上 下
258 / 308
第3章 俺のスローライフ編

第85話 俺の望遠鏡3

しおりを挟む
 俺は時々望遠鏡で夜空を見ながら、のんびりと過ごす日々だ。のんびりとは言っても、昼間は裏山の奥の丘陵地帯を牧草地にしてヤギや牛を飼う準備に忙しい。
 前に木の魔物が群生していた場所だが、カリンが焼き払って以来、草が生えて牧草地として打って付けの場所となった。

「ここにヤギ用の柵を作ればいいんだな」
「すまないねユヅキさん、よろしく頼むよ。カリンさんは、ここらに牛小屋を作るから地面を平らにしてくれないか」
「そんなの簡単よ。私に任せなさい」

 魔の森との間に木の壁は既にできている。これだけの広い土地だ、家畜を飼う小屋などを建てれば放牧はすぐにでもできそうだ。

「ここでヤギや牛が飼えれば、乳が飲めるぞ。他にもいろんな食品が作れるようになる」
「だが誰がここで家畜を飼うんだ? 今までこの村では放牧などした事がないはずだが」
「俺の息子夫婦が、余所の町で放牧の仕方を教わりに行っている。まもなく家畜を連れて帰ってくるんだ」

 聞くと、もう半年以上も前にここを放牧地にする計画があり、興味を持った息子さん達が修業に出ているそうだ。

「俺もここに家を建てて息子達と一緒に住むんだよ。早く帰って来てほしいものだな」

 この男もそれなりの年齢だが、新しい事を息子たちと始められるのを楽しみにしていると言っている。この裏山の裏手辺りは少々危険な場所ではある。だが俺や自警団のみんなも手助けすれば、困難があってもこの人ならやり遂げられるだろう。

 俺の子供ふたりもこんな風に、新しい事を探してこの村で暮らしていくのだろうか。いやいや、まだまだ先の話だな。生後半年が過ぎ、先月ようやく首も据わり、ダッコするのも楽になったばかりだ。
 まだ自分から起き上がることはできないが、手で支えてやるとお座りくらいならできる。双子で生まれた時は、他の普通の赤ちゃんよりも小さかったそうだが、順調に成長しているようだ。

 昼間に起きて夜眠るリズムもできて、夜に交代でお乳をあげることもしないで済むようになった。
 アイシャも最近では、魔獣の討伐に出るようになってきた。体が鈍っていると嘆いていたな。
 だんだん寒くなる日も多くなってきたが、おおむね平和な日が続いている。


 俺は今夜も星を見る。前にカリンと一緒に星を見たが、何が楽しいのかと文句ばかり言っていたな。

「なんでこの大きな遠見の魔道具で見ても、星は大きく見えないのよ。おかしいでしょう」
「そんなこと言われてもな~」

 星は遠くにある太陽だとカリンに説明しても、そんなの分からないと文句を言われたな。

「どこを見ても光の点があるだけじゃない。こんなの見て、何が楽しいのか分かんないわね」

 まあな、興味のない者が見ても分からんだろうな。遠くにある色とりどりの星雲や二重星を見ると面白いんだがな。趣味で星を見る人はあまりいないし、人から見るとそんなものだろう。

 アイシャは星そのものより星座や、それにまつわる物語が好きなようだ。この前一緒に星を見た時は、子供達に与えた星座の物語の話をしてくれた。俺の知らないこの世界に伝わる伝説などを楽しく話していたな。

 チセは星の事に興味を持ってくれたが、この大地が丸いことや惑星が太陽の周りを回っている事など知らないから、星の詳しい説明をするのが難しい。
 俺も未だに、星が西から昇って東に沈んでいくのに慣れることができないでいるからな。


 ある夜、俺は家の前にシートを敷いて寝転んで夜空を見上げていると、チセがやって来た。

「しっ・しょう・おっ。どうしたんですか、こんなところに寝転んで」
「いやな、この村の星空はきれいだなと思ってな」

 この村には、街灯がない。前の世界のネオンやマンション、工場からの光も無くて光害こうがいというものが全くない。本当に素晴らしい星空だ。
 肉眼でも暗い星までよく見えて、夜空に広がる十字の形の天の川がすごく綺麗だ。星明かりが感じられるこんな風景、前の世界では見た事がない。

「師匠、今日は大きな遠見の魔道具で星を見ないんですか」
「そうだな。たまにはこうやって満天の星を眺めるのもいいものだぞ」

 チセも俺のすぐ横に寝転がって星空を眺める。

「チセ。星空のあそこにある細い一筋の線が見えるか」

 夜空を指差し、チセに尋ねる。

「暗いですが、所々に見えている光の線ですよね」

 星が多いこの夜空の中、見え隠れする細い光の線が西の地平線から東の地平線まで続いている。

「あれは俺達の周りを回っている、小さな岩の集まりなんだ」

 望遠鏡で見るとその線はこの惑星のリングだった。リングを持つ惑星は多い。土星のような立派なリングじゃなくても、木星にもあるし天王星も海王星も持っている、ありふれた物だ。

「えっ、岩ですか? 落ちてこないんですか」
「大丈夫だよ。俺達の周りを回っているだけだからな」

 望遠鏡で星を見ていると、このリングのように面白い発見がある。しかし基本的には前の世界と同じ物理法則で成り立っているのが分かる。この惑星は太陽の周りを回っていて、他の惑星もある。まだ外側の軌道を回る遠い惑星は発見できていないが、そのうち見つけられるかも知れない。

 その日の夜も、俺は家の前に望遠鏡を持ち出し星を眺めていた。外は少し寒いが、これくらいの気候の方が空気が澄んで星がよく見える。

 東のほうから小さな星が夜空をゆっくりとこちらに移動してきている。ゆっくりではあるが肉眼で見てこの速さなら、この惑星のすぐ近くを通過している物体だな。
 彗星の欠片かリングの一部がこの惑星に近づいたのか? 暗い星であるが、あの明るさならそれなりの大きさだ。この惑星に落ちれば被害が出るかもしれない。

 望遠鏡で捉えられるか? 動いている星を見るのは難しいかもしれないが、赤道儀のストッパーを外して自由に動くようにしてその星に鏡筒を向ける。倍率を高くしているので望遠鏡の視野に入れるのは難しいが、あの速度なら何とかなるか。

「よし、捉えたぞ」

 なんとか視野に捉えたその物体を見て俺は驚愕した。

「アイ・・」


 ---------------------
【あとがき】
 お読みいただき、ありがとうございます。

 今回で第3章は終了となります。
 次回からは 第4章 開始です。お楽しみに。

 お気に入りや応援、感想など頂けるとありがたいです。
 今後ともよろしくお願いいたします。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

孤児院で育った俺、ある日目覚めたスキル、万物を見通す目と共に最強へと成りあがる

シア07
ファンタジー
主人公、ファクトは親の顔も知らない孤児だった。 そんな彼は孤児院で育って10年が経った頃、突如として能力が目覚める。 なんでも見通せるという万物を見通す目だった。 目で見れば材料や相手の能力がわかるというものだった。 これは、この――能力は一体……なんなんだぁぁぁぁぁぁぁ!? その能力に振り回されながらも孤児院が魔獣の到来によってなくなり、同じ孤児院育ちで幼馴染であるミクと共に旅に出ることにした。 魔法、スキルなんでもあるこの世界で今、孤児院で育った彼が個性豊かな仲間と共に最強へと成りあがる物語が今、幕を開ける。 ※他サイトでも連載しています。  大体21:30分ごろに更新してます。

サキュバスの眷属になったと思ったら世界統一する事になった。〜おっさんから夜王への転身〜

ちょび
ファンタジー
萌渕 優は高校時代柔道部にも所属し数名の友達とわりと充実した高校生活を送っていた。 しかし気付けば大人になり友達とも疎遠になっていた。 「人生何とかなるだろ」 楽観的に考える優であったが32歳現在もフリーターを続けていた。 そしてある日神の手違いで突然死んでしまった結果別の世界に転生する事に! …何故かサキュバスの眷属として……。 転生先は魔法や他種族が存在する世界だった。 名を持つものが強者とされるその世界で新たな名を授かる優。 そして任せられた使命は世界の掌握!? そんな主人公がサキュバス達と世界統一を目指すお話しです。 お気に入りや感想など励みになります! お気軽によろしくお願いいたします! 第13回ファンタジー小説大賞エントリー作品です!

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

霊感頼みの貴族家末男、追放先で出会った大悪霊と領地運営で成り上がる

とんでもニャー太
ファンタジー
エイワス王国の四大貴族、ヴァンガード家の末子アリストンには特殊な能力があった。霊が見える力だ。しかし、この能力のせいで家族や周囲から疎まれ、孤独な日々を送っていた。 そんな中、アリストンの成人の儀が近づく。この儀式で彼の真価が問われ、家での立場が決まるのだ。必死に準備するアリストンだったが、結果は散々なものだった。「能力不足」の烙印を押され、辺境の領地ヴェイルミストへの追放が言い渡される。 絶望の淵に立たされたアリストンだが、祖母の励ましを胸に、新天地での再出発を決意する。しかし、ヴェイルミストで彼を待っていたのは、荒廃した領地と敵意に満ちた住民たちだった。 そんな中、アリストンは思いがけない協力者を得る。かつての王国の宰相の霊、ヴァルデマールだ。彼の助言を得ながら、アリストンは霊感能力を活かした独自の統治方法を模索し始める。果たして彼は、自身の能力を証明し、領地を再興できるのか――。

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

処理中です...