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第3章 俺のスローライフ編
第76話 出産
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春の終わり、アイシャのお腹がどんどん大きくなってきている。今月は臨月だ。
「師匠。出産予定日は2週間後ですが、早く生まれることもあります。いつ生まれてもいいようにしておいてください」
「そ、そうだな。ベッドも作ったし、服もあるぞ。あっ、おもちゃを作っておかないとな」
「いえ、そういうことじゃなくてですね。アイシャも初産ですし、お父さんになる師匠が精神的にしっかりと支えてあげてくださいね」
そうか、アイシャも不安だものな。俺がしっかりしないとな。
アイシャはお腹が重く、ゆったりできる椅子を作ってそこに座ってもらっている。
「ア、アイシャ。今日も元気か? 俺も元気だ。赤ちゃんはいつ生まれても大丈夫だぞ。俺に任せておけ」
「どうしたの、ユヅキさん? お腹が大きくってあまり動けなくてすみません。村の警護はお願いしますね」
「おう、任せておけ。それじゃ村の見回りにでも行ってくるかな。アハハハ」
アイシャを精神的に支える? そんな器用な真似が俺にできる訳ないじゃないか。すごすごと部屋を出て来た俺に、カリンが容赦なく罵声を浴びせる。
「ユヅキ、あんたもっとまともな事は言えないの!」
「そんなこと言ってもな~。初めてのお産だしな。あんなにお腹大きいしな~、どうすりゃいいんだ~」
「ほんと、こういう時男は役に立たないわね。チセ、私達でアイシャをサポートしてあげないとダメね」
「そうですね。師匠はダメダメですね」
1週間後、村長の奥さんにアイシャを診てもらった。
「もうすぐ産まれそうだね。夜も様子を見るようにしておくれ。チセ、出産の準備はできているかい」
「はい、大丈夫です」
「アイシャさんが苦しそうにしたら、すぐに私を呼びに来てくれたらいいからね」
「はい。よろしくお願いします」
翌日の夕方、アイシャが苦しみだした。
「師匠、村長の奥さんを連れてきてください」
「お、おう」
俺は走って村長の家に行き、奥さんを背中におぶって連れてくる。奥さんはチセとふたり部屋に入り出産の準備を始めたようだ。
「カリン、アイシャ大丈夫かな。すごく苦しんでいるんだが」
「あんたは、ここで落ち着いて座ってなさい。私にも分からないけど、チセ達に任せておけば大丈夫よ」
「うん。そ、そうだな」
だが心配で食堂と廊下をウロウロと歩き回ってしまう。その後、アイシャの苦しそうな声が聞こえたり、桶のお湯を持ちこんだりとバタバタしだした。
カリンと不安なまま、部屋の外で待っていると。
「オギャ~。オギャ~」
うおぉ~、赤ん坊の声だ!
「カリン! 生まれた! 生まれたみたいだぞ」
「まだよ、もう少し待っていなさい」
そ、そうだな。まだチセが部屋から出て来ていないからな。俺が入って行って邪魔しちゃだめだな。
しばらくして。
「オギャ~。オギャ~」
元気な産声がまた聞こえた。
「師匠、生まれました! 双子の赤ちゃんです」
「え! なに! 双子なのか」
双子と聞いて驚きながらも、アイシャの元へと駆け寄る。
出産で疲れ果て、言葉も出せずベッドで横になるアイシャ。その両脇には、今生まれたばかりの双子の赤ん坊が抱きかかえられていた。
アイシャは涙を浮かべながら、俺に笑顔をくれた。
「アイシャ、よく頑張ったな!」
アイシャと生まれたばかりの子供に顔を寄せ、出産を祝う。
「アイシャ~、本当に良かったよ~」
カリンも泣きながら、ベッドのアイシャに駆け寄って来た。
チセも助産師としての大役をよく務めてくれた。手をタオルで拭きつつ、ベッドの横で赤ちゃんの様子を話してくれる。
「オオカミ族の男の子と、人族の女の子ですよ。元気に生まれてくれて良かったです。アイシャ、ほんとによく頑張ったわね」
双子が生まれるだろうと、チセとカリンは分かっていたようだが、俺に無用な心配をかけないようにしてくれてたみたいだ。
村長の奥さんからは、比較的安産でアイシャも子供も無事元気だと告げられた。出産とは危険を伴うものだ。子供やその母体も無事に出産を終えられるのは、当たり前の事ではないのだ。
出産を乗り越えてくれたアイシャには、感謝の言葉しかない。こんな元気な子をふたりも授けてくれて、アイシャが俺にとっての女神様のように思えてくる。
翌朝。ベッドで横になっているアイシャを労う。
「アイシャ、疲れただろう。当分はゆっくり休んでくれ」
「ええ、ユヅキさんとの子供を無事に産めて、ほんとに良かったわ」
「子供の名前だが、アキトとアキナにしようと思うんだが、どうだろうか」
アイシャと俺の名から1文字ずつ取って男の子をアキト、女の子をアキナと名付ける。御家瀬 暁斗と、御家瀬 愛希菜だ。
「いい名前だわ。生まれる前から男の子と女の子の名前を考えてくれていたものね」
「この子達の星座は、アイシャが考えてくれるか」
アイシャが生まれた王国では、生まれた子供の星座を親が選んで決める。親の願いを託して神々の名を持つ星座を子供達に与えるのだ。この共和国でも同じような風習があるようだ。
「ええ、この子達にふさわしい星座を選ぶわね」
これで俺も親になれたんだなとしみじみ思う。前の世界では結婚もしていなくて、実家で両親と妹2人の5人家族だった。
この世界で子供を授かる事ができたことを、親や妹達にも知らせてやりたいがそれは無理なようだ。
両親は孫ができたことを喜ぶだろうか。上の妹は俺に反発していたが、結婚もしない俺を心配してくれていた。下の妹は俺に懐いていたし、子供ができたと知ったら跳んで喜ぶな。
前の世界に帰れるのなら帰りたいが、アイシャ達を残しては行けん。アイシャ達も一緒に前の世界に行く事はできるんだろうか。そんなあり得ないような事を考えてしまう。
今の俺はこの世界で生きているんだ。愛すべきアイシャとその子供達のために、家族やこの村を守る事が俺のすべきことだ。なんだか力が湧いてきた。
生まれて来た我が子の将来に、幸多からんことを願うばかりだ。
「師匠。出産予定日は2週間後ですが、早く生まれることもあります。いつ生まれてもいいようにしておいてください」
「そ、そうだな。ベッドも作ったし、服もあるぞ。あっ、おもちゃを作っておかないとな」
「いえ、そういうことじゃなくてですね。アイシャも初産ですし、お父さんになる師匠が精神的にしっかりと支えてあげてくださいね」
そうか、アイシャも不安だものな。俺がしっかりしないとな。
アイシャはお腹が重く、ゆったりできる椅子を作ってそこに座ってもらっている。
「ア、アイシャ。今日も元気か? 俺も元気だ。赤ちゃんはいつ生まれても大丈夫だぞ。俺に任せておけ」
「どうしたの、ユヅキさん? お腹が大きくってあまり動けなくてすみません。村の警護はお願いしますね」
「おう、任せておけ。それじゃ村の見回りにでも行ってくるかな。アハハハ」
アイシャを精神的に支える? そんな器用な真似が俺にできる訳ないじゃないか。すごすごと部屋を出て来た俺に、カリンが容赦なく罵声を浴びせる。
「ユヅキ、あんたもっとまともな事は言えないの!」
「そんなこと言ってもな~。初めてのお産だしな。あんなにお腹大きいしな~、どうすりゃいいんだ~」
「ほんと、こういう時男は役に立たないわね。チセ、私達でアイシャをサポートしてあげないとダメね」
「そうですね。師匠はダメダメですね」
1週間後、村長の奥さんにアイシャを診てもらった。
「もうすぐ産まれそうだね。夜も様子を見るようにしておくれ。チセ、出産の準備はできているかい」
「はい、大丈夫です」
「アイシャさんが苦しそうにしたら、すぐに私を呼びに来てくれたらいいからね」
「はい。よろしくお願いします」
翌日の夕方、アイシャが苦しみだした。
「師匠、村長の奥さんを連れてきてください」
「お、おう」
俺は走って村長の家に行き、奥さんを背中におぶって連れてくる。奥さんはチセとふたり部屋に入り出産の準備を始めたようだ。
「カリン、アイシャ大丈夫かな。すごく苦しんでいるんだが」
「あんたは、ここで落ち着いて座ってなさい。私にも分からないけど、チセ達に任せておけば大丈夫よ」
「うん。そ、そうだな」
だが心配で食堂と廊下をウロウロと歩き回ってしまう。その後、アイシャの苦しそうな声が聞こえたり、桶のお湯を持ちこんだりとバタバタしだした。
カリンと不安なまま、部屋の外で待っていると。
「オギャ~。オギャ~」
うおぉ~、赤ん坊の声だ!
「カリン! 生まれた! 生まれたみたいだぞ」
「まだよ、もう少し待っていなさい」
そ、そうだな。まだチセが部屋から出て来ていないからな。俺が入って行って邪魔しちゃだめだな。
しばらくして。
「オギャ~。オギャ~」
元気な産声がまた聞こえた。
「師匠、生まれました! 双子の赤ちゃんです」
「え! なに! 双子なのか」
双子と聞いて驚きながらも、アイシャの元へと駆け寄る。
出産で疲れ果て、言葉も出せずベッドで横になるアイシャ。その両脇には、今生まれたばかりの双子の赤ん坊が抱きかかえられていた。
アイシャは涙を浮かべながら、俺に笑顔をくれた。
「アイシャ、よく頑張ったな!」
アイシャと生まれたばかりの子供に顔を寄せ、出産を祝う。
「アイシャ~、本当に良かったよ~」
カリンも泣きながら、ベッドのアイシャに駆け寄って来た。
チセも助産師としての大役をよく務めてくれた。手をタオルで拭きつつ、ベッドの横で赤ちゃんの様子を話してくれる。
「オオカミ族の男の子と、人族の女の子ですよ。元気に生まれてくれて良かったです。アイシャ、ほんとによく頑張ったわね」
双子が生まれるだろうと、チセとカリンは分かっていたようだが、俺に無用な心配をかけないようにしてくれてたみたいだ。
村長の奥さんからは、比較的安産でアイシャも子供も無事元気だと告げられた。出産とは危険を伴うものだ。子供やその母体も無事に出産を終えられるのは、当たり前の事ではないのだ。
出産を乗り越えてくれたアイシャには、感謝の言葉しかない。こんな元気な子をふたりも授けてくれて、アイシャが俺にとっての女神様のように思えてくる。
翌朝。ベッドで横になっているアイシャを労う。
「アイシャ、疲れただろう。当分はゆっくり休んでくれ」
「ええ、ユヅキさんとの子供を無事に産めて、ほんとに良かったわ」
「子供の名前だが、アキトとアキナにしようと思うんだが、どうだろうか」
アイシャと俺の名から1文字ずつ取って男の子をアキト、女の子をアキナと名付ける。御家瀬 暁斗と、御家瀬 愛希菜だ。
「いい名前だわ。生まれる前から男の子と女の子の名前を考えてくれていたものね」
「この子達の星座は、アイシャが考えてくれるか」
アイシャが生まれた王国では、生まれた子供の星座を親が選んで決める。親の願いを託して神々の名を持つ星座を子供達に与えるのだ。この共和国でも同じような風習があるようだ。
「ええ、この子達にふさわしい星座を選ぶわね」
これで俺も親になれたんだなとしみじみ思う。前の世界では結婚もしていなくて、実家で両親と妹2人の5人家族だった。
この世界で子供を授かる事ができたことを、親や妹達にも知らせてやりたいがそれは無理なようだ。
両親は孫ができたことを喜ぶだろうか。上の妹は俺に反発していたが、結婚もしない俺を心配してくれていた。下の妹は俺に懐いていたし、子供ができたと知ったら跳んで喜ぶな。
前の世界に帰れるのなら帰りたいが、アイシャ達を残しては行けん。アイシャ達も一緒に前の世界に行く事はできるんだろうか。そんなあり得ないような事を考えてしまう。
今の俺はこの世界で生きているんだ。愛すべきアイシャとその子供達のために、家族やこの村を守る事が俺のすべきことだ。なんだか力が湧いてきた。
生まれて来た我が子の将来に、幸多からんことを願うばかりだ。
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