上 下
239 / 308
第3章 俺のスローライフ編

第66話 タティナ帰還

しおりを挟む
 年の瀬も迫ったある日の夕方、村にダークエルフのタティナがひょっこり現れた。村長に会い、この村で暮らしたいと言ったそうだ。
 今夜は寄合所へ村人を呼んで歓迎会だ。

「お前、レグルスの武闘大会に出場してたんじゃないのか」

 ドワーフの町トリマンの武闘大会で優勝して、共和国の首都で行なわれた本大会に出ていたはずだ。

「ああ、準優勝したよ」
「え~、タティナより強い人がいたの」

 チセは、タティナに体術を教えてもらっていたからな。師範と仰ぐ者が負けるとは思っていなかったのだろう。だが国で2位なんだ、すごい事だぞ。

「ミスリルランクの冒険者で前回も優勝した者だ」
「まあ、私なら勝てたでしょうけどね。ちゃんと風の靴は使ったんでしょうね」
「ああ、全力を出したよ。あたいはそいつと戦いたくて、今回の武闘大会に参加したんだ。満足してるさ」
「そうなのね。タティナが満足したなら結果はどうでもいいわよね」

 アイシャ達も武闘大会の事など聞きたくて、タティナの周りを囲む。タティナはポツリポツリと大会の様子をみんなに話してくれた。

「でも、本大会は1ヶ月以上前に終わってたんじゃないの。あんた今までどこに行ってたのよ」
「本大会が終わった後、帝国にある故郷のお師匠様に会いに行ってたんだ」
「へぇ~、タティナの故郷って帝国にあるんだ」
「ああ、共和国との国境近くだがな」

 ダークエルフの里か~。タティナみたいな美人でボインボインなお姉さんがいっぱいいるんだろうな~。そう思っていたらアイシャが俺の腕をつねった。
 おかしい、今回は顔に出ないようにしていたはずだ。アイシャは俺の心を読むエスパーか!

「お、お前は強い奴を探して、いろんな国を旅してたんじゃないのか。この村に住むと聞いたがそれでいいのか」

 話題を変えて、少し誤魔化す。

「ユヅキ。あたいが今まで探していた強さは、本当の強さじゃなかったようだ。この村でまた一緒にユヅキ達と過ごして、本当の強さを身に付けたい」

 タティナの言っている事はよく分らんが、この村で一緒に暮らしたいと言うならそれもいいさ。俺達と同じく自分の思うように生きればいい。

「それじゃまずは、家を建てないとダメだな。どこがいい」
「寝る場所があれば何処でもいい」
「師匠、それならあたしの工房の横に建てたらいいんじゃないですか。一緒に稽古もできますし」

 確かに工房の倉庫の横に少し狭いが、家1軒建てられるだけの場所はあったな。

「それなら、食事やオフロを私達と一緒にすればいいんじゃない」
「そうだな、それなら家も小さくて済むしな。すぐにでも建てられるぞ」

 さすがに寝るだけの家とはならないが、家を囲む石垣も要らないし村人も手伝ってくれたらすぐできるだろう。

「それじゃ明日から、土台と地下室から作ろうか」
「ユヅキ、地下室は要らんぞ。住んでいた里にそんな物は無かったし、あたいはいつでも戦えるようにしている」
「それはダメだぞ。どんな魔獣が襲って来るかも知れない。ちゃんと避難する場所は必要だ」
「そうよ、タティナ。あなたに、もしもの事があったらみんな悲しむわよ」
「そうか、そうだな。あたいは簡単に死んではダメなんだな。なるほどこれは難しいな」

 まあ、タティナも納得してもらえたようで、俺達の家の敷地内に家を建てる事にした。しばらくはこの寄合所で寝泊まりしてもらうことになるが、年内には引っ越せるだろう。

 翌日からはタティナの家づくりをカリンと村の人達がしてくれる。それとは別に室内の家具や寝具を買いに町にいかないといけないな。

 アイシャがたまには町に行きたいと言っているし、俺は前から作りかけていた馬車用のサスペンションを仕上げてそれで町へ行こうと思う。アイシャにはできるだけ振動のない静かな馬車に乗ってもらいたい。

「師匠、これで何をするんですか?」
「チセは見たことないかもしれないが、貴族が乗るような高級な馬車には鉄バネが付いていてな、乗り心地を良くしているんだ」

 俺は前にアルヘナの町に来た馬車を間近で見たことがある。装飾も綺麗だったが人が乗るカゴ部分はしなる鉄の板で吊り下げていた。1枚の鉄板で単純だったがあれがサスペンションになるのだろう。
 鍛冶工房にニルヴァ君が来てくれたお陰で、大きな鉄材も作る事ができる。湾曲した細長い鉄の板を作ってもらい、それでサスペンションを作る。

「この曲がった鉄板を重ねて、車軸に取り付けるんだ」
「なんだか、面白い形ですね」

 2枚の湾曲した鋼鉄の板の両端を蝶番でつないだ卵型だ。これは1m程の長さになるが、これより短い鉄板を重ねることで強さを調整していく。
 ニルヴァ君が鋳造で、レトゥナさんが鍛錬と加工で仕上げてくれた、ふたり一組で作ってくれた品だ。

「これを馬車に付ければ、揺れが少なくなる。チセ、すまんが村の人達を呼んできてくれないか」

 俺達の馬車は幌付きの旅馬車で大型だ。10人の村の男達を呼んで来て荷台を取り外す。

「せ~の! よし台車を移動させてくれ」
「さすがにこの馬車は重いな。この台車にその鉄を付けるのかい、ユヅキさん」
「これだけの重量だが、4組付ければ支えられるだろう」

 短い板バネを上下に3枚追加したサスペンションを、車軸側に取り付ける。台車側にも取付用の穴を開けておいて、10人の村人と共に荷台を乗せる。
 後は金具で固定するんだが、その前に硬さを調整しないとな。

「10人荷台に乗って、中で跳ねてくれるか」
「師匠、なんかポワンポワンしますね」
「そうだろう。これで地面のガタガタを吸収するんだ」

 ちゃんと板バネがしなってサスペンションの役割を果たしている。これなら重い荷物を積んでも大丈夫そうだな。板バネは底付きする事もなく動作しているが、少し硬すぎるか。もう少し乗り心地を良くしたい。

「すまん、少し調整する。荷台の後輪だけ上げてくれるか」

 後輪を上げてジャッキのように木の台を差し込んで、板バネの上1枚だけを外して荷台を戻す。前輪も同じようにして今度は金具でしっかりと固定した。

「よし、村を走らせて試運転をしよう」

 みんなに乗ってもらって試運転したが、ちゃんと機能していて乗り心地もいいな。

「でも師匠。なんだか荷台が高くなって乗りにくいです」
「そうだ、忘れていた。後ろに階段を付けないといけないんだ」

 サスペンションの分だけ高くなったので、後ろの入り口に2段の木の階段を取り付ける。
 よし、これで完璧だ。この馬車で明日は町まで買い出しに行こう。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

孤児院で育った俺、ある日目覚めたスキル、万物を見通す目と共に最強へと成りあがる

シア07
ファンタジー
主人公、ファクトは親の顔も知らない孤児だった。 そんな彼は孤児院で育って10年が経った頃、突如として能力が目覚める。 なんでも見通せるという万物を見通す目だった。 目で見れば材料や相手の能力がわかるというものだった。 これは、この――能力は一体……なんなんだぁぁぁぁぁぁぁ!? その能力に振り回されながらも孤児院が魔獣の到来によってなくなり、同じ孤児院育ちで幼馴染であるミクと共に旅に出ることにした。 魔法、スキルなんでもあるこの世界で今、孤児院で育った彼が個性豊かな仲間と共に最強へと成りあがる物語が今、幕を開ける。 ※他サイトでも連載しています。  大体21:30分ごろに更新してます。

サキュバスの眷属になったと思ったら世界統一する事になった。〜おっさんから夜王への転身〜

ちょび
ファンタジー
萌渕 優は高校時代柔道部にも所属し数名の友達とわりと充実した高校生活を送っていた。 しかし気付けば大人になり友達とも疎遠になっていた。 「人生何とかなるだろ」 楽観的に考える優であったが32歳現在もフリーターを続けていた。 そしてある日神の手違いで突然死んでしまった結果別の世界に転生する事に! …何故かサキュバスの眷属として……。 転生先は魔法や他種族が存在する世界だった。 名を持つものが強者とされるその世界で新たな名を授かる優。 そして任せられた使命は世界の掌握!? そんな主人公がサキュバス達と世界統一を目指すお話しです。 お気に入りや感想など励みになります! お気軽によろしくお願いいたします! 第13回ファンタジー小説大賞エントリー作品です!

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

霊感頼みの貴族家末男、追放先で出会った大悪霊と領地運営で成り上がる

とんでもニャー太
ファンタジー
エイワス王国の四大貴族、ヴァンガード家の末子アリストンには特殊な能力があった。霊が見える力だ。しかし、この能力のせいで家族や周囲から疎まれ、孤独な日々を送っていた。 そんな中、アリストンの成人の儀が近づく。この儀式で彼の真価が問われ、家での立場が決まるのだ。必死に準備するアリストンだったが、結果は散々なものだった。「能力不足」の烙印を押され、辺境の領地ヴェイルミストへの追放が言い渡される。 絶望の淵に立たされたアリストンだが、祖母の励ましを胸に、新天地での再出発を決意する。しかし、ヴェイルミストで彼を待っていたのは、荒廃した領地と敵意に満ちた住民たちだった。 そんな中、アリストンは思いがけない協力者を得る。かつての王国の宰相の霊、ヴァルデマールだ。彼の助言を得ながら、アリストンは霊感能力を活かした独自の統治方法を模索し始める。果たして彼は、自身の能力を証明し、領地を再興できるのか――。

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

処理中です...