俺達が行っても大丈夫なのか」
「里長から書状をもらってある。あたいもいるし里の中には入れてくれるとは思うが」
まあ、手紙を渡して俺達はそのまま南へ進めばいいか。
荷物を馬に積めるように左右にひもで括り付け、朝早くに里を出るように準備を進める。
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